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冬編③『銀世界、幾星霜』
第四話「ユキちゃんと雪だるまっ娘」⑶
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由良は子供真冬を放置するわけにもいかず、ただただ様子を見守った。
「……見てるだけってつらいわね。寒いし」
寒さで体が震える。
公園の自動販売機で温かい飲み物でも買ってこようかと思っていると、
「お嬢ちゃん、ひとりで遊んでるのかい?」
と、真冬が作った雪だるまのうちの一体が喋り出した。
「喋った!」
「喋った?!」
子供真冬と由良は驚き、振り返る。鼻を摘んで発しているような、少し変な声だった。
雪だるまは口代わりの小枝を真一文字に結んだまま、子供真冬に言った。
「お父さんとお母さんが心配してるんじゃないかい? 雪もひどくなってきたし、早くお家に帰った方がいいよ」
(なんて常識的な雪だるまなんだ!)
「やだ! 公園を雪だるまでいっぱいにするまで帰らない!」
(そして、真冬さんはこの頃から規格外だ!)
雪だるまは「困ったなぁ」と声が弱々しくなる。心の底から、子供真冬を心配しているらしい。
(そういえば、真冬さん言ってたっけ。昔、公園で雪だるまが一緒に遊んでくれたから、雪だるまが大好きになったって。その時に会った雪だるまの名前が"雪ちゃん"で、またその雪だるまに会いたいから、他の雪だるまもそう呼んでるんだって)
正直、雪だるまが喋るなど信じられなかった。本当にあったら素敵なことだが、真冬の言うことなので余計に疑わしかった。
その記憶が今、目の前で繰り広げられている。この光景こそが、一つの〈心の落とし物〉なのかもしれない。
(いったい、誰が雪ちゃんだったんだろう?)
由良は遠慮なく、雪だるまの背後を覗き見る。
すると、やはり人が隠れていた。
「一人でそんなに作るのは無理だよ。小さいサイズなら、なんとかなるかもしれないけど」
「やだ! 大きいのがいい!」
「……中林?」
隠れていたのは、中学生時代の中林だった。制服の上にグレーのコートを着ている。
中林も由良の存在に気づいていない。由良に凝視されながら、雪だるまを演じ続けた。
「じゃあ、最後にうんと大きな雪だるまを作ろう。それでいいね?」
「しょうがないなー。雪だるまさんも手伝ってくれるんでしょ?」
中林は少し考え、答えた。
「残念だけど、僕はここから動けない。だから、僕のしもべを貸してあげよう。その人が君を手伝ってくれるよ」
「しもべ?」
中林は意を決した様子で、雪だるまの裏から出てきた。
子供真冬は突然現れた第三者に驚き、口をポカンと開いた。
「貴方が……しもべさん?」
「は、はい。しもべです」
「お名前はなんて言うの?」
「えっと、有希です。中林有希」
(普通に本名を教えてどうする)
中林は緊張しているのか、うっかり本名で答えた。
「ユキちゃん……ユキちゃんかぁ……雪だるまさんのお友達にぴったりの名前だね!」
「あ、ありがとう」
二人は雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと、雪で遊び尽くした。雪だるまで園内を埋め尽くす、という当初の目的は果たされなかったものの、今まで子供真冬が作った中で一番大きな雪だるまを作り上げることができた。
「できたー!」
「私より大きーい!」
雪だるまが完成すると同時に、子供真冬のお腹が鳴った。
「動いたから、お腹空いちゃった」
「あの、良かったらこれ……どうぞ」
中林が差し出したのは、可愛くラッピングされたチョコレートだった。
ひと口大のハート型に固められ、カラースプレーが散りばめられている。味も様々で、普通のチョコとホワイトチョコ、ストロベリーのチョコの三種類があった。
「うわぁ、可愛い! ホントにもらっていいの?」
「うん。お母さんに"中学校最後のバレンタインデーだから、クラスの子と先生に渡してきたら?"って、無理矢理作らされたやつだから。一人で全部食べるのは大変だし、一緒に食べてくれると助かる」
「やった!」
「……見てるだけってつらいわね。寒いし」
寒さで体が震える。
公園の自動販売機で温かい飲み物でも買ってこようかと思っていると、
「お嬢ちゃん、ひとりで遊んでるのかい?」
と、真冬が作った雪だるまのうちの一体が喋り出した。
「喋った!」
「喋った?!」
子供真冬と由良は驚き、振り返る。鼻を摘んで発しているような、少し変な声だった。
雪だるまは口代わりの小枝を真一文字に結んだまま、子供真冬に言った。
「お父さんとお母さんが心配してるんじゃないかい? 雪もひどくなってきたし、早くお家に帰った方がいいよ」
(なんて常識的な雪だるまなんだ!)
「やだ! 公園を雪だるまでいっぱいにするまで帰らない!」
(そして、真冬さんはこの頃から規格外だ!)
雪だるまは「困ったなぁ」と声が弱々しくなる。心の底から、子供真冬を心配しているらしい。
(そういえば、真冬さん言ってたっけ。昔、公園で雪だるまが一緒に遊んでくれたから、雪だるまが大好きになったって。その時に会った雪だるまの名前が"雪ちゃん"で、またその雪だるまに会いたいから、他の雪だるまもそう呼んでるんだって)
正直、雪だるまが喋るなど信じられなかった。本当にあったら素敵なことだが、真冬の言うことなので余計に疑わしかった。
その記憶が今、目の前で繰り広げられている。この光景こそが、一つの〈心の落とし物〉なのかもしれない。
(いったい、誰が雪ちゃんだったんだろう?)
由良は遠慮なく、雪だるまの背後を覗き見る。
すると、やはり人が隠れていた。
「一人でそんなに作るのは無理だよ。小さいサイズなら、なんとかなるかもしれないけど」
「やだ! 大きいのがいい!」
「……中林?」
隠れていたのは、中学生時代の中林だった。制服の上にグレーのコートを着ている。
中林も由良の存在に気づいていない。由良に凝視されながら、雪だるまを演じ続けた。
「じゃあ、最後にうんと大きな雪だるまを作ろう。それでいいね?」
「しょうがないなー。雪だるまさんも手伝ってくれるんでしょ?」
中林は少し考え、答えた。
「残念だけど、僕はここから動けない。だから、僕のしもべを貸してあげよう。その人が君を手伝ってくれるよ」
「しもべ?」
中林は意を決した様子で、雪だるまの裏から出てきた。
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「貴方が……しもべさん?」
「は、はい。しもべです」
「お名前はなんて言うの?」
「えっと、有希です。中林有希」
(普通に本名を教えてどうする)
中林は緊張しているのか、うっかり本名で答えた。
「ユキちゃん……ユキちゃんかぁ……雪だるまさんのお友達にぴったりの名前だね!」
「あ、ありがとう」
二人は雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと、雪で遊び尽くした。雪だるまで園内を埋め尽くす、という当初の目的は果たされなかったものの、今まで子供真冬が作った中で一番大きな雪だるまを作り上げることができた。
「できたー!」
「私より大きーい!」
雪だるまが完成すると同時に、子供真冬のお腹が鳴った。
「動いたから、お腹空いちゃった」
「あの、良かったらこれ……どうぞ」
中林が差し出したのは、可愛くラッピングされたチョコレートだった。
ひと口大のハート型に固められ、カラースプレーが散りばめられている。味も様々で、普通のチョコとホワイトチョコ、ストロベリーのチョコの三種類があった。
「うわぁ、可愛い! ホントにもらっていいの?」
「うん。お母さんに"中学校最後のバレンタインデーだから、クラスの子と先生に渡してきたら?"って、無理矢理作らされたやつだから。一人で全部食べるのは大変だし、一緒に食べてくれると助かる」
「やった!」
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