心の落とし物

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
226 / 314
冬編③『銀世界、幾星霜』

第四話「ユキちゃんと雪だるまっ娘」⑶

しおりを挟む
 由良は子供真冬を放置するわけにもいかず、ただただ様子を見守った。
「……見てるだけってつらいわね。寒いし」
 寒さで体が震える。
 公園の自動販売機で温かい飲み物でも買ってこようかと思っていると、
「お嬢ちゃん、ひとりで遊んでるのかい?」
 と、真冬が作った雪だるまのうちの一体が喋り出した。
「喋った!」
「喋った?!」
 子供真冬と由良は驚き、振り返る。鼻を摘んで発しているような、少し変な声だった。
 雪だるまは口代わりの小枝を真一文字に結んだまま、子供真冬に言った。
「お父さんとお母さんが心配してるんじゃないかい? 雪もひどくなってきたし、早くお家に帰った方がいいよ」
(なんて常識的な雪だるまなんだ!)
「やだ! 公園を雪だるまでいっぱいにするまで帰らない!」
(そして、真冬さんはこの頃から規格外だ!)
 雪だるまは「困ったなぁ」と声が弱々しくなる。心の底から、子供真冬を心配しているらしい。
(そういえば、真冬さん言ってたっけ。昔、公園で雪だるまが一緒に遊んでくれたから、雪だるまが大好きになったって。その時に会った雪だるまの名前が"雪ちゃん"で、またその雪だるまに会いたいから、他の雪だるまもそう呼んでるんだって)
 正直、雪だるまが喋るなど信じられなかった。本当にあったら素敵なことだが、真冬の言うことなので余計に疑わしかった。
 その記憶が今、目の前で繰り広げられている。この光景こそが、一つの〈心の落とし物〉なのかもしれない。
(いったい、誰が雪ちゃんだったんだろう?)
 由良は遠慮なく、雪だるまの背後を覗き見る。
 すると、やはり人が隠れていた。
「一人でそんなに作るのは無理だよ。小さいサイズなら、なんとかなるかもしれないけど」
「やだ! 大きいのがいい!」
「……中林?」



 隠れていたのは、中学生時代の中林だった。制服の上にグレーのコートを着ている。
 中林も由良の存在に気づいていない。由良に凝視されながら、雪だるまを演じ続けた。
「じゃあ、最後にうんと大きな雪だるまを作ろう。それでいいね?」
「しょうがないなー。雪だるまさんも手伝ってくれるんでしょ?」
 中林は少し考え、答えた。
「残念だけど、僕はここから動けない。だから、僕のしもべを貸してあげよう。その人が君を手伝ってくれるよ」
「しもべ?」
 中林は意を決した様子で、雪だるまの裏から出てきた。
 子供真冬は突然現れた第三者に驚き、口をポカンと開いた。
「貴方が……しもべさん?」
「は、はい。しもべです」
「お名前はなんて言うの?」
「えっと、有希です。中林有希」
(普通に本名を教えてどうする)
 中林は緊張しているのか、うっかり本名で答えた。
「ユキちゃん……ユキちゃんかぁ……雪だるまさんのお友達にぴったりの名前だね!」
「あ、ありがとう」
 二人は雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと、雪で遊び尽くした。雪だるまで園内を埋め尽くす、という当初の目的は果たされなかったものの、今まで子供真冬が作った中で一番大きな雪だるまを作り上げることができた。
「できたー!」
「私より大きーい!」
 雪だるまが完成すると同時に、子供真冬のお腹が鳴った。
「動いたから、お腹空いちゃった」
「あの、良かったらこれ……どうぞ」
 中林が差し出したのは、可愛くラッピングされたチョコレートだった。
 ひと口大のハート型に固められ、カラースプレーが散りばめられている。味も様々で、普通のチョコとホワイトチョコ、ストロベリーのチョコの三種類があった。
「うわぁ、可愛い! ホントにもらっていいの?」
「うん。お母さんに"中学校最後のバレンタインデーだから、クラスの子と先生に渡してきたら?"って、無理矢理作らされたやつだから。一人で全部食べるのは大変だし、一緒に食べてくれると助かる」
「やった!」

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。 気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。 奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。 そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。 嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。 「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」 激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。 果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか? ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

ようこそ燐光喫茶室へ

豊川バンリ
ライト文芸
招かれた者の前にだけ現れる、こぢんまりとした洋館ティーサロン「フォスフォレッセンス」。 温かみのあるアンティークなしつらえの店内は、まるで貴族の秘密のサロン室のよう。 青い瞳の老執事と、黒い長髪を艷やかに翻す若執事が、少し疲れてしまったあなたを優しくおもてなしします。 極上のスイーツと香り豊かなお茶を、当店自慢の百合の小庭をご覧になりながらお楽しみください。 ※一話完結、不定期連載です。

出雲の駄菓子屋日誌

にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。 主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。 中には、いわくつきの物まで。 年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。 目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

下の階にはツキノワグマが住んでいる

鞠目
現代文学
 住んでいた賃貸マンションで火事があり引っ越すことにした私。不動産屋さんに紹介してもらった物件は築35年「動物入居可能」の物件だった。  下の階に住むツキノワグマと私の穏やかな日常。

処理中です...