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冬編③『銀世界、幾星霜』
第四話「ユキちゃんと雪だるまっ娘」⑵
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その日の午後、由良は一人買い物に出かけた。
本当は中林に行ってもらうつもりだったが、今日の彼女は妙にそそっかしく、ミスが多かった。注文を間違える、皿を割る、フライパンを焦がす、地下の厨房へ続くドアの前に荷物を置く、等々……数えたらキリがない。まるで、LAMPで働き始めたばかりの中林に戻ってしまったようだ。
あまりにもミスが多かったため、午後は休ませた。今の彼女に買い出しを頼んだら、何を買ってくるか分からない。想像するだけで、恐ろしかった。
「どうしちゃったんだろ、中林さん。昨日まではなんともなかったのに」
心当たりがないわけではない。真冬がLAMPで受験勉強をするようになってからというものの、中林も触発されたように〈心の落とし物〉や〈探し人〉を探すようになった。
LAMPのくるみ割り人形を目当てにかよっている〈探し人〉達は
「あの子、頑張ってるよねー」
「僕達のことは見えてないけどね」
「惜しい! 〈探し人〉はカウンターの人の方!」
と褒めていたが、由良には焦って空回りしているようにしか見えなかった。
(きっと、受験勉強に熱中できる真冬さんが眩しいんだろうなぁ。中林が学生の頃は勉強どころじゃなかったから)
とは言え、このままではLAMPから皿とフライパンが消えてしまう。
由良が「どうしたものか」と悩んでいると、洋燈公園で小さな人影を見つけた。雪の降る中、子供が一人で雪だるまを作っている。よく見ると、由良が二年前にLAMPの前で出会った、子供時代の真冬だった。当然、本人ではなく〈探し人〉だ。
子供真冬の〈探し人〉は、前に会った時よりも二、三才ほど成長していた。誰の手も借りず、一人で黙々と雪だるまを作っている。既に何体か完成させていたが、納得いっていないらしい。
(真冬さん、雪だるま作るの楽しみにしてたもんなぁ。積もるまで我慢できなかったのね)
由良は子供真冬の〈探し人〉に近づき、声をかけた。
「久しぶり。私のこと、覚えてる?」
「……」
子供真冬の〈探し人〉は真剣に雪玉を転がしている。没頭し過ぎて、由良の声が届いていない。
あるいは、前の〈探し人〉から記憶を引き継がれず、由良のことを覚えていないのかもしれない。
「真冬ちゃん?」
「……」
名前を呼んでも反応がない。
それどころか、由良の体をすり抜けた。
「……えっ?」
子供真冬は転がしている雪玉ごと、由良をすり抜ける。見えているのに、触れられない。
公園に積もっているように見える雪も、触ろうとするとすり抜けた。どうやら、この雪も子供真冬と同じ何からしい。
(落とし物を探しているそぶりもないし、あの子は〈探し人〉じゃなくて〈心の落とし物〉ってこと? 落とし主は真冬さん……でいいのよね?)
見えているのに、触れられない。相手が生き霊なら普通のことだが、由良は動揺が隠せなかった。
その上、子供真冬には由良の姿が見えていないし、声も聞こえない。これでは何の手助けもしてやれない。
本当は中林に行ってもらうつもりだったが、今日の彼女は妙にそそっかしく、ミスが多かった。注文を間違える、皿を割る、フライパンを焦がす、地下の厨房へ続くドアの前に荷物を置く、等々……数えたらキリがない。まるで、LAMPで働き始めたばかりの中林に戻ってしまったようだ。
あまりにもミスが多かったため、午後は休ませた。今の彼女に買い出しを頼んだら、何を買ってくるか分からない。想像するだけで、恐ろしかった。
「どうしちゃったんだろ、中林さん。昨日まではなんともなかったのに」
心当たりがないわけではない。真冬がLAMPで受験勉強をするようになってからというものの、中林も触発されたように〈心の落とし物〉や〈探し人〉を探すようになった。
LAMPのくるみ割り人形を目当てにかよっている〈探し人〉達は
「あの子、頑張ってるよねー」
「僕達のことは見えてないけどね」
「惜しい! 〈探し人〉はカウンターの人の方!」
と褒めていたが、由良には焦って空回りしているようにしか見えなかった。
(きっと、受験勉強に熱中できる真冬さんが眩しいんだろうなぁ。中林が学生の頃は勉強どころじゃなかったから)
とは言え、このままではLAMPから皿とフライパンが消えてしまう。
由良が「どうしたものか」と悩んでいると、洋燈公園で小さな人影を見つけた。雪の降る中、子供が一人で雪だるまを作っている。よく見ると、由良が二年前にLAMPの前で出会った、子供時代の真冬だった。当然、本人ではなく〈探し人〉だ。
子供真冬の〈探し人〉は、前に会った時よりも二、三才ほど成長していた。誰の手も借りず、一人で黙々と雪だるまを作っている。既に何体か完成させていたが、納得いっていないらしい。
(真冬さん、雪だるま作るの楽しみにしてたもんなぁ。積もるまで我慢できなかったのね)
由良は子供真冬の〈探し人〉に近づき、声をかけた。
「久しぶり。私のこと、覚えてる?」
「……」
子供真冬の〈探し人〉は真剣に雪玉を転がしている。没頭し過ぎて、由良の声が届いていない。
あるいは、前の〈探し人〉から記憶を引き継がれず、由良のことを覚えていないのかもしれない。
「真冬ちゃん?」
「……」
名前を呼んでも反応がない。
それどころか、由良の体をすり抜けた。
「……えっ?」
子供真冬は転がしている雪玉ごと、由良をすり抜ける。見えているのに、触れられない。
公園に積もっているように見える雪も、触ろうとするとすり抜けた。どうやら、この雪も子供真冬と同じ何からしい。
(落とし物を探しているそぶりもないし、あの子は〈探し人〉じゃなくて〈心の落とし物〉ってこと? 落とし主は真冬さん……でいいのよね?)
見えているのに、触れられない。相手が生き霊なら普通のことだが、由良は動揺が隠せなかった。
その上、子供真冬には由良の姿が見えていないし、声も聞こえない。これでは何の手助けもしてやれない。
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