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冬編③『銀世界、幾星霜』
第四話「ユキちゃんと雪だるまっ娘」⑴
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一歩ずつ、一歩ずつ。
中林は雪が散らつく通りを進む。今日は夜通し降るらしい。この調子だと、明日には積もっているかもしれない。
(真冬ちゃん、積もったら喜ぶだろうなぁ。勉強そっちのけで、雪だるま作り始めたりして)
真冬のことを考えていると、後ろから本人が走ってきた。
「おはよ!」
「うわぁ?!」
そのまま中林を追い越し、LAMPの前で止まる。雪が散らつくほど寒いというのに汗だくだった。
「どうしたの、その汗?」
「駅から走って来た! 勉強ばっかりで、運動不足ぎみだったからね!」
「雪降ってるのに? 寒くない?」
「楽しいよー。雪がせまってくる感じがして、すっごいスリリング!!」
「な、なるほど?」
真冬は雪が好きで、雪だるまが大好きだった。親しい中林でも、たまに理解が追いつかない時がある。今がそうだった。
「冷えないうちに入りなよ? 風邪引いちゃうから」
「そうするー」
真冬は素直に忠告を聞き、LAMPのドアを開く。中林は従業員用入口から入るため、ここで一旦別れる。
去り際、真冬は中林を振り返った。
「雪、積もるといいね! 積もったら、お店の前に雪ちゃん作るからね!」
一歩ずつ、一歩ずつ。
LAMPと隣の建物の間にある、細い路地を進む。朝でも薄暗いが、壁に設置された照明のおかげで、先まで見える。
「私も運動しようかなぁ。太ったら、ここ通れなくなっちゃうかもしれないし」
進みながら考える。
真冬が受験勉強を頑張っているのは、ある夢を叶えるためらしい。
「自然に配慮した形で、人工的に天候を操作できるようになりたい」という壮大な夢で、効率的な農作物の栽培や災害の防止に役立てたいそうだ。ついでに「いつでも好きな時に雪を降らせて、雪ちゃんを作りたい」とも話していた。真冬が言っているからか、後者が冗談に聞こえなかった。
「……真冬ちゃんなら叶えちゃいそうだなぁ」
中林は苦笑する。
彼女は将来の夢や目標を抱いたことがなかった。今を生きるのに必死で、未来を考える余裕がなかった。
だからだろうか。まだ見ぬ未来のために努力できる真冬が眩しくて、羨ましくて、焦りを覚えた。
(私はこのままでいいのかな? LAMPで働き始めてから今年で四年目だし、何か新しいことを始めてもいいんじゃ……)
途中まで考え、首を振った。
「ダメダメ! たしかに仕事には慣れてきたけど、まだまだ由良さんには敵わないんだから! 茅田ちゃんだって、何でもそつなくこなすし! 四年近くお店にいるけど、未だに〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気付けてないし! 未来のことを考えるのは、後々! 私は着実に一歩ずつ進んで、目的地に着くタイプだから!」
かつて〈探し人〉を通じ、由良に言われた助言を思い出す。
〈探し人〉の時は、一歩で良かった。踏み出せなかった一歩を踏み出すことが、彼女の未練だったから。
当時の中林も、一歩で良かった。履歴書は書いて送るだけで済んだし、面接会場であるLAMPへ一歩踏み出してしまえば、終わるまで逃げられなくなるから。
だが、今の中林は一歩では足りない。
未来はいくつも分かれていて、なおかつ遠い。戻ろうと思えば、いつでも何歩でも戻れてしまう。
一歩では何も変わらない。それを薄々感じながらも、中林は由良の助言を貫くことにした。かつての「助言」は、進みたくない「言い訳」に代わっていた。
(あーあ。もっと早く、真冬ちゃんと会えてたら良かったのになぁ)
中林は雪が散らつく通りを進む。今日は夜通し降るらしい。この調子だと、明日には積もっているかもしれない。
(真冬ちゃん、積もったら喜ぶだろうなぁ。勉強そっちのけで、雪だるま作り始めたりして)
真冬のことを考えていると、後ろから本人が走ってきた。
「おはよ!」
「うわぁ?!」
そのまま中林を追い越し、LAMPの前で止まる。雪が散らつくほど寒いというのに汗だくだった。
「どうしたの、その汗?」
「駅から走って来た! 勉強ばっかりで、運動不足ぎみだったからね!」
「雪降ってるのに? 寒くない?」
「楽しいよー。雪がせまってくる感じがして、すっごいスリリング!!」
「な、なるほど?」
真冬は雪が好きで、雪だるまが大好きだった。親しい中林でも、たまに理解が追いつかない時がある。今がそうだった。
「冷えないうちに入りなよ? 風邪引いちゃうから」
「そうするー」
真冬は素直に忠告を聞き、LAMPのドアを開く。中林は従業員用入口から入るため、ここで一旦別れる。
去り際、真冬は中林を振り返った。
「雪、積もるといいね! 積もったら、お店の前に雪ちゃん作るからね!」
一歩ずつ、一歩ずつ。
LAMPと隣の建物の間にある、細い路地を進む。朝でも薄暗いが、壁に設置された照明のおかげで、先まで見える。
「私も運動しようかなぁ。太ったら、ここ通れなくなっちゃうかもしれないし」
進みながら考える。
真冬が受験勉強を頑張っているのは、ある夢を叶えるためらしい。
「自然に配慮した形で、人工的に天候を操作できるようになりたい」という壮大な夢で、効率的な農作物の栽培や災害の防止に役立てたいそうだ。ついでに「いつでも好きな時に雪を降らせて、雪ちゃんを作りたい」とも話していた。真冬が言っているからか、後者が冗談に聞こえなかった。
「……真冬ちゃんなら叶えちゃいそうだなぁ」
中林は苦笑する。
彼女は将来の夢や目標を抱いたことがなかった。今を生きるのに必死で、未来を考える余裕がなかった。
だからだろうか。まだ見ぬ未来のために努力できる真冬が眩しくて、羨ましくて、焦りを覚えた。
(私はこのままでいいのかな? LAMPで働き始めてから今年で四年目だし、何か新しいことを始めてもいいんじゃ……)
途中まで考え、首を振った。
「ダメダメ! たしかに仕事には慣れてきたけど、まだまだ由良さんには敵わないんだから! 茅田ちゃんだって、何でもそつなくこなすし! 四年近くお店にいるけど、未だに〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気付けてないし! 未来のことを考えるのは、後々! 私は着実に一歩ずつ進んで、目的地に着くタイプだから!」
かつて〈探し人〉を通じ、由良に言われた助言を思い出す。
〈探し人〉の時は、一歩で良かった。踏み出せなかった一歩を踏み出すことが、彼女の未練だったから。
当時の中林も、一歩で良かった。履歴書は書いて送るだけで済んだし、面接会場であるLAMPへ一歩踏み出してしまえば、終わるまで逃げられなくなるから。
だが、今の中林は一歩では足りない。
未来はいくつも分かれていて、なおかつ遠い。戻ろうと思えば、いつでも何歩でも戻れてしまう。
一歩では何も変わらない。それを薄々感じながらも、中林は由良の助言を貫くことにした。かつての「助言」は、進みたくない「言い訳」に代わっていた。
(あーあ。もっと早く、真冬ちゃんと会えてたら良かったのになぁ)
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