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冬編③『銀世界、幾星霜』
第三話「中林の一日」⑵
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「お話されていたネックレス、まだお持ちですか?」
お客様はいくらか落ち着いた様子で、「えぇ」と頷きました。
「私にとっては大切な宝物ですから。たとえ、直せなくても捨てられません」
お客様はハンカチで包んだネックレスをカバンから取り出し、私に見せてくれました。
確かに、雪の結晶の飾りは粉々に砕けていました。事情を知らなければ、うっかり捨ててしまいそうです。
片や、一緒にハンカチに包まれていたチェーンは無傷でした。手芸屋さんに売っているような、ごくありふれたチェーンです。銀の飾りが砕けるほどの衝撃があったはずなのに、少しも歪んでいません。
(チェーンだけなら、再利用できそう)
お客様には悪いですが、そう思ってしまいました。
……だって、ネックレスの実物を見て気づいてしまったのです。壊れるのも無理はないな、と。
酷ですが、お客様のためです。
私は正直にお伝えすることにしました。
「お客様。これ、銀じゃないです。銀粘土ですよ」
「銀……粘土?」
お客様はキョトンとされました。やはり、銀粘土をご存知でなかったのです。
私は銀粘土について、お客様に教えて差し上げました。
「焼くと純銀に変わる、粘土状の素材のことです。初心者でも簡単にシルバーアクセサリーを作れる優れものなんですよ? 私も最近、趣味で作ってるんです。指輪とか置物とか」
「はぁ」
話が少し脱線してしまいました。
私は「つまりですね、」と、粉々になった飾りを見下ろしました。
「ネックレスの飾りが砕けたのは、お客様のせいじゃないってことです。同じ純正でも、純銀は純金と違って脆いんですよ。ある程度の厚みがあればまだ耐えられるんですが、その飾りは薄いので」
「そんな……なぜ、友人はそのような粗悪品を私に?」
「お友達の手作りなんじゃないですか? 本物のシルバーアクセサリーはお高いですから。どうしてもお客様に喜んでもらいたくて作られたのかもしれませんね」
「……」
お客様は一瞬言葉を失った後、呆れた様子で表情をゆるめました。
「そういえば地元に帰省した時、"雪の結晶のアクセサリーが欲しいのに見つからない"って、あの子にボヤいたっけ。あの子は格安でアクセサリーを買ったって言い張ってたけど、あれは手作りだってバレたくなくて、嘘をついていたんですね」
「お客様のために手作りまでしちゃうなんて、すごいご友人ですね」
「ったく、もう……知ってたら、大事に仕舞っておいたのに」
お客様は残りのパンケーキと紅茶を食べ終えると、晴れやかな顔で席を立たれました。
「銀粘土のこと、教えてくださってありがとうございました。念のため、本人にも確認してみます」
「はい! またのご来店、お待ちしております!」
お客様は椅子にかけていた防寒着をまとい、颯爽と店を後にしました。
私はしばらく後ろ姿を監視していましたが、お客様が消える気配は全くありませんでした。どうやら、あのお客様も〈探し人〉ではなかったようです。
「くぅ、残念」
「何が?」
「うわっぷ?!」
振り返ると、いつのまにか由良さんが立っていました。
「ゆ、店長もお見送りですか?」
「まぁね」
由良さんは先ほどのお客様を、ジッと見ていました。私が泣かせてしまったので、心配されているのかもしれません。
「大丈夫ですよ! お悩みは万事解決しました!」
「……そうみたいね」
由良さんはフッと微笑み、カウンターへ戻っていきました。
いつものことですが、由良さんには私に見えない何かが見えていたのかもしれません。
「でも、何が?」
私は首を傾げました。
傾げても、わかんないや!
お客様はいくらか落ち着いた様子で、「えぇ」と頷きました。
「私にとっては大切な宝物ですから。たとえ、直せなくても捨てられません」
お客様はハンカチで包んだネックレスをカバンから取り出し、私に見せてくれました。
確かに、雪の結晶の飾りは粉々に砕けていました。事情を知らなければ、うっかり捨ててしまいそうです。
片や、一緒にハンカチに包まれていたチェーンは無傷でした。手芸屋さんに売っているような、ごくありふれたチェーンです。銀の飾りが砕けるほどの衝撃があったはずなのに、少しも歪んでいません。
(チェーンだけなら、再利用できそう)
お客様には悪いですが、そう思ってしまいました。
……だって、ネックレスの実物を見て気づいてしまったのです。壊れるのも無理はないな、と。
酷ですが、お客様のためです。
私は正直にお伝えすることにしました。
「お客様。これ、銀じゃないです。銀粘土ですよ」
「銀……粘土?」
お客様はキョトンとされました。やはり、銀粘土をご存知でなかったのです。
私は銀粘土について、お客様に教えて差し上げました。
「焼くと純銀に変わる、粘土状の素材のことです。初心者でも簡単にシルバーアクセサリーを作れる優れものなんですよ? 私も最近、趣味で作ってるんです。指輪とか置物とか」
「はぁ」
話が少し脱線してしまいました。
私は「つまりですね、」と、粉々になった飾りを見下ろしました。
「ネックレスの飾りが砕けたのは、お客様のせいじゃないってことです。同じ純正でも、純銀は純金と違って脆いんですよ。ある程度の厚みがあればまだ耐えられるんですが、その飾りは薄いので」
「そんな……なぜ、友人はそのような粗悪品を私に?」
「お友達の手作りなんじゃないですか? 本物のシルバーアクセサリーはお高いですから。どうしてもお客様に喜んでもらいたくて作られたのかもしれませんね」
「……」
お客様は一瞬言葉を失った後、呆れた様子で表情をゆるめました。
「そういえば地元に帰省した時、"雪の結晶のアクセサリーが欲しいのに見つからない"って、あの子にボヤいたっけ。あの子は格安でアクセサリーを買ったって言い張ってたけど、あれは手作りだってバレたくなくて、嘘をついていたんですね」
「お客様のために手作りまでしちゃうなんて、すごいご友人ですね」
「ったく、もう……知ってたら、大事に仕舞っておいたのに」
お客様は残りのパンケーキと紅茶を食べ終えると、晴れやかな顔で席を立たれました。
「銀粘土のこと、教えてくださってありがとうございました。念のため、本人にも確認してみます」
「はい! またのご来店、お待ちしております!」
お客様は椅子にかけていた防寒着をまとい、颯爽と店を後にしました。
私はしばらく後ろ姿を監視していましたが、お客様が消える気配は全くありませんでした。どうやら、あのお客様も〈探し人〉ではなかったようです。
「くぅ、残念」
「何が?」
「うわっぷ?!」
振り返ると、いつのまにか由良さんが立っていました。
「ゆ、店長もお見送りですか?」
「まぁね」
由良さんは先ほどのお客様を、ジッと見ていました。私が泣かせてしまったので、心配されているのかもしれません。
「大丈夫ですよ! お悩みは万事解決しました!」
「……そうみたいね」
由良さんはフッと微笑み、カウンターへ戻っていきました。
いつものことですが、由良さんには私に見えない何かが見えていたのかもしれません。
「でも、何が?」
私は首を傾げました。
傾げても、わかんないや!
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