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冬編③『銀世界、幾星霜』
第二話「くるみ割り人形と銀色胡桃」⑶
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注文を聞きに行っていた中林が戻ってきた。
「壁際のお客様、白玉ぜんざい追加だそうです」
「はいよ」
「出来上がるまで、くるみ割り人形使っててもいいですか? 今はお客さんもいないみたいだし、ちょっと試したいことがあるんです」
くるみ割り人形の前には、依然として人だかりができていた。中林には見えていないらしい。
「あぁ……アレ、全員〈探し人〉だったんだ」
「? どうかされました?」
「いや、なんでもない。いいよ、今なら使っても」
「やった!」
中林は嬉しそうに、お気に入りの白ウサギのくるみ割り人形の前に立った。
くるみ割り人形を使っていた〈探し人〉達は怪訝そうに眉をひそめながらも、場所を譲った。
「あらこの子、私達のこと見えてないわ」
「じゃあ、しょうがないか」
「クルミが割れるところが見られるなら、誰でもいいよ!」
大勢の〈探し人〉達に注目されているとも知らず、中林はエプロンのポケットからクルミを取り出した。
珍しいことに、カラが銀色のクルミだった。照明の光を反射し、輝いている。コレさんが話していた銀色胡桃にそっくりだった。
「コレさんが探している銀色胡桃って、あんな感じのクルミですか?」
「ん? どれどれ……」
コレさんは中林が手にしているクルミを見るなり、あんぐりと口を開いた。
「そ、そ、そ、それは!」
立ち上がり、中林のもとへ駆け寄る。
新たな乱入者に、〈探し人〉達は呆れていた。
「今度は誰?」
「また見えない人間か?」
「いや、彼は私達と同じ身の上のようよ。目が必死だもの」
「なら、道を開けてやらなきゃな」
コレさんは中林が持っているクルミを凝視し、改めて確認した。
やがて「間違いない」と頷いた。
「正真正銘、銀色胡桃です。いったい、どこでこれを?」
中林はコレさんの声が聞こえない。
代わりに、由良が中林に尋ねた。
「中林さん、そのクルミどこで見つけたの?」
「これですか?」
中林は
「綺麗でしょう? オータムフェスで見つけたんですよー。駄菓子屋さんの復刻商品なんですって!」
「駄菓子屋……?」
「お嬢さん、お願いします! おひとつ譲っていただけないでしょうか?!」
「それ、一個くれない?」
「いいですよ、何個か買ったんで」
中林は白ウサギのくるみ割り人形の口の中へ、銀色胡桃をセットする。背中のレバーを引くと、「パキパキッ」と小気味いい音を立て、カラにヒビが入った。
完全にはクルミを砕かず、口の中から出す。カラを開くと、中から色とりどりの金平糖が出てきた。
「わーい! 金平糖ですよ、店長!」
「本当に出てきた……」
「クルミから金平糖って、シュールね」
「おひとつどうぞ!」
中林はクルミのカラに入った金平糖を差し出す。
由良はコレさんに目配せし、金平糖を手に取る。コレさんも同時に金平糖をつまみ、口へ運んだ。
「あれ? 金平糖が二つ減ったような……店長、欲張りさんですね」
「私はこの通り、ひと粒しか取ってないわよ」
「んん? 見間違いかなぁ?」
中林は不思議そうに首をひねる。
一方、コレさんは金平糖を口に入れた途端、ハッと目を見張った。
「……思い出しました」
「思い出したって、何を?」
由良は中林に聞かれないよう、小声で尋ねた。
「主人は銀色胡桃が欲しいのではなかったのです。あのお方が本当に取り戻したかったのは、お母様と過ごした時間です」
「壁際のお客様、白玉ぜんざい追加だそうです」
「はいよ」
「出来上がるまで、くるみ割り人形使っててもいいですか? 今はお客さんもいないみたいだし、ちょっと試したいことがあるんです」
くるみ割り人形の前には、依然として人だかりができていた。中林には見えていないらしい。
「あぁ……アレ、全員〈探し人〉だったんだ」
「? どうかされました?」
「いや、なんでもない。いいよ、今なら使っても」
「やった!」
中林は嬉しそうに、お気に入りの白ウサギのくるみ割り人形の前に立った。
くるみ割り人形を使っていた〈探し人〉達は怪訝そうに眉をひそめながらも、場所を譲った。
「あらこの子、私達のこと見えてないわ」
「じゃあ、しょうがないか」
「クルミが割れるところが見られるなら、誰でもいいよ!」
大勢の〈探し人〉達に注目されているとも知らず、中林はエプロンのポケットからクルミを取り出した。
珍しいことに、カラが銀色のクルミだった。照明の光を反射し、輝いている。コレさんが話していた銀色胡桃にそっくりだった。
「コレさんが探している銀色胡桃って、あんな感じのクルミですか?」
「ん? どれどれ……」
コレさんは中林が手にしているクルミを見るなり、あんぐりと口を開いた。
「そ、そ、そ、それは!」
立ち上がり、中林のもとへ駆け寄る。
新たな乱入者に、〈探し人〉達は呆れていた。
「今度は誰?」
「また見えない人間か?」
「いや、彼は私達と同じ身の上のようよ。目が必死だもの」
「なら、道を開けてやらなきゃな」
コレさんは中林が持っているクルミを凝視し、改めて確認した。
やがて「間違いない」と頷いた。
「正真正銘、銀色胡桃です。いったい、どこでこれを?」
中林はコレさんの声が聞こえない。
代わりに、由良が中林に尋ねた。
「中林さん、そのクルミどこで見つけたの?」
「これですか?」
中林は
「綺麗でしょう? オータムフェスで見つけたんですよー。駄菓子屋さんの復刻商品なんですって!」
「駄菓子屋……?」
「お嬢さん、お願いします! おひとつ譲っていただけないでしょうか?!」
「それ、一個くれない?」
「いいですよ、何個か買ったんで」
中林は白ウサギのくるみ割り人形の口の中へ、銀色胡桃をセットする。背中のレバーを引くと、「パキパキッ」と小気味いい音を立て、カラにヒビが入った。
完全にはクルミを砕かず、口の中から出す。カラを開くと、中から色とりどりの金平糖が出てきた。
「わーい! 金平糖ですよ、店長!」
「本当に出てきた……」
「クルミから金平糖って、シュールね」
「おひとつどうぞ!」
中林はクルミのカラに入った金平糖を差し出す。
由良はコレさんに目配せし、金平糖を手に取る。コレさんも同時に金平糖をつまみ、口へ運んだ。
「あれ? 金平糖が二つ減ったような……店長、欲張りさんですね」
「私はこの通り、ひと粒しか取ってないわよ」
「んん? 見間違いかなぁ?」
中林は不思議そうに首をひねる。
一方、コレさんは金平糖を口に入れた途端、ハッと目を見張った。
「……思い出しました」
「思い出したって、何を?」
由良は中林に聞かれないよう、小声で尋ねた。
「主人は銀色胡桃が欲しいのではなかったのです。あのお方が本当に取り戻したかったのは、お母様と過ごした時間です」
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