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冬編③『銀世界、幾星霜』
第一話「雪の妖精」⑷
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チュロスを食べ終え、ホットフルーツティーで喉を潤していた……その時。
温まった体が一気に冷え切ってしまうほど、冷たい突風が吹き抜けました。その風に乗って、一匹の雪虫が私の方へ飛んできたのです。
雪虫は初めて出会った時と同じように、私の手の甲にピタッと留まりました。今日は雪用の手袋をしていたので、私の体温から雪虫を守れました。
雪虫は元気に飛び立ち、風に流されていきました。
去り際、頭の中で雪虫のものと思われる声が響きました。
『やっとお会いできましたね。私は貴方に助けていただいた者の子孫です。貴方が手を貸してくださったおかげで、ご先祖様は再び気流に乗り、故郷へ帰ることができました。代わりにお礼を言わせてください。ありがとう、ありがとう』
私は飛び去っていった雪虫さんに聞こえるよう、声を張り上げ言いました。
「私の方こそ、ご先祖様を弱らせてしまってごめんなさい! 無事に故郷へ帰ってこられたんですね! 安心しました!」
『ご心配なく。ご先祖様は喜んでらっしゃったそうですよ。"雪虫が一生知ることのない、人の温もりを知れて嬉しい。文字通り、我が身を焦がさんばかりの"と。私も興味はありますが、短い命を犠牲にしてまで挑む勇気はございませんね』
それでは、と雪虫さんの声は遠ざかっていきました。ご先祖様がそうだったように、あの雪虫さんも故郷へ帰るのかもしれません。
街にはあの雪虫ささんの他にも、無数の雪虫が飛び交っていました。まるで吹雪が吹き荒れているかのような、幻想的な光景でした。
ただ、雪虫を見慣れている街の人にとっては、ありふれた羽虫の大群でしかないようです。わずらわしそうに手で払ったり、悲鳴を上げながら逃げ回っていました。
「……あの雪虫さんには、こんなにたくさんのお仲間がいたんですね」
私は雪虫が吹き荒れる街を眺めながら、残りのホットフルーツティーを楽しみました。
不思議と、雪虫は私の方へは寄ってきませんでした。子孫の雪虫さんが、お仲間に私のことを話してくれていたのかもしれません。
長年の望みが叶い、私の心は満ち足りていました。
雪虫が街に現れてから数日後、雪国に初雪が舞った。
街の人は雪虫とは別の意味で、しんしんと降り積もる雪をわずらわしそうに見ている。だが雪虫とは違い、どことなく嬉しそうでもあった。
〈探し人〉の少女は初雪を待たずして、街から姿を消していた。彼女にとっての初雪は、街に吹き荒れた雪虫の大群だった。
(冬編③第二話へ続く)
温まった体が一気に冷え切ってしまうほど、冷たい突風が吹き抜けました。その風に乗って、一匹の雪虫が私の方へ飛んできたのです。
雪虫は初めて出会った時と同じように、私の手の甲にピタッと留まりました。今日は雪用の手袋をしていたので、私の体温から雪虫を守れました。
雪虫は元気に飛び立ち、風に流されていきました。
去り際、頭の中で雪虫のものと思われる声が響きました。
『やっとお会いできましたね。私は貴方に助けていただいた者の子孫です。貴方が手を貸してくださったおかげで、ご先祖様は再び気流に乗り、故郷へ帰ることができました。代わりにお礼を言わせてください。ありがとう、ありがとう』
私は飛び去っていった雪虫さんに聞こえるよう、声を張り上げ言いました。
「私の方こそ、ご先祖様を弱らせてしまってごめんなさい! 無事に故郷へ帰ってこられたんですね! 安心しました!」
『ご心配なく。ご先祖様は喜んでらっしゃったそうですよ。"雪虫が一生知ることのない、人の温もりを知れて嬉しい。文字通り、我が身を焦がさんばかりの"と。私も興味はありますが、短い命を犠牲にしてまで挑む勇気はございませんね』
それでは、と雪虫さんの声は遠ざかっていきました。ご先祖様がそうだったように、あの雪虫さんも故郷へ帰るのかもしれません。
街にはあの雪虫ささんの他にも、無数の雪虫が飛び交っていました。まるで吹雪が吹き荒れているかのような、幻想的な光景でした。
ただ、雪虫を見慣れている街の人にとっては、ありふれた羽虫の大群でしかないようです。わずらわしそうに手で払ったり、悲鳴を上げながら逃げ回っていました。
「……あの雪虫さんには、こんなにたくさんのお仲間がいたんですね」
私は雪虫が吹き荒れる街を眺めながら、残りのホットフルーツティーを楽しみました。
不思議と、雪虫は私の方へは寄ってきませんでした。子孫の雪虫さんが、お仲間に私のことを話してくれていたのかもしれません。
長年の望みが叶い、私の心は満ち足りていました。
雪虫が街に現れてから数日後、雪国に初雪が舞った。
街の人は雪虫とは別の意味で、しんしんと降り積もる雪をわずらわしそうに見ている。だが雪虫とは違い、どことなく嬉しそうでもあった。
〈探し人〉の少女は初雪を待たずして、街から姿を消していた。彼女にとっての初雪は、街に吹き荒れた雪虫の大群だった。
(冬編③第二話へ続く)
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