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冬編③『銀世界、幾星霜』
第一話「雪の妖精」⑴
しおりを挟むあれは冬の初めの、いっとう寒い日でした。私は学校から帰る途中、不思議な生き物と出会ったのです。
そこは風がよく通る、一本道でした。向かい風で、いくらペダルを漕いでも、自転車は思うように進みません。ハンドルを握る手はかじかみ、耳は痛いほど冷え切っていました。
「早く家に帰って、コタツで温まりたい」
そう切に願い、懸命に自転車を走らせていると、前から小さな白い綿毛のようなものが飛んできました。綿毛は風に流され、うまい具合に私の手の甲に留まりました。
最初はゴミかと思いましたが、よく見ると綿毛そのものではなく、綿毛をまとった羽虫でした。
私は驚きました。綿毛をまとった羽虫など、今まで見たことがなかったのです。その不思議な見た目も相まって、「実は妖精なのではないか?」とさえ考えました。
私は寒さも忘れて自転車を路肩に止め、夢中で羽虫を観察しました。
すると、次第に羽虫は弱っていきました。
理由は分からなかったけれど、直感的に「私が触れているからだ」と思いました。子供の頃に絵本で読んだ、人間に触れられた妖精が森へ帰れなくなった話を思い出したせいかもしれません。
私は手を振り、羽虫を逃しました。名残惜しかったけれど、このまま羽虫を死なせたくはありませんでした。
羽虫は風に飛ばされ、いずこかへ消えました。無事に仲間のもとへ帰れたのか、途中で弱りきって死んでしまったのか、人の私には知りようもありません。
「以来、私はあの生き物が何だったのか、ずっと気になっているのです。ただの羽虫だったのか、それとも幻の生き物だったのか……その正体だけでも知りたいのです」
〈探し人〉の少女は話を終えると、ちょうどいい温度に冷めたホワイトモカをひと口飲んだ。溶けかけの生クリームの上に、銀色のアラザンが散りばめられている。少女がアラザンを噛むたび、口の中からプチプチと音がした。
木枯らし吹き荒ぶ、冬の初めのLAMP。店の隅には、銀色のクリスマスツリーが飾られている。サンタやベルなどの可愛らしいオーナメントで飾り立てられており、お客さんの目を楽しませていた。
由良と〈探し人〉の少女はカウンターで向かい合っていた。
中学生くらいの年頃で、白を基調としたセーラー服を着ている。校章に三本のラインが入っているので、三年生だろう。羽虫を見たのが今の年齢か、あるいは受験で忙しくて探すどころではないのかもしれない。
「綿毛のような羽虫を見たのは、それっきりなんですか?」
〈探し人〉の少女は頷いた。
「えぇ。翌年も、その翌年も探しましたが、現れてはくれませんでした。風が吹くたび、体や服にくっついているかもと改めましたが、見当たりませんでした。今では"本当に妖精だったのかもしれない"と、半分諦めています」
由良は首を傾げた。綿毛をまとった羽虫など、見たこともない。
「妖精など、いるわけがない」と一蹴するのは簡単だが、それで〈探し人〉が納得してくれるとは思えなかった。
(綿毛の羽虫、綿毛の羽虫……昔、おじいちゃんから聞いたことがあったような、無かったような……? もしかして、誰かの〈心の落とし物〉を見たとか? だとしたら、見つけられっこないじゃない……!)
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