心の落とし物

緋色刹那

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秋編③『誰ソ彼刻の紫面楚歌(マジックアワー)』

第五話「〈心の落とし物〉回収パレード」⑴

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 由良が珠緒を玉蟲匣へ送り届けた、帰り道。
 商店街の街灯がバチバチと音を立てて点滅したかと思うと、一斉に不気味な紫色へと染まった。
「……何これ?」
 由良は車を降り、近くで街灯を確認する。
 洋燈商店街の明かりがこのような色に染まったところなど、今まで見たことがない。
「深夜だから特別なのかな? それとも、秋限定?」
 不思議に思いながらも、車へ戻ろうとする。
 その時、LAMPがある方向とは逆の方角から、巨大な山車が騒々しく近づいてきた。
 それはなんとも奇妙なパレードだった。車輪で進む紫色の象のハリボテを筆頭に、ポップに飾りつけられたゴミ収集車やダンプカー、ショベルカーなどの工事車両車が後に続く。
 その周りを珠緒の店に売っていたような怪物やチンドン屋の仮装をした集団が取り囲み、掃除道具をバトンやフラッグに見立てて踊ったり、廃材を組み合わせて作った楽器で演奏したりと、パレードを盛り上げていた。
(な、なんじゃアレは……?!)
 あまりの異様さに、由良は立ち尽くす。
 やがてパレードは由良に気づいたのか、紫色の象の口からアナウンスを発した。女性の声で、かなり音割れが酷かった。
「こちらは〈心の落とし物〉回収パレードです。ご不要になられた後悔、未練、想い、宝物、夢などはございませんか? 我々が責任をもって、〈未練溜まり〉へ処理させていただきます。どうぞ、お気軽にお声がけくださいませ」
(不要になった、想い……?)
 アナウンスの言葉に、由良は興味を引かれた。
 内容から察するに、彼らは〈心の落とし物〉に関する何者かなのだろう。
 どのように想いを抜き出すかは分からないが、彼らに紅葉谷への想いを託せば、もう彼のことで思い悩む必要はなくなるかもしれない。想いを告げる前の、ただの店員と客に戻れるのかも。
(……そうなったら、どんなにいいか)
 由良は車には戻らず、パレードが来るのを待った。



 パレードは由良の前まで来ると、その場で停止した。
 紫色の象と取り巻きの仮装集団が頭を回転させ、一斉に由良を振り向く。まるで機械仕掛けの人形のような動きだった。
「こちらは〈心の落とし物〉回収パレードです。不要になった〈心の落とし物〉はございますか?」
 紫色の象がはアナウンスと同じ声で問いかけてくる。
 由良は彼らが信頼に足り得るか確かめようと、いくつか質問した。
「貴方達は何者ですか?」
「我々は〈心の落とし物〉回収パレードです。ご不要になった〈心の落とし物〉を回収し、〈未練溜まり〉へ運ぶのが仕事です」
「本当に〈未練溜まり〉へ捨てに行ってくれるんですか? どんな〈心の落とし物〉でも?」
「もちろんです。我々に回収できない〈心の落とし物〉はございません。どんな落とし物も、この鼻で一瞬で吸い取ってみせますよ」
 紫色の象は得意げに鼻を持ち上げる。試しに、後続のダンプカーを吸い上げ、天井の高さまで掲げてみせた。
 本物の象がそうであるように、あのハリボテの象にも相当の吸引力が備わっているらしい。由良の想いなど、一瞬で吸い取られてしまうだろう。
「〈心の落とし物〉だけではありません、〈探し人〉もです。我々には確かな実績がございます。ご希望ならば、貴方様ごとお連れしましょうか?」
「いや、そこまではちょっと……」
「遠慮なさらずともよろしいですのに」
 紫色の象は首を九十度回転させ、由良に問いかけた。
「それで、いかがしますか? 貴方の〈心の落とし物〉、我々が回収させていただいても構いませんか?」
「……」
 由良は考えた。
 これは紅葉谷への想いを捨てられる、最後のチャンスだろう。
 渡来屋はパレードのことを教えてくれなかった。玉蟲匣に住み着いている以上、知らないはずはない。知っていて黙っていたのだ。
 渡来屋の協力が見込めない今、この機を逃せば、二度とパレードに遭遇できないかもしれない。
「……は、」
 由良は誘いに乗ろうと、口を開いた。
 直後、
「待って、添野さん!」
「ッ!」
 遠くから紅葉谷の声が聞こえた。
 由良はハッと口をつぐみ、振り返る。紅葉谷が息を切らしつつも、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
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