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秋編③『誰ソ彼刻の紫面楚歌(マジックアワー)』
第三話「秋の七草食器」⑶
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「美麗漆器の秋の七草シリーズ? さすがに今日は持って来てないですねぇ」
「絵の形が少し崩れてますけど、女郎花の小鉢ならございますよ」
「え? この萩の焼き物皿が欲しい? 半分欠けてるけど、いいのかい?」
「この棒、お箸だったんですか? 飾りが取れたかんざしの棒かと思って、リメイクするつもりだったんですよ! 穴開ける前で良かった~」
由良はコレさんと手分けし、商店街中の骨董屋や雑貨店を駆け回った。
LAMPで使えそうな品はいくつも見つけたものの、秋の七草シリーズを置いている店はほとんどない。まともに手に入ったのは女郎花の小鉢だけで、焼き物皿と箸は片割れのみだった。
「もう一方がよその店で見つかるかもしれないから、一応キープしておこう。コレさんがいらないなら、私が使うし」
ふと、由良は素通りしかけた湯呑み屋の前で足を止めた。多種多様な湯呑みが、メーカーも国もバラバラに並んでいる。時間に余裕があれば、一日眺めていたかった。
由良が目を留めたのは、全ての秋の七草が描かれた湯呑みだった。白磁で、秋の七草シリーズと同じ絵柄だ。湯呑みの裏には「美麗漆器」の印まであったが、残念ながら秋の七草シリーズに湯呑みは存在しなかった。
それでも、由良はこの湯呑みがすっかり気に入ってしまった。むしろ、一種類の草花しか描かれていない秋の七草シリーズよりも好きかもしれない。
「すみません。ここにあるの、全部もらってもいいですか?」
店の人に聞くと、「構いませんよ」と快く承諾してくれた。
「いい品なのに"秋の七草シリーズじゃないから"って、全然売れないんだよね。君、LAMPの店長さんだろ? お店でも使ってくれると助かるよ」
「ありがとうございます。ぜひ、使わせてくださ」
湯呑みを包んでもらっている間、スーツ姿の集団が店の前を通り過ぎていった。オータムフェスではあまり見かけないタイプだったので、かなり目立っていた。
先頭の、細い紫色のふちの眼鏡をかけた男性が一番偉いらしく、部下との会話から、彼が今の美麗漆器の社長である器楽堂秀麗だと分かった。豪放磊落な気性で知られる先代社長とは違い、神経質そうに眉根を寄せている。
秀麗は部下の話をろくに聞かず、店頭に並んでいる商品を横目で眺めていた。冷やかしか、見るだけで立ち寄ろうとはしない。「オータムフェスでリアクションするな」選手権があったら、ぶっちぎりで優勝しそうな雰囲気だった。
「……え?」
由良は秀麗を見て、固まる。
秀麗の態度も気になったが、それ以上に秀麗の顔に驚かされた。彼はコレさんと顔立ちがよく似ていた。
日の入り後、雨がやんだ。空は光の屈折の具合で、幻想的な薄い紫へと染まる。今年のオータムフェスも、残りわずかだ。
由良がコレさんとの待ち合わせ場所である玉蟲匣へ向かうと、既にコレさんが店の前のベンチに座って待っていた。スーツケースを膝に乗せ、深く項垂れている。消えていないということは、自力では全ての秋の七草シリーズを集めきれなかったらしい。
「コレさん、どうでした?」
「……あぁ、ソエノユラさん。ワタクシはもう、ダメかもしれません」
コレさんは顔面蒼白で、スーツケースを開いた。由良が見つけられなかった藤袴の煮物鉢と萩の焼き物皿の片割れ、それにススキの箸と箸置きが、新たに増えていた。
「藤袴の煮物鉢は見つかったのですが、萩の焼き物皿とススキの箸は片割れしか見つかりませんでした。女郎花の小鉢に至っては、見当もつきません。あと少しだというのに……無念です」
「片割れ……」
由良は自分が集めた萩の焼き物皿の破片を、コレさんが集めた破片の隣に並べてみた。破片の断面は寸分違わず重なり、一枚の皿になった。
コレさんは一枚に戻った皿を見て、「えぇっ!」と目を見張った。
「アナタが焼き物皿の片割れを持っていたんですか?!」
「ついでに、箸の片割れもありますよ」
「なんと! あとは、女郎花の小鉢さえあれば……!」
「それもこちらに。絵の形がちょっと崩れちゃってますけど」
「問題ありません! むしろ、他にはない個性があって素晴らしいです!」
コレさんは念願の秋の七草シリーズが揃い、喜んだ。
「アナタを渡来屋さんに紹介していただけて、本当に良かった。また依頼で困った時は、協力してもらえますか?」
「また、があるんですか?」
「ワタクシの主人は心の底から蒐集物を求めていながら、蒐集家になろうとはしないのです。また近いうちに、別の〈心の落とし物〉を所望されますよ」
コレさんは女郎花の小鉢をスーツケースへ入れ、フタを閉じた。そのまま消えるかと思いきや、無言でベンチに座り続ける。
やがて異変に気づき、「おや?」と首を傾げた。
「おかしいな……〈心の落とし物〉を全て集め終えたのに、主人のもとへ帰れない」
「え?」
「絵の形が少し崩れてますけど、女郎花の小鉢ならございますよ」
「え? この萩の焼き物皿が欲しい? 半分欠けてるけど、いいのかい?」
「この棒、お箸だったんですか? 飾りが取れたかんざしの棒かと思って、リメイクするつもりだったんですよ! 穴開ける前で良かった~」
由良はコレさんと手分けし、商店街中の骨董屋や雑貨店を駆け回った。
LAMPで使えそうな品はいくつも見つけたものの、秋の七草シリーズを置いている店はほとんどない。まともに手に入ったのは女郎花の小鉢だけで、焼き物皿と箸は片割れのみだった。
「もう一方がよその店で見つかるかもしれないから、一応キープしておこう。コレさんがいらないなら、私が使うし」
ふと、由良は素通りしかけた湯呑み屋の前で足を止めた。多種多様な湯呑みが、メーカーも国もバラバラに並んでいる。時間に余裕があれば、一日眺めていたかった。
由良が目を留めたのは、全ての秋の七草が描かれた湯呑みだった。白磁で、秋の七草シリーズと同じ絵柄だ。湯呑みの裏には「美麗漆器」の印まであったが、残念ながら秋の七草シリーズに湯呑みは存在しなかった。
それでも、由良はこの湯呑みがすっかり気に入ってしまった。むしろ、一種類の草花しか描かれていない秋の七草シリーズよりも好きかもしれない。
「すみません。ここにあるの、全部もらってもいいですか?」
店の人に聞くと、「構いませんよ」と快く承諾してくれた。
「いい品なのに"秋の七草シリーズじゃないから"って、全然売れないんだよね。君、LAMPの店長さんだろ? お店でも使ってくれると助かるよ」
「ありがとうございます。ぜひ、使わせてくださ」
湯呑みを包んでもらっている間、スーツ姿の集団が店の前を通り過ぎていった。オータムフェスではあまり見かけないタイプだったので、かなり目立っていた。
先頭の、細い紫色のふちの眼鏡をかけた男性が一番偉いらしく、部下との会話から、彼が今の美麗漆器の社長である器楽堂秀麗だと分かった。豪放磊落な気性で知られる先代社長とは違い、神経質そうに眉根を寄せている。
秀麗は部下の話をろくに聞かず、店頭に並んでいる商品を横目で眺めていた。冷やかしか、見るだけで立ち寄ろうとはしない。「オータムフェスでリアクションするな」選手権があったら、ぶっちぎりで優勝しそうな雰囲気だった。
「……え?」
由良は秀麗を見て、固まる。
秀麗の態度も気になったが、それ以上に秀麗の顔に驚かされた。彼はコレさんと顔立ちがよく似ていた。
日の入り後、雨がやんだ。空は光の屈折の具合で、幻想的な薄い紫へと染まる。今年のオータムフェスも、残りわずかだ。
由良がコレさんとの待ち合わせ場所である玉蟲匣へ向かうと、既にコレさんが店の前のベンチに座って待っていた。スーツケースを膝に乗せ、深く項垂れている。消えていないということは、自力では全ての秋の七草シリーズを集めきれなかったらしい。
「コレさん、どうでした?」
「……あぁ、ソエノユラさん。ワタクシはもう、ダメかもしれません」
コレさんは顔面蒼白で、スーツケースを開いた。由良が見つけられなかった藤袴の煮物鉢と萩の焼き物皿の片割れ、それにススキの箸と箸置きが、新たに増えていた。
「藤袴の煮物鉢は見つかったのですが、萩の焼き物皿とススキの箸は片割れしか見つかりませんでした。女郎花の小鉢に至っては、見当もつきません。あと少しだというのに……無念です」
「片割れ……」
由良は自分が集めた萩の焼き物皿の破片を、コレさんが集めた破片の隣に並べてみた。破片の断面は寸分違わず重なり、一枚の皿になった。
コレさんは一枚に戻った皿を見て、「えぇっ!」と目を見張った。
「アナタが焼き物皿の片割れを持っていたんですか?!」
「ついでに、箸の片割れもありますよ」
「なんと! あとは、女郎花の小鉢さえあれば……!」
「それもこちらに。絵の形がちょっと崩れちゃってますけど」
「問題ありません! むしろ、他にはない個性があって素晴らしいです!」
コレさんは念願の秋の七草シリーズが揃い、喜んだ。
「アナタを渡来屋さんに紹介していただけて、本当に良かった。また依頼で困った時は、協力してもらえますか?」
「また、があるんですか?」
「ワタクシの主人は心の底から蒐集物を求めていながら、蒐集家になろうとはしないのです。また近いうちに、別の〈心の落とし物〉を所望されますよ」
コレさんは女郎花の小鉢をスーツケースへ入れ、フタを閉じた。そのまま消えるかと思いきや、無言でベンチに座り続ける。
やがて異変に気づき、「おや?」と首を傾げた。
「おかしいな……〈心の落とし物〉を全て集め終えたのに、主人のもとへ帰れない」
「え?」
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