心の落とし物

緋色刹那

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夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』

第一話「人魚楼」⑷

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 由良は悩みに悩み抜いた末、和金とコメットと朱文金を混泳で飼うことにした。
 三種とも水流に強く、丈夫で、食べる餌の系統も似ている。その扱いやすさもさることながら、「いろんな種類の金魚がいた方が、お客様に楽しんでもらえるだろう」と考え、飼うと決めた。
「分からないことがあれば、いつでも相談しに来なさい。まぁ、今日みたく、店を空けている日もあるかもしれんが。他の従業員さんにもそう伝えておいてくれ」
「お気遣いありがとうございます。ぜひ、そうさせていただきます」
 購入した金魚は後日、LAMPへ配送してもらった。
 用意していた水槽へ移し、しばし見入る。金魚達も由良にチラチラと視線を送りつつ、悠々と新居を泳いでいた。
 中でもコメットは朱と白のまだらな色の体と、レースのように白く透き通ったひれが美しく、自然と目を引いた。先が二又に分かれた長い尾は人魚の尾びれのようで、体の配色も相まって、由良が人魚楼で最初に目があった人魚とよく似ていた。
「今日からよろしくね、人魚さん」
 由良が声をかけると、コメットもパクパクと口を動かした。



 金魚をお客さんに公開すると、たちまち水槽の近くにある席は人気になった。遠くの席からでも金魚が見られるよう、モニターでリアルタイムに配信した。
 金魚をモチーフにしたメニューも人気で、若い女性や子供連れがこぞって頼んだ。特に金魚の形をしたたい焼き「金魚焼き」は人気で、LAMPにいる三種の金魚を模して生地に色をつけ、冷やして提供していた。冷たいので、夏でも美味しく食べられた。
「金魚焼き、可愛いですね。本物を眺めながら食べるのは罪悪感ありますけど」
 カウンター席に座った客が言う。
 罪悪感があると言いながらも、金魚がいる水槽から決して目を離そうとはしなかった。
「店員さん、飼うからにはちゃんとお世話してあげてくださいね。私も昔、夏祭りの屋台でもらった金魚を飼っていたんですけど、親に世話を任せっきりにして、後々すっごく後悔したんです。金魚との思い出が全くないばかりか、名前すらつけていなかったから。金魚が死んで、お墓を作るってなった時、初めてそのことに気がつきました。もっと大事にしてあげれば良かったです」
 悔やむ客に、由良は助言した。
「安心してください。ちゃんと責任持ってお世話しますから。お客様も飼ってみられてはいかがですか? 後悔なさっている今なら、きちんとお世話できると思いますよ。洋燈商店街にある金魚楼という専門店なら、親身になって教えて下さるはずです」
 ただ、と由良はチラッと水槽に目を向けた。
 目線の先では金魚と同じ配色をした人魚達が水槽のフチに腰掛け、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた。客席の上を泳いだり、空いている席に勝手に腰掛けている者もいる。
 人魚達は由良が見ていることに気づくと、優雅に手を振った。さすがの由良も苦笑いするしかなかった。
「……たまに、買った金魚が人魚に変わりますが」
「人魚?」



(夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』第二話へ続く)
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