169 / 314
夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』
第一話「人魚楼」⑷
しおりを挟む
由良は悩みに悩み抜いた末、和金とコメットと朱文金を混泳で飼うことにした。
三種とも水流に強く、丈夫で、食べる餌の系統も似ている。その扱いやすさもさることながら、「いろんな種類の金魚がいた方が、お客様に楽しんでもらえるだろう」と考え、飼うと決めた。
「分からないことがあれば、いつでも相談しに来なさい。まぁ、今日みたく、店を空けている日もあるかもしれんが。他の従業員さんにもそう伝えておいてくれ」
「お気遣いありがとうございます。ぜひ、そうさせていただきます」
購入した金魚は後日、LAMPへ配送してもらった。
用意していた水槽へ移し、しばし見入る。金魚達も由良にチラチラと視線を送りつつ、悠々と新居を泳いでいた。
中でもコメットは朱と白のまだらな色の体と、レースのように白く透き通ったひれが美しく、自然と目を引いた。先が二又に分かれた長い尾は人魚の尾びれのようで、体の配色も相まって、由良が人魚楼で最初に目があった人魚とよく似ていた。
「今日からよろしくね、人魚さん」
由良が声をかけると、コメットもパクパクと口を動かした。
金魚をお客さんに公開すると、たちまち水槽の近くにある席は人気になった。遠くの席からでも金魚が見られるよう、モニターでリアルタイムに配信した。
金魚をモチーフにしたメニューも人気で、若い女性や子供連れがこぞって頼んだ。特に金魚の形をしたたい焼き「金魚焼き」は人気で、LAMPにいる三種の金魚を模して生地に色をつけ、冷やして提供していた。冷たいので、夏でも美味しく食べられた。
「金魚焼き、可愛いですね。本物を眺めながら食べるのは罪悪感ありますけど」
カウンター席に座った客が言う。
罪悪感があると言いながらも、金魚がいる水槽から決して目を離そうとはしなかった。
「店員さん、飼うからにはちゃんとお世話してあげてくださいね。私も昔、夏祭りの屋台でもらった金魚を飼っていたんですけど、親に世話を任せっきりにして、後々すっごく後悔したんです。金魚との思い出が全くないばかりか、名前すらつけていなかったから。金魚が死んで、お墓を作るってなった時、初めてそのことに気がつきました。もっと大事にしてあげれば良かったです」
悔やむ客に、由良は助言した。
「安心してください。ちゃんと責任持ってお世話しますから。お客様も飼ってみられてはいかがですか? 後悔なさっている今なら、きちんとお世話できると思いますよ。洋燈商店街にある金魚楼という専門店なら、親身になって教えて下さるはずです」
ただ、と由良はチラッと水槽に目を向けた。
目線の先では金魚と同じ配色をした人魚達が水槽のフチに腰掛け、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた。客席の上を泳いだり、空いている席に勝手に腰掛けている者もいる。
人魚達は由良が見ていることに気づくと、優雅に手を振った。さすがの由良も苦笑いするしかなかった。
「……たまに、買った金魚が人魚に変わりますが」
「人魚?」
(夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』第二話へ続く)
三種とも水流に強く、丈夫で、食べる餌の系統も似ている。その扱いやすさもさることながら、「いろんな種類の金魚がいた方が、お客様に楽しんでもらえるだろう」と考え、飼うと決めた。
「分からないことがあれば、いつでも相談しに来なさい。まぁ、今日みたく、店を空けている日もあるかもしれんが。他の従業員さんにもそう伝えておいてくれ」
「お気遣いありがとうございます。ぜひ、そうさせていただきます」
購入した金魚は後日、LAMPへ配送してもらった。
用意していた水槽へ移し、しばし見入る。金魚達も由良にチラチラと視線を送りつつ、悠々と新居を泳いでいた。
中でもコメットは朱と白のまだらな色の体と、レースのように白く透き通ったひれが美しく、自然と目を引いた。先が二又に分かれた長い尾は人魚の尾びれのようで、体の配色も相まって、由良が人魚楼で最初に目があった人魚とよく似ていた。
「今日からよろしくね、人魚さん」
由良が声をかけると、コメットもパクパクと口を動かした。
金魚をお客さんに公開すると、たちまち水槽の近くにある席は人気になった。遠くの席からでも金魚が見られるよう、モニターでリアルタイムに配信した。
金魚をモチーフにしたメニューも人気で、若い女性や子供連れがこぞって頼んだ。特に金魚の形をしたたい焼き「金魚焼き」は人気で、LAMPにいる三種の金魚を模して生地に色をつけ、冷やして提供していた。冷たいので、夏でも美味しく食べられた。
「金魚焼き、可愛いですね。本物を眺めながら食べるのは罪悪感ありますけど」
カウンター席に座った客が言う。
罪悪感があると言いながらも、金魚がいる水槽から決して目を離そうとはしなかった。
「店員さん、飼うからにはちゃんとお世話してあげてくださいね。私も昔、夏祭りの屋台でもらった金魚を飼っていたんですけど、親に世話を任せっきりにして、後々すっごく後悔したんです。金魚との思い出が全くないばかりか、名前すらつけていなかったから。金魚が死んで、お墓を作るってなった時、初めてそのことに気がつきました。もっと大事にしてあげれば良かったです」
悔やむ客に、由良は助言した。
「安心してください。ちゃんと責任持ってお世話しますから。お客様も飼ってみられてはいかがですか? 後悔なさっている今なら、きちんとお世話できると思いますよ。洋燈商店街にある金魚楼という専門店なら、親身になって教えて下さるはずです」
ただ、と由良はチラッと水槽に目を向けた。
目線の先では金魚と同じ配色をした人魚達が水槽のフチに腰掛け、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた。客席の上を泳いだり、空いている席に勝手に腰掛けている者もいる。
人魚達は由良が見ていることに気づくと、優雅に手を振った。さすがの由良も苦笑いするしかなかった。
「……たまに、買った金魚が人魚に変わりますが」
「人魚?」
(夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』第二話へ続く)
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる