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春編③『緑涼やか、若竹の囁き』
第二話「憧れのツリーハウス」⑴
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ゴールデンウィークのLAMPは連日、客で混み合っていた。
家族連れ、学生、観光客などなど、見知った顔から見知らぬ顔まで、ひっきりなしにやって来る。皆、これから過ごす休暇への期待に輝いていた。
混雑は昼を過ぎてもしばらく続き、ようやくひと息つける頃には、第二のピークであるティータイムが近づきつつあった。
「見て、五つ葉のクローバーよ。この前、公園で見つけたの」
「私は六つ葉。四葉は見つけられなかったけど、こっちの方がレアだと思わない? お願い、叶えてくれそうでしょ?」
混雑を避けるように訪れた双子の少女は、ラミネート加工された五つ葉と六つ葉のクローバーを手にはしゃぐ。
ラミネートにはクローバーの他に、桜の花びらやタンポポ、オオイヌノフグリといった花々も綴じられており、まるで春の洋燈公園を表しているかのようだった。
「お店の人は忙しいんだから、話しかけちゃダメよ」
「ロールキャベツがまだ残っているじゃないか。早く食べなさい」
今日は双子の両親も一緒で、おしゃべりばかりしている二人をたしなめていた。なんでも、この後一家で映画を観に行くらしい。
由良はランチタイムの疲れが癒えず、げっそりとしながらも「構いませんよ」と微笑みかけた。笑顔が引きつっていないか心配だったが、誰も気づいていなかった。
「お願い、叶うといいですね」
「うん!」
二人は揃って頷いた。
一家は遅めの昼食を終えると、LAMPを去っていった。双子を間に挟み、四人仲良く手を繋ぐ光景は微笑ましかった。
入れ替わりに、小学生くらいの少年がLAMPに来た。少年は店を出て行く彼らを一瞥し、チッと舌打ちする。見かけない子供だった。
(あの子、態度悪いな。妙にイライラしてるみたいだけど……何かあったのかしら)
少年はカウンター席に座るなり、「メロンクリームソーダ」とぶっきらぼうに注文した。斜めがけのウェストポーチから携帯ゲーム機を取り出し、待ち時間を潰す。
由良がメロンクリームソーダを作り、カウンターに運んできても、少年はしかめっ面のままだった。メロンクリームソーダ特有のノスタルジックかつ、可愛らしい見た目を堪能することなく、ストローでバニラアイスを貫き、ジュースに混ぜる。緑色だったメロンソーダはバニラアイスが混ざったことで、鮮やかな黄緑色へと変わった。
少年はバニラアイスを混ぜたメロンクリームソーダを一気に半分ほど飲むと、再びゲームに戻った。飲み物に興味がいかないほど「ゲームが面白い」というわけではないようで、つまらなさそうにゲーム機のボタンをh連打していた。
(……あんな不満そうにメロンクリームソーダ飲む子、初めてみたかも。頼む人はだいたい、笑顔になるのに)
メロンクリームソーダには魔法がかかっている、と由良は信じていた。
サクランボの赤、バニラアイスの白、メロンソーダの緑という鮮やかなトリコロールが見る者を惹きつけ、サクランボの酸味とバニラアイスの甘味、ほのかにメロンが香る炭酸の爽快感が、飲む者の舌を惹きつける。一度ハマってしまえば、二度とその呪縛からは逃れられない。かく言う由良も、街で「メロンクリームソーダ」の文字を見つけると、つい足を止めてしまう性分だった。
「メロンクリームソーダ、美味しくなかったですか?」
由良は少年の態度がどうにも気になり、声をかけた。
親も友人もおらず、一人きり。もしかしたら家出してきたのかもしれない。
そんな由良の心配をよそに、少年はゲーム機の画面から目を離すことなく、言った。
「うっせぇブス。話しかけんな」
「元気にやさぐれてるなぁ」
少年のトゲのある言い草に、由良は「日向子だったら、今頃ブチ切れてそう」としみじみ思った。
家族連れ、学生、観光客などなど、見知った顔から見知らぬ顔まで、ひっきりなしにやって来る。皆、これから過ごす休暇への期待に輝いていた。
混雑は昼を過ぎてもしばらく続き、ようやくひと息つける頃には、第二のピークであるティータイムが近づきつつあった。
「見て、五つ葉のクローバーよ。この前、公園で見つけたの」
「私は六つ葉。四葉は見つけられなかったけど、こっちの方がレアだと思わない? お願い、叶えてくれそうでしょ?」
混雑を避けるように訪れた双子の少女は、ラミネート加工された五つ葉と六つ葉のクローバーを手にはしゃぐ。
ラミネートにはクローバーの他に、桜の花びらやタンポポ、オオイヌノフグリといった花々も綴じられており、まるで春の洋燈公園を表しているかのようだった。
「お店の人は忙しいんだから、話しかけちゃダメよ」
「ロールキャベツがまだ残っているじゃないか。早く食べなさい」
今日は双子の両親も一緒で、おしゃべりばかりしている二人をたしなめていた。なんでも、この後一家で映画を観に行くらしい。
由良はランチタイムの疲れが癒えず、げっそりとしながらも「構いませんよ」と微笑みかけた。笑顔が引きつっていないか心配だったが、誰も気づいていなかった。
「お願い、叶うといいですね」
「うん!」
二人は揃って頷いた。
一家は遅めの昼食を終えると、LAMPを去っていった。双子を間に挟み、四人仲良く手を繋ぐ光景は微笑ましかった。
入れ替わりに、小学生くらいの少年がLAMPに来た。少年は店を出て行く彼らを一瞥し、チッと舌打ちする。見かけない子供だった。
(あの子、態度悪いな。妙にイライラしてるみたいだけど……何かあったのかしら)
少年はカウンター席に座るなり、「メロンクリームソーダ」とぶっきらぼうに注文した。斜めがけのウェストポーチから携帯ゲーム機を取り出し、待ち時間を潰す。
由良がメロンクリームソーダを作り、カウンターに運んできても、少年はしかめっ面のままだった。メロンクリームソーダ特有のノスタルジックかつ、可愛らしい見た目を堪能することなく、ストローでバニラアイスを貫き、ジュースに混ぜる。緑色だったメロンソーダはバニラアイスが混ざったことで、鮮やかな黄緑色へと変わった。
少年はバニラアイスを混ぜたメロンクリームソーダを一気に半分ほど飲むと、再びゲームに戻った。飲み物に興味がいかないほど「ゲームが面白い」というわけではないようで、つまらなさそうにゲーム機のボタンをh連打していた。
(……あんな不満そうにメロンクリームソーダ飲む子、初めてみたかも。頼む人はだいたい、笑顔になるのに)
メロンクリームソーダには魔法がかかっている、と由良は信じていた。
サクランボの赤、バニラアイスの白、メロンソーダの緑という鮮やかなトリコロールが見る者を惹きつけ、サクランボの酸味とバニラアイスの甘味、ほのかにメロンが香る炭酸の爽快感が、飲む者の舌を惹きつける。一度ハマってしまえば、二度とその呪縛からは逃れられない。かく言う由良も、街で「メロンクリームソーダ」の文字を見つけると、つい足を止めてしまう性分だった。
「メロンクリームソーダ、美味しくなかったですか?」
由良は少年の態度がどうにも気になり、声をかけた。
親も友人もおらず、一人きり。もしかしたら家出してきたのかもしれない。
そんな由良の心配をよそに、少年はゲーム機の画面から目を離すことなく、言った。
「うっせぇブス。話しかけんな」
「元気にやさぐれてるなぁ」
少年のトゲのある言い草に、由良は「日向子だったら、今頃ブチ切れてそう」としみじみ思った。
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