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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第五話「鍋パのシメ」⑵
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結局、残った汁を半分ずつ使い、雑炊とラーメンの二種類を作った。
雑炊は先程鍋で使った南天柄の鍋、ラーメンはこれまたオータムフェスで見つけたりんご柄の鍋を使った。真っ赤でまん丸なりんごが鍋の側面をころころ転がっているデザインで、フタにはうさぎにカットされたりんごが描かれていた。うさぎ被りはたまたまである。
「この雑炊、チーズがかかってるからリゾットみたいで美味しいです! 追いチーズしてもいいですか?!」
「トマト鍋にラーメンが合うとは思えませんでしたけど、ピリ辛だから意外と合いますね! オシャレなラーメンって感じ! 私も追いチーズしたいです!」
「チーズがどんどん減るなぁ」
あれだけどちらを作るか揉めていた真冬と中林は雑炊もラーメンも気に入り、交互に食べている。どちらもチーズが合うため、買い溜めていた業務用のチーズがみるみるうちに減っていった。
二人が競い合うようにシメを食べ漁る中、 珠緒は久しぶりの雑炊をゆっくり味わっていた。
「私、こうして日本で鍋食べたの久しぶりかも。ふるさとの味って感じ。隠し味にダシとか日本の調味料とかが入ってるからかな? 洋風だけど、なんか落ち着く」
「私も。こうして大勢で鍋食べたの久しぶりかも」
由良も隣でラーメンをすすりながら言った。
「前はいつ食べられたんですか?」
紅葉谷がラーメンにチーズをかけながら尋ねる。
由良は当時のことを思い出し、寂しげに目を伏せた。
「実家に帰った時です。たしか、水炊きだったかな? シメはうどんの予定だったんですけど、色々あって食べ損なっちゃいました」
「訳を聞いても?」
「構いませんよ。もう過ぎたことですから」
幸い、他の者達は鍋に夢中で聞いていない。日向子と珠緒は既に知っているので、聞く必要がないのだろう。
由良は努めて明るく、打ち明けた。
「シメが出来上がるのを待つ間に、親に喫茶店を開くって話したんです。そうしたら案の定、猛反対されまして。私も両親が祖父の喫茶店を勝手に売ったことがずっと引っかかっていたので、つい言い返してしまって……シメのうどんが出来上がる頃には『もう縁を切る!』って飛び出していましたね。その時以来です、大勢で鍋食べたの」
「うぉふ……思ってたよりヘビーですね。すみません、興味本位で聞いてしまって」
「いいんです、もう帰ることはありませんから。向こうも迷惑でしょう」
由良は投げやりに言った。実際この数年間、実家からは何の音沙汰もない。引っ越したので、年賀状も来ない。
親との繋がりが絶たれて、寂しいとは思わなかった。子供の頃から仕事で忙しく、一年のほとんどを祖父に預けられていたのだ……由良にとっては、祖父こそが親のような存在だった。
(……まぁ、悔いが無いと言えば嘘になるけど。私がもっと上手く伝えられていたら、縁を切るまでにはいかなかったんじゃないかって。今さらどうしようもないけど)
(そっかぁ。由良さん、それでずっと寂しそうだったんだ)
真冬はラーメンをざぶざぶすすりながら、由良の話をこっそり聞いていた。
鍋パを企画した身として、参加者全員に鍋を思う存分楽しんでもらいたい。それが真冬の願いだった。
(きっとご両親も由良さんとケンカしたこと、後悔してるだろうなぁ。だって、たったの一人の娘だもん。私達と鍋を囲んだように、いつかまたご両親とも鍋を囲えたらいいのに。その時は紅葉谷さんも一緒だったら幸せだろうなぁ……うふふ)
真冬は由良と由良の両親と紅葉谷の四人がコタツに入って鍋を囲む様子を妄想し、ひとりニマニマと笑っていた。
「真冬ちゃん、すっごく笑顔だね。そんなにラーメン美味しい?」
「はい! いくらでも食べられます! あ、まだご飯ありますか? 余った汁に入れたいんですけど!」
「この子、よく食べるわねぇ」
雑炊は先程鍋で使った南天柄の鍋、ラーメンはこれまたオータムフェスで見つけたりんご柄の鍋を使った。真っ赤でまん丸なりんごが鍋の側面をころころ転がっているデザインで、フタにはうさぎにカットされたりんごが描かれていた。うさぎ被りはたまたまである。
「この雑炊、チーズがかかってるからリゾットみたいで美味しいです! 追いチーズしてもいいですか?!」
「トマト鍋にラーメンが合うとは思えませんでしたけど、ピリ辛だから意外と合いますね! オシャレなラーメンって感じ! 私も追いチーズしたいです!」
「チーズがどんどん減るなぁ」
あれだけどちらを作るか揉めていた真冬と中林は雑炊もラーメンも気に入り、交互に食べている。どちらもチーズが合うため、買い溜めていた業務用のチーズがみるみるうちに減っていった。
二人が競い合うようにシメを食べ漁る中、 珠緒は久しぶりの雑炊をゆっくり味わっていた。
「私、こうして日本で鍋食べたの久しぶりかも。ふるさとの味って感じ。隠し味にダシとか日本の調味料とかが入ってるからかな? 洋風だけど、なんか落ち着く」
「私も。こうして大勢で鍋食べたの久しぶりかも」
由良も隣でラーメンをすすりながら言った。
「前はいつ食べられたんですか?」
紅葉谷がラーメンにチーズをかけながら尋ねる。
由良は当時のことを思い出し、寂しげに目を伏せた。
「実家に帰った時です。たしか、水炊きだったかな? シメはうどんの予定だったんですけど、色々あって食べ損なっちゃいました」
「訳を聞いても?」
「構いませんよ。もう過ぎたことですから」
幸い、他の者達は鍋に夢中で聞いていない。日向子と珠緒は既に知っているので、聞く必要がないのだろう。
由良は努めて明るく、打ち明けた。
「シメが出来上がるのを待つ間に、親に喫茶店を開くって話したんです。そうしたら案の定、猛反対されまして。私も両親が祖父の喫茶店を勝手に売ったことがずっと引っかかっていたので、つい言い返してしまって……シメのうどんが出来上がる頃には『もう縁を切る!』って飛び出していましたね。その時以来です、大勢で鍋食べたの」
「うぉふ……思ってたよりヘビーですね。すみません、興味本位で聞いてしまって」
「いいんです、もう帰ることはありませんから。向こうも迷惑でしょう」
由良は投げやりに言った。実際この数年間、実家からは何の音沙汰もない。引っ越したので、年賀状も来ない。
親との繋がりが絶たれて、寂しいとは思わなかった。子供の頃から仕事で忙しく、一年のほとんどを祖父に預けられていたのだ……由良にとっては、祖父こそが親のような存在だった。
(……まぁ、悔いが無いと言えば嘘になるけど。私がもっと上手く伝えられていたら、縁を切るまでにはいかなかったんじゃないかって。今さらどうしようもないけど)
(そっかぁ。由良さん、それでずっと寂しそうだったんだ)
真冬はラーメンをざぶざぶすすりながら、由良の話をこっそり聞いていた。
鍋パを企画した身として、参加者全員に鍋を思う存分楽しんでもらいたい。それが真冬の願いだった。
(きっとご両親も由良さんとケンカしたこと、後悔してるだろうなぁ。だって、たったの一人の娘だもん。私達と鍋を囲んだように、いつかまたご両親とも鍋を囲えたらいいのに。その時は紅葉谷さんも一緒だったら幸せだろうなぁ……うふふ)
真冬は由良と由良の両親と紅葉谷の四人がコタツに入って鍋を囲む様子を妄想し、ひとりニマニマと笑っていた。
「真冬ちゃん、すっごく笑顔だね。そんなにラーメン美味しい?」
「はい! いくらでも食べられます! あ、まだご飯ありますか? 余った汁に入れたいんですけど!」
「この子、よく食べるわねぇ」
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