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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第三話「年に一度のタヨリ」⑷
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翌年の冬、由良が年賀状を出しに行くと、ポストの前に先客がいた。
スーツを着た男性で、年賀状を一枚ポストへ投函するところだった。軽く散らついている雪が、男性の肩に白く積もっては溶けて消える。その光景を目にした瞬間、由良は彼が昨年〈探し人〉だと勘違いした男性だと気づいた。
(ビックリしたー。去年と全然、表情が違うんだもの)
男性は去年とは違い、晴れやかな顔で年賀状を投函していた。投函することに、一切迷いがない。
その変化なおさら、由良を困惑させた。
(……すっごい笑顔。でもあの人、今年からは年賀状は送らないって言ってなかったっけ?)
去り際、男性と目が合った。
男性も由良を覚えていたようで「去年はどうも」と礼儀正しく会釈してきた。由良も「お久しぶりです」と会釈を返した。
「年賀状、今年も送ることにしたんですね」
「えぇ、彼と決めたんです」
「彼って……年賀状のお相手の?」
男性は「そうです」と嬉しそうに頷いた。
「あの後、貴方に助言された通り"来年からは年賀状を送らない"と書き加えました。今まで続いた彼との縁も、いよいよこれまでかと自覚した瞬間、思い出したんです。彼も私も、同じ漫画が好きだったことを」
「漫画、ですか?」
「それだけではありません! 子供の頃はサッカーを習っていたこと、さほど上手くはなかったので、いつも補欠だったこと。小学校の頃は生き物係だったこと、当時同じテレビゲームにハマっていたこと、夢中になり過ぎて、親にゲーム機を捨てられそうになったこと。中学に上がったらモテると思っていたら、そんなことはなかったこと、英語が苦手で、しょっちゅう補習を受けていたこと、炭酸よりもお茶が好き、身長体重ほぼ一緒、彼も私も三人兄弟の次男!」
「共通点だらけじゃないですか。縁もゆかりもなかったのでは?」
「そのはずだったんですけどね」
男性はハハハと笑う。
あまりのタイミングの良さに、由良はおもわず「これは〈探し人〉のしわざなのでは?」と考えてしまった。
男性は毎年、年賀状に書くメッセージに困っていた。もしかすると「彼のことをもっと知っておけば良かった」と強く後悔し、知らず知らずのうちに〈探し人〉を生み出していたのかもしれない。
その〈探し人〉が同級生の情報を持ち帰ったことで、それまで忘れていた共通点を突然思い出した……そう考えればつじつまは合った。
(まぁ、今さら考えてもしょうがないけど。〈探し人〉を生み出していたかなんて調べようがないし、何よりこの人の悩みは解決したんだから)
「そういうわけでメッセージと一緒に、私の連絡先と思い出した漫画について書きました。これで何の音沙汰もなかったら、本当にお別れだなと覚悟しておりましたが、意外にも彼も漫画のことを覚えていたそうで、『懐かしいな』と連絡が来ました。彼も私と同じように年賀状を送るのをやめようか悩みながらも、罪悪感からやめられなかったそうです。その後も頻繁に連絡を取り合うようになりました。今では長年の親友のように仲が良いんですよ」
「では、わざわざ年賀状を送る必要はないのでは?」
「それもそうなんですけどね」
男性は照れ臭そうに笑って言った。
「頻繁に連絡を取り合うものですから、誕生日や節目のメッセージに特別感がなくなってしまって。なので、新年の挨拶は年賀状でしようと決めたんです」
「……やめられませんでしたね、年賀状」
「えぇ。やめるつもりが、やめられなくなってしまいました」
人とのやり取りを完全に電子化することはできない。
誰かが郷愁を求める限り、ポストは街角に立ち続ける。
由良が年賀状を投函し、LAMPへ戻ると
「由良さーん!」
と店にいた中林と真冬が駆け寄ってきた。
「今年も年賀状書きたいので、LAMP年賀状ください!」
「私も! 私も欲しいです!」
「……そんなに需要があるなら商品化しようかしら?」
意外と売れた。
『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』第三話「年に一度のタヨリ」終わり
スーツを着た男性で、年賀状を一枚ポストへ投函するところだった。軽く散らついている雪が、男性の肩に白く積もっては溶けて消える。その光景を目にした瞬間、由良は彼が昨年〈探し人〉だと勘違いした男性だと気づいた。
(ビックリしたー。去年と全然、表情が違うんだもの)
男性は去年とは違い、晴れやかな顔で年賀状を投函していた。投函することに、一切迷いがない。
その変化なおさら、由良を困惑させた。
(……すっごい笑顔。でもあの人、今年からは年賀状は送らないって言ってなかったっけ?)
去り際、男性と目が合った。
男性も由良を覚えていたようで「去年はどうも」と礼儀正しく会釈してきた。由良も「お久しぶりです」と会釈を返した。
「年賀状、今年も送ることにしたんですね」
「えぇ、彼と決めたんです」
「彼って……年賀状のお相手の?」
男性は「そうです」と嬉しそうに頷いた。
「あの後、貴方に助言された通り"来年からは年賀状を送らない"と書き加えました。今まで続いた彼との縁も、いよいよこれまでかと自覚した瞬間、思い出したんです。彼も私も、同じ漫画が好きだったことを」
「漫画、ですか?」
「それだけではありません! 子供の頃はサッカーを習っていたこと、さほど上手くはなかったので、いつも補欠だったこと。小学校の頃は生き物係だったこと、当時同じテレビゲームにハマっていたこと、夢中になり過ぎて、親にゲーム機を捨てられそうになったこと。中学に上がったらモテると思っていたら、そんなことはなかったこと、英語が苦手で、しょっちゅう補習を受けていたこと、炭酸よりもお茶が好き、身長体重ほぼ一緒、彼も私も三人兄弟の次男!」
「共通点だらけじゃないですか。縁もゆかりもなかったのでは?」
「そのはずだったんですけどね」
男性はハハハと笑う。
あまりのタイミングの良さに、由良はおもわず「これは〈探し人〉のしわざなのでは?」と考えてしまった。
男性は毎年、年賀状に書くメッセージに困っていた。もしかすると「彼のことをもっと知っておけば良かった」と強く後悔し、知らず知らずのうちに〈探し人〉を生み出していたのかもしれない。
その〈探し人〉が同級生の情報を持ち帰ったことで、それまで忘れていた共通点を突然思い出した……そう考えればつじつまは合った。
(まぁ、今さら考えてもしょうがないけど。〈探し人〉を生み出していたかなんて調べようがないし、何よりこの人の悩みは解決したんだから)
「そういうわけでメッセージと一緒に、私の連絡先と思い出した漫画について書きました。これで何の音沙汰もなかったら、本当にお別れだなと覚悟しておりましたが、意外にも彼も漫画のことを覚えていたそうで、『懐かしいな』と連絡が来ました。彼も私と同じように年賀状を送るのをやめようか悩みながらも、罪悪感からやめられなかったそうです。その後も頻繁に連絡を取り合うようになりました。今では長年の親友のように仲が良いんですよ」
「では、わざわざ年賀状を送る必要はないのでは?」
「それもそうなんですけどね」
男性は照れ臭そうに笑って言った。
「頻繁に連絡を取り合うものですから、誕生日や節目のメッセージに特別感がなくなってしまって。なので、新年の挨拶は年賀状でしようと決めたんです」
「……やめられませんでしたね、年賀状」
「えぇ。やめるつもりが、やめられなくなってしまいました」
人とのやり取りを完全に電子化することはできない。
誰かが郷愁を求める限り、ポストは街角に立ち続ける。
由良が年賀状を投函し、LAMPへ戻ると
「由良さーん!」
と店にいた中林と真冬が駆け寄ってきた。
「今年も年賀状書きたいので、LAMP年賀状ください!」
「私も! 私も欲しいです!」
「……そんなに需要があるなら商品化しようかしら?」
意外と売れた。
『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』第三話「年に一度のタヨリ」終わり
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