心の落とし物

緋色刹那

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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』

第三話「年に一度のタヨリ」⑶

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「中学の同級生なんです。特別仲が良かったわけじゃなくて、友達の友達というか……いつもつるんでる仲間のうちの一人だったんですけど。連絡先も知らなかったですし。きっと、向こうも同じように思っていたでしょう」
 男性は年賀状を握りしめ、語り始めた。
 由良は正直、寒いので今すぐにでも帰りたかったが、
(真相を知らずに帰ったら、絶対にモヤモヤするだろうなぁ)
 と思い、我慢することにした。
「初めて彼に年賀状を送ったのは、三年生の時でした。みんな進路がバラバラだったので、記念にと仲間うちで年賀状を送り合ったんです。年賀状のやり取りは高校に進学してからも続きましたが、次第に顔を合わせる機会が減り、今では彼だけになってしまいました」
「特別仲が良くなかったのに、ですか?」
「特別じゃないからこそ、です。親しい友人とは、SNS上でやり取りをするようになったり、ケンカをして仲違いしたりして送らなくなりましたから。普通は逆なんですけどね、不思議ですよね」
 なので、と男性は寂しげに笑った。
「年賀状を送るの、今年からやめようと思っていたんです。わざわざ年賀状を書くこと自体も手間ですが、それ以上に中学を卒業してから一度も顔を合わせていない相手に対して"今年もよろしくお願いします"と書くのに抵抗があって。彼も定型文のみを印刷して送ってくるので、同じように悩んでいるのかもしれません。当然ですね……僕達、縁もゆかりもない間柄ですから。結局、毎年のクセで買っちゃいましたけど」
 男性は困った様子で年賀状を見下ろす。
 出したくはないが、捨てるのももったいない。そんな心の葛藤がうかがえた。
「……そうかもしれませんね」
 由良は同意しつつ、こうも言った。
「ですが、中学校から今まで年賀状のやり取りを続けている時点で、立派なご縁なのではありませんか?」
「そう……でしょうか?」
 男性は自信なさそうに首を傾げる。
「少なくとも私は、毎年来ていた年賀状が急に来なくなったら心配しますよ。何かあったんじゃないか、何か気に障ることをしてしまったんじゃないか、って。来年から出さないなら、素直にそう伝えるべきです。その年賀状を使って」
 由良は男性が持っている年賀状を指差し、提案した。
 男性も「それもそうですね」と頷いた。
「確かに、急にやり取りをやめるのは失礼でした。貴方の言う通り、来年からは出さないと伝えてみます。アドバイス、ありがとうございました」
 男性は丁寧に会釈し、駅の方へ去っていった。最後のメッセージを書き込むため、年賀状は出さずにスーツのポケットへ入れた。
 男性が歩き始めてすぐ、雪が散らつき出した。雪は男性をすり抜けず、肩に白く積もっては溶けて消える。
 それをうしから見ていた由良は、意外そうに目を見張った。
「……あの人、〈探し人〉じゃなかったんだ。やけに語るから、てっきりそうだと思ってたのに」
 今さら分かっても仕方ない。彼が人であろうとなかろうと、由良は声をかけていたはずだ。
 踵を返し、家へ戻る。冷えた体を少しでも温めようと、小走りで玄関を目指した。
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