心の落とし物

緋色刹那

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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』

第二話「液晶に映るハレスガタ」⑷

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 後日、中林は写真館で撮ったという振袖姿の写真を嬉しそうに見せてきた。
 写真の中林は〈探し人〉と同じ、赤とピンクの生地を組み合わせた花柄の振袖を着ていた。恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、その顔はとても晴れやかだった。
「母に"振袖を着て写真を撮りたい"と言ったら、泣いて喜んでくれました。母も成人式に行かなかったこと、ずっと気にしてたみたいです」
「そう。喜んでもらえて良かったわね」
「はい! 今度こそ、吹っ切れました!」

 あれから一年近くが経つ。
 由良はあの時の中林の言葉を信じていないわけではなかったが、本当に大丈夫かどうかは成人式当日になってみないと分からなかった。特にLAMPは店内が新成人だらけになるため、中林がトラウマを抱えたままだとパニックになる恐れもあった。
「少しでも調子悪そうだったら休ませよう」

「ただいまー」
「見て見て! 私の振袖姿!」
「すごい! とても二十歳を超えているようには見えません!」
 LAMPに戻ると、店番をしていた中林が振袖を着た茅田と楽しげにスマホの画像を見ていた。茅田は今日休みなので、客として来たのだろう。
「こらこら。仕事サボって、何見てるの?」
「あ」
「店長、おかえりなさい」
 中林は慌ててスマホをポケットへ仕舞う。
 チラッと見えた画面には、由良の提案で「二十歳以上になった記念」に撮った中林の振袖姿の写真が映っていた。
「もうすぐ成人式なので、中林さんが撮られた振袖の写真を見せてもらっていたんです。赤とピンクの花柄で、とても可愛らしい振袖でしたよ」
「でしょ、でしょ? なんでか分かんないけど、"この振袖がいい"って直感で思ったんだよねー。買い取りたいくらい、お気に入り」
「私も直感で選びました。今日着てきた祖母の振袖でも良かったんですけど、色やデザインが渋過ぎて、私には着こなせませんでした」
 茅田は残念そうに言う。由良はますます、彼女が振袖を着ている理由が分からなくなった。
「その着こなせなかった振袖を、どうして今着ているの? というか茅田さん、今日休みじゃなかったっけ?」
「振袖を着て歩く練習です。成人式で粗相のないよう、慣れておきたくて。草履も、普段はお祭りの時くらいしか履きませんし。レンタル予約した振袖は成人式当日にしか着られないので、代わりに祖母の振袖を使わせて頂きました」
「真面目だなぁ。そんな練習、日向子も珠緒もやってなかったのに」
 由良は茅田を褒めつつ、中林に視線を向ける。
 中林は茅田の振袖姿を見ても、平気そうだった。むしろ、茅田の振袖姿を見られて喜んでさえいた。
「成人式が終わったら、絶対にLAMPに寄ってね! 振袖の写真、お店でも撮ってあげるから!」
「えぇ、必ず!」
 仕事そっちのけで、茅田と成人式談義に花を咲かせる。茅田が参加する成人式に興味津々で、どこの会場でやるのか、何人くらい来るのか、参加者が着ている振袖で一番派手なデザインはどんなものか、徹底的に調べてきて欲しいと頼み込んでいた。
 まるで去年の真冬のような反応に、由良はようやく安堵できた。
(これなら次の成人式は大丈夫そうね。振袖に夢中になって、別の意味で仕事になるか心配だけど)
 のちに由良の心配は的中し、中林は仕事を忘れて新成人の客との話に熱中してしまうのだが、この時はまだ現実になるとは思ってもいなかった。
「茅田さん。まだお昼食べてないなら、まかない食べて行く? ミネストローネのスープパスタなんだけど」
「いいんですか? 私、今日は非番なのに」
「いいの、いいの。余らせちゃってももったいないし。ついでに、ちょっとこげちゃった規格外のパンもつけようか?」
「はいはい! 私も食べたいです!」
「アンタはさっき食べたでしょうが」

『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』第二話「液晶に映るハレスガタ」終わり
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