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秋編②『金貨六枚分のきらめき』
第五話「最後の金貨の行方」⑴
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「金木犀の花茶、金継ぎカップで二点ですね? かしこまりました!」
「金継ぎプレートに合う、おすすめメニューですか? そうですね……食器の金に映える、ススキのモンブランなどはいかがでしょう?」
「申し訳ございません。当店では食器類の販売はお断りさせて頂いております。ご自宅でご利用できる金継ぎキットでしたら、そちらにご用意しておりますので、そちらをぜひお買い求め下さい」
店の食器を金継ぎして以来、LAMP店内では「金継ぎ」というフレーズが頻繁に飛び交うようになった。注文の際、金継ぎした食器を使うか、そうでないものを使うか、客が選べるようにしたのだ。
「一度割れた皿」という欠点を補うための策だったが、物珍しさからか、意外にも金継ぎした食器の方が人気が高かった。伊調が金継ぎした食器に描いた蒔絵も「綺麗」だと好評だ。いずれ金継ぎした食器が足らなくなるのも、時間の問題だった。
「不思議ですね。一度欠けたり割れたりした食器なのに、大人気だなんて」
カウンター席でお茶をしていた伊調は、他の客達の様子を興味深そうに観察する。
「嬉しい限りです。頑張って直した甲斐がありました」
茅田はカウンターでコーヒーを沸かしつつ、頷く。
主な作業をしたのは由良ではあるが、自分が金継ぎを手伝った食器が客の誰かに使ってもらえているのだと思うと、誇らしい気分になった。
「ところで、今日は添野さんと中林さんはいらっしゃらないんですか?」
「すみません、お二人とも午後はお休みなんです。なんでも、大事な探し物があるとか……」
「探し物?」
その頃、由良と中林は玉蟲匣の前に立っていた。店の何処かに隠されているであろう、懐虫電燈の記念硬貨を探しに来たのだ。
「このお店の何処かに、幻の金貨があるんですね! どっから探します? やっぱり地下ですか? 地下室ですか?!」
「シッ、大きな声で喋らないで。誰かに聞かれたらマズいでしょう?」
由良は宝探し気分の中林を落ち着かせる。
二人は珠緒から借りた合鍵を使い、店内へ足を踏み入れる。金貨を探している間に誰も入って来られないよう、内側から鍵をかけておいた。
「何度も言うけど、これは遊びじゃないからね? 中林さんを連れて来たのは、見つけた金貨が〈心の落とし物〉かそうじゃないか見極めてもらうためだからね?」
「ハーイ、ワカッテマース」
「……すごい棒読み。本当に分かってるのかしら?」
由良は中林に疑いの目を向けつつ、階段を上る。地下室にも一階にも、一切目をくれなかった。
「地下室には行かないわ。一階と二階も無視」
「ありゃ? どうしてです?」
「玉堂さんが懐虫電燈を買い取る前、建物の価値を査定するために、店内を隅々まで調べたそうなの。その時、実際に使えるお金は何枚か見つかったらしいんだけど、肝心の記念硬貨は一枚も出て来なかった。珠緒もああ見えて在庫管理はしっかりやってるから、身に覚えのない金貨が出て来たら気づくはず。となれば、金貨の隠し場所はただ一つ」
二階の旧遊戯室も通り過ぎ、階段横にある本棚の前に立つ。
「今まで玉堂さんも珠緒も入ったことがない部屋……すなわち、屋根裏の隠し部屋しかない」
「隠し部屋! なんて素敵な響き! 地下室と同じくらいロマンを感じますね!」
中林は隠し部屋への期待に、目を輝かせた。
「で、何処に隠し部屋があるんですか?」
「この本棚の先。決まった順番に本を並べ変えると開く仕組みになっているそうなんだけど、その順番を知っているのはお祖父ちゃんだけなの」
「え」
途端に、中林は固まる。
「じゃあ、どうやって開けるんです?」
「まぁ見てなさい」
そう言うと、由良は屋根裏部屋にいるであろう人物に対し、大声で呼びかけた。
「いるんでしょう、渡来屋さん! さっさとここを開けなさい! 漆原さんの〈探し人〉を追い払ってあげた件、忘れたとは言わせないわよ!」
由良の声は店中に響き渡り、反響する。
隣にいた中林は思わず、両手で耳を塞いだ。
「誰かいるわけないじゃないですか! 入口の鍵だってかかってたのに!」
中林の主張とは裏腹に、本棚はひとりでに動き出した。横へスライドし、本棚の向こうに隠されていた階段が現れる。本棚はそのまま壁の中へと収納された。
「中林さん、階段見える?」
「あ……はい。それはもうバッチリと」
「なら良かった。足元、気をつけてね」
呆然と階段を見上げる中林を尻目に、由良は慣れた足取りで階段を上っていった。
「て、店長! 待って下さいよー!」
中林もスマホのカメラで階段の写真を撮ったのち、慌てて由良の後を追った。
「金継ぎプレートに合う、おすすめメニューですか? そうですね……食器の金に映える、ススキのモンブランなどはいかがでしょう?」
「申し訳ございません。当店では食器類の販売はお断りさせて頂いております。ご自宅でご利用できる金継ぎキットでしたら、そちらにご用意しておりますので、そちらをぜひお買い求め下さい」
店の食器を金継ぎして以来、LAMP店内では「金継ぎ」というフレーズが頻繁に飛び交うようになった。注文の際、金継ぎした食器を使うか、そうでないものを使うか、客が選べるようにしたのだ。
「一度割れた皿」という欠点を補うための策だったが、物珍しさからか、意外にも金継ぎした食器の方が人気が高かった。伊調が金継ぎした食器に描いた蒔絵も「綺麗」だと好評だ。いずれ金継ぎした食器が足らなくなるのも、時間の問題だった。
「不思議ですね。一度欠けたり割れたりした食器なのに、大人気だなんて」
カウンター席でお茶をしていた伊調は、他の客達の様子を興味深そうに観察する。
「嬉しい限りです。頑張って直した甲斐がありました」
茅田はカウンターでコーヒーを沸かしつつ、頷く。
主な作業をしたのは由良ではあるが、自分が金継ぎを手伝った食器が客の誰かに使ってもらえているのだと思うと、誇らしい気分になった。
「ところで、今日は添野さんと中林さんはいらっしゃらないんですか?」
「すみません、お二人とも午後はお休みなんです。なんでも、大事な探し物があるとか……」
「探し物?」
その頃、由良と中林は玉蟲匣の前に立っていた。店の何処かに隠されているであろう、懐虫電燈の記念硬貨を探しに来たのだ。
「このお店の何処かに、幻の金貨があるんですね! どっから探します? やっぱり地下ですか? 地下室ですか?!」
「シッ、大きな声で喋らないで。誰かに聞かれたらマズいでしょう?」
由良は宝探し気分の中林を落ち着かせる。
二人は珠緒から借りた合鍵を使い、店内へ足を踏み入れる。金貨を探している間に誰も入って来られないよう、内側から鍵をかけておいた。
「何度も言うけど、これは遊びじゃないからね? 中林さんを連れて来たのは、見つけた金貨が〈心の落とし物〉かそうじゃないか見極めてもらうためだからね?」
「ハーイ、ワカッテマース」
「……すごい棒読み。本当に分かってるのかしら?」
由良は中林に疑いの目を向けつつ、階段を上る。地下室にも一階にも、一切目をくれなかった。
「地下室には行かないわ。一階と二階も無視」
「ありゃ? どうしてです?」
「玉堂さんが懐虫電燈を買い取る前、建物の価値を査定するために、店内を隅々まで調べたそうなの。その時、実際に使えるお金は何枚か見つかったらしいんだけど、肝心の記念硬貨は一枚も出て来なかった。珠緒もああ見えて在庫管理はしっかりやってるから、身に覚えのない金貨が出て来たら気づくはず。となれば、金貨の隠し場所はただ一つ」
二階の旧遊戯室も通り過ぎ、階段横にある本棚の前に立つ。
「今まで玉堂さんも珠緒も入ったことがない部屋……すなわち、屋根裏の隠し部屋しかない」
「隠し部屋! なんて素敵な響き! 地下室と同じくらいロマンを感じますね!」
中林は隠し部屋への期待に、目を輝かせた。
「で、何処に隠し部屋があるんですか?」
「この本棚の先。決まった順番に本を並べ変えると開く仕組みになっているそうなんだけど、その順番を知っているのはお祖父ちゃんだけなの」
「え」
途端に、中林は固まる。
「じゃあ、どうやって開けるんです?」
「まぁ見てなさい」
そう言うと、由良は屋根裏部屋にいるであろう人物に対し、大声で呼びかけた。
「いるんでしょう、渡来屋さん! さっさとここを開けなさい! 漆原さんの〈探し人〉を追い払ってあげた件、忘れたとは言わせないわよ!」
由良の声は店中に響き渡り、反響する。
隣にいた中林は思わず、両手で耳を塞いだ。
「誰かいるわけないじゃないですか! 入口の鍵だってかかってたのに!」
中林の主張とは裏腹に、本棚はひとりでに動き出した。横へスライドし、本棚の向こうに隠されていた階段が現れる。本棚はそのまま壁の中へと収納された。
「中林さん、階段見える?」
「あ……はい。それはもうバッチリと」
「なら良かった。足元、気をつけてね」
呆然と階段を見上げる中林を尻目に、由良は慣れた足取りで階段を上っていった。
「て、店長! 待って下さいよー!」
中林もスマホのカメラで階段の写真を撮ったのち、慌てて由良の後を追った。
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