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秋編①『紅葉散り散り、夕暮れ色』
第五話「秋染川のマチビト」⑴
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由良が伊調の後を追おうとしたその時、背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「いやぁ、いいもん見れたなぁ。僕はこの景色がどうしても見たいと思っていたんだ」
「っ?!」
思わず足を止め、振り返る。
そこには、いつのまにか紅葉谷がいた。神社の祠の前であぐらをかき、串に刺さったみたらし団子を美味そうに食べている。
「……いつからいたんですか?」
「ずっとだよ。出店を回りきってから、ずっと」
紅葉谷は先程由良と会ったことも、ずっと探していた目当ての品を見つけたことも、忘れている様子だった。
由良は今の紅葉谷の雰囲気から、彼もまた紅葉谷の〈探し人〉であると気づいた。
「人がいなくなるまで待てば、イチョウのカーペットが見られると思っていたんだ。けれど、それは僕の見当違いだった。ここの住民達は、"お客さんが落ちている葉で滑って、転ばないように"と、イベントがある日は律儀に葉を掃除してくれていたらしい。どうりで毎年オータムフェスに参加しても、あの光景が見られないわけだ。実に滑稽だとは思わないかい?」
「商店街の人に感謝するという気持ちはないのね」
「もちろんしているさ。ただ、黄金色に染まった商店街を、一度くらい見ておきたかったんだよ」
紅葉谷は一方的に捲し立てると、「じゃ、そういうことで」と軽く手を上げ、消えた。
由良は増殖する紅葉谷に呆れ、深く息を吐いた。
「これで三人目……いったい、何人いるのよ?」
商店街に落ちたイチョウは、どんなに風が吹こうが、足で踏まれようが、地面から消えなかった。
伊調は願望通り、イチョウの道をサクサクと踏みしめ、嬉しそうに微笑んだ。
「なんて素敵な日なんでしょう……今日は、なんだかいい絵が描けそうです」
「そうですか、楽しみですね」
由良も伊調の後をついて、歩く。周囲は、何の変哲もない道を楽しそうに歩いている成人女性という絵面に、奇異の目を向けていた。
商店街の出口にまで差し掛かった頃、前方から中林が駆け寄ってきた。
「店長、どこ行ってたんですか?! すっごい探したんですよ?!」
「……中林。あんた、私を探しに店まで戻ってたんじゃないでしょうね?」
由良は危惧していた事態に苦い表情を浮かべる。
中林は「何かおかしなことでも言いましたっけ?」と言わんばかりに、キョトンとした。
「だって店長、商店街中どこを探してもいなかったんですもん。だからLAMPに戻ったのかなーっと思ったら、帰ってないし、オータムフェスに出店されてる百器さんも『知らない』っておっしゃるし」
「……まぁ、いいわ。伊調さんのこと、お願いね。それが済んだら、私が珠緒の店で仕入れた食器類の運搬を頼む。私は行くとこがあるから」
「行くって、どこへ?」
「LAMP。ちょっと野暮用があるの」
由良は中林にことづけると、「じゃ、また」と伊調に別れを言い、LAMPへと走っていった。
「いやぁ、いいもん見れたなぁ。僕はこの景色がどうしても見たいと思っていたんだ」
「っ?!」
思わず足を止め、振り返る。
そこには、いつのまにか紅葉谷がいた。神社の祠の前であぐらをかき、串に刺さったみたらし団子を美味そうに食べている。
「……いつからいたんですか?」
「ずっとだよ。出店を回りきってから、ずっと」
紅葉谷は先程由良と会ったことも、ずっと探していた目当ての品を見つけたことも、忘れている様子だった。
由良は今の紅葉谷の雰囲気から、彼もまた紅葉谷の〈探し人〉であると気づいた。
「人がいなくなるまで待てば、イチョウのカーペットが見られると思っていたんだ。けれど、それは僕の見当違いだった。ここの住民達は、"お客さんが落ちている葉で滑って、転ばないように"と、イベントがある日は律儀に葉を掃除してくれていたらしい。どうりで毎年オータムフェスに参加しても、あの光景が見られないわけだ。実に滑稽だとは思わないかい?」
「商店街の人に感謝するという気持ちはないのね」
「もちろんしているさ。ただ、黄金色に染まった商店街を、一度くらい見ておきたかったんだよ」
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由良は増殖する紅葉谷に呆れ、深く息を吐いた。
「これで三人目……いったい、何人いるのよ?」
商店街に落ちたイチョウは、どんなに風が吹こうが、足で踏まれようが、地面から消えなかった。
伊調は願望通り、イチョウの道をサクサクと踏みしめ、嬉しそうに微笑んだ。
「なんて素敵な日なんでしょう……今日は、なんだかいい絵が描けそうです」
「そうですか、楽しみですね」
由良も伊調の後をついて、歩く。周囲は、何の変哲もない道を楽しそうに歩いている成人女性という絵面に、奇異の目を向けていた。
商店街の出口にまで差し掛かった頃、前方から中林が駆け寄ってきた。
「店長、どこ行ってたんですか?! すっごい探したんですよ?!」
「……中林。あんた、私を探しに店まで戻ってたんじゃないでしょうね?」
由良は危惧していた事態に苦い表情を浮かべる。
中林は「何かおかしなことでも言いましたっけ?」と言わんばかりに、キョトンとした。
「だって店長、商店街中どこを探してもいなかったんですもん。だからLAMPに戻ったのかなーっと思ったら、帰ってないし、オータムフェスに出店されてる百器さんも『知らない』っておっしゃるし」
「……まぁ、いいわ。伊調さんのこと、お願いね。それが済んだら、私が珠緒の店で仕入れた食器類の運搬を頼む。私は行くとこがあるから」
「行くって、どこへ?」
「LAMP。ちょっと野暮用があるの」
由良は中林にことづけると、「じゃ、また」と伊調に別れを言い、LAMPへと走っていった。
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