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夏編①『夏の太陽、檸檬色』
第四話「貴方こそが運命のヒト」⑷
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〈探し人〉食い逃げ事件からしばらく経ち、夏も終わりに近づいてきた。
食い逃げされたショックで落ち込んでいた由良も正気を取り戻し、絶えず訪れる客の対応をテキパキとこなしていた。
「マンゴータピオカフラペチーノ二点とひまわりケーキ二点で、合計二千円になります」
「あのぅ……」
すると、あるカップルが会計の際、実際の額よりも倍近い金額を支払った。ボケているわけではないらしく、申し訳なさそうに札と小銭を差し出してきた。
「これ、前に来たときの支払いです」
「忘れていてごめんなさい」
「はぁ……」
由良は事情が読めず、眉をひそめる。今まで来た客で食い逃げを見逃したことがなかったので、思い当たらなかった。
「……あっ」
しかし改めて二人の姿を見て、気づいた。
彼らは以前、〈探し人〉としてLAMPを訪れていた男女だった。〈探し人〉の時よりも一回りほど老け、黒々していた男性の髪には白髪が混じり、女性は恰幅が良くなっていたせいで、気づかなかった。
〈探し人〉が知り得た情報は、〈探し人〉が消えた後に本人にも伝わる。しかし、はっきりとは覚えていない。夢の記憶か、度忘れしていただけだと思う。
由良もそのことを十分理解しており、自分の体質がバレないよう、慎重に尋ねた。
「失礼ですが、お二人のお名前は?」
「僕は小さい池に恋の次と書いて、小池恋次です」
「私は相手の川に、愛する子と書いて、相川愛子と申します」
二人は〈探し人〉と同じように、丁寧に自分の名前を説明した。外見は違っていても、中身は昔と変わっていなかった。
(……仕方ないな)
由良はため息を吐きたい衝動を抑え、二人に笑顔を向けた。
「お店にいらした時のことは、ハッキリと覚えてらっしゃるのですか?」
「それが……信じてもらえるか分からないのですが、よく覚えていないんです」
二人はLAMPを訪れた時のことを不思議そうに話した。やはり、あの時の〈探し人〉は彼らだった。
「そのあと、彼女と街ですれ違ったんです。ずいぶん姿は変わっていたけど、すぐに彼女だと気づきました」
「私も彼を見た瞬間、あの夢のことを思い出したんです。同時に、このお店のことも思い出して……本当にあるかどうか、確かめに来たんです」
「それなら、お二人は夢の中で会っていらしたんですよ。いわゆる予知夢というものです」
由良は二人が〈探し人〉として出会っていたことは伏せ、言った。
そして、今日二人が注文した分の代金だけを受け取り、残りは返した。
「ですから、こちらは受け取れません。本日お二人が頼まれた分だけで結構です」
「でも……」
二人はなおも不安そうな表情を浮かべる。夢の中での出来事とはいえ、無賃で店を出たのは気が引けるらしい。
すると由良は「では、」とLAMP周辺にある観光名所が載ったパンフレットを二人に手渡した。
「そのお金はこの街で使って下さい。それなら私も街の人も嬉しいですし」
「本当にいいんですか?」
「えぇ。お二人にも楽しんでいただけると思います」
二人は顔を見合わせると、笑顔で頷いた。
「分かりました。そうします」
「色々とご迷惑をかけて、すみませんでした」
「いえいえ。是非またお越し下さい」
二人は由良に軽く会釈すると、LAMPを出て行った。
店の前で一緒にパンフレットを眺め、何処へ行くか楽しそうに話し合う。やがて二人は名所が密集しているエリアに向かって、並んで歩いていった。
由良は二人が去って行った方角を眺め、暫し感傷に浸っていた。
「……仕方ないわよね。いくら〈探し人〉が飲んだからって、本人からお金を取るわけにはいかないもの」
「由良さん! 新しいコーヒー豆って何処に仕舞ってありましたっけ?!」
しかしすぐに中林に呼ばれ、現実へと引き戻された。
由良は「今朝教えたじゃないの!」と文句を言いながらも、彼女に場所を教えるため、カウンターへと戻っていった。
(夏編①『夏の太陽、檸檬色』第五話へ続く)
食い逃げされたショックで落ち込んでいた由良も正気を取り戻し、絶えず訪れる客の対応をテキパキとこなしていた。
「マンゴータピオカフラペチーノ二点とひまわりケーキ二点で、合計二千円になります」
「あのぅ……」
すると、あるカップルが会計の際、実際の額よりも倍近い金額を支払った。ボケているわけではないらしく、申し訳なさそうに札と小銭を差し出してきた。
「これ、前に来たときの支払いです」
「忘れていてごめんなさい」
「はぁ……」
由良は事情が読めず、眉をひそめる。今まで来た客で食い逃げを見逃したことがなかったので、思い当たらなかった。
「……あっ」
しかし改めて二人の姿を見て、気づいた。
彼らは以前、〈探し人〉としてLAMPを訪れていた男女だった。〈探し人〉の時よりも一回りほど老け、黒々していた男性の髪には白髪が混じり、女性は恰幅が良くなっていたせいで、気づかなかった。
〈探し人〉が知り得た情報は、〈探し人〉が消えた後に本人にも伝わる。しかし、はっきりとは覚えていない。夢の記憶か、度忘れしていただけだと思う。
由良もそのことを十分理解しており、自分の体質がバレないよう、慎重に尋ねた。
「失礼ですが、お二人のお名前は?」
「僕は小さい池に恋の次と書いて、小池恋次です」
「私は相手の川に、愛する子と書いて、相川愛子と申します」
二人は〈探し人〉と同じように、丁寧に自分の名前を説明した。外見は違っていても、中身は昔と変わっていなかった。
(……仕方ないな)
由良はため息を吐きたい衝動を抑え、二人に笑顔を向けた。
「お店にいらした時のことは、ハッキリと覚えてらっしゃるのですか?」
「それが……信じてもらえるか分からないのですが、よく覚えていないんです」
二人はLAMPを訪れた時のことを不思議そうに話した。やはり、あの時の〈探し人〉は彼らだった。
「そのあと、彼女と街ですれ違ったんです。ずいぶん姿は変わっていたけど、すぐに彼女だと気づきました」
「私も彼を見た瞬間、あの夢のことを思い出したんです。同時に、このお店のことも思い出して……本当にあるかどうか、確かめに来たんです」
「それなら、お二人は夢の中で会っていらしたんですよ。いわゆる予知夢というものです」
由良は二人が〈探し人〉として出会っていたことは伏せ、言った。
そして、今日二人が注文した分の代金だけを受け取り、残りは返した。
「ですから、こちらは受け取れません。本日お二人が頼まれた分だけで結構です」
「でも……」
二人はなおも不安そうな表情を浮かべる。夢の中での出来事とはいえ、無賃で店を出たのは気が引けるらしい。
すると由良は「では、」とLAMP周辺にある観光名所が載ったパンフレットを二人に手渡した。
「そのお金はこの街で使って下さい。それなら私も街の人も嬉しいですし」
「本当にいいんですか?」
「えぇ。お二人にも楽しんでいただけると思います」
二人は顔を見合わせると、笑顔で頷いた。
「分かりました。そうします」
「色々とご迷惑をかけて、すみませんでした」
「いえいえ。是非またお越し下さい」
二人は由良に軽く会釈すると、LAMPを出て行った。
店の前で一緒にパンフレットを眺め、何処へ行くか楽しそうに話し合う。やがて二人は名所が密集しているエリアに向かって、並んで歩いていった。
由良は二人が去って行った方角を眺め、暫し感傷に浸っていた。
「……仕方ないわよね。いくら〈探し人〉が飲んだからって、本人からお金を取るわけにはいかないもの」
「由良さん! 新しいコーヒー豆って何処に仕舞ってありましたっけ?!」
しかしすぐに中林に呼ばれ、現実へと引き戻された。
由良は「今朝教えたじゃないの!」と文句を言いながらも、彼女に場所を教えるため、カウンターへと戻っていった。
(夏編①『夏の太陽、檸檬色』第五話へ続く)
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