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夏編①『夏の太陽、檸檬色』
第四話「貴方こそが運命のヒト」⑶
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一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、閉店まで残りわずかのところで、外を眺めていた相川が「あっ」と声を上げた。
彼女の視線の先には、ベビーカーを押して歩いている若い夫婦の姿があった。幸せそうに笑顔を浮かべ、ベビーカーに乗せた赤子に声をかけている。
小池も夫婦に気づき「あっ」と目を見開いた。
「思い出した……彼女とはとっくの昔に別れたんだった。就職で上京する時に『ついて来て欲しい』って頼んだけど断られて、そのまま別れたんだ。今は他の人と結婚して、子供が二人いる」
「私も」
相川も夫婦を見つめたまま、頷く。
「彼は留学でこの街を離れて、私は残った。私は彼が帰ってくるまでずっと待つつもりだったけど、『留学先で好きな人が出来たから別れて欲しい』って言われて、別れたの。彼は今も海外で生活していて、この街に帰ってきたことは一度もない。向こうで結婚して、幸せに暮らしてるって風の噂で聞いたわ」
二人は忘れていた現実を思い出し、顔を見合わせた。二人とも今にも泣き出しそうな顔をしていたが、互いの顔を見ると表情を和らげ、吹き出した。
「馬鹿だな、僕達。居もしない恋人をずっと探し続けていたなんて」
「本当。こんな大事なことを忘れていたなんて、びっくり。何のために街中走り回っていたんだか」
二人はひとしきり笑うと、どちらともなく手を重ね、見つめ合った。今の彼らに見ているのは過去の恋人ではなく、未来の恋人だった。
(……中林がいたら、騒がしいんだろうな)
色恋に興味のない由良は淡々と後片付けを進め、二人のほとぼりが冷めるのを待った。
しかし目を離した一瞬に二人の姿は消え、カラになったコップが二つだけが残された。ドアはぴったりと閉まったままで、店内のどこにも彼らの姿はなかった。
「……」
由良は店内を見回し、机の下を覗き込み、通りへ出て二人を探した。それでも二人は見つからず、LAMPの前で呆然と立ち尽くした。
そこでやっと二人が〈探し人〉だと気づいた。思い返せば、夕立が降りしき街の中を傘も差さずに彷徨っていながら、彼らの服は全く濡れていなかった。
由良はフラフラとした足取りで店内へ戻ると、ガックリとカウンターへもたれかかった。仕方のないことだと頭では分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。
「く……食い逃げされた! これもう何回目よ?!」
生き霊であるはずの〈探し人〉は人間と同じように、出された食べ物飲み物はきっちり食べ、飲み、去っていく習性を持っていた。中には金を払う者もいたが、〈探し人〉が消失すると同時に金も消えた。
由良にとっては、人間と「探し人」の区別がつかない以上に、彼らの食い逃げを見過ごしてしまうことが許せなかった。
「……中林、シフト増やしてくれないかな。もしくは、バイト人数増やそうか」
由良は今後の経営方針を思案しながら店の後片付けを済ませ、二階にある自宅へ帰っていった。
彼女の視線の先には、ベビーカーを押して歩いている若い夫婦の姿があった。幸せそうに笑顔を浮かべ、ベビーカーに乗せた赤子に声をかけている。
小池も夫婦に気づき「あっ」と目を見開いた。
「思い出した……彼女とはとっくの昔に別れたんだった。就職で上京する時に『ついて来て欲しい』って頼んだけど断られて、そのまま別れたんだ。今は他の人と結婚して、子供が二人いる」
「私も」
相川も夫婦を見つめたまま、頷く。
「彼は留学でこの街を離れて、私は残った。私は彼が帰ってくるまでずっと待つつもりだったけど、『留学先で好きな人が出来たから別れて欲しい』って言われて、別れたの。彼は今も海外で生活していて、この街に帰ってきたことは一度もない。向こうで結婚して、幸せに暮らしてるって風の噂で聞いたわ」
二人は忘れていた現実を思い出し、顔を見合わせた。二人とも今にも泣き出しそうな顔をしていたが、互いの顔を見ると表情を和らげ、吹き出した。
「馬鹿だな、僕達。居もしない恋人をずっと探し続けていたなんて」
「本当。こんな大事なことを忘れていたなんて、びっくり。何のために街中走り回っていたんだか」
二人はひとしきり笑うと、どちらともなく手を重ね、見つめ合った。今の彼らに見ているのは過去の恋人ではなく、未来の恋人だった。
(……中林がいたら、騒がしいんだろうな)
色恋に興味のない由良は淡々と後片付けを進め、二人のほとぼりが冷めるのを待った。
しかし目を離した一瞬に二人の姿は消え、カラになったコップが二つだけが残された。ドアはぴったりと閉まったままで、店内のどこにも彼らの姿はなかった。
「……」
由良は店内を見回し、机の下を覗き込み、通りへ出て二人を探した。それでも二人は見つからず、LAMPの前で呆然と立ち尽くした。
そこでやっと二人が〈探し人〉だと気づいた。思い返せば、夕立が降りしき街の中を傘も差さずに彷徨っていながら、彼らの服は全く濡れていなかった。
由良はフラフラとした足取りで店内へ戻ると、ガックリとカウンターへもたれかかった。仕方のないことだと頭では分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。
「く……食い逃げされた! これもう何回目よ?!」
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由良にとっては、人間と「探し人」の区別がつかない以上に、彼らの食い逃げを見過ごしてしまうことが許せなかった。
「……中林、シフト増やしてくれないかな。もしくは、バイト人数増やそうか」
由良は今後の経営方針を思案しながら店の後片付けを済ませ、二階にある自宅へ帰っていった。
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