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夏編①『夏の太陽、檸檬色』
第四話「貴方こそが運命のヒト」⑵
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夕立が止んだ頃、男性は再びLAMPを訪れた。
「こんにちは。あの後、彼女は来ましたか?」
「あちらに」
由良は窓際の席に座っている女性を手で示す。
とっくの前にひまわりケーキを食べ終えた彼女は外をボーッと眺め、暇を持て余していた。
「ん……?」
男性は女性を目にすると眉をひそめ、近づいていった。
女性も男性の存在に気づき、振り返る。途端に「んん?」と同じように眉をしかめた。
「あの、どうかされましたか?」
「……」
「……」
二人はしばらく互いを見つめあった末、同時に由良へ視線を向け、言った。
「違う」
「違います」
「え?」
由良は目を丸くした。
てっきり、二人は互いを探し合っていた恋人だとばかり思っていた。
「だって名前も一緒なんですよね? 貴方がコイケレンジさんで、貴方がアイカワアイコさん」
「それはそうなんですけど、別人なんですよ。多分、漢字は違うんじゃないかな? 僕は小さい池に恋の次と書いて、小池恋次なんですが、貴方の彼氏さんは?」
男性、小池は自分の名前について丁寧に説明し、女性に尋ねた。
女性も「えっと……」と恋人の名前を思い出しながら答えた。
「私の彼は、鯉の家に蓮が二つと書いて鯉家蓮二ですね。私の名前は相手の川に、愛する子と書いて相川愛子と言います」
「じゃあ全然違いますね。僕の彼女は藍色の藍に河口の河、藍色の子と書いて藍河藍子なんですよ」
「へぇー、名字にも名前にも藍色がついてるなんて、素敵なお名前の彼女さんですね」
「そうでしょう? 僕もそう思います。本人は『藍色を強制されてるみたいで嫌』と嫌がってましたけどね」
二人は互いの恋人の話で盛り上がり始めた。はたから見れば恋人同士にしか見えない男女が、自分達とは別の男女について話しているのは不思議な光景だった。
話に入れない由良は「漢字は違うとはいえ、同姓同名のカップルがいるなんて珍しいな」と思いながら静観していた。
「せっかくですから、何か飲まれますか? 今ならタピオカ増量キャンペーン中ですが」
「なら、このマンゴータピオカフラペチーノを一つ下さい」
「私もそれ下さい」
由良が注文されたドリンクを作っている間も、二人は楽しそうに会話を弾ませていた。よほど恋人が好きらしい。
由良がドリンクを運んでくると二人同時に口をつけ「美味しい」と声を揃えて言った。あまりにもタイミングが一緒だったからか、二人は顔を見合わせ、笑った。
「うふふ、私達って本当に気が合いますね」
「ははは、そうですね。彼女と会えなかったのは残念でしたが、こんなに気が合う方とお会いできるとは思いませんでしたよ」
すると女性、相川が急に眉をひそめ、「そのことなんですけど……」と思案顔になった。
「私、彼について何か忘れてる気がするんですよね。彼がこの街に帰ってきたって聞いたから探していたはずなのに、彼のことを思い出そうとするとモヤがかかったように何も思い出せないんです。小池さんはどうですか?」
小池も「うーん」と腕を組み、首をひねる。
「言われてみれば、確かに。しばらく会っていなかったせいだとばかり思っていましたが、肝心な何かを忘れている気がするんですよね。思い出せば、全てが解決する何かが……」
「あー、モヤモヤする! もうちょっとで思い出せそうなのに!」
二人はマンゴータピオカフラペチーノを飲みながら、しばらく考え込んでいた。
「こんにちは。あの後、彼女は来ましたか?」
「あちらに」
由良は窓際の席に座っている女性を手で示す。
とっくの前にひまわりケーキを食べ終えた彼女は外をボーッと眺め、暇を持て余していた。
「ん……?」
男性は女性を目にすると眉をひそめ、近づいていった。
女性も男性の存在に気づき、振り返る。途端に「んん?」と同じように眉をしかめた。
「あの、どうかされましたか?」
「……」
「……」
二人はしばらく互いを見つめあった末、同時に由良へ視線を向け、言った。
「違う」
「違います」
「え?」
由良は目を丸くした。
てっきり、二人は互いを探し合っていた恋人だとばかり思っていた。
「だって名前も一緒なんですよね? 貴方がコイケレンジさんで、貴方がアイカワアイコさん」
「それはそうなんですけど、別人なんですよ。多分、漢字は違うんじゃないかな? 僕は小さい池に恋の次と書いて、小池恋次なんですが、貴方の彼氏さんは?」
男性、小池は自分の名前について丁寧に説明し、女性に尋ねた。
女性も「えっと……」と恋人の名前を思い出しながら答えた。
「私の彼は、鯉の家に蓮が二つと書いて鯉家蓮二ですね。私の名前は相手の川に、愛する子と書いて相川愛子と言います」
「じゃあ全然違いますね。僕の彼女は藍色の藍に河口の河、藍色の子と書いて藍河藍子なんですよ」
「へぇー、名字にも名前にも藍色がついてるなんて、素敵なお名前の彼女さんですね」
「そうでしょう? 僕もそう思います。本人は『藍色を強制されてるみたいで嫌』と嫌がってましたけどね」
二人は互いの恋人の話で盛り上がり始めた。はたから見れば恋人同士にしか見えない男女が、自分達とは別の男女について話しているのは不思議な光景だった。
話に入れない由良は「漢字は違うとはいえ、同姓同名のカップルがいるなんて珍しいな」と思いながら静観していた。
「せっかくですから、何か飲まれますか? 今ならタピオカ増量キャンペーン中ですが」
「なら、このマンゴータピオカフラペチーノを一つ下さい」
「私もそれ下さい」
由良が注文されたドリンクを作っている間も、二人は楽しそうに会話を弾ませていた。よほど恋人が好きらしい。
由良がドリンクを運んでくると二人同時に口をつけ「美味しい」と声を揃えて言った。あまりにもタイミングが一緒だったからか、二人は顔を見合わせ、笑った。
「うふふ、私達って本当に気が合いますね」
「ははは、そうですね。彼女と会えなかったのは残念でしたが、こんなに気が合う方とお会いできるとは思いませんでしたよ」
すると女性、相川が急に眉をひそめ、「そのことなんですけど……」と思案顔になった。
「私、彼について何か忘れてる気がするんですよね。彼がこの街に帰ってきたって聞いたから探していたはずなのに、彼のことを思い出そうとするとモヤがかかったように何も思い出せないんです。小池さんはどうですか?」
小池も「うーん」と腕を組み、首をひねる。
「言われてみれば、確かに。しばらく会っていなかったせいだとばかり思っていましたが、肝心な何かを忘れている気がするんですよね。思い出せば、全てが解決する何かが……」
「あー、モヤモヤする! もうちょっとで思い出せそうなのに!」
二人はマンゴータピオカフラペチーノを飲みながら、しばらく考え込んでいた。
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