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夏編①『夏の太陽、檸檬色』
第二話「イッポが踏み出せない」⑴
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LAMPがオープンする、数年前の夏。
由良は市場調査のため、早朝から喫茶店を渡り歩いていた。客を装って入店し、内装、接客態度、コーヒーの味、器、客層などを、細かくチェックしていく。
その日は猛暑で、どの店も涼みに来た客で賑わっていた。何軒か回った頃、とある店で妙な噂を耳にした。
「ねぇ、知ってる? 最近、中学校の校門の前に出るらしいよ」
噂の出どころは、由良の後ろの席に座っていた女子高生だった。
女子高生は対面に座っている友人に、おずおずと話を切り出した。
「出るって、何が?」
友人は柄の長いスプーンでチョコバナナパフェをつつきながら、訝しげに尋ねる。同じ学校に通っているらしく、おそろいの制服を着ていた。
背後でレモンケーキを味わっていた由良も、こっそり聞き耳を立てる。
「幽霊。中学の後輩が見たって言ってた」
「嘘っ! マジで?!」
友人は悲鳴を上げる。
女子高生は「マジ」と神妙な顔で頷いた。
「同じ中学の制服着た女子だったらしいんだけど、朝からずっと校門の前に立ってたんだって。で、帰りのホームルームが終わった瞬間にパッと消えちゃったんだって。なんか昔、校門の前で事故に遭って死んだ子らしいよ」
「怖っ! もう校門の前、通れないじゃん!」
女子高生達が幽霊に怯える中、由良は冷めた目でアイスティーに口をつけた。
(幽霊、ねぇ……)
由良は今まで幾度となく〈探し人〉に出会ってきた。その分、自分が体験したことのない怪奇現象に対しては懐疑的だった。
特に、幽霊に関する噂は全く信じていない。
というのも、由良が見るのはいつも生霊である〈探し人〉ばかりで、今まで一度も死者の霊を見たことがないのだ。最近では「そもそも死者の霊なんて存在しない」と考えるまでになっていた。
(本当にいるなら、この目で見てみたいもんだわ)
事前にマークしていた喫茶店を全て回りきった頃には、すっかり日が暮れていた。
地平線の彼方へ沈みゆく太陽が「最後の足掻き」とばかりに、ジリジリと照りつけてくる。由良はステンドグラスを模した色鮮やかなデザインの日傘を西へ傾け、顔をしかめた。
「あっつ。冷やしたワッフルに、バニラアイスを乗せて食べたい」
こう暑いと、冷たい食べ物や飲み物がたちまち恋しくなる。由良は自分が今欲しいメニューを想像しては「ありきたり」「原価が高すぎる」とケチをつけつつ、夕刻の街を歩いた。
その道中、喫茶店で女子高生達が「幽霊が出る」と噂していた中学校の前を通りかかった。まだ授業が終わっていないらしく、周囲は静まり返っている。外に学生の姿もない。
「ほら、やっぱり誰もいな……」
由良は校門の前に誰もいないのを確認し、通り過ぎる。
その後、念のため「もう一度よく見てみよう」と振り返った。
瞬間、ハッとした。先程はいなかった髪の長い女子生徒が校門の前に立っていた。
由良は市場調査のため、早朝から喫茶店を渡り歩いていた。客を装って入店し、内装、接客態度、コーヒーの味、器、客層などを、細かくチェックしていく。
その日は猛暑で、どの店も涼みに来た客で賑わっていた。何軒か回った頃、とある店で妙な噂を耳にした。
「ねぇ、知ってる? 最近、中学校の校門の前に出るらしいよ」
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「嘘っ! マジで?!」
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「同じ中学の制服着た女子だったらしいんだけど、朝からずっと校門の前に立ってたんだって。で、帰りのホームルームが終わった瞬間にパッと消えちゃったんだって。なんか昔、校門の前で事故に遭って死んだ子らしいよ」
「怖っ! もう校門の前、通れないじゃん!」
女子高生達が幽霊に怯える中、由良は冷めた目でアイスティーに口をつけた。
(幽霊、ねぇ……)
由良は今まで幾度となく〈探し人〉に出会ってきた。その分、自分が体験したことのない怪奇現象に対しては懐疑的だった。
特に、幽霊に関する噂は全く信じていない。
というのも、由良が見るのはいつも生霊である〈探し人〉ばかりで、今まで一度も死者の霊を見たことがないのだ。最近では「そもそも死者の霊なんて存在しない」と考えるまでになっていた。
(本当にいるなら、この目で見てみたいもんだわ)
事前にマークしていた喫茶店を全て回りきった頃には、すっかり日が暮れていた。
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「ほら、やっぱり誰もいな……」
由良は校門の前に誰もいないのを確認し、通り過ぎる。
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瞬間、ハッとした。先程はいなかった髪の長い女子生徒が校門の前に立っていた。
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