313 / 327
第16.5話(第2部 第5.5話)「羅門の過去〈闇を手に入れた忍び〉」
壱
しおりを挟む
生けるものの焼けこげた、嫌な臭いが充満している。かつて集落だった土地は、冷え固まった溶岩と灰に飲まれ、白黒に色あせていた。
「……」
「……ひどい」
「なんということ……」
あまりの惨状に、羅門、幽空、紫野ノ瑪は言葉を失う。
朱禅はいない。数年前、とある集落に住む人間の女性に恋をし、一人残ったのだ。四人で旅を始めて、百数年ほど経った頃だった。
羅門は最後まで反対していたが、
『あきらめろ! 人間相手なんざ、上手くいきっこねぇって!』
『うっさい! 兄ちゃんの分からず屋!』
と、朱禅は珍しく強情で、半ばケンカ別れのような形で、集落に残った。
その後、一行が集落へ立ち寄ることはなかったが、紫野ノ瑪と幽空は朱禅を気に掛け、定期的に様子を見に行っていた。何か近況があればその都度、羅門に聞かせた。
『今日ね、結婚式だったんだよ! アケミちゃん(朱禅の妻)の晴れ姿、きれいだったなぁ』
『そうかい』
『赤ん坊が生まれていましたよ。朱羅、という名前だそうです』
『うちの弟の倍もおっきいんだよ! こんなの!』
『ンなデカイわけあるか』
羅門の反応は素っ気なかったが、話は必ず聞いていた。
ところが今朝、一人で様子を見に行っていた幽空が、慌てて帰ってきた。
『大変! 明け方、集落の近くにある山が噴火したって! 行く途中で妖怪達が騒いでた!』
『なんですって?!』
『ただの噴火だろ? 騒ぐほどじゃねぇ』
『それが、噴火したのは"赤ダイダラ山"だって!』
『……なに?』
山の名前を聞いた途端、羅門も紫野ノ瑪も固まった。
朱禅の集落は、周囲を山で囲まれている。
噴火したのはそのうちの一つ……「ダイダラボッチ」と呼ばれる巨大な妖怪が、山に姿を変えたものだった。赤ダイダラ山の溶岩には強い妖力が宿っている。噴火に巻き込まれれば、異形も無事では済まない。
三人は急ぎ、現場へ向かった。ものの数分で到着したが、集落は跡形もなく、すでに手遅れだった。
◯
「羅門、あなたも手伝いなさい」
「うるせぇ。オレは忙しいんだよ」
紫野ノ瑪と幽空は遺体を掘り起こし、順に埋葬していった。ガスが充満しているせいか、生き物は集落へ寄りつこうとしない。
羅門は堂々とサボり、集落を見て回っていた。死体を見つけては何かを確認し、落胆した様子で紫野ノ瑪と幽空に知らせる。
やがて、羅門は焼けこげた女の死体と、彼女をかばうように残った何者かの妖力を見つけた。羅門のものによく似た、赤と金に輝く粒子だった。
粒子は羅門を導くように、女の死体から離れ、崖の上にある祠へと向かう。羅門も後を追い、足だけで崖を登った。
「羅門! どこ行くの?!」
幽空に咎められたが、無視した。
粒子は祠の中へ入る。扉を開けると、赤髪の赤ん坊が気持ち良さそうに眠っていた。赤ん坊からは、人間と、よく知る鬼に似た気配がした。
粒子はしばらく赤ん坊の周りを飛び回っていたが、ふいに「役目は終わった」とばかりに薄くなり、消えた。
「……バカが。せっかくよみがえったってのに、こンなもんのためにまた死にやがって」
握っていた祠の扉がミシッと音を立て、無数のヒビが走る。
赤ん坊と二人取り残され、羅門は怒りに震えていた。
「……」
「……ひどい」
「なんということ……」
あまりの惨状に、羅門、幽空、紫野ノ瑪は言葉を失う。
朱禅はいない。数年前、とある集落に住む人間の女性に恋をし、一人残ったのだ。四人で旅を始めて、百数年ほど経った頃だった。
羅門は最後まで反対していたが、
『あきらめろ! 人間相手なんざ、上手くいきっこねぇって!』
『うっさい! 兄ちゃんの分からず屋!』
と、朱禅は珍しく強情で、半ばケンカ別れのような形で、集落に残った。
その後、一行が集落へ立ち寄ることはなかったが、紫野ノ瑪と幽空は朱禅を気に掛け、定期的に様子を見に行っていた。何か近況があればその都度、羅門に聞かせた。
『今日ね、結婚式だったんだよ! アケミちゃん(朱禅の妻)の晴れ姿、きれいだったなぁ』
『そうかい』
『赤ん坊が生まれていましたよ。朱羅、という名前だそうです』
『うちの弟の倍もおっきいんだよ! こんなの!』
『ンなデカイわけあるか』
羅門の反応は素っ気なかったが、話は必ず聞いていた。
ところが今朝、一人で様子を見に行っていた幽空が、慌てて帰ってきた。
『大変! 明け方、集落の近くにある山が噴火したって! 行く途中で妖怪達が騒いでた!』
『なんですって?!』
『ただの噴火だろ? 騒ぐほどじゃねぇ』
『それが、噴火したのは"赤ダイダラ山"だって!』
『……なに?』
山の名前を聞いた途端、羅門も紫野ノ瑪も固まった。
朱禅の集落は、周囲を山で囲まれている。
噴火したのはそのうちの一つ……「ダイダラボッチ」と呼ばれる巨大な妖怪が、山に姿を変えたものだった。赤ダイダラ山の溶岩には強い妖力が宿っている。噴火に巻き込まれれば、異形も無事では済まない。
三人は急ぎ、現場へ向かった。ものの数分で到着したが、集落は跡形もなく、すでに手遅れだった。
◯
「羅門、あなたも手伝いなさい」
「うるせぇ。オレは忙しいんだよ」
紫野ノ瑪と幽空は遺体を掘り起こし、順に埋葬していった。ガスが充満しているせいか、生き物は集落へ寄りつこうとしない。
羅門は堂々とサボり、集落を見て回っていた。死体を見つけては何かを確認し、落胆した様子で紫野ノ瑪と幽空に知らせる。
やがて、羅門は焼けこげた女の死体と、彼女をかばうように残った何者かの妖力を見つけた。羅門のものによく似た、赤と金に輝く粒子だった。
粒子は羅門を導くように、女の死体から離れ、崖の上にある祠へと向かう。羅門も後を追い、足だけで崖を登った。
「羅門! どこ行くの?!」
幽空に咎められたが、無視した。
粒子は祠の中へ入る。扉を開けると、赤髪の赤ん坊が気持ち良さそうに眠っていた。赤ん坊からは、人間と、よく知る鬼に似た気配がした。
粒子はしばらく赤ん坊の周りを飛び回っていたが、ふいに「役目は終わった」とばかりに薄くなり、消えた。
「……バカが。せっかくよみがえったってのに、こンなもんのためにまた死にやがって」
握っていた祠の扉がミシッと音を立て、無数のヒビが走る。
赤ん坊と二人取り残され、羅門は怒りに震えていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる