299 / 327
第15.5話(第2部 第4.5話)「幽空の過去〈鳥に憧れた少年〉」
弐
しおりを挟む
紫野ノ瑪と朱禅は少年にせがまれるまま、話せる範囲で、旅の話をした。当然、三人が鬼であることは伏せておいた。
その間、少年は二人の話を夢中で聴いていた。まるでおとぎ話でも聴いているかのように、終始ワクワクしていた。
「いいなぁ。僕も村を出たい。ねぇ、明日ここを発つんでしょ? 僕も一緒に連れて行ってよ!」
紫野ノ瑪と朱禅は顔を見合わせた。少年の目は本気だった。
「僕……これ以上、家族に迷惑かけたくないんだ。僕がいなくなれば、みんなお腹いっぱい食べられるし、周りから白い目で見られずに済むから。出稼ぎに行ってる父さんと兄さんだって毎年帰って来られるし、姉さんと妹もわざわざ村の外へ嫁がなくても良くなると思う」
「ですが、貴方は歩けないのでは? 山を越えるのは、常人の足でも厳しいですよ?」
「そうだけど……」
少年はすがるように、羅門を見上げた。
「お兄さん、僕を背負子で運んでくれない? 僕でも住めそうな街を見つけたら、そこで降ろしてくれていいから。ね、お願い?」
「えぇ……?」
朱禅は困った様子で、頭をかく。
たしかに朱禅なら、少年を背負ったまま山を越えられる。それどころか、両手に紫野ノ瑪と羅門を抱えて、スキップで山を登り降りできるだろう。
だが、三人は人間ではないのだ。他の異形との争いに、少年を巻き込んでしまうかもしれない。
二人が迷っていると、座布団の上で丸まって寝ていた羅門がボソッとつぶやいた。
「いくら出す?」
「え?」
三人は羅門を振り返る。
羅門は少年を冷たく見上げ、再度尋ねた。
「だから、いくら出すかっつってンだよ。俺達は傭兵だ。仕事を受けるかどうかは、報酬の額で決める」
途端に、少年の目が泳いだ。
「お金は……持ってない。家のお金は、母さんが管理してるから」
「じゃあ、諦めな。俺達は神でも仏でもないんでね。あ、アイツらも供え物もらってたっけか?」
羅門は「用は済んだ」とばかりに、再び眠りにつく。
落ち込む少年を、紫野ノ瑪と朱禅が慰めた。
「き、気にしないでください! 羅門は金にガメついだけなんです!」
「運ぶだけなら、俺がやったげるよ! 報酬は後からでもいいんだしさ!」
「……ううん、いい。無理言ってごめんなさい」
その後、少年の兄が畑から帰宅した。
事情を話すと、
「うちにはお客を止められるほどの余裕はないので」
と、村で一番大きな家に住んでいる村長を紹介された。
「座布団、ありがとうございました。おかげで、今夜は野宿せず済みそうです」
「あいつは当たり前のことをしただけですよ。むしろ、まともにおもてなしできず、申し訳ないです」
少年の兄は紫野ノ瑪に謝ると、少年を睨むように振り返った。
「幽四郎、奥に引っ込んどけよ。またどっかのガキに石をぶつけられたくないだろ? 障子を張り替えるのは、俺の仕事なんだからな」
「分かってるよ、兄さん」
紫野ノ瑪達は少年の兄に連れられ、村長の家へ向かう。
四人が去った後も、少年はしばらく縁側でたたずんでいた。
◯
小鳥達が「チチチ」と心配そうに、少年の周りに集まる。少年は彼らの言葉が分かるのか、涙目ではにかんだ。
「……平気だよ。心配してくれてありがとう。羅門の言う通りだ……村を出ても生きていける保証なんてないのに、僕は甘えてた。みんなには悪いけど、諦めて村に残るよ」
その時、暗がりから足音が聞こえた。
少年は兄の忠告を思い出し、柱の裏へ身を隠す。鳥達も驚き、一斉に飛び去っていった。
「坊や、」
「?」
聞こえてきたのは、老婆の声だった。
おそるおそる柱の裏から顔を出すと、大きなカゴを背負った見知らぬ老婆が立っていた。紫野ノ瑪達が村の入口で出会った、行商の老婆だった。
「坊や、何かいらんかね? カッパの皿、天狗の翼、九尾の狐の尾……いろいろ揃っとるよ」
「翼? 翼って、鳥の背中に生えてるのと同じ?」
「そうさ」
少年は老婆の話に食いついた。
「それって、飾り? それとも、つけたら僕も飛べるようになる?」
老婆は頷いた。
「もちろん、飛べるさ。なんて言ったって、天狗の翼だからねぇ。鳥よりも速く、長く飛べるよぉ」
「すごい!」
少年は期待に目を輝かせる。
「ただし、」と老婆はニタリと笑った。
「タダというわけにはいかないね。お代はちゃんといただくよ」
「あ……そう、だよね。お金、いるよね」
お代と聞き、少年の顔が曇る。きっと、少年が一生かかっても手に入らないほど、高額に違いない。
すると「何を言ってるんだい?」と、老婆は不思議そうに首を傾げた。
「金なんていらないよ。うちは物々交換しか受け付けていないからね」
老婆はスッと、少年の足を指差した。
「欲しいなら、坊やの足と交換だよ。どうだい?」
「いいの?!」
少年は驚いた。
足の代わりに翼が手に入るなど、願ったり叶ったりだった。
「本当に? 僕の足、動かないけど……」
「充分さ。足は足だろ? 当然、失えば二度と歩くことはできなくなるけんど……どうするね?」
少年は力強く頷いた。
「いいよぉ! 交換しよ!」
(これで、家族の役に立てる!)
期待に胸を膨らませる少年に対し、老婆は満足そうにニタニタと笑っていた。
その間、少年は二人の話を夢中で聴いていた。まるでおとぎ話でも聴いているかのように、終始ワクワクしていた。
「いいなぁ。僕も村を出たい。ねぇ、明日ここを発つんでしょ? 僕も一緒に連れて行ってよ!」
紫野ノ瑪と朱禅は顔を見合わせた。少年の目は本気だった。
「僕……これ以上、家族に迷惑かけたくないんだ。僕がいなくなれば、みんなお腹いっぱい食べられるし、周りから白い目で見られずに済むから。出稼ぎに行ってる父さんと兄さんだって毎年帰って来られるし、姉さんと妹もわざわざ村の外へ嫁がなくても良くなると思う」
「ですが、貴方は歩けないのでは? 山を越えるのは、常人の足でも厳しいですよ?」
「そうだけど……」
少年はすがるように、羅門を見上げた。
「お兄さん、僕を背負子で運んでくれない? 僕でも住めそうな街を見つけたら、そこで降ろしてくれていいから。ね、お願い?」
「えぇ……?」
朱禅は困った様子で、頭をかく。
たしかに朱禅なら、少年を背負ったまま山を越えられる。それどころか、両手に紫野ノ瑪と羅門を抱えて、スキップで山を登り降りできるだろう。
だが、三人は人間ではないのだ。他の異形との争いに、少年を巻き込んでしまうかもしれない。
二人が迷っていると、座布団の上で丸まって寝ていた羅門がボソッとつぶやいた。
「いくら出す?」
「え?」
三人は羅門を振り返る。
羅門は少年を冷たく見上げ、再度尋ねた。
「だから、いくら出すかっつってンだよ。俺達は傭兵だ。仕事を受けるかどうかは、報酬の額で決める」
途端に、少年の目が泳いだ。
「お金は……持ってない。家のお金は、母さんが管理してるから」
「じゃあ、諦めな。俺達は神でも仏でもないんでね。あ、アイツらも供え物もらってたっけか?」
羅門は「用は済んだ」とばかりに、再び眠りにつく。
落ち込む少年を、紫野ノ瑪と朱禅が慰めた。
「き、気にしないでください! 羅門は金にガメついだけなんです!」
「運ぶだけなら、俺がやったげるよ! 報酬は後からでもいいんだしさ!」
「……ううん、いい。無理言ってごめんなさい」
その後、少年の兄が畑から帰宅した。
事情を話すと、
「うちにはお客を止められるほどの余裕はないので」
と、村で一番大きな家に住んでいる村長を紹介された。
「座布団、ありがとうございました。おかげで、今夜は野宿せず済みそうです」
「あいつは当たり前のことをしただけですよ。むしろ、まともにおもてなしできず、申し訳ないです」
少年の兄は紫野ノ瑪に謝ると、少年を睨むように振り返った。
「幽四郎、奥に引っ込んどけよ。またどっかのガキに石をぶつけられたくないだろ? 障子を張り替えるのは、俺の仕事なんだからな」
「分かってるよ、兄さん」
紫野ノ瑪達は少年の兄に連れられ、村長の家へ向かう。
四人が去った後も、少年はしばらく縁側でたたずんでいた。
◯
小鳥達が「チチチ」と心配そうに、少年の周りに集まる。少年は彼らの言葉が分かるのか、涙目ではにかんだ。
「……平気だよ。心配してくれてありがとう。羅門の言う通りだ……村を出ても生きていける保証なんてないのに、僕は甘えてた。みんなには悪いけど、諦めて村に残るよ」
その時、暗がりから足音が聞こえた。
少年は兄の忠告を思い出し、柱の裏へ身を隠す。鳥達も驚き、一斉に飛び去っていった。
「坊や、」
「?」
聞こえてきたのは、老婆の声だった。
おそるおそる柱の裏から顔を出すと、大きなカゴを背負った見知らぬ老婆が立っていた。紫野ノ瑪達が村の入口で出会った、行商の老婆だった。
「坊や、何かいらんかね? カッパの皿、天狗の翼、九尾の狐の尾……いろいろ揃っとるよ」
「翼? 翼って、鳥の背中に生えてるのと同じ?」
「そうさ」
少年は老婆の話に食いついた。
「それって、飾り? それとも、つけたら僕も飛べるようになる?」
老婆は頷いた。
「もちろん、飛べるさ。なんて言ったって、天狗の翼だからねぇ。鳥よりも速く、長く飛べるよぉ」
「すごい!」
少年は期待に目を輝かせる。
「ただし、」と老婆はニタリと笑った。
「タダというわけにはいかないね。お代はちゃんといただくよ」
「あ……そう、だよね。お金、いるよね」
お代と聞き、少年の顔が曇る。きっと、少年が一生かかっても手に入らないほど、高額に違いない。
すると「何を言ってるんだい?」と、老婆は不思議そうに首を傾げた。
「金なんていらないよ。うちは物々交換しか受け付けていないからね」
老婆はスッと、少年の足を指差した。
「欲しいなら、坊やの足と交換だよ。どうだい?」
「いいの?!」
少年は驚いた。
足の代わりに翼が手に入るなど、願ったり叶ったりだった。
「本当に? 僕の足、動かないけど……」
「充分さ。足は足だろ? 当然、失えば二度と歩くことはできなくなるけんど……どうするね?」
少年は力強く頷いた。
「いいよぉ! 交換しよ!」
(これで、家族の役に立てる!)
期待に胸を膨らませる少年に対し、老婆は満足そうにニタニタと笑っていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった
竹井ゴールド
キャラ文芸
オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー
平行世界のオレと入れ替わってしまった。
平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる