贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第15.5話(第2部 第4.5話)「幽空の過去〈鳥に憧れた少年〉」

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 紫野ノ瑪と朱禅は少年にせがまれるまま、、旅の話をした。当然、三人が鬼であることは伏せておいた。
 その間、少年は二人の話を夢中で聴いていた。まるでおとぎ話でも聴いているかのように、終始ワクワクしていた。
「いいなぁ。僕も村を出たい。ねぇ、明日ここを発つんでしょ? 僕も一緒に連れて行ってよ!」
 紫野ノ瑪と朱禅は顔を見合わせた。少年の目は本気だった。
「僕……これ以上、家族に迷惑かけたくないんだ。僕がいなくなれば、みんなお腹いっぱい食べられるし、周りから白い目で見られずに済むから。出稼ぎに行ってる父さんと兄さんだって毎年帰って来られるし、姉さんと妹もわざわざ村の外へ嫁がなくても良くなると思う」
「ですが、貴方は歩けないのでは? 山を越えるのは、常人の足でも厳しいですよ?」
「そうだけど……」
 少年はすがるように、羅門を見上げた。
「お兄さん、僕を背負子で運んでくれない? 僕でも住めそうな街を見つけたら、そこで降ろしてくれていいから。ね、お願い?」
「えぇ……?」
 朱禅は困った様子で、頭をかく。
 たしかに朱禅なら、少年を背負ったまま山を越えられる。それどころか、両手に紫野ノ瑪と羅門を抱えて、スキップで山を登り降りできるだろう。
 だが、三人は人間ではないのだ。他の異形との争いに、少年を巻き込んでしまうかもしれない。
 二人が迷っていると、座布団の上で丸まって寝ていた羅門がボソッとつぶやいた。
「いくら出す?」
「え?」
 三人は羅門を振り返る。
 羅門は少年を冷たく見上げ、再度尋ねた。
「だから、いくら出すかっつってンだよ。俺達は傭兵だ。仕事を受けるかどうかは、報酬の額で決める」
 途端に、少年の目が泳いだ。
「お金は……持ってない。家のお金は、母さんが管理してるから」
「じゃあ、諦めな。俺達は神でも仏でもないんでね。あ、アイツらも供え物もらってたっけか?」
 羅門は「用は済んだ」とばかりに、再び眠りにつく。
 落ち込む少年を、紫野ノ瑪と朱禅が慰めた。
「き、気にしないでください! 羅門は金にガメついだけなんです!」
「運ぶだけなら、俺がやったげるよ! 報酬は後からでもいいんだしさ!」
「……ううん、いい。無理言ってごめんなさい」
 その後、少年の兄が畑から帰宅した。
 事情を話すと、
「うちにはお客を止められるほどの余裕はないので」
 と、村で一番大きな家に住んでいる村長を紹介された。
「座布団、ありがとうございました。おかげで、今夜は野宿せず済みそうです」
「あいつは当たり前のことをしただけですよ。むしろ、まともにおもてなしできず、申し訳ないです」
 少年の兄は紫野ノ瑪に謝ると、少年を睨むように振り返った。
幽四郎ゆうしろう、奥に引っ込んどけよ。またどっかのガキに石をぶつけられたくないだろ? 障子を張り替えるのは、俺の仕事なんだからな」
「分かってるよ、兄さん」
 紫野ノ瑪達は少年の兄に連れられ、村長の家へ向かう。
 四人が去った後も、少年はしばらく縁側でたたずんでいた。

     ◯

 小鳥達が「チチチ」と心配そうに、少年の周りに集まる。少年は彼らの言葉が分かるのか、涙目ではにかんだ。
「……平気だよ。心配してくれてありがとう。羅門あの人の言う通りだ……村を出ても生きていける保証なんてないのに、僕は甘えてた。みんなには悪いけど、諦めて村に残るよ」
 その時、暗がりから足音が聞こえた。
 少年は兄の忠告を思い出し、柱の裏へ身を隠す。鳥達も驚き、一斉に飛び去っていった。
「坊や、」
「?」
 聞こえてきたのは、老婆の声だった。
 おそるおそる柱の裏から顔を出すと、大きなカゴを背負った見知らぬ老婆が立っていた。紫野ノ瑪達が村の入口で出会った、行商の老婆だった。
「坊や、何かいらんかね? カッパの皿、天狗の翼、九尾の狐の尾……いろいろ揃っとるよ」
「翼? 翼って、鳥の背中に生えてるのと同じ?」
「そうさ」
 少年は老婆の話に食いついた。
「それって、飾り? それとも、つけたら僕も飛べるようになる?」
 老婆は頷いた。
「もちろん、飛べるさ。なんて言ったって、天狗の翼だからねぇ。鳥よりも速く、長く飛べるよぉ」
「すごい!」
 少年は期待に目を輝かせる。
 「ただし、」と老婆はニタリと笑った。
「タダというわけにはいかないね。お代はちゃんといただくよ」
「あ……そう、だよね。お金、いるよね」
 お代と聞き、少年の顔が曇る。きっと、少年が一生かかっても手に入らないほど、高額に違いない。
 すると「何を言ってるんだい?」と、老婆は不思議そうに首を傾げた。
「金なんていらないよ。うちは物々交換しか受け付けていないからね」
 老婆はスッと、少年の足を指差した。
「欲しいなら、坊やの足と交換だよ。どうだい?」
「いいの?!」
 少年は驚いた。
 足の代わりに翼が手に入るなど、願ったり叶ったりだった。
「本当に? 僕の足、動かないけど……」
「充分さ。足は足だろ? 当然、失えば二度と歩くことはできなくなるけんど……どうするね?」
 少年は力強く頷いた。
「いいよぉ! 交換しよ!」
(これで、家族みんなの役に立てる!)
 期待に胸を膨らませる少年に対し、老婆は満足そうにニタニタと笑っていた。
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