贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
295 / 327
第15話(第2部 第4話)「魔弾の射手」

しおりを挟む
 森中は標的の二人を倒すと、地上へ降りた。
 武器を狙撃銃からサバイバルナイフに持ち替え、倒れている蒼劔に近づく。トドメを刺すつもりらしい。
 陽斗は慌てて蒼劔と森中の間に割って入り、蒼劔をかばった。
「やめて! 蒼劔君を殺さないで!」
「君、そいつが何モンなんか知っとるん? 鬼やで?」
「でも、悪い妖怪から守ってくれるよ!」
「アホ。そんなん、人間の味方のフリして、君の霊力狙っとるだけやろ。手負いの異形は何するか分からへんからなぁ、逃げた方が身のためやで?」
「嫌だ! 蒼劔君は……そんな黒縄君みたいな卑怯者じゃない!」
「陽斗、そんな大声で言ってやらなくてもいいんじゃないか?」
 その時、節木荘の一階のドアが勢いよく開け放たれた。一同が視線をやると、鬼の姿になった朱羅が森中に金棒を投げつけるところだった。
 金棒は空中で一回転し、森中の顔にめり込む。金棒のトゲがヘルメットを貫通し、あと数センチで顔に刺さるところまで迫っていた。
「おあァァァッ! 金棒がヘルメットに刺さってるぅぅぅ?!」
 森中はふらつき、腰を抜かす。
 ヘルメットのおかげで直撃は免れたものの、金棒が当たった衝撃で脳しんとうを起こしていた。
「朱羅さん!」
「フーッ……フーッ……!」
 朱羅は怒りで目を血走らせ、森中に近づく。歩みを進めるたび、ズンズンと大きく足音が響く。明らかに正気ではなかった。
「朱羅さん、何をする気?!」
「……黒縄様が撃たれたのです。人に手を下すのは不本意ですが、このままでは私の気が収まりません。どうかご容赦を」
「朱羅」
 すると、倒れている蒼劔が朱羅を呼び止めた。
(蒼劔君、一緒に説得してくれるの?)
 陽斗の期待もむなしく、蒼劔は朱羅にオダマリハリセンを差し出した。
「使え」
「助かります」
「ちょっと! 蒼劔君も朱羅さんを止めてくれるんじゃないの?!」
「俺も撃たれたのだ、致し方あるまい」
「安心してください。彼は逃亡中の術者、森中狩人です。このまま倒してしまっても、協会からは咎められませんよ」
 朱羅はオダマリハリセンを受け取り、森中を睨む。
 とてつもない殺気だった。森中には朱羅のハリセンが、熱した鉄板を重ねて作ったように見える。実際、朱羅が全力でハリセンを振り下ろせば、ただでは済まないだろう。
「て、天空! 霧や、霧! 早う、霧を喚べ!」
「ギャハハッ! 無様だなぁ、狩人!」
「やかましい! お前も消えたないなら、協力せぇ!」
「ヘッヘッ、仰せの通りに」
 天空は皮肉めかして言うと、口から白いモヤのようなもの……霧を吐き出した。
 周囲はたちまち白く染まり、視界は完全に奪われる。伸ばした手の先ですら、霧に埋もれて見えなくなった。
「待ちなさい!」
 朱羅は森中がいた場所へ駆け寄り、ハリセンを振り下ろす。だが、既に森中と天空はいなくなっていた。
「森中と式神が消えました!」
「霧にまぎれたか……厄介だな」
「蒼劔君、どこー?」
 蒼劔と朱羅は森中を警戒し、気配を探る。
 一方、陽斗は方向感覚を完全に失い、霧の中をさまよっていた。蒼劔達の声を頼りに進むが、しばらく歩くと二人の声が遠ざかってしまう。幽空は痛みで気を失ったのか、声すら聞こえてこなかった。
(幽空君、大丈夫かな? 僕の霊力で良ければ、早く分けてあげたいんだけど)
 方向感覚を失ったのは、陽斗だけではなかった。この状況を作り出した張本人、森中も霧の中で迷い、脱出できずにいた。
(危なっ! とっさに逃げてへんかったら、ハリセンに打たれてたわ! ところで俺、今どのへんにおんの?)
 手探りで、壁を探す。壁伝いで真っ直ぐ進めば、霧から出られるはずだ。天空は気配でバレるので、一旦引っ込めた。
 しばらく歩いていると、平らな何かが手に触れた。
(おっ! 壁か?! にしては、妙にやらかいような……)
「うひゃっ?!」
(うひゃ?)
 壁らしき何かは悲鳴を上げ、振り返る。森中が触れたのは、陽斗の背中だった。
「だ、誰? 僕の背中触ったの?」
「ッ!」
 森中は反射的に、陽斗を撃った。
 相手の顔は見えなかった。考えるより早く、彼の指は動いていた。

     ◯

「わっ?! なに?! 花火?!」
 陽斗が振り返った瞬間、目の前から銃声が聞こえた。思わず、両手で耳をふさぐ。
 目の前で発砲したにもかかわらず、銃弾は。陽斗を避けるように大きく軌道を変え、全く見当違いな方角へ飛んでいく。その標的は霧の中にいる蒼劔達でもなければ、節木荘にいる黒縄達でもなかった。
「陽斗、無事か?!」
 陽斗の悲鳴を耳にし、蒼劔が声をかける。
「う、うん! よく分かんないけど、おっきい音がしてびっくりしただけ……ふごっ?!」
 その時、陽斗は背後から森中に手で口を押さえられた。
「陽斗、どうした?! "ふご"ってなんだ?!」
「……俺がおることはバラすな。大人しくせぇ」
 アゴの下に狙撃銃の銃口を当てられる。
 陽斗は涙目で「ふごっ! ふごっ!」と小刻みに頷いた。
「君には俺が逃げのびるまで、人質になってもらう。用が済めば無事に解放するさかい、言うこと聞いてや」
「ふご!」
「……どっちなんか分からんな。オッケーっちゅうことにしとくわ」
 森中は壁を背に、ジリジリと進む。陽斗という最強の人質を手に入れたにもかかわらず、森中の表情は冴えなかった。
「"用が済めば無事に解放する"……か。まさか、自分がそのセリフを言うとは思わんかったな。アイツらも、ホンマにその気があったんやろうか? だとしたら、俺は……」
「?」
 森中は陽斗に聞かれているとも知らず、ブツブツと呟く。
 陽斗には森中が何のことを話しているのかは分からなかった。ただ、声の様子からして、陽斗を人質にしたこととは別に、ひどく後悔しているように聞こえた。
(よく分かんないけど……森中さんって、本当はいい人なのかな?)
 節木荘で陽斗の心の声を聞いていた五代は、すかさずツッコんだ。
「いやいや、銃で脅す人間がいい人なわきゃないっしょ。陽斗氏、現実見てぷりーず」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...