贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第15話(第2部 第4話)「魔弾の射手」

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 放課後はバイトのシフトが入っていたので、部活を休んだ。護衛の飯沼も一緒に欠席したので「本当にバイトかぁ~?」と成田にからかわれた。
 二人で校舎を出ると、蒼劔が校門の前で待っていた。鬼の姿で、他の生徒や教師には見えていなかった。
「蒼劔君! 調子戻ったの?!」
「いつまでも休んでいるわけにはいかないだろう? 全快とまではいかないが、ここへ来るまでに異形を何体か狩ってきた」
「そっか。無理しないでね」
「……ずっと休んでても良かったのに」
「飯沼、何か言ったか?」
「べっつにぃ?」
 飯沼は不満そうにむくれる。
 蒼劔が引きこもっていた間、陽斗と飯沼は鏡の世界を通って通学していた。乱魔の時のように陽斗を連れ去られないための対処だったが、飯沼にとっては陽斗と二人きりになれる貴重な時間だった。
「蒼劔がいるなら私はいらないわね。ちょうど買いに行きたいものがあったし、今日の護衛は任せるわ」
「あっ、飯沼さん!」
 カーブミラーへ向かおうとした飯沼を、陽斗は引き止めた。
「今朝は護衛、ありがとね。蒼劔君、まだ本調子じゃないみたいだし、また頼むかも」
「気を使ってくれなくていいわよ。蒼劔の方が強いし、頼れるでしょ?」
「でも、飯沼さんと二人で帰るの楽しいし」
「ッ! いいからさっさと帰んなさい!」
 飯沼は顔を真っ赤にし、カーブミラーから鏡の世界へ飛び込んでいった。
「……飯沼さん、何で怒ってたんだろ?」
「俺にも分からん」
 残された陽斗と蒼劔は不思議そうに顔を見合わせた。

    ◯

 通りの向こうで蒼劔を見つけた瞬間、森中は盛大にコーヒーを吹いた。
(うっそぉ?! 蒼劔おるやん! なんで?!)
 森中は稲葉から聞いた話が本当か確かめるため、市内を片っ端から調査していた。
 朝から歩き回り、稲葉の話そのものは嘘ではないと分かったものの、黒縄の手がかりは何ひとつつかめずにいた。
(そういえば、最近黒縄は蒼劔と行動してるんやったっけ? っちゅーことは、蒼劔が向かう先に、黒縄もおるかもしれへん。一緒におる子ぉは人間か……? 巻き込まんよう気ぃつけんとアカンな)
 森中はカラになった缶を捨て、二人の後を追った。見つかっても森中だと気づかれないよう、フルフェイスヘルメットを被った。
 しばらく歩いていると、並木通りに差しかかったところで蒼劔が立ち止まった。
(ヤバッ! 尾行に気づかれたんか?)
 とっさに、「不審者出没中!」と書かれた看板の裏に隠れる。
 通りの桜の花はすっかり散り、青々とした葉が生い茂っている。蒼劔は様変わりした桜の木を見上げ、フッと目を細めた。
「懐かしいな。この並木通りで、乱魔が毎日のように待ち構えていた。通るたびに斬りかかってくるから鬱陶しかったな。こうして歩いていると、奴がどこかの木の上で身を潜めているような気がしてくる」
「乱魔さんが戻ってきたら、また会えるよ」
「……だといいな」
 二人は思い出話もそこそこに、歩き出す。
 森中も前進し、「不審者出没中!」の看板から「怪しい人を目撃したら、110番!」と書かれたポスターが貼ってある電柱へ移動した。
「キシャーッ!」
「ん?」
「うわぁっ?!」
 その時、別の木の上から小型の妖怪が陽斗に襲いかかってきた。ギザギザの歯を剥き出しにし、威嚇する。
 悲鳴を上げる陽斗に対し、蒼劔はガッカリした様子で妖怪を斬り捨てた。妖怪は青い光の粒子となり、霧散した。
「なんだ……乱魔だと思ったのに。あいつは毎日のように俺を待ち構えていたからな。あの頃は通るたびに斬りかかってくるので鬱陶しかったが、今では俺の方から奴の気配を探してしまう」
「蒼劔君、それさっきも言ったよ」
「そうだったか? すまん、懐かしくてつい」
「並木通りは蒼劔君が懐かしくなっちゃうから、別の道から帰ろっか?」
「助かる」
 二人は並木通りから外れ、小道へ入る。
 いつもとは違う道だったので、一度も立ち止まらずに節木荘へ到着した。
(ここが黒縄のアジトか……えらいボロいアパートやなぁ。ホンマに住んでるんか?)
 そのまま帰るかと思いきや、蒼劔がアパートの前で足を止めた。陽斗もつられて、立ち止まる。
 蒼劔の視線の先には、陽斗の部屋があった。
「陽斗、覚えているか? 乱魔が夜ごと、俺にケンカを吹っかけてきていたこと」
「そうだったっけ?」
「あぁ。お前は寝ていたから知らないかもしれないな。あの時、一度でも刀を納めて話をしていれば、こんな後悔せずに済んだのだろうか?」
「……蒼劔君、やっぱりもうしばらく休んだ方がいいよ。バイトの護衛は朱羅さんに頼むからさ、蒼劔君は黒縄君とゲームでもしてて」
「えっ」
(えぇ?!)
 陽斗の口から散々探していた標的の名前が飛び出し、森中は戦慄した。
 二人に見つからないよう、玄関に「猛犬注意」とステッカーが貼られた家の屋根の上で腹ばいになり、狙撃銃のスコープ越しに様子をうかがっている。なお、自称猛犬のチワワはリビングで爆睡していた。
(あの子、"黒縄君"言うたで?! え、知り合いなん? そんな子がおるやなんて、晴霞も稲葉のおっさんも言うてへんよな? しかも"君"づけて! 命知らずにも程があるやろ!)
 困惑が止まらない。
 陽斗が何者か気になって仕方がなかったが、ひとまず蒼劔と黒縄の始末を優先させることにした。
(アパートから逃げられんよう、先に黒縄を仕留めたいところやけど、蒼劔は蒼劔でオダマリハリセン持っとるからなぁ……どっちから先にやったもんか)
 いや、と森中の目つきがスッと冷たくなった。
(……

     ◯

 引き金に指をかける。狙撃銃が「ケケケ」と銃身から歯を見せ、笑う。
 まずは蒼劔、それから黒縄。クセで蒼劔の頭に銃口を向けているが、本来狙いを定める必要はない。なぜなら、森中の弾丸は当たるからだ。
 森中は「魔弾マダン」と呼ばれる妖怪と契約している。銃に憑依する妖怪で、魔弾が憑依した銃は、確実に標的を仕留める。
 強力な妖怪ではあるが、その分課せられるは厳しい。森中が眼帯で隠している右目も、その制約のひとつとして魔弾に渡した。
(アイツらやったら、後は晴霞だけや。稲葉のおっさんには感謝せんとなぁ)
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