贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第13話(第2部 第2話)「新入生ハント」

漆:最後の部員

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 最終下校時刻五分前、暗梨が一人の男子生徒を連れて戻ってきた。
 長身でハンサムな男子で、眠そうに目をショボショボさせていた。
「たっだいまー! 新しい部員、連れて来たわよ!」
「おかえりー。時間、ギリギリだったね」
「間に合ったんだからいいでしょ。それより二星さん、分裂してない?」
「これであと一人かぁ……明日も勧誘に行かないとだな」
 成田は憂鬱そうにため息をつく。
 すると「安心なさい!」と暗梨は胸を張って断言した。
「私も入部するから!」
「心変わり、早っ!」

     ◯

 暗梨はオカ研の部室を飛び出した後、目についた生徒を片っ端からカツアゲ……ではなく、勧誘していった。
「ねぇ、オカ研に入らない?! っていうか、入って! 私のファッション研究部入部のために!」
「ヒィィッ! 自販機のジュースおごるから、勘弁してくださいぃぃっ!」
「嫌! コンビニ限定の高級チョコレートドリンクが飲みたいわ!」
「うぅ……意外と高い」
 皆、「オカ研に入部するより、カツアゲされた方がマシ」と言わんばかりに、暗梨にジュースをおごり、逃げ去る。
 校内も隅から隅まで回り、屋上にたどり着いた頃には日が暮れかけていた。
「……まずい。もうすぐタイムリミットになっちゃう」
 暗梨はスマホで時間を確認し、舌打ちする。
 ほとんどの生徒は下校した。校内をもう一周したところで、無駄足になるだろう。
 念のため屋上を見回したが、人の姿も気配もなかった。校庭では蒼劔と乱魔が剣を交えていた。
「アオイ君は僕に聞きたいことないのー?」
「ある」
「なになにー?」
「お前を消す方法」
「あははっ! そんなのないよ!」
(……関わったらめんどくさそ。見つかる前に、さっさと戻るか)
 暗梨は見て見ぬフリをし、屋上から立ち去ろうとした。
 その時、頭上から声が聞こえた。
「ふぁぁ……よく寝た」
「っ?!」
 反射的に上を向く。誰もいなかったはずの塔屋の上に、見知らぬ男子生徒が寝っ転がっていた。
 男子生徒は起き上がり、大きくあくびをする。夕焼けに染まった西の空を見て、ぽかんと口を開いた。
「……あれ、もう夕方? 入学式は?」
「とっくに終わったわよ」
「そっか。せっかく早起きして来たのに……残念」
 男子生徒は残念そうに言い、伸びをする。振り返ったその顔を見て、暗梨はハッとした。
 彼は暗梨が昨年のクリスマスに名曽野駅で偶然出会った、正体不明の青年だった。あの時と同じように、屋上で昼寝していたらしい。
「……すっごい偶然。まさか、この学校の生徒だったなんて。もう会えないと思ってたのに」
 暗梨は驚くと同時に、人間である彼との再会を喜んでいる自分に戸惑った。
(って、何を言ってるのよ私は! 相手は人間なのよ?! その上、術者かもしれないのに!)
 葛藤する暗梨をよそに、男子生徒は塔屋から降りてくる。寝起きとは思えない、軽やかな動きだった。
 男子生徒も暗梨に見覚えがあったらしく、「あれ?」と目を見張った。
「ゴスロリ着てた、可愛い子だ。クリスマスに名曽野駅のイルミネーションの前で会ったよね?」
「かわッ?!」
 暗梨は思わず赤面する。
 嫌味でも皮肉でもない褒め言葉をもらったのは、これが初めてだった。
「そ、そうね! そういえば会ったわね!」
「うん。君も節木高校の生徒だったんだね。何年生?」
「一年よ。クラスはD組。簡単な授業ばっかで、つまんないわ」
「僕も一年生だよ。クラスは別だけど、仲良くしてくれると嬉しい。寝てばかりいるせいか、誰も知り合いがいないんだ」
 男子生徒は寂しげに目を伏せる。
 暗梨は「寝なければいいじゃない」とツッコミかけたが、
(……そういえば、クリスマスの時も駅で寝てたわよね。徹夜明けでも飛び起きそうな状況だったのに。何か事情があるのかも)
 と思い、黙っておいた。
「私で良ければ、喜んで。私は華鬼橋暗梨。貴方は?」
合歓ねむ夜澄よずみ。気軽に夜澄って呼んでくれていいから」
「わ、私も、暗梨って呼んでくれると嬉しい……かも」
 お互い自己紹介を済ませたところで、ふと暗梨は自分の本来の目的を思い出した。
 合歓をオカルトの魔窟へ連れて帰るのは忍びないが、時間は刻一刻と迫っている。暗梨はダメ元で、彼に尋ねた。
「そうだ! 知り合いが欲しいなら、オカルト研究部に入らない? 無駄に人多いし、一人くらいは夜澄君と気が合う人もいると思うわ」
「本当? 部活中に寝ても、怒られない?」
「大丈夫よ。そんなやつがいたら、私が地球の裏側へ飛ばしてやるから」
「飛ばす?」
 合歓はさして悩むことなく、「分かった」と頷いた。
「いいよ。僕、オカルト研究部に入る」
「やった! ありがとう、助かったわ!」
 暗梨は飛び跳ね、喜んだ。
「急で悪いんだけど、これから一緒に部室に来てくれる? 最終下校時刻までに部員を連れて来るよう言われてるのよ」
「分かった」
 最終下校時刻まで、残り五分。
 いくら暗梨の足が速いとはいえ、今から部室に向かっても約束の時刻には間に合わないだろう。合歓も寝起きで、とても走れる状態ではなかった。
「ちょっと目、つむっててくれる?」
「うん」
 合歓はコクッと頷き、目をつむる。
 暗梨ははぐれないよう彼の手を握り、足下に彼岸花を咲かせた。

     ◯
 
「もちろん、ファッション研究部にも入るわ。そういう約束だもの。異論はないわね?」
 不知火は渋々頷いた。
「時間内に部員を連れて来たんだ、仕方ない。君の入部を許可しよう」
「よっしゃァ!」
 暗梨は拳を振り上げ、喜ぶ。
 クラスメイトである二星姉妹も「良かったね、華鬼橋さん」と、一緒になって喜んだ。
「自己紹介の時も"勉強はどうでもいい。ファッション研究部に入りたい"って言ってたもんね」
「文化祭でオカ研の出し物の衣装も作ってね」
「ありがとう、二星さん……って、やっぱり増えてない? 人間に擬態したアメーバなの?」
「アメーバなわけないじゃーん」
「ちゃんと人間だよー」
「???」
 暗梨は一卵性の双子の存在を知らず、終始目を白黒させていた。

     ◯

 こうしてオカ研はかつての仲間である飯沼が帰還し、新たな部員と顧問を迎えた。
 つかの間の平穏に、
「部活、楽しかったなぁ」
 と陽斗は癒されつつ、飯沼とおキョウと共に帰路についた。
 なお、乱魔を追っていった蒼劔は陽斗達が節木荘に到着して、しばらく経った後に戻って来た。
「陽斗! あずきフェアは?!」
「対象商品はひと通り買っておいたよー。好きなのを選んで多べてね」
「アオイくーん。僕は桜もちが食べたいなぁ」
「後にしてくれ、乱魔」

(第14話(第2部 第3話)へ続く)
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