贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第13話(第2部 第2話)「新入生ハント」

陸:ドッペルゲンガー(?)

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 その後、遠井、陽斗、飯沼と順に質問していった。
「次のテストの範囲を教えてくれ」
「知らん。"のー"だな」
「コンビニであずきフェアやってたよ! 帰りに寄る? ……じゃなくて、寄って行った方がいいかな?」
「寄るに決まっている! "いぇす"だ!」
「に……贄原君は好きな人がいますか?」
「いないよー」
「いないとさ。"のー"だ」
「……そう」
 三人とも質問が終わり、残すは二星だけになった。
「では最後に、二星君。質問をどうぞ」
「待ってました!」
 二星は手を叩き喜ぶ。
 かと思いきや、スッと表情を消した。
「……実は私、ずっと気になっていたことがあるんです」
 そう言い、おもむろに窓辺を指差す。
「チャーリー、あそこにいる女の子は誰ですか?」
「女の子?」
 一同は窓辺に目を向ける。
 そこには二星にそっくりの女子高生が立っていた。お団子にした髪も、顔も、制服も……何から何まで一致している。物憂げな表情で、こちらをジッと見つめていた。
「誰、あの子?!」
「いつのまに……?!」
 参加者の間に、戦慄が走る。蒼劔と不知火はとっくに気づいていたのか、反応が薄い。
 ゲーム中、窓は閉め切られていた。ドアから部屋を出入りした者もいない。完全に密室だった。
「偽物はあの子? それとも、私?」

     ◯

 直後、二星そっくりの女子高生の背後の窓に「バンッ!」と青白い手が貼りついた。
「アオイくん、みーっけ!」
「乱魔?!」
 乱魔が桜色の三つ編みを揺らし、女子高生の陰からひょっこりと顔を出す。
 乱魔の襲来に、蒼劔はハッとした。二星そっくりの女子高生が現れた時よりも、反応が良かった。
「きゃッ?!」
 そしてどういうわけか、二星そっくりの女子高生も乱魔が窓を叩いた音に驚いていた。悲鳴を上げ、腰を抜かしている。超常的な何からしからぬ、極めて人らしい反応だった。
 蒼劔は窓へ跳ぶと、居合の要領で乱魔に斬りかかった。刀は窓をすり抜け、乱魔を襲う。
 乱魔は寸前で刀を避けると、校庭の桜の木の上へ逃げた。彼の笑い声が次第に遠ざかっていく。
「はぁ……いい加減、諦めてもらいたいものだな」
 蒼劔は壁をすり抜け、乱魔を追いかけていった。
「い、今の男、なんだったんだ?!」
「ラップ音じゃないか?!」
 突然の現象に、成田達はざわつく。乱魔の姿は見えていなかったらしく、彼が窓を叩いて発した音についてばかり話していた。
 一方、不知火は二星そっくりの女子高生へと歩み寄り、手を差し伸べた。
「君、二星さんだね? 無事かい?」
「は、はい……」
 二星そっくりの女子高生は頷き、不知火の手を取る。
 二星本人も駆け寄り、なぜか彼女を叱った。
「んもー! フレア、しっかりしてよ!」
「だって、急に後ろからバンッて音がしたんだもん! 石でも飛んできたのかなぁ?」
 二星そっくりの女子高生は首を傾げる。
 彼女も乱魔の姿は見えていなかったらしい。
「……首を傾げたいのはこっちだよ」
「どういうことか説明してくれるかい?」
 成田と岡本の声に、二人の二星はキョトンとする。
 しばらくして、彼らを騙したことについて説明を求められているのだと気づくと、
「ごめんなさいっ」
 と、それぞれ別の目をつむり、ぺろっと舌を出した。

     ◯

 二星フレイ。
 二星フレア。
 二人は一卵性の双子の姉妹である。
 オカルトと同じくらいイタズラが大好きで、双子なのを利用し、散々人を騙してきた。
 今回もオカ研を驚かせるため、陽斗達が来るより先に、フレアには部室の机の下に隠れてもらっていた。万が一双子だとバレないよう、昼間はフレイはマスク、フレアは眼鏡をかけ、髪型も全く別々にし、生活していたらしい。
「せっかく上手くいくと思ってたのに、チャーリーに邪魔されるなんて悔しい!」
「絶対リベンジしてやるんだから!」
「あははっ! 二人同時に喋ってると、本当にどっちがどっちか分かんないね!」
「フレイ君はともかく、フレア君も入部するのかい? 私としては二人とも入部してくれた方が都合はいいけども」
 岡本は二人の二星に尋ねた。
 どちらがフレアなのか見分けがつかないため、二人を交互に見ていた。
「もちろん、私も入部しますよ!」
「ちょっと、フレイ! 勝手に決めないでよ!」
「そっちこそ私のマネしないでくれる? フレイ」
「何言ってるの? 私はフレイじゃなくてフレアだよ?」
「フレアは私よ? 何言ってるの?」
「ふ、二人ともちょっと黙ってくれないか?!」
「頭がこんがらがってきたぁ……!」
 頭を抱える先輩達を見て、姉妹はクスクスと笑う。
「うーん、全く分からないなぁ。こりゃ、入れ替わっていても気づけなさそうだ。一年生のクラスを受け持っていなくて良かったー」
 教師である間山も苦笑いしている。
 そんな中、不知火は二人を順に指差し、名前を呼んだ。
「君がフレイ君で、君がフレア君だろう?」
 瞬間、姉妹はハッと目を見開く。
 どうやら当たっていたらしい。
「すごっ! なんで分かったんですか?」
「なんとなく」
「えー?! なんとなくでバレたくないんですけど!」
「自分が受け持っている生徒くらい、簡単に見分けはつく。間違っても、試験の時に入れ替わろうなどとは思わないことだ」
「むぅ……」
「なんか納得いかなーい」
 姉妹はむくれる。
 だが心なしか、見分けてもらえて嬉しそうだった。

     ◯

「では、質問もし終わったことだし、チャーリーにはお帰りいただこうかね」
「ちょっと待った」
 岡本がゲームを終えようとすると、ふいに間山が手を挙げた。
「僕も質問させてもらってもいいかな?」
「おっ! 間山先生もオカルトに興味が出てきた感じっすか?」
「そういうわけではないけど……ちょっと聞きたいことがあってね」
 間山はゲームの紙に視線を向け、尋ねた。
「この中に姿はいるかな?」
「……」
 飯沼、不知火はあえて反応せず、押し黙る。
(偶然とはいえ、嫌な質問してくるわね……。贄原君が余計なこと言わないといいけど)
 飯沼はチラッと陽斗を見る。
 案の定、陽斗は間山の言葉に驚いていた。
「えっ?! チャーリーが見えてる人がいるんですか?!」
「さぁ、どうだろうね? いたら面白いかなーと思っただけさ」
「間山先生、分かってるぅ~!」
「よっ、盛り上げ上手!」
「エンターテイナー!」
 間山の質問に、成田達は盛り上がる。
 しかし彼らの盛り上がりとは裏腹に、鉛筆は一向に動かなかった。蒼劔がいなくなってしまった以上、当然だろう。
 盛り上がっていた成田達も、異変に気づいた。
「チャーリー、帰っちゃったんでしょうか?」
「そんな馬鹿な! チャーリーが勝手に帰るなんて聞いたことがないぞ?」
「答えたくないのかなぁ?」
 ざわつく彼らに、飯沼はあせった。
(……まずいわね、とにかく鉛筆を動かさないと。机でも蹴ってやろうかしら)
 間山は机をジッと見ており、隙がない。飯沼が机を蹴った瞬間を目撃されれば、たちまち怪しまれるだろう。
 飯沼は動くに動けず、時間だけが過ぎていく。
 その時、
「ふぇくしょんっ!」
 と、隣で陽斗がくしゃみをした。
 陽斗のくしゃみは紙まで届き、鉛筆を転がす。転がった鉛筆は「YES」と「NO」の間に引かれた線の上で止まった。
「動いた!」
「けど……これ、どっちだ?!」
「YESとNOの間ということは、見えているが見えていないってことか?!」
「それ、どういう意味っすか?!」
 成田達は結果を見て、今までで一番ざわつく。
 チャーリーの代わりをしていた蒼劔が今はいないため、ある意味正しい結果ではあった。
「なんだかイマイチな結果になっちゃったね。ゴメンね?」
 間山は申し訳なさそうに謝る。
 成田達はすかさず、間山をかばった。
「そんなことないですよ!」
「スリリングな質問、ありがとうございました!」
「せっかくなら、不知火先生もチャーリーに質問します?」
 同じ顧問である不知火にも質問するようすすめたが、「私は遠慮しておく」と断られた。
「いいんですか? 後で"あの時、質問しておけば良かった"って文句言わないでくださいよ?」
「構わない。例えチャーリーであろうとも、だろうからね。さっさとチャーリーを帰してやってくれ」
「ほーい」
 岡本は「チャーリーチャーリー、キャンウィーストップ?」と、チャーリーを帰す呪文を唱える。
 どこからか隙間風が吹き込み、鉛筆を「YES」へ移動させた。最後にみんなで「グッバイ」と言い、チャーリーゲームは終了した。
(チャーリーが答えを出せないかもしれないなんて、よっぽど難しい問題なんだなぁ。不知火先生らしいや)
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