贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第13話(第2部 第2話)「新入生ハント」

肆:チャーリーゲーム(オリエンテーション)

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「本当かーい?!」
 驚く陽斗達とは裏腹に、岡本は目を輝かせる。
 新入生は「はい!」と力強く頷いた。彼女の瞳も、岡本に負けないくらい輝いていた。
「私、子供の頃からオカルトやホラーが大好きなんです。節木高校を選んだのも、オカルト研究部に入りたかったからで……もちろん、去年の文化祭の節木高校七不思議体験にも参加させていただきました! すっごく面白かったです! 私もあんな出し物がやりたいです!」
「パーフェクツ! 合格だ! 君をオカ研の部員に認めよう!」
 岡本はすっかり新入生を気に入り、彼女の入部を受け入れた。
 新入生は「やったー!」と無邪気に喜び、自己紹介した。
「私、二星にほしフレイって言います。華鬼橋さんと同じクラスです。これからよろしくお願いします!」
「私は部長の岡本留美子だ。調べたいことやネタがあったら、じゃんじゃん言ってくれたまえよ?」
「了解です!」
 岡本は暗梨にも目を向け、尋ねた。
「君もここにいるってことは、うちのオカ研に入部するんだよね?」
「そのつもりだよ」
 暗梨より先に、不知火が頷く。
 その横で暗梨は「は?」と目を見開いていた。
「ちょっと待ってよ! 私、ファッション研究部に入るつもりなんだけど?!」
「知ってる。でも、君にはオカ研に入ってもらわなくちゃならない」
「なんでよ!」
 暗梨はクワッと牙を剥く。
 不知火は淡々と説明した。
「部員は一人でも多い方がいいからね。このままではオカルト研究部は部員が集まらず、廃部になってしまう」
 同時に、蒼劔や暗梨にしか聞こえない声量で、こうも言った。
「この学校には既に、。君は私の目の届く範囲にいてもらわなくては困るのだよ」
「ッ?!」
 術者協会の名を耳にし、蒼劔はハッとする。
 乱魔の相手をしながらも陽斗の護衛を続けていたが、不知火以外の術者の気配など、全く感じなかった。
(いったい、いつから……? まさか、教師や生徒の中に奴らが?)
「困るのはアンタだけでしょ? 私には関係ない」
 当の暗梨は全く危機感がなく、言うことを聞こうとしない。
 岡本と二星はオカ研のことを言われていると思ったのか、「なんだとー?!」とプンスコ怒る。かたや、成田達は「それもそうだよな」と暗梨の気持ちを汲み、納得していた。
「いくら部員が足らないからって、無理強いは良くないよなぁ」
「暗梨ちゃん、お洋服大好きだもんね」
「気が変わって、幽霊部員になりに来るやつもいるかもしれない」
「……まぁ、それもそうだが」
 不知火はうーむと考えた末、ポンっと手を打った。
「いいだろう。今日中に代わりの部員を連れて来られたら、ファッション研究部とやらへの入部を許可してもいい」
「本当?!」
 途端に、暗梨の表情が明るくなる。
 不知火は無表情のまま頷いた。
「ただし、先程の岡本君のような横暴はしないこと。刻限は最終下校のチャイムが鳴るまで。それ以上を越したら、なんと言おうが入部してもらうよ」
「部員一人なんて、楽勝よ! 五分で連れて来てやるわ!」
 宣言するなり、暗梨は部室を飛び出す。
 陸上部に負けない脚力を発揮し、彼女の後ろ姿は一瞬で消えた。
「華鬼橋ちゃん、はっや!」
「あんなに足が速いなら、運動部に入ったらいいのに!」
「アレなら、どんな心霊スポットでも活躍できそうだねぇ……」
 周りが暗梨の運動神経の良さを羨む中、元鬼の飯沼は目立ちまくる後輩にドン引きしていた。
(あの子、バカじゃないの?! どう考えても、普通の女子高生の脚力じゃないでしょ! 不知火が言ってたこと、聞いてなかったのかしら?!)
 今にも怒り散らしたかったが、周りの目があるので自重した。
 一方、もっと自由な暗梨を知っている陽斗と蒼劔は、
「暗梨さん、ちゃんと走ってくれるようになったんだね」
「あぁ。今までの暗梨だったら、人目など気にせず飛んでいたところだ」
 と小声で、暗梨の成長っぷりを感心していた。

     ◯

「さて! 我々はゴスっ娘を待っている間、オリエンテーションでもしようかね! 何かやりたい儀式や遊びはあるかな?」
 岡本が尋ねると、さっそく二星が手を挙げた。
「はいはーい! 私、チャーリーゲームがやってみたいでーす!」
「お! 二星ちゃん、わかってるぅ~」
「私もやってみたかったんですよねー」
 オカルトマニアが盛り上がる中、オカルトに詳しくない陽斗と蒼劔は首を傾げた。
「ちゃありぃげぇむ? なんだそれは」
「コックリさんの親戚かな?」
「……そんなところね」
 飯沼と遠井はチャーリーゲームを知っているらしく、神妙な顔で青ざめている。
 人間に戻るために研究していた飯沼はともかく、オカルトに全く興味のないはずの遠井まで知っているのは意外だった。
「飯沼さん、知ってるの?」
「えぇ。なんでも、チャーリーっていう悪魔を呼び出して、質問するゲームだそうよ。儀式の道具がひとりでに動いたとか、プレイヤーが悪魔に取り憑かれたとか、色々ウワサされてるみたい」
「ただの思い込みだ。うちの塾でもやったバカがいたが、集団ヒステリーを起こして警察沙汰になった。おかげでその日は休講になり、後日補講を受ける羽目になった。せっかく、成田から映画に誘われていたのに」
 遠井は忌々しそうに舌打ちする。
 飯沼も「そうそう」と遠井に同意し、補足した。
「チャーリーゲームもコックリさんと一緒で、ちゃんとカラクリがあるのよ。道具が動いたのは誰かの息がかかって動いただけ、悪魔に憑依されたように見えるのは極度の緊張による集団ヒステリー……そもそも、チャーリーなんていう悪魔は存在していないらしいしね」
「そうなの?!」
「まぁ、俺も聞いたことがないくらいだからな」
「んもぉ~。そんな夢のないこと言わないでおくれよ、飯沼くぅ~ん」
 現実主義な飯沼に、岡本はぶーぶーと文句を言う。当然、蒼劔の声は聞こえていない。
 でも、と飯沼は何やら話し込んでいる不知火と間山を指差した。
「そうでも言っておかないとやらせてもらえないと思いますよ? よその学校ではチャーリーゲームを禁止しているところもあるみたいですから」
「え?」
「そうなんですか?」
 間山は不知火との話を切り上げ、「まぁね」と苦笑いする。
 二人はオリエンテーションでチャーリーゲームをやらせるか否か、真剣に協議していた。
「うちの学校では禁止されてこそいないけど、推奨しているわけでもないからね。集団ヒステリーが起こらないとも限らないし、君達にはこれ以上問題を起こして欲しくないんだよ」
 間山は真剣にオカ研を心配していたが、岡本はヘラヘラ笑って言った。
「へーきへーき! 我々は既に、本物の霊を見たり、異界に閉じ込められたりしてるんですよ? 今さら、集団ヒステリーなんて起こすわけないじゃないですかぁ」
「でも、二星さんはこういうのやったことないんだろう?」
「チャーリーはまだですけど、コックリさんとUFOなら呼び出そうとしたことありますよ」
「そうなんだ……じゃあ、いっか!」
「いいのかよ」
 間山は思いのほか、すんなり受け入れる。
 思わず、遠井は冷静にツッコんだ。
「お! 間山っち、意外とノリいいねぇ」
「本当にいいんすか?!」
 間山は「いいの、いいの」と、不知火に目をやった。
「何か起きたら、不知火先生が対処してくれるそうですから」
「……」
 不知火は「余計なことを」と言いたげに、間山を見下ろす。間山は先輩である不知火に臆さず、ただニコニコと微笑む。
 二人の間に流れる独特の空気に、蒼劔は違和感を感じてならなかった。
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