贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第12話(第2部 第1話)「桜下乱魔・偽りの春」

弐:二年生? 新学期の違和感

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 蒼劔不在の春休みを終え、新学期が始まった。陽斗は今年から晴れて、二年生になる。
 満開の桜が咲き乱れる中、校門を抜けると「おはよう、陽斗!」と友人の成田が駆け寄ってきた。
「クラス分け見てきたか? 俺達、また同じクラスだぜ!」
「本当? やった!」
「俺、岡本部長に挨拶して来なくちゃいけないからさ。先に教室に行っててくれ!」
「うん! また後でね!」
 成田は桜の花びら舞い散る中、足早に去っていく。
 他に誰が同じクラスなのか確認したかったが、昇降口に張り出されたクラス分け表の前には人だかりが出来ていた。ジャンプしても、人と人の隙間から覗こうとしても、クラス分け表は見えなかった。
「ま、いっか。教室に行けば分かるもんね」
 諦めて靴を履き替え、教室に向かう。
 その時、
「おはよう、贄原君」
 と背後から声をかけられた。
 反射的に振り返る。そこには見知った顔が立っていた。
「おはよう、! 飯沼さんはどこのクラスになったの?」
 飯沼は生前と変わらない姿で、穏やかに微笑んだ。
「贄原君と同じクラスよ。今年もよろしくね」
「わーい! 飯沼さんとも一緒なんて、嬉しいなぁ。また飯沼さんのお弁当が食べられるんだね!」
「ちょっと、私じゃなくてお弁当が目当てなの?」
「そ、そんなことないよ! たぶん……」
「怪しいなぁ」
 陽斗は飯沼と共に、新しい教室へ向かった。
 彼女と並んで歩いていると、妙に胸が痛んだ。
(何でだろう? すっごく嬉しいのに、同じくらい悲しい……変なの)
 不思議に思いながらも、口には出さなかった。飯沼に変に思われたくなかった。
 陽斗は飯沼が去年死んだことを、完全に忘れていた。

     ◯

 教室には成田、神服部、遠井、岡本と、見知ったメンバーがそろっていた。
「よ! やっと来たか、お二人さん!」
「一緒に教室まで来るなんて、仲良いんだね」
「付き合っているんじゃないのか?」
「ち、違うよ! たまたま下駄箱の前で会っただけだよ!」
 陽斗は慌てて言い訳する。
 飯沼も顔を真っ赤にし、うつむいていた。
「それより、何で岡本先輩がここにいるんですか? 三年生に進級されたはずですよね?」
「おや、言ってなかったかな? オカルトにかける時間を削ってまで、受験勉強するのが嫌でね……留年したのさ! これでまた一年、オカルト活動に集中できる!」
「い、いくらオカルトが好きだからって、そこまでしなくても……」
 その時、予鈴が鳴った。同時に、不知火が教室へ入ってくる。
 一同は「じゃあ、また後で」と別れ、各々の席についた。陽斗と飯沼は去年と同じ、窓側の一番後ろと、その横の席だった。
「では、ホームルームを始める。私は君達の担任の不知火具道だ。担当は理科、部活はオカルト研究部の顧問をしている。今年一年間、よろしく」
(今年の担任の先生、不知火先生だったんだ……成田君達もいるし、すっごい偶然だなぁ)
 まさかのオカ研大集合に、陽斗は驚く。
 他のメンバーも嬉しそうに、不知火に手を振っていた。
「よろしく、不知火先生ぃーっ!」
「教室でオカ研のミーティングしてもいいですかー!」
「私はコックリさんがやりたいでーす!」
「塾の宿題がしたいので、ホームルーム中にやってもいいですかー?」
「やかましい」
 不知火が彼らを一喝し、教室から笑いが起きる。
 陽斗も一緒になって笑っていたが、ふと飯沼を横目に見て、ハッとした。
 飯沼は不知火を凝視し、青ざめていた。恐れに似た表情ではあったが、不知火そのものを恐れているというよりも、に恐怖を感じている様子だった。
「嘘。あの男でさえも抗えないというの?」
 放心状態で、うわ言のように呟く。
 今まで見たことのない様子の彼女に、陽斗は心配になった。
「飯沼さん、大丈夫? どこか具合が悪いの?」
「えっ?」
 飯沼は一瞬、陽斗が何を言っているのか分からないと言わんばかりに、呆然と振り返った。
 やがて正気に戻ると、「なんでもないわ」と笑顔で取り繕った。
「本当に?」
「えぇ、ちょっとびっくりしただけ。まさか不知火……先生が担任だなんて、思っても見なかったから」
「ね! 僕もびっくりしちゃったよー。でも、みんな同じクラスで良かったね!」
「……本当に、そう思ってる?」
「うん!」
 陽斗は満面の笑みで頷く。
 一切疑問を抱いていない陽斗に、飯沼は「さすが贄原君ね」と呆れた。

     ◯

「さっそくだが、転校生を紹介する。入りなさい」
 不知火が呼んだ直後、教室のドアが乱暴に開かれた。笑いが残っていた教室が、一気に静まり返る。
 外からからぬっと顔を出したのは、中学生くらいに成長した黒縄だった。節木高校の制服を雑に着こなし、中身が入っているか怪しいペラッペラの鞄を肩にかけている。引っ込めているのか、ツノは生えていなかった。
「こ、黒縄君?!」
 まさかの転校生の登場に、陽斗は思わず立ち上がった。教室中から視線を向けられる。
 黒縄も煩わしそうに、陽斗を睨んだ。
「あァ? うるせェぞ、クソガキ」
「いいからさっさと名前を書きなさい」
「チッ、わァったよ」
 黒縄は不知火に言われるがまま、黒板に白いチョークで「黒城 丈」と書いた。意外と達筆だ。
 不知火は黒縄が名前を書き終えたのを見計らい、彼を生徒達に紹介した。
「えー、地獄谷じごくだに高校から転校してきた、黒城くろしろたけ君だ。みんな、仲良くするように」
黒城クロキジョーだ! 勝手に芋っぽい読み仮名に変えンなッ!」
「いいじゃないか、親しみやすくて。君、無駄に人を威圧するクセがあるから。あ、席は贄原君の前ね。はい、拍手ー」
 不知火は早々に切り上げ、拍手をうながす。
 黒縄は何やら抗議していたが、皆の拍手にかき消されて聞こえなかった。やがて諦めた様子で、陽斗の前の席へ乱暴に座った。
「ったく、目白のヤロォ……教師だからって、いい気になりやがって」
「黒縄君、何で学校にいるの?! 僕、何も聞いてないんだけど!」
「言ってねェからな」
「言ってよ!」
「仕方ねェだろ。乱魔のヤローにバレねェよう、護衛として内密に動いてンだから」
 黒縄は周りに聞こえないよう、声をひそめて言った。
「ホントは俺だって、蒼劔みてェにトンズラしてェけどよ。テメェを守るって約束したからには、離れるわけにはいかねェだろうが」
「黒縄君……!」
「あ、教科書全部置いてきたから貸せ。あと、ノートと筆記用具も」
「黒縄君ッ!」
 そんな二人のやり取りを、飯沼は無言で眺めていた。
 不知火の時と同様、恐怖の眼差しで黒縄の顔を凝視している。彼女の視線が気になったのか、黒縄は怪訝そうに飯沼へ尋ねた。
「なんか用か?」
「……私のこと、覚えてる?」
「いや? 知らね。お前、俺に気でもあるのか?」
「は? あるわけないでしょ。自意識過剰も大概にしなさいよ、
「よりダサくすンな!」
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