贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第11話「術者協会の罠」

参:奪い、奪われ、奪え

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 障子の先には見慣れない鳥居が立っていた。姿はおぼろげで、やがて消え、果てのない闇と化した。
「……逃げたか」
 蒼劔は諦め、障子を閉じた。
 青年も蒼劔達と同様、どこかの鳥居を入口に会議へ参加していたのだろう。鳥居が消えた以上、追う手段はない。
 会議室へ戻ると、黒縄が術者達と言い争っていた。
「そら、見ろ! 結局テメェらは俺を暴走させて殺すために呼んだンじゃねェか!」
「誤解だ! モリナカが勝手にしでかしたんだ! 我々は関係ない!」
「だったら、そのモリナカなにがしをさっさと連れ戻せ! 匿うなら、テメェも同罪だからな!」
 黒縄はキレ散らかし、術者達は自らの保身に走る。どうやら「計画」は上手くいったらしい。
 事態を静観していた晴霞は「まぁ、待ちぃ」と、双方を落ち着かせた。
「一旦、状況を整理しよか。黒縄が持っとった魔石が、何者かによって破壊された。君らはこの事態を予見し、あらかじめ偽物にすり替えといた。おかげで、暴走を防ぐことができた。犯人は弾の発射先におったモリナカ君である……間違いあらへんか?」
「はい。間違いありません」
 術者の一人が頷いた。
「つい先程、モリナカカリヒトが本会議室を退出したとの報告を受けました。弾の発射地点や使用武器から考えても、彼が犯人なのは間違いないかと」
「まぁ、しゃあないか。モリナカ君は前から黒縄のこと恨んどったみたいやし」
「ンな危険なヤツ、会議に参加させンじゃねェ!」
「そういう決まりやさかい、堪忍え。ほな残念やけど、モリナカ君は指名手配しといてな。何か異論ある人ー?」
「……」
 術者達は押し黙っている。
 蒼劔達も黒縄の無事が確保できるなら、それで良かった。
「ほな、異論はあらへんちゅうことで……本物の魔石、見してもろてもええ?」
「ええわけあるか」
 黒縄は晴霞を睨んだ。
「俺はテメェらの身内に殺されかけたんだぞ? 今さら信用できるわけがねェ。俺を恨んでるヤツが俺を狙ってンなら、この場にいる全員がそうだろうが」
 それに、と黒縄はニヤリと笑みを浮かべた。
「そもそも俺は本物の魔石を
「な、なんやってぇッ?!」
 晴霞含め、術者達がざわつく。命に等しい魔石を持ち歩いていないなど、考えもしなかったのだろう。
 当の黒縄は「この瞬間を待っていた」とばかりに、ヘラヘラと笑っていた。
「だって"持って来い"とは聞いてねェしィ? そもそも会議があるって知ったのも今朝だったしィ? 慌てて準備してたら、うっかり忘れてきちまってよォ~」
「っ! 不知火ッ!」
「すみませーん、忘れてましたー(棒)。まさか黒縄がー、こんなうっかりさんだとは思ってもみなかったのでー(棒)」
「俺もー、全く気づかなかったなー(棒)」
 蒼劔と不知火もあからさまな棒読みで返す。
 周りの術者達はすぐに「こいつら、わざと置いてきたな」と気づいた。
「魔石の状態を知りてェなら、データでも画像でもくれてやらァ。改ざんできねェよう、調査は不知火コイツに任せる。それでいいだろ?」
「……まぁ、えぇか。無理矢理奪って、悪者にされたないし。えぇよ、それで。ほんまはうちで保管しときたいんやけどなぁ」
 背後の障子が開く。
 行きにくぐってきた鳥居が見えた。
「これにて、会議は終了。データは今日中に頼むわ。早うお帰り」
「はい。失礼します」
 不知火は晴霞に頭を下げ、部屋を出て行く。
 蒼劔と黒縄も後に続き、会議室を退出した。
「……よろしかったのですか? 彼らを帰してしまって」
 心配する術者達に対し、晴霞は「えぇの、えぇの」と、狐面の口をニヤリと歪ませた。
「さっき紫野ノ瑪らから、黒縄の魔石を手に入れたって連絡あったさかい。もう用ないわ」

       ・

 蒼劔達が会議に参加するために鳥居をくぐった直後、節木荘には珍客が訪れていた。
「よっ、朱羅。久しぶりだな」
「突然押しかけて申し訳ない」
「羅門お兄様! 紫野ノ瑪お兄様! ご息災でいらっしゃいましたか!」
 朱羅がインターホンの音に気づき、ドアを開くと、紫野ノ瑪と羅門が並んで立っていた。不知火と出くわした時とは違い、ひたいや頭からツノを生やしている。
 朱羅は二人の顔を見た瞬間、瞳を涙であふれさせた。彼にとっては数百年ぶりの育ての親との再会で、舞い上がりそうなほど嬉しかった。
「どうぞ、上がっていってください! 主人もじき帰って参りますので! 幽空お兄様はいつものように宙へ浮いていらっしゃるのですか?」
 朱羅は玄関から身を乗り出し、もう一人の兄を探した。
 しかしいくら探しても、宙どころか屋根の上にも空にも、幽空の姿はなかった。
「幽空お兄様ー! 降参ですー! 出て来てくださーい! 美味しいお茶菓子、ご用意してありますよー!」
「……おやめなさい、朱羅。幽空はここにはおりませんよ」
 幽空がいるものと思い込んでいる彼を、紫野ノ瑪は止めた。
 紫野ノ瑪も羅門もやけに表情が曇っていた。
「いないって……なぜ?」
 朱羅の問いに、羅門は怒りを交えて答えた。
「連れて行かれたんだよ! 術者協会の連中に!」

       ・

「羅門、すっごーい! 一番やる気なかったのに、お芝居上手じゃん!」
 その様子を、幽空は近くの民家の中から双眼鏡越しに覗き見ていた。術者どころか、幽空以外には誰もいない。民家の住人は冬休みの長期旅行で出払っているため、留守だった。
 音声は紫野ノ瑪と羅門がつけているマイクから聞いている。小型の隠しカメラも装着しており、スマホでモニターできるようになっていた。
「お、侵入成功」
 幽空は二人が節木荘の中へ招き入れられたのを確認すると、双眼鏡を仕舞った。入れ替わりにスマホを取り出し、状況を見守る。
 幽空は術者協会にさらわれてなどいなかった。それは紫野ノ瑪も羅門も承知で、朱羅から魔石のありかを聞き出すためだけに嘘をついた。
「ごめんねぇ、朱羅ー。僕達もお仕事だからさぁ……許して?」

       ・

 紫野ノ瑪と羅門は朱羅に案内されるまま、リビングのソファに腰掛けると、口を重く開いた。
「昨日、術者協会から連絡が来た。"幽空を無事に返して欲しくば、黒縄の魔石を持って来い。魔石のありかは、黒縄の部下である朱羅が知っているはずだ"……と」
「追い出したことは謝る! どうか、幽空のために魔石を譲ってくれ!」
 二人は頭を下げ、朱羅に頼み込んだ。
 彼らは晴霞の命令により、魔石を奪いに来た。蒼劔が護衛として同行していたため、モリナカが失敗する確率が高まったために、急きょ依頼されたのだ。
 部下である朱羅の頼みとあれば、強情な黒縄でも首を縦に振るかもしれない。もし断られたとしても、彼に対する信頼を失った朱羅を術者協会へ引き抜くチャンスになる。
(朱羅、頼みます。魔石を渡してください)
(いくら敵とはいえ、お前を手にかけたかないんだよ!)
 祈る二人に、朱羅は「分かりました!」と力強く頷いた。
「そういうことでしたら、私が幽空お兄様を助けに参ります!」
「……え?」
 途端に二人の顔が凍りついた。顔を上げ、朱羅の正気を疑う。
 一方、朱羅は金棒片手に熱く語っていた。
「あの温厚な幽空お兄様が術者連中に捕まるなど、何かの間違いです! きっと、同姓同名の極悪鬼と勘違いしたのです! いかに幽空お兄様が人畜無害でのんびりのほほんポワポワホニャホニャか、私が証言して参ります!」
「ま、待て、朱羅! 奴らはまともに俺達の話を聞くような連中じゃねぇ!」
「そ、そうですよ! 大人しく魔石を渡してしまいましょう?」
 彼らの説得も虚しく、朱羅は首を振った。
「お断りします。この魔石は、黒縄様の命そのもの……主人の命を、簡単に渡すわけにはいきません。例え、家族であろうとも」
「……そうですか」
「じゃあ、仕方ねぇな」
 朱羅の答えを聞き、紫野ノ瑪と羅門の目が一気に冷たくなる。
 紫野ノ瑪は槍、羅門は闇をたずさえ、朱羅に襲いかかった。
「ならば……力ずくで奪い取るまでだ」
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