贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第11話「術者協会の罠」

壱:ワナ、罠、wannar!

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「……以上が、名曽野市で起こった全てです。何か不明な点はございますか?」
 不知火は一同を見回し、尋ねる。暗闇の中、十三の人の影が不知火を囲うように浮き上がっている。そのほとんどは姿が判然とせず、年齢も性別も分からない。
 唯一、不知火の正面に座る男だけが、姿がはっきりとしていた。白い狐面を被った銀髪の男で、細身の白い狩衣を纏っている。狐面の男は悠然と足を組み、「そうやねぇ……」と不知火の横に立つ黒縄へ視線を向けた。
「せやったら、黒縄の妖力を封じたいう魔石……見せてもろてもええ? ほんまに安全か確かめたいんよ」
「見せたくないっつったら?」
「僕は構へんけど、他の人らはよぅ思わへんのとちゃうか?」
「……チッ。しゃァねェな」
 黒縄は首に下げている魔石を服の下から渋々取り出し、掲げた。
「これで満足か?」
「うん。おおきに」
 直後、どこからともなく「パンッ」と発砲音が聞こえ、魔石が爆ぜた。
「なッ!」
「テメェ、謀ったなッ!」
 どす黒い妖気が黒煙のごとく魔石からあふれ、黒縄を包みこむ。周りの術者達から悲鳴が上がった。
 すさまじい妖気に、不知火すらも近づくことはできない。弾が発射された方向に目を凝らすと、チカッと銃口に光が反射したのが見えた。
「会長、犯人が九時の方角へ逃亡しました。追いますか?」
 不知火は怒りを押し殺し、狐面の男に尋ねる。
「後にしい。今は黒縄をなんとかせんと」
 狐面の男は席から動かず、冷静に返す。まるでこの事態を予見していたかのような落ち着きだった。
「総員、集合ー。暴走した鬼を退治するでー」
 術でメガホンを出し、混乱している術者達に指示を出す。
 術者達は落ち着きを取り戻し、黒縄に向かって闇の中から術や札を投じた。
 黒縄はそれらを有り余る妖力で跳ね返すが、術者は増える一方で、徐々に押されていった。
「お待ち下さい! 魔石で妖力を吸い取れば、被害は出ません!」
 不知火は黒縄が跳ね返しきれない術や札を結界で防ぎつつ、進言する。
 しかし狐面の男は「近づけへんのに、どうやって魔石使う気なん?」と鼻で笑った。
「そないな危険な鬼、生かしとく方が危ないやろ。早う仕留めなさい、目白。邪魔立てするんやったら、君も一緒に始末せんとあかんようになる」
「……」
 不知火は押し黙る。
 やがて彼の言葉に従い、黒縄を守るのをやめた。
「……すまない、黒縄君」
 錫杖を元の大きさに戻し、柄で黒縄を貫く。
 一帯に、黒縄の断末魔が響き渡った。

       ・

「はい、ダメェーッ! またゲームオーバーかよチクショー!」
 五代は怒りの形相で飛び起きる。
 つけていた少女漫画チックなアイマスクを畳に向かって、思い切り叩きつけた。
「うわっ?! 五代さん、どうしたの? ゲームで失敗しちゃった?」
 タイミング悪くドアを開いた陽斗は、驚いて飛び上がる。
 クリスマスの一件から数日が経った、年末。冬休みの数学の宿題で分からないところがあったので、五代に聞こうと彼の部屋を訪れたところだった。
「お、陽斗氏じゃーん。なになに……冬休みの数学の宿題で分からない問題がある? いーな、いーなっ! オイラが抱えてる問題にも答えがあったらいいのになァァァァッ!」
 五代は陽斗の思考を読み取り、羨ましそうに絶叫する。
 いつものことなので、陽斗は耳に手を当ててやり過ごした。
「五代さんも宿題があるの? 学校に行ってないのに?」
「それがあるのヨォ! 目白大先生から出された、超難解な問題の宿題が! しかも〆切は明日!」
「明日?! じゃあ、急がないと! 僕が分かる分野か知らないけど、手伝うよ! どんな問題なの?」
「はぅぅ……陽斗氏、優ちぃ……目白氏とは大違いだぉ……」
 五代は瞳を潤ませ、陽斗の優しさに感動する。
 一階にいる黒縄に聞こえないよう「カムカム」と陽斗を呼び寄せ、不知火から出されたという宿題について打ち明けた。
「実はここだけの話、明日の術者協会会議に黒縄氏が呼び出しかかってんの。あの人、クリスマスにやらかしたっしょ? その説明に来いって言われてるんだって」
「術者さん達の会議かー。面白そうだね!」
「面白いもんか! もしその会議に黒縄氏を連れて行ったらどうなるか、目白氏に頼まれていろんなパターンでシミュレーションしてるんだけど、どんなパターンでも術者達に事故を装って殺されちゃうんだよねー」
「えぇっ?! 何でそんなひどいことになるの?! 説明しに行くだけなんだよね?!」
「……はなから、黒縄を始末するために呼ぶのだろうな」
 そこへ五代の悲鳴を聞きつけ、蒼劔も部屋に来た。廊下から二人の会話を聞いていたらしく、表情が硬かった。
「奴は術者達に恨まれている。魔石という弱点を知った以上、この機を逃すまい」
「ちな、行かないパターンでも百パー即死っす。術者の刺客が節木荘に押しかけてくるんで。逃げても、地の果てまで追って来るっす。ガチしつこい」
「何かいい方法はないのかな?」
「あったら、おせーて。オイラ、もう思いつかない。きゅーけー」
 五代は冷蔵庫から2リットルペットボトルのコーラを取り出し、一気に飲み干す。
 陽斗は「うーん」と首を傾げ、黒縄が生存できそうな方法を考えた。
「いろんなパターンで試したって言ってたけど、具体的にはどんなパターンを試したの?」
「朱羅氏も連れて行ったりとかー、魔石を偽物とすり替えたりとかー、黒縄氏の態度を低姿勢にしてみたりとかー、賄賂を渡したりとかー、みんなで節木荘に籠城したりとかかにゃー。全部ダメだったけど」
「蒼劔君を連れて行くのは? 蒼劔君、悪い妖怪とかお化けとか退治してるし、術者さん達も信用してくれるんじゃない?」
「それやると、陽斗氏とオイラが術者協会の連中に拉致られるんじゃよ。いくら守りをガッチガチに固めても、向こうの戦力が未知数な以上、絶対安全とは言い切れんでのぅ」
 ふと、陽斗は作りかけのプラモデルと一緒に床に転がっているあるものに目を留め、ひらめいた。
「ねぇ、あれを使えばいいんじゃない?」
「ひょ?」
「ん?」
 蒼劔と五代もを見る。
 最初はをどう使うか分からなかったが、陽斗の説明を聞いて理解した。
「なるほど! アレを使えば上手くだませそうっす!」
「それだけでだまされるだろうか? しみゅれーしょんでは失敗したのだろう?」
「ノンノン! タイミングをずらせば、結果は変わるさ! 黒縄氏にも協力してもらって、クオリティを上げるべ! 問題は、どんな術者が来るかだけど……いっそ、予知して対策を練るのもいいかもネ! このまま何もしなかったら、取っ捕まるだけだし!」
 五代はアイマスクをつけて畳の上に寝転がり、再度シミュレーションした。寝言で「あーでもない」「いーでもない」と、終始つぶやく。
 何パターンか試したのち、五代はアイマスクをつけたまま飛び起きた。
「はい、ビンゴー! 全員生き残って、なるべく協会から恨まれない方法を見つけたよーん!」
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