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第10.5話「ブラック・クリスマス side暗梨」
参:心変わり、からの?
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暗梨は足元に真っ赤な彼岸花を咲かせ、目当てのゴスロリ専門店へ飛んだ。
「ひぃぃっ! 誰か助けてー!」
「マネキンが……マネキンが……!」
「く、苦しい……」
店では異形化したマネキンが客や店員を追いかけ回していた。真っ黒な眼孔と口をかっ開き、人間を捕らえては霊力を吸い取る。
試着室に逃げ込む者もいたが、もれなく鏡の中から伸びた手によって引き込まれていった。
「ちょっと、もー。どうせ暴れるなら、商品は汚さずに暴れなさいよねー」
暗梨は床に散らばった服やアクセサリーを見て、呆れる。襲われている人間には目もくれず、まだ無事な商品を物色し始めた。気に入った品は全て、不知火の自宅へ送る。
「イラッシャイマセェ」
「ドウゾ、ゴ覧下サイマセェェ」
マネキン達は同じ異形である暗梨にも狙いを定め、奇声を上げながら襲いかかってくる。暗梨は彼らには目もくれず「うっさい」と、名曽野駅のホームへ転移させた。
目の前で仲間が消えても、マネキン達は機械的に暗梨に襲いかかる。やがて暗梨が店の商品を物色し終えた頃には、店にいたマネキンは全て消えていた。
「おーしまいっ。次の店行こーっと」
「お姉ちゃん!」
店を出ようとしたその時、試着室から声が聞こえた。
「ッ!」
暗梨は思わず、ハッと振り返る。
声が聞こえた試着室のカーテンはマネキンによって、ズタズタに破かれていた。そこに隠れていた中学生くらいの少女が、鏡から伸びた手によって鏡の中へ引き込まれようとしている。既に、体の半分が鏡に飲み込まれていた。
それを、少女の姉と思しき高校生くらいの少女が妹の体にしがみつき、必死に助け出そうとしていた。
「お姉ちゃん、手を離して! このままじゃお姉ちゃんまで巻き込まれちゃう!」
「絶対に嫌! 大事な妹をクリスマスに亡くすなんて、そんなの嫌!」
姉一人では力及ばず、妹は徐々に鏡の中へと沈んでいく。それでも姉は手を諦めようとはしなかった。
「……」
互いを想い合う姉妹から、暗梨は目を離せなかった。
彼女の脳裏には妹である明梨との記憶が蘇っていた。
・
暗梨が彼岸華村にいた頃、たびたび村人が鬼となり、暴れることがあった。原因は饗呀と暗梨の企てによるものだったのだが、繰り返し一年を送る中で、運悪く暗梨が鬼に戻った村人に襲われることが何度かあった。
一人の時は、本来忘れている鬼の身体能力を遺憾なく発揮し、逃げ延びることができた。
しかし鬼であることを忘れている他の村人と一緒にいる時は、人らしく振る舞わねばならず逃げ出せなかった。それが明梨だった場合、毎回彼女が鬼の前に立ち塞がり、暗梨をかばった。
「暗梨、早く真紅君達を呼んで来て! 鬼は私が引きつけるから!」
「何言ってんの? あんたなんか、助けが来るまで保つわけないでしょ」
暗梨は鼻で笑う。
明梨も「だよね」と悲しげに笑った。
「でも、いいんだ。暗梨は家業を継がなくちゃいけないでしょ? 私がいなくなっても誰も困らないけど、暗梨がいなくなったらみんな物資が届かなくなって困るから。お父様とお母様も暗梨が生き残った方が喜ぶと思うわ」
「……ハァ? 何で私があいつらのために生き残らなきゃなんないのよ」
その時は明梨の言葉がしゃくに触り、無理やり明梨の手を引っ張って逃げた。
明梨は「暗梨が自分を救ってくれた」と思っているようだったが、いつだって暗梨は自分のために行動していた。一度も明梨を想ったことも、ましてや妹だと思ったこともない。
芝居を演じる上で必要な、偽りの関係……そう思っていたはずだった。
・
「なのに……なのに、何であの人間共を見ていると、心の奥がざわつくのよッ!」
暗梨は鏡に彼岸花を咲かせ、鏡の中から伸びた手を名曽野駅のホームへ飛ばした。
「うわっ!」
「お姉ちゃん!」
手が消えたことで、妹は姉によって鏡の中から引っ張り出される。そのまま姉は勢い余って床へ倒れ、妹も姉の上に重なった。
「お姉ちゃん、大丈夫?!」
「妹、重い……また太った?」
「太ってない! クリスマスの料理、食べ過ぎただけ!」
姉妹はホッとした様子で、軽口を叩き合う。
暗梨はその微笑ましいやり取りをこれ以上見たくなくて、彼女達を節木駅へ転移させた。
「……あ、名曽野駅のホームに飛ばしてやっても良かったかも。しくったなー」
そう後悔しながらも、店にいた他の人間も節木駅へ送った。姉妹以外の人間はマネキンに霊力を吸われ、意識を失って倒れていた。
・
「ショッピングって気分でもなくなったし、映画でも見に行くかな」
映画館の正確な場所は分からなかったため、とりあえず駅前に飛んだ。
そこには大勢の学生が集まっていた。皆、何が起こっているのか分からず、混乱している。中には泣き出す学生もいた。
「みんな、固まって! きっと、もうすぐ助けが来るから!」
そんな学生達を、スーツを着た教師らしき女性が一人で必死になだめていた。どことなく、鬼怒川と雰囲気が似ている。
他にも大人は数人いて、襲いかかってくる異形から学生達を守ろうと奮闘していた。
「……今度はあの女か」
再び、暗梨の心の奥がざわついた。
・
よく鬼怒川は「貴方は明梨さんと同じくらい賢い」と暗梨を褒めていた。
「だから暗梨さんが本気で勉強すれば、明梨さんと同じ高校に行けると思うの。今からでも頑張ってみない?」
そしてことあるごとに、暗梨に外への高校へ進学するよう勧めた。
「無理ですよ。私は家業を継がなくちゃいけないんですから」
そのたびに、暗梨は「設定」に基づいて断った。
村のカラクリを知っていた暗梨にとって、勉強ほど無意味なものはなかった。頑張って受験したところで、そんな高校は存在しないのだから。
すると鬼怒川は何を思ったか、真剣な顔でこう言った。
「継がなくちゃいけない、なんてことはないのよ。私はなりたくて教師になったけど、暗梨さんはそうではないんでしょう? 家業のせいで進学を諦めているなら、私がご両親に説得するわ」
「……いや、私本当に進学する気ないんですけど」
どうやら鬼怒川の目には、暗梨が「やりたくもない家業に囚われている可哀想な少女」に見えていたらしい。その後もどんなに暗梨が否定しても、鬼怒川は「応援するから」の一点張りだった。
今さら家業を継がないなど、許されるはずがない。そんなことをすれば、進学を勧めた鬼怒川もタダでは済まない。鬼怒川は自分の身よりも、生徒の将来を最優先に考える教師だった。
・
「先生、危ない!」
学生が悲鳴を上げる。
見れば、異形化した車が猛スピードで鬼怒川に似た女性教師に向かって来ていた。
しかし女性教師はその場から動かない。自分が逃げれば、車は生徒に狙いを変えると分かっているのだ。
女性は返事の代わりに、学生達を安心させようと微笑む。その顔は恐怖で青ざめていた。
「消えろッ!」
暗梨は女性の足元に彼岸花を咲かせ、節木駅へ送る。車は真っ直ぐ走っていき、壁に激突して爆散した。
「キャーッ!」
「先生ぇっ!」
学生達は女性が車に引きづられ、爆破に巻き込まれたと思い込み、悲鳴をあげる。
他の教師達も車が爆散した様を見て、呆然と立ち尽くした。
「あー、うるさいうるさい。さっさと失せろ」
ついでに他の連中も節木駅へ送った。
彼らが女性を慕っている姿と、彼岸華村のクラスメイト達が鬼怒川を慕っている姿が頭の中で重なり、心の奥がざわついた。
「ひぃぃっ! 誰か助けてー!」
「マネキンが……マネキンが……!」
「く、苦しい……」
店では異形化したマネキンが客や店員を追いかけ回していた。真っ黒な眼孔と口をかっ開き、人間を捕らえては霊力を吸い取る。
試着室に逃げ込む者もいたが、もれなく鏡の中から伸びた手によって引き込まれていった。
「ちょっと、もー。どうせ暴れるなら、商品は汚さずに暴れなさいよねー」
暗梨は床に散らばった服やアクセサリーを見て、呆れる。襲われている人間には目もくれず、まだ無事な商品を物色し始めた。気に入った品は全て、不知火の自宅へ送る。
「イラッシャイマセェ」
「ドウゾ、ゴ覧下サイマセェェ」
マネキン達は同じ異形である暗梨にも狙いを定め、奇声を上げながら襲いかかってくる。暗梨は彼らには目もくれず「うっさい」と、名曽野駅のホームへ転移させた。
目の前で仲間が消えても、マネキン達は機械的に暗梨に襲いかかる。やがて暗梨が店の商品を物色し終えた頃には、店にいたマネキンは全て消えていた。
「おーしまいっ。次の店行こーっと」
「お姉ちゃん!」
店を出ようとしたその時、試着室から声が聞こえた。
「ッ!」
暗梨は思わず、ハッと振り返る。
声が聞こえた試着室のカーテンはマネキンによって、ズタズタに破かれていた。そこに隠れていた中学生くらいの少女が、鏡から伸びた手によって鏡の中へ引き込まれようとしている。既に、体の半分が鏡に飲み込まれていた。
それを、少女の姉と思しき高校生くらいの少女が妹の体にしがみつき、必死に助け出そうとしていた。
「お姉ちゃん、手を離して! このままじゃお姉ちゃんまで巻き込まれちゃう!」
「絶対に嫌! 大事な妹をクリスマスに亡くすなんて、そんなの嫌!」
姉一人では力及ばず、妹は徐々に鏡の中へと沈んでいく。それでも姉は手を諦めようとはしなかった。
「……」
互いを想い合う姉妹から、暗梨は目を離せなかった。
彼女の脳裏には妹である明梨との記憶が蘇っていた。
・
暗梨が彼岸華村にいた頃、たびたび村人が鬼となり、暴れることがあった。原因は饗呀と暗梨の企てによるものだったのだが、繰り返し一年を送る中で、運悪く暗梨が鬼に戻った村人に襲われることが何度かあった。
一人の時は、本来忘れている鬼の身体能力を遺憾なく発揮し、逃げ延びることができた。
しかし鬼であることを忘れている他の村人と一緒にいる時は、人らしく振る舞わねばならず逃げ出せなかった。それが明梨だった場合、毎回彼女が鬼の前に立ち塞がり、暗梨をかばった。
「暗梨、早く真紅君達を呼んで来て! 鬼は私が引きつけるから!」
「何言ってんの? あんたなんか、助けが来るまで保つわけないでしょ」
暗梨は鼻で笑う。
明梨も「だよね」と悲しげに笑った。
「でも、いいんだ。暗梨は家業を継がなくちゃいけないでしょ? 私がいなくなっても誰も困らないけど、暗梨がいなくなったらみんな物資が届かなくなって困るから。お父様とお母様も暗梨が生き残った方が喜ぶと思うわ」
「……ハァ? 何で私があいつらのために生き残らなきゃなんないのよ」
その時は明梨の言葉がしゃくに触り、無理やり明梨の手を引っ張って逃げた。
明梨は「暗梨が自分を救ってくれた」と思っているようだったが、いつだって暗梨は自分のために行動していた。一度も明梨を想ったことも、ましてや妹だと思ったこともない。
芝居を演じる上で必要な、偽りの関係……そう思っていたはずだった。
・
「なのに……なのに、何であの人間共を見ていると、心の奥がざわつくのよッ!」
暗梨は鏡に彼岸花を咲かせ、鏡の中から伸びた手を名曽野駅のホームへ飛ばした。
「うわっ!」
「お姉ちゃん!」
手が消えたことで、妹は姉によって鏡の中から引っ張り出される。そのまま姉は勢い余って床へ倒れ、妹も姉の上に重なった。
「お姉ちゃん、大丈夫?!」
「妹、重い……また太った?」
「太ってない! クリスマスの料理、食べ過ぎただけ!」
姉妹はホッとした様子で、軽口を叩き合う。
暗梨はその微笑ましいやり取りをこれ以上見たくなくて、彼女達を節木駅へ転移させた。
「……あ、名曽野駅のホームに飛ばしてやっても良かったかも。しくったなー」
そう後悔しながらも、店にいた他の人間も節木駅へ送った。姉妹以外の人間はマネキンに霊力を吸われ、意識を失って倒れていた。
・
「ショッピングって気分でもなくなったし、映画でも見に行くかな」
映画館の正確な場所は分からなかったため、とりあえず駅前に飛んだ。
そこには大勢の学生が集まっていた。皆、何が起こっているのか分からず、混乱している。中には泣き出す学生もいた。
「みんな、固まって! きっと、もうすぐ助けが来るから!」
そんな学生達を、スーツを着た教師らしき女性が一人で必死になだめていた。どことなく、鬼怒川と雰囲気が似ている。
他にも大人は数人いて、襲いかかってくる異形から学生達を守ろうと奮闘していた。
「……今度はあの女か」
再び、暗梨の心の奥がざわついた。
・
よく鬼怒川は「貴方は明梨さんと同じくらい賢い」と暗梨を褒めていた。
「だから暗梨さんが本気で勉強すれば、明梨さんと同じ高校に行けると思うの。今からでも頑張ってみない?」
そしてことあるごとに、暗梨に外への高校へ進学するよう勧めた。
「無理ですよ。私は家業を継がなくちゃいけないんですから」
そのたびに、暗梨は「設定」に基づいて断った。
村のカラクリを知っていた暗梨にとって、勉強ほど無意味なものはなかった。頑張って受験したところで、そんな高校は存在しないのだから。
すると鬼怒川は何を思ったか、真剣な顔でこう言った。
「継がなくちゃいけない、なんてことはないのよ。私はなりたくて教師になったけど、暗梨さんはそうではないんでしょう? 家業のせいで進学を諦めているなら、私がご両親に説得するわ」
「……いや、私本当に進学する気ないんですけど」
どうやら鬼怒川の目には、暗梨が「やりたくもない家業に囚われている可哀想な少女」に見えていたらしい。その後もどんなに暗梨が否定しても、鬼怒川は「応援するから」の一点張りだった。
今さら家業を継がないなど、許されるはずがない。そんなことをすれば、進学を勧めた鬼怒川もタダでは済まない。鬼怒川は自分の身よりも、生徒の将来を最優先に考える教師だった。
・
「先生、危ない!」
学生が悲鳴を上げる。
見れば、異形化した車が猛スピードで鬼怒川に似た女性教師に向かって来ていた。
しかし女性教師はその場から動かない。自分が逃げれば、車は生徒に狙いを変えると分かっているのだ。
女性は返事の代わりに、学生達を安心させようと微笑む。その顔は恐怖で青ざめていた。
「消えろッ!」
暗梨は女性の足元に彼岸花を咲かせ、節木駅へ送る。車は真っ直ぐ走っていき、壁に激突して爆散した。
「キャーッ!」
「先生ぇっ!」
学生達は女性が車に引きづられ、爆破に巻き込まれたと思い込み、悲鳴をあげる。
他の教師達も車が爆散した様を見て、呆然と立ち尽くした。
「あー、うるさいうるさい。さっさと失せろ」
ついでに他の連中も節木駅へ送った。
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