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第10話「ブラック・クリスマス」
漆:黒縄、監視され中
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朱羅は陽斗達が黒縄の部屋から出て行ったのを見計らい、五代に尋ねた。
「首尾は?」
「上々」
五代は食い入るようにテレビの画面を見つめたまま、服の下に忍ばせていたノートパソコンを机の上に取り出す。鮮やかなミント色のノートパソコンで、ボディのあちこちにアニメのキャラクターと思われる、可愛らしい魔法少女のシールが貼られていた。
手早くパソコンを立ち上げ、画面を示させる。やがて名曽野市の街中を徘徊している黒縄が、画面いっぱいに映し出された。
黒縄は人混みを避け、ガードレールの上を器用に歩いている。映像は電柱の上から撮影しているらしく、異常に視点が高かった。
「監視カメラ、人、動物、異形……あらゆる"目"は欺けても、オイラの第三の目である"五代アイ"は誤魔化されないよーん。せいぜいボロを出して、朱羅氏にブチ切れられるがいいさ!」
画面には映っていないが、黒縄の後方……電柱の上に、五代と同じ赤い瞳を持つ目玉の生き物がいた。
本物の目玉と同じ大きさで、一本の赤黒い鳥の足で器用に立っている。背にはミント色の小さな翼が生えており、黒縄と距離が離れると音もなく羽ばたいて、別の電柱へと飛び移った。
この奇妙な目玉の生物こそが、五代の第三の目(自称)"五代アイ"だった。五代が朱羅から黒縄の居場所を探すよう依頼され、作り上げた秘密道具である。
「例えるなら、五代アイはカメラ付きのドローン、俺ぴは五代アイとパソコンを繋ぐ中継機って感じぃ? 五代アイそのものに俺ぷの力が備わってるわけじゃないから、途中で俺ぺの目を介して、黒縄氏の姿が見えるようにしてるってわけ。んで、その映像をリアルタイムでパソコンに転送! 子機の性能上、搭載できる感覚は一つまでだから、音とか思考とかは聞けないんだけどぉ」
「では、耳や鼻……五代イヤーや五代ノーズなんかも作れるのですか?」
「理論上はイェスアイキャン! ただ、視覚情報がゼロになっちゃうから、何処を飛んでるのか把握出来ないケド。ま、いずれは俺ぺの全感覚を搭載した"五代バード"を量産したいと目論んでるんで、期待して待ってて欲しいかなっ☆」
「五代バード……」
朱羅は後頭部にミントの色の翼を生やした五代の生首を想像し、ゾッとした。完全にモンスターだった。
「なかなか……気色悪いですね」
「ふへへ。触覚も必要だから、腕もつける予定でゲスよ~」
「腕も?! 一体何処に生やすおつもりですか?!」
「うーん、ほっぺか首かなぁ。頭から生やして、触角みたくしてもいいかも! 触覚担当だし」
「気色悪さが悪化しているではないですか!」
朱羅はさらにクリーチャーじみてきた五代バードのイメージを脳内から払拭しようと、片付けの手を止め、パソコンの画面を覗き込んだ。
黒縄は警戒した様子で周囲を見回しつつ、街を徘徊している。時折立ち止まっては、建物の壁や街灯になんらかの術を仕掛けていた。
「まだ五代アイには気付いていらっしゃらないようですね。それにしても、街中に術など仕掛けて、一体何をなさるおつもりなのでしょう?」
「クリスマスだし、待ち合わせ相手にサプライズでもするんじゃない? 花火打ち上げるとか、雪降らすとかさぁ。このまま監視しときゃ、そのうち分かるっしょ」
「や、やはりでぇとですか?! でぇとなのですかッ?!」
サプライズと聞き、朱羅は取り乱した。五代の胸ぐらをつかみ、ぐわんぐわんと揺する。
五代は「ウェッウェッ」と潰れたカエルのような鳴き声を上げながら、されるがままに左右へ揺すられた。
「それも見てれば分かるってぇ~」
「いいえ! このまま大人しく見守るなど出来ません! 私も名曽野市へ向かいます!」
「すぐバレるからやめときなぁ? 赤くてデカくて挙動不審な鬼なんて、朱羅氏しかいないんだから。見つかったら、俺ぽもしばかれちゃうし。それよか動きがあるまで、五代おじちゃんと一緒にアニソン特番でも観ようや」
「くっ……! 私も兄上達のような、隠密行動に優れた鬼になりたかった!」
朱羅は悔しそうに五代の胸ぐらから手を離すと、中断していた片付けに戻った。黒縄に動きが気になるのか、「何かありました?」「今何処にいらっしゃいます?」と逐一、五代に尋ねる。
そのたびに五代は「なーんもないっす」「八百屋の前っす」と素直に答えた。しかし内心は、朱羅を引き留めることが出来てホッとしていた。
(あっぶねぇ~! 黒縄氏から「朱羅を足止めしとけ」って頼まれてるんだよなぁ。成功したらお年玉くれるって言ってたし、頑張ろっ!)
誰にも知られていなかったが、五代は二重スパイだった。クリスマスパーティの前夜に黒縄から頼まれていたのだ。
(なーにもらおっかにゃー? やっぱ新しいパソコンかゲーム機かにゃ?)
五代は何を買ってもらおうか悩みつつ、黒縄を監視し続けた。あくまで朱羅を足止めするよう命じられただけで、黒縄が名曽野市を徘徊している目的までは知らなかった。
(本当にデートだったら、リア充認定からのロケットランチャーぶっぱ案件なんだけどなぁ。たぶん、違うだろうなぁ。今の黒縄氏、ショタだし。恋愛より、自分の体を元に戻すのを優先させてるし。ホント……何してるんだろ、この鬼)
考えども考えども答えにはたどり着かない。
やがて大好きなアニメの主題歌を担当している声優達が番組に登場すると、
「うぉぉぉ! ハルティィィン!」
と黒縄の監視を放り出し、両手にピンク色のサイリウムを握って四方八方に振りまくっていた。
幸い、黒縄は特別おかしな行動は取らず、また相手らしき女が現れることもなかった。ただひたすら一人で街を散策し、術を仕掛けていく。
このまま黒縄の奇行を見守るだけで終われば良かった。
が、状況は夜になり……一変した。
「首尾は?」
「上々」
五代は食い入るようにテレビの画面を見つめたまま、服の下に忍ばせていたノートパソコンを机の上に取り出す。鮮やかなミント色のノートパソコンで、ボディのあちこちにアニメのキャラクターと思われる、可愛らしい魔法少女のシールが貼られていた。
手早くパソコンを立ち上げ、画面を示させる。やがて名曽野市の街中を徘徊している黒縄が、画面いっぱいに映し出された。
黒縄は人混みを避け、ガードレールの上を器用に歩いている。映像は電柱の上から撮影しているらしく、異常に視点が高かった。
「監視カメラ、人、動物、異形……あらゆる"目"は欺けても、オイラの第三の目である"五代アイ"は誤魔化されないよーん。せいぜいボロを出して、朱羅氏にブチ切れられるがいいさ!」
画面には映っていないが、黒縄の後方……電柱の上に、五代と同じ赤い瞳を持つ目玉の生き物がいた。
本物の目玉と同じ大きさで、一本の赤黒い鳥の足で器用に立っている。背にはミント色の小さな翼が生えており、黒縄と距離が離れると音もなく羽ばたいて、別の電柱へと飛び移った。
この奇妙な目玉の生物こそが、五代の第三の目(自称)"五代アイ"だった。五代が朱羅から黒縄の居場所を探すよう依頼され、作り上げた秘密道具である。
「例えるなら、五代アイはカメラ付きのドローン、俺ぴは五代アイとパソコンを繋ぐ中継機って感じぃ? 五代アイそのものに俺ぷの力が備わってるわけじゃないから、途中で俺ぺの目を介して、黒縄氏の姿が見えるようにしてるってわけ。んで、その映像をリアルタイムでパソコンに転送! 子機の性能上、搭載できる感覚は一つまでだから、音とか思考とかは聞けないんだけどぉ」
「では、耳や鼻……五代イヤーや五代ノーズなんかも作れるのですか?」
「理論上はイェスアイキャン! ただ、視覚情報がゼロになっちゃうから、何処を飛んでるのか把握出来ないケド。ま、いずれは俺ぺの全感覚を搭載した"五代バード"を量産したいと目論んでるんで、期待して待ってて欲しいかなっ☆」
「五代バード……」
朱羅は後頭部にミントの色の翼を生やした五代の生首を想像し、ゾッとした。完全にモンスターだった。
「なかなか……気色悪いですね」
「ふへへ。触覚も必要だから、腕もつける予定でゲスよ~」
「腕も?! 一体何処に生やすおつもりですか?!」
「うーん、ほっぺか首かなぁ。頭から生やして、触角みたくしてもいいかも! 触覚担当だし」
「気色悪さが悪化しているではないですか!」
朱羅はさらにクリーチャーじみてきた五代バードのイメージを脳内から払拭しようと、片付けの手を止め、パソコンの画面を覗き込んだ。
黒縄は警戒した様子で周囲を見回しつつ、街を徘徊している。時折立ち止まっては、建物の壁や街灯になんらかの術を仕掛けていた。
「まだ五代アイには気付いていらっしゃらないようですね。それにしても、街中に術など仕掛けて、一体何をなさるおつもりなのでしょう?」
「クリスマスだし、待ち合わせ相手にサプライズでもするんじゃない? 花火打ち上げるとか、雪降らすとかさぁ。このまま監視しときゃ、そのうち分かるっしょ」
「や、やはりでぇとですか?! でぇとなのですかッ?!」
サプライズと聞き、朱羅は取り乱した。五代の胸ぐらをつかみ、ぐわんぐわんと揺する。
五代は「ウェッウェッ」と潰れたカエルのような鳴き声を上げながら、されるがままに左右へ揺すられた。
「それも見てれば分かるってぇ~」
「いいえ! このまま大人しく見守るなど出来ません! 私も名曽野市へ向かいます!」
「すぐバレるからやめときなぁ? 赤くてデカくて挙動不審な鬼なんて、朱羅氏しかいないんだから。見つかったら、俺ぽもしばかれちゃうし。それよか動きがあるまで、五代おじちゃんと一緒にアニソン特番でも観ようや」
「くっ……! 私も兄上達のような、隠密行動に優れた鬼になりたかった!」
朱羅は悔しそうに五代の胸ぐらから手を離すと、中断していた片付けに戻った。黒縄に動きが気になるのか、「何かありました?」「今何処にいらっしゃいます?」と逐一、五代に尋ねる。
そのたびに五代は「なーんもないっす」「八百屋の前っす」と素直に答えた。しかし内心は、朱羅を引き留めることが出来てホッとしていた。
(あっぶねぇ~! 黒縄氏から「朱羅を足止めしとけ」って頼まれてるんだよなぁ。成功したらお年玉くれるって言ってたし、頑張ろっ!)
誰にも知られていなかったが、五代は二重スパイだった。クリスマスパーティの前夜に黒縄から頼まれていたのだ。
(なーにもらおっかにゃー? やっぱ新しいパソコンかゲーム機かにゃ?)
五代は何を買ってもらおうか悩みつつ、黒縄を監視し続けた。あくまで朱羅を足止めするよう命じられただけで、黒縄が名曽野市を徘徊している目的までは知らなかった。
(本当にデートだったら、リア充認定からのロケットランチャーぶっぱ案件なんだけどなぁ。たぶん、違うだろうなぁ。今の黒縄氏、ショタだし。恋愛より、自分の体を元に戻すのを優先させてるし。ホント……何してるんだろ、この鬼)
考えども考えども答えにはたどり着かない。
やがて大好きなアニメの主題歌を担当している声優達が番組に登場すると、
「うぉぉぉ! ハルティィィン!」
と黒縄の監視を放り出し、両手にピンク色のサイリウムを握って四方八方に振りまくっていた。
幸い、黒縄は特別おかしな行動は取らず、また相手らしき女が現れることもなかった。ただひたすら一人で街を散策し、術を仕掛けていく。
このまま黒縄の奇行を見守るだけで終われば良かった。
が、状況は夜になり……一変した。
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