贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第10話「ブラック・クリスマス」

陸:クリスマスパーティの後の予定

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「遠井君から返事、来た?」
 陽斗はスマホの画面と睨めっこしている成田に尋ねた。
 成田はあからさまに顔をしかめ「来ねぇ」と首を振る。スマホを持っていない方の手には、プレゼント交換会でもらった等身大グレイ人形が抱えられている。
 パーティは料理、節木荘探索、プレゼント交換会と進み、そろそろお開きにしようかというところであった。陽斗もじきにバイトへ行かねばならず、いい頃合いであった。
「せっかくクリスマスパーティの写真送ってやったのに、既読無視してんだよ。まぁ、メッセージ見ただけマシだけど」
「きっと、勉強で忙しいんだよ。今日も朝から塾の冬期講習に行ってるんでしょ?」
「らしいな。メールでクリスマスパーティに誘ったら、そう返ってきた。せめて息抜きになればと思って、写真を送ったんだが……やっぱ、あいつとは噛み合わねぇわ」
 成田は自嘲気味に笑い、スマホをズボンのポケットへ仕舞う。言葉とは裏腹に、どこか寂しげであった。

     ・

「では、皆の衆! 次は謹慎明けの新学期で会おう! それまで、解散!」
 岡本の号令を合図に、第一回節木荘クリスマスパーティはお開きとなった。
 陽斗と蒼劔はバイトへ行く準備、オカ研のメンバーと暗梨は帰宅するため、帰り支度を済ませて玄関へと向かう。朱羅は部屋の後片付け、五代はテレビでアニソン特集を観るために、リビングに残った。
「クリスマスパーティ、楽しかったね! 料理も美味しかったし、プレゼントまでもらえちゃったし!」
 陽斗はオカ研の面々と廊下を歩きながら、プレゼント交換会でもらった「生還率ゼロパーセント! 恐怖の心霊スポット大全」という本の表紙を名残惜しそうに眺めた。用意したのは成田で、いささか仰々しいタイトルではあるが、中には奇怪ヶ原工場跡地や彼岸華村など、陽斗にとっては見知った場所がいくつか掲載されており、見ていて懐かしくなった。
「陽斗はこれからバイトだろ? やっぱ、クリスマス関係?」
「うん! サンタさんの格好をして、ケーキを売るんだよ! ノルマを達成出来ないと買い取らされるから、死ぬ気で売ってくるね!」
「お、おぉ……頑張ってな。達成出来なさそうだったら、連絡してくれ。買いに行くから」
「わぁ、ありがとう! そういえば、成田君はこの後どうするの?」
 すると成田は「実はさ、」と照れ臭そうに答えた。
「神服部ちゃんに誘われて、二人で名曽野駅の駅中にあるイルミネーションを見に行くんだよねー」
「いるみねーしょん? 何それ?」
 前で神服部と並んで歩いていた暗梨が振り返り、成田に尋ねる。
 成田は「知らねぇの?!」と驚きつつ、答えた。
「ライトを使った飾りさ。夜になったら、光るやつ。いろんな色で光ったり、動物の形をしてたりするんだ。今の時期だと、ツリーとかサンタとかクリスマスに関係したイルミネーションが多いな。最近は自分の家でやってる人もいるらしいぜ」
「ライト……つまり、電灯を使った飾り? ずいぶん贅沢ね。貴重な電力を道楽に使うなんて、どんだけ金持ちなのよ」
 暗梨は訝しげに眉をひそめる。彼女が住んでいた彼岸華村には電灯そのものが存在していなかったため、それを飾りに使うという感覚が想像つかないらしかった。
 逆に、現代っ子の成田には暗梨のような感覚が理解出来ず、「そうか?」と不思議そうに首を傾げていた。
「気になるなら、不知火先生と行ってみたら? テレビで紹介されてたの観たけど、すっごく綺麗だったよ!」
「そ、そう? 気が向いたら行ってみようかしら……」
 成田を誘った当人である神服部は期待に目を輝かせながら、暗梨に詰め寄る。
 そのあまりの圧に、暗梨は顔をひきつらせつつも頷いた。
「楽しみだなぁ……本当はクラスの友達と行こうと思ってたんだけど、都合が合わなくて行けなかったの。成田君がいてくれて本当に助かったよ! ありがとう!」
「あぁ……他にも行きたい所があったら、いつでも誘ってくれよな……」
 成田は必死に口角を上げ、グッと親指を立てる。どうやらデートだと意識していたのは成田だけで、神服部には全くその気はなかったらしい。成田の瞳には光るものが見えた。
(フラれたな)
(フラれたね)
(成田氏、ドンマイ)
 やり取りを聞いていた蒼劔、不知火、五代は神服部に脈がないのをなんとなく察し、心の内で成田を励ました。
「成田君でいいなら、部長さんとでも良かったんじゃ……?」
「部長がイルミネーションに興味あるわけないだろ?」
 ですよね、と成田は岡本本人に確認する。
 岡本は玄関でミリタリーブーツを履きながら、
「ないね」
 と、即答した。
「万が一、そのイルミネーションがとんでもない心霊スポットだったとしても、今日は無理だ。なんて言ったって、月刊マーの発売日だからね!」
 雑誌の名前を聞き、オカルト好きの成田と神服部は「あー」と声を揃えて納得した。
「それは外せないっすね」
「私も予約してた通常版、取りに行かなきゃなぁ」
 一方、メジャーな雑誌でさえまともに読んだことのない陽斗と蒼劔、そして最近人間社会に参入したばかりの暗梨にはピンと来ず、首を傾げていた。
「マーとは何だ?」
「変な名前ね」
「岡本先輩がハマってるくらいだから、オカルトの雑誌なんじゃない?」
「ざっつらいと!」
 岡本はビシッと陽斗を指差し、マーなる雑誌について説明した。
「月刊マーとはありとあらゆる超常現象や未確認生命体について徹底的に追い続けている、オカルトマニアなら絶対に手に入れておきたい雑誌さ! 神服部君が予約した通常版とは別に、オマケ付き限定版も毎号発売されていてね……一店舗に置かれている部数が限られているんで、いつも激戦なのだよ!」
「へぇ。ちなみに、オマケってどんな物がついてくるんですか?」
「丑の刻参りキットとかコックリさんランチョンマットとか霊視眼鏡とか宇宙語翻訳機とか……その号で特集された記事に関するオマケが多いね。通常版の倍以上の値段はするが、とんでもないお宝を簡単に手に入れられるのだから安いものだよ」
 本物の魔具が表に出てくることは、ほぼない。故に、公然と売られているマーのオマケとやらも、ただのオモチャだろう。
 しかし岡本は偽物だとは微塵も疑うことなく、快活に笑っていた。
(部長、まだマーのオマケが本物だって信じてるんだ……)
(丑の刻参りキットとコックリさんランチョンマットはまだしも、霊視眼鏡はただの伊達眼鏡だったのになぁ。宇宙語翻訳機に至っては、確かめようがねぇし)
(……岡本を見ていると、陽斗がパチモン開運グッズを買い集めていた頃を思い出すな)
(なんか……他人とは思えない気がする)
 マーのオマケに支配されている岡本を前に、神服部、成田、蒼劔、陽斗の四人はそれぞれの視点から彼女を憐れんだ。
 真っ向から真相を突きつけたところで信じてくれないのは分かっていたため、あえて黙ったまま、彼女に生温かい視線を向けていた。
「? どうしたんだい、君達。物言いたげな目で私を見て」
「イイエ」
「ナンデモナイデス」

       ・

 こうしてクリスマスパーティは幕を閉じ、参加したメンバーはそれぞれの予定のために解散した。陽斗はケーキ屋で売り子のバイト、蒼劔は陽斗の護衛、成田と神服部は駅のイルミネーション、岡本は欲しい雑誌を探しに書店へ、暗梨と不知火はゴスロリ専門店巡り……。
 残り数時間で未曾有の大災害に巻き込まれるとも知らず、皆特別なクリスマスの予定に胸を高鳴らせていた。
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