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第10話「ブラック・クリスマス」
弐:クリスマスパーティがしたい!
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「クリスマスパーティ?!」
「しかも陽斗が住んでるアパートで?!」
「是非、行きたいです!」
岡本の提案に、一同は驚く。
コアなオカルトマニアである岡本の口からそのようなリア充的用語が出てくるなど、意外だった。むしろ意外過ぎて、かえって不気味だった。呑気に喜んでいるのは陽斗と神服部だけで、慎重な蒼劔と成田は疑いの目で岡本を注視していた。
岡本は「そうだろう、そうだろう?」と好印象な反応だけを都合良く受け取り、満足そうに頷いた。
「節木荘といえば、節木市内でも有数の心霊スポット! 以前から調査したいとは思っていたが、他の調査や文化祭の準備などで忙しく、今の今までそのチャンスが巡って来なかった!」
岡本は悔しげに拳を握る。夏休みには学校で肝試し、秋には彼岸華村で登山&キャンプまでしたというのに、その探究心はまだまだ枯渇していないらしい。
「……あれだけ危険な目に遭ったというのに、全く懲りていないな。これではいずれ、命を落としかねないぞ」
蒼劔は陽斗と不知火にしか認識されないのをいいことに、堂々とため息をつく。認識していたとしても、岡本は蒼劔の忠告を無視していたことだろう。
岡本は握りしめていた拳を高々と掲げ、声高に続けた。
「しっかーし! 課外活動が禁止の今ならっ! クリスマスを数日後に控えた今ならっ! "部員の一人である贄原君の住まいでクリスマスパーティをする"という名目で、節木荘を調査することができる! だって、節木荘は贄原君の家だから! 私達は心霊スポットの調査をするのではない……ただ、部員の家でクリスマスパーティをするだけ! その余興として、アパートの中を探検するだけ! これなら何の問題もないだろう? どうかな?」
岡本に確認され、陽斗は「ばっちりです!」と両手で大きく丸を作って見せた。
「僕、クリスマスパーティに参加したことないんです! 楽しみだなぁ……ツリーを飾ったり、プレゼントを交換したりするんでしょう?」
「もっちろん! 他の住人の方の迷惑にはならないつもりだから、安心してくれたまえ。いっそ、参加してもらってもいいかもしれないな。詳しい持ち物は後日伝えるが、とりあえず料理とお菓子を各自一品ずつと、交換するプレゼントを持って来ること。何を持ってきても、自由だよ。ツリーは私の家で使っていたお古を持って来るとしよう。本来は捨てるものだし、気に入ったら贄原君にあげよう。そのまま門松として飾るも良し、薪にする良しだ。どうかな?」
「わぁ……! そんなにお金がかからないし、最高ですね!」
陽斗は初めて体験するであろうクリスマスパーティに心躍らせた。
「……それぞれで料理を持ち寄るってことは、朱羅さんのクリスマス料理も食べられるってことだよな?」
「朱羅さん、どんなクリスマス料理を作るのかな? 早めに行って、作ってるところを見学したい!」
料理の調達方法を聞き、成田と神服部もそわそわし出す。
二人の頭の中の朱羅は包容力がありそうな恰幅のいい女性にイメージされており、豪勢なクリスマス料理を次々に作り上げていっていた。
「いやぁ、みんな張り切っていて頼もしいなぁ。こりゃ、期待以上の成果が挙げられそうだ」
計画通り節木荘で課外調査、もといクリスマスパーティができると決まり、岡本はニヤリと笑みを浮かべた。
・
帰宅後、陽斗はアパートの大家である黒縄にクリスマスパーティの開催を知らせた。
「ダ・メ・だ!」
しかし即刻、却下された。
「えーっ?! 何でダメなの?!」
「やろうよ、黒縄氏ぃ! クリスマスぱーちぃ、楽しいよぉ?! 参加したことないけど!」
『そうよ! せっかくやるって決まったんだから、やりましょうよ!』
陽斗と五代、そして陽斗のスマホからテレビ電話で参加している暗梨は、黒縄に詰め寄った。
暗梨は不知火に捕獲されて以来、彼のもとで暮らしている。と言っても暗梨が一向に不知火の言うことを聞かないため、鳥籠から外には出られず、しばらく監禁状態が続いていた。
「饗呀様を殺した連中に従うなんて、あり得ない! 式神になるくらいなら、死んだ方がマシよ!」
不知火が説得しようとするたびに、そう声を荒げていた。
それがクリスマスパーティの知らせを聞いた途端、目の色を変えたのだ。
『彼岸華村にはクリスマスなんてハイカラな文化はなかったもの! しかも、タダでごちそうを食べたりプレゼントを貰えたりするんでしょ? 最高の行事じゃない! 私、何が何でも参加するから!』
『……そういうわけだから、許可してくれないかい? 黒縄君』
カメラが暗梨から遠ざかり、困り顔の不知火が映る。
『集まるのは贄原君の部屋だけで、君達が住んでる部屋の中までは調査させない。暗梨君には厳重に枷をつけておく』
「ダメなもんはダメだ! 俺ァ、クリスマスが大嫌ェなんだよ! 浮かれてる暇があンなら、大掃除しろ!」
黒縄はブチ切れ、部屋を飛び出して行った。
『なによ、アイツ。あんなに怒らなくたっていいのに』
「クリスマスパーティで嫌なことでもあったのかな? お料理がすっごく不味かったとか、もらったプレゼントがクサヤだったとか」
「……いいえ。黒縄様は一度もクリスマスパーティに参加なされたことはございません」
それまで神妙な顔で話を聞いていた朱羅が、口を開いた。
「おそらく、黒縄様の生前の家庭環境が関わっているのでしょう。クリスマスに限らず、家族や友人、恋人などの、親密な間柄の者達が集う場がお嫌いなのです。妬ましい……あるいは、羨ましいと言い換えた方が正しいでしょうか。彼らは黒縄様がいくら努力しても手に入らなかったものを容易に手に入れ、幸せそうに生きている……その事実を突きつけられることが、あの方にとっては耐えがたい苦痛となり得るのです」
「でも黒縄君、文化祭は平気だったよね? 家族連れの人とか友達と回ってるお客さんもいたのに」
「文化祭は学校行事ですから、ダメージが少ないのでしょう。お一人で楽しんでいらっしゃる方もいましたし」
「ようは、他人の幸せを見たくないというわけか。相変わらず、自分勝手な奴だな」
黒縄の心中に蒼劔が呆れる一方、陽斗は不思議そうに首を傾げた。
「黒縄君って、意外と寂しがり屋?」
「そうですね……そうかもしれません」
朱羅は問題児を抱えている母親のように、穏やかに笑った。
「トゲのある言動が多いお方ですけど、根は素直ですから」
「しかも陽斗が住んでるアパートで?!」
「是非、行きたいです!」
岡本の提案に、一同は驚く。
コアなオカルトマニアである岡本の口からそのようなリア充的用語が出てくるなど、意外だった。むしろ意外過ぎて、かえって不気味だった。呑気に喜んでいるのは陽斗と神服部だけで、慎重な蒼劔と成田は疑いの目で岡本を注視していた。
岡本は「そうだろう、そうだろう?」と好印象な反応だけを都合良く受け取り、満足そうに頷いた。
「節木荘といえば、節木市内でも有数の心霊スポット! 以前から調査したいとは思っていたが、他の調査や文化祭の準備などで忙しく、今の今までそのチャンスが巡って来なかった!」
岡本は悔しげに拳を握る。夏休みには学校で肝試し、秋には彼岸華村で登山&キャンプまでしたというのに、その探究心はまだまだ枯渇していないらしい。
「……あれだけ危険な目に遭ったというのに、全く懲りていないな。これではいずれ、命を落としかねないぞ」
蒼劔は陽斗と不知火にしか認識されないのをいいことに、堂々とため息をつく。認識していたとしても、岡本は蒼劔の忠告を無視していたことだろう。
岡本は握りしめていた拳を高々と掲げ、声高に続けた。
「しっかーし! 課外活動が禁止の今ならっ! クリスマスを数日後に控えた今ならっ! "部員の一人である贄原君の住まいでクリスマスパーティをする"という名目で、節木荘を調査することができる! だって、節木荘は贄原君の家だから! 私達は心霊スポットの調査をするのではない……ただ、部員の家でクリスマスパーティをするだけ! その余興として、アパートの中を探検するだけ! これなら何の問題もないだろう? どうかな?」
岡本に確認され、陽斗は「ばっちりです!」と両手で大きく丸を作って見せた。
「僕、クリスマスパーティに参加したことないんです! 楽しみだなぁ……ツリーを飾ったり、プレゼントを交換したりするんでしょう?」
「もっちろん! 他の住人の方の迷惑にはならないつもりだから、安心してくれたまえ。いっそ、参加してもらってもいいかもしれないな。詳しい持ち物は後日伝えるが、とりあえず料理とお菓子を各自一品ずつと、交換するプレゼントを持って来ること。何を持ってきても、自由だよ。ツリーは私の家で使っていたお古を持って来るとしよう。本来は捨てるものだし、気に入ったら贄原君にあげよう。そのまま門松として飾るも良し、薪にする良しだ。どうかな?」
「わぁ……! そんなにお金がかからないし、最高ですね!」
陽斗は初めて体験するであろうクリスマスパーティに心躍らせた。
「……それぞれで料理を持ち寄るってことは、朱羅さんのクリスマス料理も食べられるってことだよな?」
「朱羅さん、どんなクリスマス料理を作るのかな? 早めに行って、作ってるところを見学したい!」
料理の調達方法を聞き、成田と神服部もそわそわし出す。
二人の頭の中の朱羅は包容力がありそうな恰幅のいい女性にイメージされており、豪勢なクリスマス料理を次々に作り上げていっていた。
「いやぁ、みんな張り切っていて頼もしいなぁ。こりゃ、期待以上の成果が挙げられそうだ」
計画通り節木荘で課外調査、もといクリスマスパーティができると決まり、岡本はニヤリと笑みを浮かべた。
・
帰宅後、陽斗はアパートの大家である黒縄にクリスマスパーティの開催を知らせた。
「ダ・メ・だ!」
しかし即刻、却下された。
「えーっ?! 何でダメなの?!」
「やろうよ、黒縄氏ぃ! クリスマスぱーちぃ、楽しいよぉ?! 参加したことないけど!」
『そうよ! せっかくやるって決まったんだから、やりましょうよ!』
陽斗と五代、そして陽斗のスマホからテレビ電話で参加している暗梨は、黒縄に詰め寄った。
暗梨は不知火に捕獲されて以来、彼のもとで暮らしている。と言っても暗梨が一向に不知火の言うことを聞かないため、鳥籠から外には出られず、しばらく監禁状態が続いていた。
「饗呀様を殺した連中に従うなんて、あり得ない! 式神になるくらいなら、死んだ方がマシよ!」
不知火が説得しようとするたびに、そう声を荒げていた。
それがクリスマスパーティの知らせを聞いた途端、目の色を変えたのだ。
『彼岸華村にはクリスマスなんてハイカラな文化はなかったもの! しかも、タダでごちそうを食べたりプレゼントを貰えたりするんでしょ? 最高の行事じゃない! 私、何が何でも参加するから!』
『……そういうわけだから、許可してくれないかい? 黒縄君』
カメラが暗梨から遠ざかり、困り顔の不知火が映る。
『集まるのは贄原君の部屋だけで、君達が住んでる部屋の中までは調査させない。暗梨君には厳重に枷をつけておく』
「ダメなもんはダメだ! 俺ァ、クリスマスが大嫌ェなんだよ! 浮かれてる暇があンなら、大掃除しろ!」
黒縄はブチ切れ、部屋を飛び出して行った。
『なによ、アイツ。あんなに怒らなくたっていいのに』
「クリスマスパーティで嫌なことでもあったのかな? お料理がすっごく不味かったとか、もらったプレゼントがクサヤだったとか」
「……いいえ。黒縄様は一度もクリスマスパーティに参加なされたことはございません」
それまで神妙な顔で話を聞いていた朱羅が、口を開いた。
「おそらく、黒縄様の生前の家庭環境が関わっているのでしょう。クリスマスに限らず、家族や友人、恋人などの、親密な間柄の者達が集う場がお嫌いなのです。妬ましい……あるいは、羨ましいと言い換えた方が正しいでしょうか。彼らは黒縄様がいくら努力しても手に入らなかったものを容易に手に入れ、幸せそうに生きている……その事実を突きつけられることが、あの方にとっては耐えがたい苦痛となり得るのです」
「でも黒縄君、文化祭は平気だったよね? 家族連れの人とか友達と回ってるお客さんもいたのに」
「文化祭は学校行事ですから、ダメージが少ないのでしょう。お一人で楽しんでいらっしゃる方もいましたし」
「ようは、他人の幸せを見たくないというわけか。相変わらず、自分勝手な奴だな」
黒縄の心中に蒼劔が呆れる一方、陽斗は不思議そうに首を傾げた。
「黒縄君って、意外と寂しがり屋?」
「そうですね……そうかもしれません」
朱羅は問題児を抱えている母親のように、穏やかに笑った。
「トゲのある言動が多いお方ですけど、根は素直ですから」
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