贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第9話「彼岸華村、鬼伝説」

参拾肆:さよなら、彼岸華村

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〈午前三時二十分 森〉陽斗

 十分ほど経った頃、不知火が一人で陽斗達の元へ戻ってきた。
「ただいまー」
「あ……おかえりなさい、先生」
 陽斗は一人で戻ってきた不知火を見て、真紅達と別れた事実を再認識し、寂しげに目を伏せる。
 代わりに蒼劔が不知火に聞いた。
「結界は無事、張れたのか?」
「うん。外部からの異形避けと、内部の鬼の妖力回復作用も付けておいたから、安全に過ごせるはず。黒縄君も置いていった方が良かったかな?」
「やめておけ。奴がいては、真紅達の迷惑になる。さっさと戻るぞ」
「あ、ちょっと待って」
 不知火は真紅達から託された彼岸花の飾りをポケットから取り出し、陽斗に差し出した。
 途端に陽斗はハッと目を見開き、彼岸花の飾りに飛びついた。
「こ、これ……真紅君達の?!」
「うん。渡して欲しいって頼まれたんでね。モモ君は弁当と夕食のお礼、真紅君は命を助けてもらったお礼だそうだ。それから、"私達と彼岸華村のことを、どうか忘れないで欲しい。私達も贄原君と過ごした時間と、皆さんに救って頂いた恩を絶対に忘れません"と月音君が言っていたよ」
「……忘れるわけ、ないよ」
 陽斗は三つの彼岸花の飾りを抱きしめ、涙をこぼした。
「真紅君も、月音さんも、モモちゃんも……みんな、僕の友達なんだから」

      ・

〈午前六時 廃村〉成田

 日が昇ってきた頃、成田は寝袋から起き上がり、大きく伸びをした。
 いつ百物語を終えてテントに戻ってきたのか記憶に無かったが、隣りで遠井が寝ていたので「きっと、遠井が運んでくれたんだろう。なんだかんだ言って、根はいい奴だからな」と納得した。テントの中に不知火はおらず、お陰で広々と寝られた。
「遠井、起きろー。朝だぞー」
 成田は無遠慮に、寝ている遠井の肩を揺らす。
 遠井は眉をしかめ、寝ぼけた様子でボソボソと呟いた。
「……うるさい。俺は絶対に退部するって言ってるだろ。まぁ、お前がどうしても残って欲しいって言うなら、考えてやってもいいけど」
「辞めたいなら止めねぇよ? 陽斗が入ったから、部員は足りてるし」
「あ゛? そこは引き止めろよ……本当は、今さら他の部に入るの面倒だって思ってんだからさ」
「知るか。残りたいなら、残ればいいだろ。俺を巻き込むな」
 成田は遠井を起こすのを諦め、彼を跨いでテントの外へ出た。
「あっ! 成田君、おはよー!」
 すると、行方不明だったはずの陽斗が不知火と一緒に朝食の支度をしていた。
 彼の姿を目にした瞬間、遠井に絡まれて陰鬱だった成田の気分が、一気に晴れた。
「は……陽斗がいるーっ!」
「何だってぇ?!」
「本当に?!」
 成田の声に、隣りのテントにいた岡本と神服部も寝巻きのまま飛び出してくる。
 遠井だけは未だに寝ぼけたままで、「今日は塾だから、部活休むって言っといてくれ」とボヤいていた。

       ・

〈午前六時三十分 廃村〉陽斗

 朝食はフライパンで加熱した非常用のパンと、即席のカボチャスープだった。パンをスープに浸すと柔らかくなり、スープの味がパンに染み込むので美味しかった。
 陽斗達はたき火の周りに座り、出来上がった朝食を食べた。
「なぁ陽斗、本当に今まで何処にいたのか覚えてないのかよ?」
「ホントだって! 気づいたら、ここで倒れてたんだから!」
「となると、これは本当に神隠しの可能性が大だねぇ……」
「あるいは、宇宙人か秘密組織に拉致されて、改造されていたのかもしれませんよ!」
「遭難してただけだろ」
 食事中、陽斗は成田達から質問責めにあったが、一貫して「覚えていない」と言い続けた。下手に口を滑らせようものなら、「真の彼岸華村を探しに行こう!」と言い出しかねない。
 背後では蒼劔と黒縄がおはぎをもっちゃもっちゃと食べながら、陽斗が余計なことを言わないかと目を光らせていた。
「不知火先生はなんか見なかったんすか? 狐的な何かとか、銀色の生命体とか、黒づくめの怪しい連中とか!」
「うーん……そういったのは見てないけど、今朝試しにトンネルをくぐってみたら、村から出られたよ」
「マジっすか?!」
「うん。また出られなくなる前に、さっさと帰ろうか」
「っし! これで、塾に間に合う!」
 村から出られると分かり、遠井は嬉しそうに拳を握る。
 その拳で、
「えー! 自由に出られるようになったのなら、あと一週間くらいここにいたいなー」
と余計な一言をこぼした岡本の胸ぐらをつかみそうになったので、成田が遠井を背後から羽交い締めにし、必死に止めた。
「遠井、ジョークだから! 部長の行き過ぎたジョークだから!」
「離せ、成田! 元はと言えば、この女のせいで閉じ込められたんだ!」
「ジョークじゃないぞ? 本気だぞ?」
「部長! 遠井君をあおるのは止めて下さい!」
 陽斗は不知火と一緒にお茶を飲みながら、四人のいざこざをのんびり鑑賞していた。
「平和ですね……」
「そうだね」
「二人も止めるの、手伝え!」

       ・

〈午前七時 三途トンネル〉陽斗

 帰り支度を済ませ、陽斗達は三途トンネルを通って外へ出た。
 トンネル内部に仕掛けられていた彼岸花は、あらかじめ不知火が取り除いたものの、本当に出られるかどうかは不安だった。
(もし、廃村に戻っちゃったらどうしよう……また僕だけ彼岸華村の方に飛ばされちゃったりして)
「陽斗」
 そんな陽斗の不安を見透かしたかのように、蒼劔は陽斗の手を力強く握った。
「大丈夫。暗梨は不知火が捕らえているんだ、何も心配はいらない」
「蒼劔君……」
 陽斗は薄暗い中、ぼんやりと見える蒼劔の顔を見て、頷いた。蒼劔の手は体温が無く、冷たかったが、不思議と温かみを感じた。
 やがて蒼劔の言葉通り、すんなり出口にたどり着いた。来た時とほとんど変わらない山の景色に、遠井は感激していた。
「出られた……! やっと、出られた……! もう山なんて、二度と来てたまるか!」
「じゃ、戻ろっか。出られるって分かったし」
 岡本の無慈悲なジョークに、すかさず遠井は荷物からフライパンを取り出した。
 その行動に成田は目ざとく気づき、遠井を羽交い締めにする。
「遠井、早まるな! フライパンは鈍器じゃない! 塾じゃなくて、警察署に行く羽目になるぞ!」
「離せ! フライパンのポテンシャルを信じろ!」
「だったら私は、はんごうで迎え撃とうかにゃ?」
「先生! 遠井君と部長を止めて下さい!」
「やれやれ。君達、元気だねぇ」
 オカルト研究部の面々が争っている中、陽斗はトンネルを振り返り、反対側の出口から差し込む光をジッと見つめていた。
 あの光の先が彼岸華村へ続くことは、二度とない。それでも陽斗は「あの光を目指してトンネルを進めば、また真紅君達と会えるんじゃないか」と思えて仕方がなかった。
(また……会えるよね? 僕が生きている限り、きっと。もし会えたら、次は僕が外の世界を案内してあげるから)
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