贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第9.5話「ある鬼の夢」(2021年エイプリルフール企画)

前編

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「いっけなーい! 遅刻、遅刻ぅ!」
 私、鬼門きもんモモ!
 節木高校に通う、高校一年生!
 え? 十歳なのに何で高校生なのかって??
 のーぷろぶれむ! 私は賢いから、飛び級入学したのだ!
 どうしても真紅しんくお兄ちゃん達と同じ学校に通いたくて、猛勉強しました! えっへん。
「もー! お兄ちゃん、早起きなんだから、ついでに起こしてよー!」
 私の実のお兄ちゃんの真紅お兄ちゃんは、剣道部。毎朝朝練があるから、日の出と共に家を出るんだー。
 だから、いつも「家を出る前に起こして」って言ってるんだけど、
「起こそうとすると、指を喰われるから嫌だ。俺の指はサツマイモじゃない」
って、全然起こしてくれないの。
 もー、イジワルなお兄ちゃん。プンプン!

       ・

 そんなわけで私は今、絶賛遅刻中なのです!
「あ、モモちゃん、おはよう。どうしてそんなに急いでるの? ホームルームまではまだ時間、あるよ?」
「えぇぇ?!」
 と思ったら時計の見間違いで、余裕で間に合ってました! 一時間も間違えちゃうなんて、恥ずかしいよぉ。
 しかも教えてくれたのが、よりにもよって、陽斗はるとお兄ちゃんだなんて……。
 陽斗お兄ちゃんは私と同じ高校一年生で、クラスメイト。いつもお日様みたいにポカポカしてて、一緒にいると癒されるんだー。まぁ、こんな形で会いたくはなかったけど……グスン。
「うぅ……時間、間違えちゃった」
「間に合ったんだから、いいんじゃない? 僕もたまにバイトの時間を間違えて、朝シフトだと思ってたら夜シフトだったってことがあったよ。おかげで、そのままシフトがある夜まで働かされちゃった」
「陽斗、それはブラック職場なんじゃないか?」
 陽斗お兄ちゃんと一緒にいるのは、蒼劔そうけんお兄ちゃん。本当は二年生なんだけど、陽斗お兄ちゃんの"護衛"のために留年したんだって。
 すっごく剣道が強くて、真紅お兄ちゃんが剣道部に勧誘したんだけど、「陽斗を守らなければいけないから」って断られちゃった。
 どうして蒼劔お兄ちゃんが陽斗お兄ちゃんの"護衛"をしてるの?って、真紅お兄ちゃんに聞いてみたら、
「あいつは、厨二病という難病にかかっているんだ。いずれ完治したとしても、黒歴史という後遺症に悶え苦しむことになるだろう」
だって。月音つくねお姉ちゃんが看護師さんになったら、治してくれるかな?
 あっ、月音お姉ちゃんは私の幼馴染みで、真紅お兄ちゃんのカノジョだよ。真紅お兄ちゃんと同じ二年生なの。将来は看護師さんになるのが夢なんだって。
 部活は薙刀部で、毎朝真紅お兄ちゃんと登校デートしてるんだよ。ヒューヒュー!
「せっかくだし、一緒に学校行こっか」
「う、うん!」
 私は赤らんだ顔を陽斗お兄ちゃんに見られないよう、下を向いた。実は、陽斗お兄ちゃんは私の片想いの相手でもあるんだ。
 でも、陽斗お兄ちゃんは他に好きな人がいるみたい。詳しくは知らないけど、中学の時に突然転校しちゃった同級生の女の子なんだって。
 だから陽斗お兄ちゃんは好きな人がいるか聞かれても、
「うーん、どうなんだろうね?」
としか答えてくれない。
 そういう時の陽斗お兄ちゃんは、笑ってるのにすごく悲しそうに見えるから、私は聞かないようにしてた。
 でも、諦めたくない! 砕けるまで、何度だってアタックするんだから!

       ・

「モモちゃん、おはよう。今日は早いね」
 学校に到着して、教室に入ると、隣の席の明梨めいりお姉ちゃんが話しかけてきた。
 明梨お姉ちゃんは毎回学年トップの成績を取っちゃう秀才ちゃんで、いつも難しそうな本を読んでるんだよ!
 今読んでる本のタイトルは、「贄原くんと3匹の鬼」……なんだか、陽斗お兄ちゃんにそっくりなお兄さんが、色んな鬼や妖怪に狙われるって感じのお話だね!
「明梨お姉ちゃん、おはよう! 実は、かくかくしかじかだったんだー」
「カクカクシカジカ……? 新種の鹿の名前かしら」
 明梨お姉ちゃんは真剣に悩んでる。
 そこへ何処からともなく、明梨お姉ちゃんの双子の妹の暗梨あんりお姉ちゃんが近づいてきて、「カクカクシカジカはねぇ」とニヤニヤしながら言った。
「カクカクで四角い鹿なのよぉ。見つけてしまったが最後、どんなものも縮められてしまうのよぉ~」
「そ、そんな生き物がいるの?! 見つけたら捕獲して、観察して、最後には食べてみたいわ!」
 暗梨お姉ちゃんの適当な説明に、明梨お姉ちゃんはキラキラと瞳を輝かせる。
 いつか悪い人に捕まらないか、心配だなぁ。

「皆さん、ホームルームを始めますよ。席に着いて下さいねー」
 チャイムと共に、担任の鬼怒川きぬがわ先生が教室に入ってきた。
 鬼怒川先生は少し気が弱いところがあるけど、美人で優しくて、みんなの人気者なんだよ! でも、怒るとすっごく怖くて、叱られた人はしばらく廊下で固まってたんだって!
「欠席している人はいませんか?」
「先生、五代ごだい君がいません」
 陽斗お兄ちゃんが挙手して、鬼怒川先生に知らせた。
 五代……お兄ちゃんはアニメやゲームに熱中し過ぎて学校を休むことが多い人。私が「五代お兄ちゃん」って呼ぶと、
「うひぇひょひょひぃッ! リアルガチロリっ娘からお兄ちゃん呼びされちゃったぜぇッ! ヒャッフーイッ!」
って情緒不安定になるから、あんまり呼びたくない。
 だから五代お兄ちゃんがいる時は、いつも「五代さん」って呼ぶようにしてるんだよ。本当に気持ち悪いから、そろそろお兄ちゃんにこらしめてもらおうかな。
「五代君は先程、"ネトゲオフ会に行って来るので、公欠します"と連絡が来ました」
「えっ、ネットゲームのオフ会って公欠になるんですか?」
 教室がざわつく。
 そんなプライベートなことでも公欠になるなら、私だって休みたい! 休んで、陽斗お兄ちゃんとデートに行きたい! もちろん、蒼劔お兄ちゃん抜きで!
「なるわけないでしょ。単なるサボりです。これで五代君は今年も留年確定ですね」
 ですよねー。

       ・

 こうしてモモの学校での一日は穏やか、かつ楽しく過ぎていった。
 しかし……事件は、放課後の柔剣道場で起こった。

(後編に続く)
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