贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第9話「彼岸華村、鬼伝説」

拾参:対立

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〈午後一時 彼岸華小中学校〉陽斗

 昼食後、真紅達は陽斗の処遇を決めるため、教室で話し合うことにした。教壇に立っている鬼怒川以外、全員自分の席につく。
 陽斗も空いている暗梨の席に手足をくくりつけられ、結果を見届けることになった。
「それでは、"外来人がいらいじん"……贄原陽斗君の処遇について話し合いたいと思います。何か意見がある人はいますか?」
 進行の鬼怒川が一同を見回し、尋ねる。
「外来人って何ですか?」
 聞き慣れない単語に、陽斗は聞き返す。
 鬼怒川は親切に教えてくれた。
「村の外から来た人のことです。つまりは、贄原君のことですね」
「なるほどー。なんか、外国人になったみたいで新鮮だなぁ」
 すると、紺太郎がおもむろに手を挙げた。いつものチャラけた彼とは違い、真剣な顔をしていた。
「……俺は、今すぐ処刑した方がいいと思う」
 紺太郎はハッキリとした口調で断言した。
「しょッ、処刑?!」
 唐突な提案に、陽斗は震え上がる。
 他の面々も驚き、紺太郎に目を向けた。
「紺太郎! いくら言い伝えがあるからって、いきなり処刑なんてあんまりじゃない?!」
「月音……お前、まだ信じてねぇのかよ? 実際に被害が出てんだぞ?! 明梨だけじゃねぇ……村長も暗梨も、こいつが来てから消えたんだ! ためらってる余裕なんて無ぇだろうがよッ!」
「っ!」
 いつになく怒りを剥き出しにする紺太郎に、月音は言葉を失う。
 モモに至っては、怯えて泣き出し、彼女の腕にしがみついていた。
「鬼塚君、落ち着いて! 言い争っていても何も解決しないわ!」
「うるせぇッ! 先生は明梨の遺体を見てねぇから、落ち着いていられるんだよッ! あんな姿で死ぬような生き方をしてきた奴じゃなかったのに……!」
 たしなめる鬼怒川に、紺太郎は怒りをぶつける。よほど明梨の最期に納得がいっていないらしい。
 紺太郎は怒りの形相のまま、ぐるっと陽斗へ顔を向けると、彼に近づきながら背中に背負っている細長い袋から大剣を取り出した。
 百八十センチ近い身長の紺太郎と同じくらいの大きさの刀で、かなり重量がありそうだったが、紺太郎は難なく片手で抜き、切先を陽斗へ向けた。
「安心しろ。こいつは俺が始末してやる。お前らはただ賛成してくれればいい。今日あったことは何もかも忘れて、平和に過ごしてりゃ、いずれ本当に忘れるさ」
 何なら、と紺太郎は大剣を両手で握ったかと、そのまま振り上げ、陽斗の首目掛けて思い切り振り下ろした。
「今ここで、こいつを処刑してやるよ!」
「うわぁぁっ!」
「陽斗君!」
「キャーッ!」
 陽斗は体が拘束されているせいで動けず、逃げられない。
 モモや鬼怒川と共に、ただ悲鳴を上げることしか出来なかった。
「やめろ」
 大剣が陽斗の首に触れる直前、真紅が日本刀で大剣の刃を防いだ。
 刃と刃が接触し、「キィンッ」と鋭い音を響かせる。それが陽斗の耳に鮮明に聞こえ、より恐ろしかった。真紅の日本刀と紺太郎の大剣に、恐怖でひきつる陽斗の顔が二つ、映っていた。
(ひょ……ひょぇええ……っ!)
「……なんだよ? 真紅。一緒にオマンマ食べて、情でも湧いたか?」
「そういうわけじゃない。モモに人殺しの片棒を担がせたくないだけだ」
「それに、」
 と、月音も紺太郎の首に薙刀の刃を向け、彼を睨む。
「有事を除く校内での戦闘および殺人は、固く禁じられているわ。しばらく生徒指導室で頭を冷やしてきたらどう? 鬼怒川先生のありがたいお説教でも聴きながら、ね」
「……くそッ」
 紺太郎は大剣を下ろし、鞘へ納める。そのまま袋へ戻そうとして、横から真紅に奪われた。
「また暴れられると面倒だ。鬼怒川先生、預かっていてもらえますか?」
「え、えぇ」
 真紅に大剣を差し出され、鬼怒川は両手で恐る恐る受け取った。
「会議は一旦中断します。みんなは自習してて下さい。鬼塚君、行きましょう」
 鬼怒川は紺太郎を連れ、教室を出て行く。
 去り際、紺太郎は真紅達を一瞥し「絶対後悔するぞ」と脅した。
「次は誰が犠牲になるか……見ものだな」

       ・

 紺太郎が鬼怒川に連れられて出て行った後、モモがポツリと「刀は怖い」と呟いた。
「刀は簡単に誰かを傷つけられちゃう。どうして武器なんか持ってなきゃいけないの? モモもいつか持たなくちゃいけないの? モモ……お兄ちゃん達がケンカしたり、誰かを殺したりするところなんか見たくないよ」
「モモ……」
 涙ながらに訴えるモモに、真紅と月音は複雑な面持ちで武器を納める。
 そしてモモの前で膝をつくと、「大丈夫だ」と微笑んだ。
「怖がらせて、ごめんな。俺も月音も紺太郎を殺そうと思ってやったんじゃないから」
「そうよ。それに、帯刀は強制じゃないんだから、嫌なら持たなくてもいいんだからね」
「……うん」
 モモは沈んだ顔のまま頷き、真紅に抱きつく。
 真紅は「重くなったなぁ」と慣れた様子で抱きかかえると、立ち上がり、自分の席に戻った。
「さて、自習をするよう言われたはいいが、何をするか迷うな。モモは勉強と折り紙、どちらがいい?」
「折り紙! 一緒にツル、折ろう!」
 折り紙と聞き、モモは目を輝かせる。さすが、兄……妹の扱いは熟知しているらしい。
 モモは自分の机の引き出しから折り紙を持ってくると、真紅の膝の上に乗って一緒に折り始めた。
 その微笑ましい光景に、陽斗はホッと息を吐いた。部外者である自分ではどうすることも出来なかったが、モモの笑顔が戻って安心した。
「真紅君ってモモちゃんの前だと、いいお兄ちゃんって感じだよねぇ」
「昔からそうよ。村長さんはトンネルの番で忙しいし、真紅がモモの親代わりをしていたの」
「真紅君とモモちゃんのお父さんとお母さんも出稼ぎに行ってるの?」
「そうよ。私の家も、紺太郎の家も、みんな外に働きに出てる……
「たぶん?」
 意味深な言い回しに、陽斗は首を傾げる。
 月音は真紅とモモには聞こえないよう、小声で返した。
。この村に住んでた大人達がどんな顔だったか、外でどんな仕事をして、何を持って帰ってきたのか。自分の親のことさえも、ボンヤリとしか思い出せない。最後に会ったのは、ほんの二、三年前のはずなのに」
「うーん……不思議だね」
「でしょう? 本当に出稼ぎに行ってるのか、自信がないの。本当はみんなとっくの昔に死んでて、催眠術か何かで生きているように思わせられてるって言われても、たぶん信じると思うわ」
 月音は真剣な顔で断言した。日頃から違和感を感じていたのだろう、何か確信を持っているような様子だった。
「そんなに不安なら、電話してみればいいんじゃない?」
「デンワ?」
 途端に月音は眉をひそめた。初めて"電話"という単語を耳にしたかのような反応だった。
「うん。スマホかケータイ、持ってないの?」
「すまほ? けーたい?」
 ますます月音の表情が険しくなる。そして驚くべき一言を口にした。
「それ……何? 聞いたことないんだけど」
「……え?」
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