183 / 327
第9話「彼岸華村、鬼伝説」
拾壱:昼食
しおりを挟む
〈正午 彼岸華村小中学校〉陽斗
「暗梨がいなかった?!」
真紅から報告を聞き、月音は目を見張った。
「ちゃんと探したのよね?!」
教室の壁まで真紅を追い詰め、なおも詰め寄る。
真紅は「近いな」とわずかに顔を赤らめ、答えた。
「先生と二人がかりでな。あの家に隠し部屋でもない限り、暗梨はいないと見て間違いない」
「だからって、そんな長期間誰にも見つからずにいるなんて無理よ。そりゃ、どの家も鍵はかかってないし、空き家だらけだけど、真紅がトンネルの番をしている間に村長さんが見回っていたもの。人がいない間に、小動物に荒らされてないかって。私達も学校のボランティアで、一軒一軒掃除して回ったし」
「だったら、力を使って外に逃げたんじゃねーの?」
そこへ紺太郎が戻ってきた。明梨を弔った後、風呂に入ってきたのかサッパリしている。
「暗梨はそんな無責任なことはしないわ」
月音は真紅の前に留まったまま、教室へ入ってきた紺太郎を睨みつける。
紺太郎は「俺には詰め寄ってくんねーのかよー」と文句を言いつつ、ニヤリと笑った。
「そんなの、お前が思ってるだけだろ? 案外、自分の欲望に忠実な奴だったりしてな」
「俺達を……この村を捨てて、か?」
「そういうこと」
「……」
真紅は眉をひそめ、押し黙る。彼にも暗梨がいなくなるような心当たりがあるらしく、紺太郎の言葉を否定しきれなかった。
「それよりさ、そろそろ給食の準備しようぜ? 力仕事したから、すっげー腹減ってるんだよね」
「それもそうね。みんな、準備しましょうか」
鬼怒川の指示に従い、皆は教室を出て行く。月音とモモは陽斗を気にしてチラチラと視線を向けていたが、「彼も連れて行こう」とは言えず、他のメンバーと一緒に去っていった。
やがて美味しそうな匂いが遠くから漂ってくると、陽斗の腹がぐぅーっと鳴った。
「僕もお腹減ったなぁ……お昼ご飯の時だけ、縄をといてくれたら良かったのに」
陽斗は教卓の上に置かれた自身のリュックを恨めしそうに見上げる。あの中には一週間分の非常食の他、今日のお昼ご飯にと朱羅から持たされた弁当が入っているのだ。
「早く食べないと、傷んじゃうよぉ。なんとかして、あそこまで行けないかなぁ」
陽斗の中で真紅への恐怖よりも、空腹の苦痛が上回る。
陽斗は足が痺れているのをなんとかこらえ、教卓を目指してにじり寄ろうとした。
が、すぐに強烈な足の痺れが襲い、その場に倒れた。
「あいたたた……」
「何をしている」
「いや、ちょっとリュックを……ハッ!」
今一番聞きたくない声に、青ざめる。恐る恐る振り返ると、去っていったはずの真紅とモモが陽斗を見下ろしていた。
「陽斗お兄さん、大丈夫?」
「気にするな、モモ。外の人間はこの程度では死なない」
吐き捨てるように言う真紅に、モモはムッと睨む。
「そんなこと言ってないで、早く陽斗お兄さんを起こしてあげて! こう見えて、陽斗お兄さんはお兄ちゃんよりも年上なんだよ! ねんちょーしゃは大事にしてあげないと!」
「はいはい、分かったよ」
意外にも真紅はモモの言うことを素直に聞き、陽斗を起こしてやる。
続けて、懐から短刀を取り出すと、陽斗の足首を縛っていた縄を切った。
「立て。手は向こうに着いたら、切ってやる。来い」
「来いって、何処に?」
真紅は教卓に置かれていた陽斗のリュックを担ぎ、「食堂だ」と答えた。
・
食堂は二階にあった。
大きなテーブルと長椅子がいくつも並べられ、美味しそうな匂いが部屋中に充満している。
壁にはメニュー表はあるものの、厨房に料理人らしき人はいなかった。
「おーおー、本当に来やがったな。さすが、月音とモモを落としただけあるぜ」
食堂に入って早々、紺太郎が陽斗を見て嫌味ったらしく言う。
それに対し、別のテーブルに座っていた月音は「そういうこと言うの、やめなさい」と注意し、睨んだ。
「陽斗は悪い人じゃないわ。ちゃんと会話して分かったもの。彼がいかにお人好しかって」
「どうだかなー。真の悪党は見るからにお人好しそうに見えるって聞くぜ? 俺みたいにな」
「何処がよ」
陽斗は月音や紺太郎からは一番離れた席にリュックと共に座らされ、手の縄を切られる。
真紅は「十分だ」と告げた。
「十分したら、お前の手首を縄で縛り直す。それまでに食べ終われ」
「う、うん。ありがとうね」
「? 何故、礼を言う? 外では十分で昼食を食べ終わるのが常識なのか?」
「そうじゃないけど、食べさせてもらえるとは思ってなかったから……きっと、月音さんとモモちゃんが説得してくれたんだよね?」
「あ、あぁ。あのまま飢え死にさせるのは可哀想だからと泣きつかれてな」
「やっぱり、そうだったんだ! 二人とも、ありがとー!」
陽斗は月音とモモに手を振り、礼を言う。
二人も「どういたしましてー!」と手を振り返した。
「……何なんだ、こいつは。紺太郎が言っていた通り、外からのスパイじゃないだろうな?」
「スパイかー。なんかカレーみたいで美味しそうだよね」
陽斗は弁当を開き、カレー味の唐揚げを口へ運ぶ。
スパイスの効いた奥深い味わいに、思わず「美味しいぃー!」と悶絶した。
「みんなと食べられなかったのは残念だけど、やっぱ朱羅さんのお弁当は美味しいなぁ」
唐揚げの味が口に残っている間に、おにぎりを頬張る。中にはシャケと昆布が詰まっていた。
「んー! おにぎりも美味しい! やっぱ、シャケと昆布は鉄板だよね!」
「……おい、」
「んお?」
陽斗は真紅に呼びかけられ、顔を上げる。弁当に夢中で、彼の存在をすっかり忘れていた。
見ると、いつのまにか真紅の他にも月音、モモ、鬼怒川が陽斗のもとへ集まっており、食い入るように彼の弁当箱の中身を覗き込んでいた。
「それ……米だよな? 正月の時にしか食えないはずじゃ……」
「お肉とお魚、一緒に食べてるよ! 普通は片っぽずつなのに! いいなー!」
「その変な匂いのする唐揚げ、何? どんな味がするの?」
「綺麗な色のお弁当箱ねぇ。これもアルミで出来てるのかしら」
余程珍しいのか、興味津々で質問をぶつける。
陽斗は「えっと……」と返答に困り、成田達に分ける分にと持たされた弁当を差し出した。
「良かったら、食べる?」
「「「「食べる!!!!」」」」
四人は弁当に群がり、我先にと食材に箸を伸ばす。
真紅も陽斗を疑っていたことをすっかり忘れ、美味そうにおにぎりを頬張っていた。
「う、美味すぎる! なんだ、この米は?!」
「唐揚げ美味しい!」
「本当! 味付けが絶妙だわ!」
「おにぎりの中にシャケと昆布なんて、贅沢ねぇ」
先程まで打って変わり、陽斗の周りに人だかりが出来ているのを見て、紺太郎は「現金な奴らだなぁ」と嘲笑すると、食事もそこそこに席を立った。
「ごちそうさん。あとは好きにやってくれ」
「もういいのか? 紺太郎」
「俺は繊細だからな。外の人間と飯なんて食えるかよ」
そのまま食器も片付けず、食堂を立ち去る。
彼が残した料理を見て、陽斗も驚いた。
「すごい! 芋ばっかり!」
ほとんど手のつけられていない彼の皿には、様々な芋料理が盛りつけられていた。
芋だけのポテトサラダに、じゃがバター、米代わりの蒸した芋に、甘く煮詰めた芋、おまけに牛乳のように見えるものは、脱脂粉乳にすり下ろした芋を混ぜたもの……それら全てが真っ赤な色をしており、あまり食欲をそそられなかった。
しかも、陽斗が持ってきた弁当に入っているような米や肉、魚、青野菜などは一切なかった。
「彼岸華村では米も野菜も育たなくてな……唯一、自生している彼岸芋という芋だけがいくらでも食べられるんだ」
「暗梨がいた頃は、もう少しまともな食事だったのよ? それが今じゃ、芋一色。少ない調味料をやりくりしてなんとか持ちこたえてるけど、いずれ調味料がなくなれば、もっと苦しくなると思うわ」
「毎週、一週間分の給食を一気に作ってるけど、ほんと張り合いがないというか、楽しみがないというか……もういい加減、蒸し芋以外のものを寸胴鍋で作りたいわ」
皆、陽斗が持ってきた弁当を食べながら、不満を吐露する。
モモだけが「そんなことないよ!」と自分の分のじゃがバターをかじり、言った。
「モモ、彼岸芋大好きだもん! 大きくなったら、お芋さん農家になって、もっと美味しいお芋さん作る!」
「おぉー! 偉いね、モモちゃん! 僕にも彼岸芋、くれる?」
モモの宣言に、陽斗は拍手を送る。
モモは「えへへ」と照れ臭そうに笑い、自分の分のポテトサラダを差し出した。
「はい、どうぞ! お代わりもあるからね!」
「わーい、ありがとう! いただきまーす!」
陽斗はモモにポテトサラダを食べさせてもらい、「美味しい!」と感嘆の声を上げる。見た目ほど毒々しい味ではなく、どちらかといえばジャガイモに似ていた。
「他のも食べてみてもいいかな?」
「いいよー! お弁当くれた、お礼!」
モモは嬉しそうにはにかみ、自分の分の料理を陽斗に食べさせる。
楽しそうな二人を見て、真紅はボソッと呟いた。
「……この前までは、俺と一緒にトンネルの番をするって言ってたのに」
「子供の夢なんて、そんなもんよ」
それに対し、月音は諭すように返した。
結局、十分過ぎても陽斗の昼食タイムは終わらず、さらに二十分ほど経った後に、皆と仲良く手を合わせて食事を終えた。
「暗梨がいなかった?!」
真紅から報告を聞き、月音は目を見張った。
「ちゃんと探したのよね?!」
教室の壁まで真紅を追い詰め、なおも詰め寄る。
真紅は「近いな」とわずかに顔を赤らめ、答えた。
「先生と二人がかりでな。あの家に隠し部屋でもない限り、暗梨はいないと見て間違いない」
「だからって、そんな長期間誰にも見つからずにいるなんて無理よ。そりゃ、どの家も鍵はかかってないし、空き家だらけだけど、真紅がトンネルの番をしている間に村長さんが見回っていたもの。人がいない間に、小動物に荒らされてないかって。私達も学校のボランティアで、一軒一軒掃除して回ったし」
「だったら、力を使って外に逃げたんじゃねーの?」
そこへ紺太郎が戻ってきた。明梨を弔った後、風呂に入ってきたのかサッパリしている。
「暗梨はそんな無責任なことはしないわ」
月音は真紅の前に留まったまま、教室へ入ってきた紺太郎を睨みつける。
紺太郎は「俺には詰め寄ってくんねーのかよー」と文句を言いつつ、ニヤリと笑った。
「そんなの、お前が思ってるだけだろ? 案外、自分の欲望に忠実な奴だったりしてな」
「俺達を……この村を捨てて、か?」
「そういうこと」
「……」
真紅は眉をひそめ、押し黙る。彼にも暗梨がいなくなるような心当たりがあるらしく、紺太郎の言葉を否定しきれなかった。
「それよりさ、そろそろ給食の準備しようぜ? 力仕事したから、すっげー腹減ってるんだよね」
「それもそうね。みんな、準備しましょうか」
鬼怒川の指示に従い、皆は教室を出て行く。月音とモモは陽斗を気にしてチラチラと視線を向けていたが、「彼も連れて行こう」とは言えず、他のメンバーと一緒に去っていった。
やがて美味しそうな匂いが遠くから漂ってくると、陽斗の腹がぐぅーっと鳴った。
「僕もお腹減ったなぁ……お昼ご飯の時だけ、縄をといてくれたら良かったのに」
陽斗は教卓の上に置かれた自身のリュックを恨めしそうに見上げる。あの中には一週間分の非常食の他、今日のお昼ご飯にと朱羅から持たされた弁当が入っているのだ。
「早く食べないと、傷んじゃうよぉ。なんとかして、あそこまで行けないかなぁ」
陽斗の中で真紅への恐怖よりも、空腹の苦痛が上回る。
陽斗は足が痺れているのをなんとかこらえ、教卓を目指してにじり寄ろうとした。
が、すぐに強烈な足の痺れが襲い、その場に倒れた。
「あいたたた……」
「何をしている」
「いや、ちょっとリュックを……ハッ!」
今一番聞きたくない声に、青ざめる。恐る恐る振り返ると、去っていったはずの真紅とモモが陽斗を見下ろしていた。
「陽斗お兄さん、大丈夫?」
「気にするな、モモ。外の人間はこの程度では死なない」
吐き捨てるように言う真紅に、モモはムッと睨む。
「そんなこと言ってないで、早く陽斗お兄さんを起こしてあげて! こう見えて、陽斗お兄さんはお兄ちゃんよりも年上なんだよ! ねんちょーしゃは大事にしてあげないと!」
「はいはい、分かったよ」
意外にも真紅はモモの言うことを素直に聞き、陽斗を起こしてやる。
続けて、懐から短刀を取り出すと、陽斗の足首を縛っていた縄を切った。
「立て。手は向こうに着いたら、切ってやる。来い」
「来いって、何処に?」
真紅は教卓に置かれていた陽斗のリュックを担ぎ、「食堂だ」と答えた。
・
食堂は二階にあった。
大きなテーブルと長椅子がいくつも並べられ、美味しそうな匂いが部屋中に充満している。
壁にはメニュー表はあるものの、厨房に料理人らしき人はいなかった。
「おーおー、本当に来やがったな。さすが、月音とモモを落としただけあるぜ」
食堂に入って早々、紺太郎が陽斗を見て嫌味ったらしく言う。
それに対し、別のテーブルに座っていた月音は「そういうこと言うの、やめなさい」と注意し、睨んだ。
「陽斗は悪い人じゃないわ。ちゃんと会話して分かったもの。彼がいかにお人好しかって」
「どうだかなー。真の悪党は見るからにお人好しそうに見えるって聞くぜ? 俺みたいにな」
「何処がよ」
陽斗は月音や紺太郎からは一番離れた席にリュックと共に座らされ、手の縄を切られる。
真紅は「十分だ」と告げた。
「十分したら、お前の手首を縄で縛り直す。それまでに食べ終われ」
「う、うん。ありがとうね」
「? 何故、礼を言う? 外では十分で昼食を食べ終わるのが常識なのか?」
「そうじゃないけど、食べさせてもらえるとは思ってなかったから……きっと、月音さんとモモちゃんが説得してくれたんだよね?」
「あ、あぁ。あのまま飢え死にさせるのは可哀想だからと泣きつかれてな」
「やっぱり、そうだったんだ! 二人とも、ありがとー!」
陽斗は月音とモモに手を振り、礼を言う。
二人も「どういたしましてー!」と手を振り返した。
「……何なんだ、こいつは。紺太郎が言っていた通り、外からのスパイじゃないだろうな?」
「スパイかー。なんかカレーみたいで美味しそうだよね」
陽斗は弁当を開き、カレー味の唐揚げを口へ運ぶ。
スパイスの効いた奥深い味わいに、思わず「美味しいぃー!」と悶絶した。
「みんなと食べられなかったのは残念だけど、やっぱ朱羅さんのお弁当は美味しいなぁ」
唐揚げの味が口に残っている間に、おにぎりを頬張る。中にはシャケと昆布が詰まっていた。
「んー! おにぎりも美味しい! やっぱ、シャケと昆布は鉄板だよね!」
「……おい、」
「んお?」
陽斗は真紅に呼びかけられ、顔を上げる。弁当に夢中で、彼の存在をすっかり忘れていた。
見ると、いつのまにか真紅の他にも月音、モモ、鬼怒川が陽斗のもとへ集まっており、食い入るように彼の弁当箱の中身を覗き込んでいた。
「それ……米だよな? 正月の時にしか食えないはずじゃ……」
「お肉とお魚、一緒に食べてるよ! 普通は片っぽずつなのに! いいなー!」
「その変な匂いのする唐揚げ、何? どんな味がするの?」
「綺麗な色のお弁当箱ねぇ。これもアルミで出来てるのかしら」
余程珍しいのか、興味津々で質問をぶつける。
陽斗は「えっと……」と返答に困り、成田達に分ける分にと持たされた弁当を差し出した。
「良かったら、食べる?」
「「「「食べる!!!!」」」」
四人は弁当に群がり、我先にと食材に箸を伸ばす。
真紅も陽斗を疑っていたことをすっかり忘れ、美味そうにおにぎりを頬張っていた。
「う、美味すぎる! なんだ、この米は?!」
「唐揚げ美味しい!」
「本当! 味付けが絶妙だわ!」
「おにぎりの中にシャケと昆布なんて、贅沢ねぇ」
先程まで打って変わり、陽斗の周りに人だかりが出来ているのを見て、紺太郎は「現金な奴らだなぁ」と嘲笑すると、食事もそこそこに席を立った。
「ごちそうさん。あとは好きにやってくれ」
「もういいのか? 紺太郎」
「俺は繊細だからな。外の人間と飯なんて食えるかよ」
そのまま食器も片付けず、食堂を立ち去る。
彼が残した料理を見て、陽斗も驚いた。
「すごい! 芋ばっかり!」
ほとんど手のつけられていない彼の皿には、様々な芋料理が盛りつけられていた。
芋だけのポテトサラダに、じゃがバター、米代わりの蒸した芋に、甘く煮詰めた芋、おまけに牛乳のように見えるものは、脱脂粉乳にすり下ろした芋を混ぜたもの……それら全てが真っ赤な色をしており、あまり食欲をそそられなかった。
しかも、陽斗が持ってきた弁当に入っているような米や肉、魚、青野菜などは一切なかった。
「彼岸華村では米も野菜も育たなくてな……唯一、自生している彼岸芋という芋だけがいくらでも食べられるんだ」
「暗梨がいた頃は、もう少しまともな食事だったのよ? それが今じゃ、芋一色。少ない調味料をやりくりしてなんとか持ちこたえてるけど、いずれ調味料がなくなれば、もっと苦しくなると思うわ」
「毎週、一週間分の給食を一気に作ってるけど、ほんと張り合いがないというか、楽しみがないというか……もういい加減、蒸し芋以外のものを寸胴鍋で作りたいわ」
皆、陽斗が持ってきた弁当を食べながら、不満を吐露する。
モモだけが「そんなことないよ!」と自分の分のじゃがバターをかじり、言った。
「モモ、彼岸芋大好きだもん! 大きくなったら、お芋さん農家になって、もっと美味しいお芋さん作る!」
「おぉー! 偉いね、モモちゃん! 僕にも彼岸芋、くれる?」
モモの宣言に、陽斗は拍手を送る。
モモは「えへへ」と照れ臭そうに笑い、自分の分のポテトサラダを差し出した。
「はい、どうぞ! お代わりもあるからね!」
「わーい、ありがとう! いただきまーす!」
陽斗はモモにポテトサラダを食べさせてもらい、「美味しい!」と感嘆の声を上げる。見た目ほど毒々しい味ではなく、どちらかといえばジャガイモに似ていた。
「他のも食べてみてもいいかな?」
「いいよー! お弁当くれた、お礼!」
モモは嬉しそうにはにかみ、自分の分の料理を陽斗に食べさせる。
楽しそうな二人を見て、真紅はボソッと呟いた。
「……この前までは、俺と一緒にトンネルの番をするって言ってたのに」
「子供の夢なんて、そんなもんよ」
それに対し、月音は諭すように返した。
結局、十分過ぎても陽斗の昼食タイムは終わらず、さらに二十分ほど経った後に、皆と仲良く手を合わせて食事を終えた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる