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第9話「彼岸華村、鬼伝説」
序:心霊映像を撮ろう! 前編
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「黒縄君、準備できた?」
とある休日の早朝、陽斗はリュックを背負い、蒼劔と共に黒縄を迎えに行った。
黒縄は玄関の前で朱羅と揉めていた。
「ハンカチは持ちましたか? ティッシュは? 乗り物酔いのお薬は? 山は天候が変わりやすいですから、カッパも忘れないで下さいね」
「全部持った! テメェは心配性なんだよ! むしろ、こんな大荷物で行く方が危ねェだろうが!」
黒縄のリュックは彼の体と変わらない大きさの登山用のリュックで、今にも後ろへ倒れてしまうのではないかと思うほど、荷物がパンパンに詰め込まれていた。服装も、害虫と寒さ対策バッチリのカラフルな登山用ウェアで、各ポケットにはどんな場面でも対応できる便利アイテムやチョコレートなどの軽食類が仕込んであった。
それでも朱羅は心配なのか、さらにあれやこれやと持たせようとする。
「やはり、着替えを持って行かれた方が……」
「しつこい! 泊まりでもねェのに、着替えなんざいるか!」
とうとう黒縄はしびれを切らし、袖から鎖を放って朱羅を拘束した。
朱羅は鎖で体をぐるぐる巻きにされて身動きが取れなくなり、その場に倒れた。
「あいたっ」
「電車に乗ったら、解放してやる。行くぞ、テメェら」
「う、うん。朱羅さん、いってきまーす!」
黒縄は朱羅を放置し、歩き出す。
陽斗は後ろ髪引かれながらも、黒縄の後をついて行った。蒼劔も朱羅を不憫に思いながらも、陽斗と共に去っていった。
「お三方、どうかお気をつけてー!」
朱羅はジタバタともがきながら、三人を見送った。
・
三人が出かける一週間前ほど前、文化祭が終わった日の夜のこと。
帰宅した陽斗と蒼劔は、黒縄と朱羅と共に、黒縄の部屋で五代から白石の行方について説明された。
「……つまり、その白石聖美とかいう白石の子孫にそれとなく近づき、魔石を手に入れるというわけだな」
「ざっつらい! そのために、陽斗氏にはこいつに参加して欲しいのよん」
そう言って五代がスマホの画面に表示して見せたのは、あるテレビ番組のホームページだった。
真っ黒な背景に、血の手形や不気味な幽霊の写真が載せられているおどろおどろしいページで、大量の心霊写真や動画がアップされている。ヘッダーには血文字で「オカルティックナイト」と書かれていた。
「オカルティックナイト?」
「ンだそりゃ」
「知らないのぉん? 超有名な心霊番組だぞぃ?」
五代は黒縄からマウントを取ろうとして、「うるせぇ」と睨まれつつ、番組について紹介した。
「オカルティックナイトは、視聴者に投稿してもらった写真や動画を紹介したり、その場所に実際に行って真相を確かめたりする、視聴者参加型の番組でね、オカルトマニアなら必ずといっていいほど視聴してる人気番組なんだよ」
「それが白石の子孫とどう関係があンだよ」
「オオアリクイさ。ここ、見てみ?」
五代は「オカルティックナイト」のスタッフ欄を指差した。そこには目を凝らして見ないと見えないほどの小さな字で「ディレクター 白石聖美」と書かれていた。
「白石聖美って……白石の子孫の女か?!」
「そうそう。術者の子孫がテレビ局で心霊番組作ってるなんて、面白い世の中だよネー」
五代は愉快そうに「にひひっ」と笑うと、今度はホームページに表示されていた「投稿」というボタンを指差した。
「というわけで、白石の子孫をおびき寄せるために、黒縄氏の写真を撮って、投稿しよーう! 番組で紹介されなかったとしても、白石の子孫がディレクターである以上、一通りの写真や動画は確認するはずだ。必ず、こちらになんらかのコンタクトを取ってくる! 陽斗氏にはその撮影者になってもらいたい! おっけぃ?」
「面白そう! やろう、黒縄君!」
陽斗は目をキラキラさせ、黒縄に頼む。
しかし黒縄はあまり乗り気ではなく、「めんどくせェなァ」と顔をしかめた。
「俺がここにいるって分かンなら、朱羅がやってもいいじゃねェか」
「向こうが朱羅氏のことを知らなかったら意味ないっしょ? ここは黒縄氏にドーンっと体張ってもらわないと」
「もしそうなら、黒縄が子供になっているってことも知らないんじゃないか?」
五代の言葉を聞き、蒼劔が指摘する。
五代は「それもそうか……」と暫し考えた末、提案した。
「じゃあビデオにしよう! それで、黒縄氏が映像の中で名乗るんだ! ついでに、朱羅氏にも部下として出てもらって、極めつけに能力を見せつける! これなら黒縄氏が黒縄氏だって気づくはずさ! 台本はオイラが考えるから、夕食でも食べて待っててケロ!」
「お芝居か~。頑張ろうね、黒縄君!」
「俺はまだやるって言ってねェ」
・
夕食後、一同は五代の私事で陽斗の部屋に集められた。
黒縄は陽斗と朱羅に説得され、渋々出演を了承した。
「ほい、台本。時間ないから、一分で覚えてねん」
五代は蒼劔以外の三人に手作りの冊子を渡した。
表紙が無駄に凝ってあり、「恐怖! 部屋に現れた、謎の美少年!」と不気味なフォントで題されていた。
一人、台本を渡されなかった蒼劔は少し不服そうに五代に尋ねた。
「俺のはないのか?」
「うん。別にハブるつもりはないんだよ? ただ、蒼劔氏は術者の間でも有名じゃん? うっかりカメラに映って、黒縄氏と組んでるってバレたら、逆効果になるんじゃにゃいかなって」
「そうか……それもそうだな」
蒼劔は仲間外れにされたのが寂しいのか、悲しげに視線を落とす。
それに気づいた五代は慌てて付け足した。
「し、強いて言えば、カメラに映らないよう頑張って欲しいかな! 映らないようにするってのも大変だよぉ~? うっかりクシャミしちゃったり、お腹鳴らしちゃったりさ! そこんとこ、蒼劔氏なら上手くやれるっしょ?!」
「当たり前だ」
途端に、蒼劔は元気になる。自分にも役割があると分かり、やる気になったらしい。
「出来れば外で待機しててもらいたいんだけど、どう?」
「案ずるな。陽斗に何かあったら、すぐに知らせろ。陽斗、撮影頑張れよ」
「うん! 蒼劔君も、頑張って映らないようにしててね!」
蒼劔は陽斗に見送られ、意気揚々と部屋を出ていった。
蒼劔が廊下へ消えると、黒縄は思わずぼそっと呟いた。
「……アイツ、めんどくせェな」
五代もげっそりした顔で頷き「それな」と同意した。
「蒼劔氏が部屋に飛び込んで来る前に、さっさと撮影終わらせよう。異論はないね? 黒縄氏」
「あぁ。一発で終わらせてやる」
とある休日の早朝、陽斗はリュックを背負い、蒼劔と共に黒縄を迎えに行った。
黒縄は玄関の前で朱羅と揉めていた。
「ハンカチは持ちましたか? ティッシュは? 乗り物酔いのお薬は? 山は天候が変わりやすいですから、カッパも忘れないで下さいね」
「全部持った! テメェは心配性なんだよ! むしろ、こんな大荷物で行く方が危ねェだろうが!」
黒縄のリュックは彼の体と変わらない大きさの登山用のリュックで、今にも後ろへ倒れてしまうのではないかと思うほど、荷物がパンパンに詰め込まれていた。服装も、害虫と寒さ対策バッチリのカラフルな登山用ウェアで、各ポケットにはどんな場面でも対応できる便利アイテムやチョコレートなどの軽食類が仕込んであった。
それでも朱羅は心配なのか、さらにあれやこれやと持たせようとする。
「やはり、着替えを持って行かれた方が……」
「しつこい! 泊まりでもねェのに、着替えなんざいるか!」
とうとう黒縄はしびれを切らし、袖から鎖を放って朱羅を拘束した。
朱羅は鎖で体をぐるぐる巻きにされて身動きが取れなくなり、その場に倒れた。
「あいたっ」
「電車に乗ったら、解放してやる。行くぞ、テメェら」
「う、うん。朱羅さん、いってきまーす!」
黒縄は朱羅を放置し、歩き出す。
陽斗は後ろ髪引かれながらも、黒縄の後をついて行った。蒼劔も朱羅を不憫に思いながらも、陽斗と共に去っていった。
「お三方、どうかお気をつけてー!」
朱羅はジタバタともがきながら、三人を見送った。
・
三人が出かける一週間前ほど前、文化祭が終わった日の夜のこと。
帰宅した陽斗と蒼劔は、黒縄と朱羅と共に、黒縄の部屋で五代から白石の行方について説明された。
「……つまり、その白石聖美とかいう白石の子孫にそれとなく近づき、魔石を手に入れるというわけだな」
「ざっつらい! そのために、陽斗氏にはこいつに参加して欲しいのよん」
そう言って五代がスマホの画面に表示して見せたのは、あるテレビ番組のホームページだった。
真っ黒な背景に、血の手形や不気味な幽霊の写真が載せられているおどろおどろしいページで、大量の心霊写真や動画がアップされている。ヘッダーには血文字で「オカルティックナイト」と書かれていた。
「オカルティックナイト?」
「ンだそりゃ」
「知らないのぉん? 超有名な心霊番組だぞぃ?」
五代は黒縄からマウントを取ろうとして、「うるせぇ」と睨まれつつ、番組について紹介した。
「オカルティックナイトは、視聴者に投稿してもらった写真や動画を紹介したり、その場所に実際に行って真相を確かめたりする、視聴者参加型の番組でね、オカルトマニアなら必ずといっていいほど視聴してる人気番組なんだよ」
「それが白石の子孫とどう関係があンだよ」
「オオアリクイさ。ここ、見てみ?」
五代は「オカルティックナイト」のスタッフ欄を指差した。そこには目を凝らして見ないと見えないほどの小さな字で「ディレクター 白石聖美」と書かれていた。
「白石聖美って……白石の子孫の女か?!」
「そうそう。術者の子孫がテレビ局で心霊番組作ってるなんて、面白い世の中だよネー」
五代は愉快そうに「にひひっ」と笑うと、今度はホームページに表示されていた「投稿」というボタンを指差した。
「というわけで、白石の子孫をおびき寄せるために、黒縄氏の写真を撮って、投稿しよーう! 番組で紹介されなかったとしても、白石の子孫がディレクターである以上、一通りの写真や動画は確認するはずだ。必ず、こちらになんらかのコンタクトを取ってくる! 陽斗氏にはその撮影者になってもらいたい! おっけぃ?」
「面白そう! やろう、黒縄君!」
陽斗は目をキラキラさせ、黒縄に頼む。
しかし黒縄はあまり乗り気ではなく、「めんどくせェなァ」と顔をしかめた。
「俺がここにいるって分かンなら、朱羅がやってもいいじゃねェか」
「向こうが朱羅氏のことを知らなかったら意味ないっしょ? ここは黒縄氏にドーンっと体張ってもらわないと」
「もしそうなら、黒縄が子供になっているってことも知らないんじゃないか?」
五代の言葉を聞き、蒼劔が指摘する。
五代は「それもそうか……」と暫し考えた末、提案した。
「じゃあビデオにしよう! それで、黒縄氏が映像の中で名乗るんだ! ついでに、朱羅氏にも部下として出てもらって、極めつけに能力を見せつける! これなら黒縄氏が黒縄氏だって気づくはずさ! 台本はオイラが考えるから、夕食でも食べて待っててケロ!」
「お芝居か~。頑張ろうね、黒縄君!」
「俺はまだやるって言ってねェ」
・
夕食後、一同は五代の私事で陽斗の部屋に集められた。
黒縄は陽斗と朱羅に説得され、渋々出演を了承した。
「ほい、台本。時間ないから、一分で覚えてねん」
五代は蒼劔以外の三人に手作りの冊子を渡した。
表紙が無駄に凝ってあり、「恐怖! 部屋に現れた、謎の美少年!」と不気味なフォントで題されていた。
一人、台本を渡されなかった蒼劔は少し不服そうに五代に尋ねた。
「俺のはないのか?」
「うん。別にハブるつもりはないんだよ? ただ、蒼劔氏は術者の間でも有名じゃん? うっかりカメラに映って、黒縄氏と組んでるってバレたら、逆効果になるんじゃにゃいかなって」
「そうか……それもそうだな」
蒼劔は仲間外れにされたのが寂しいのか、悲しげに視線を落とす。
それに気づいた五代は慌てて付け足した。
「し、強いて言えば、カメラに映らないよう頑張って欲しいかな! 映らないようにするってのも大変だよぉ~? うっかりクシャミしちゃったり、お腹鳴らしちゃったりさ! そこんとこ、蒼劔氏なら上手くやれるっしょ?!」
「当たり前だ」
途端に、蒼劔は元気になる。自分にも役割があると分かり、やる気になったらしい。
「出来れば外で待機しててもらいたいんだけど、どう?」
「案ずるな。陽斗に何かあったら、すぐに知らせろ。陽斗、撮影頑張れよ」
「うん! 蒼劔君も、頑張って映らないようにしててね!」
蒼劔は陽斗に見送られ、意気揚々と部屋を出ていった。
蒼劔が廊下へ消えると、黒縄は思わずぼそっと呟いた。
「……アイツ、めんどくせェな」
五代もげっそりした顔で頷き「それな」と同意した。
「蒼劔氏が部屋に飛び込んで来る前に、さっさと撮影終わらせよう。異論はないね? 黒縄氏」
「あぁ。一発で終わらせてやる」
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