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第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」
漆:文化祭の終わり
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陽斗達の撮影が終わると、蒼劔は神服部に腕を引かれ、衣装部屋へと連れて行かれた。
「最後は蒼劔さんね! 午後の部が始まるギリギリまで、衣装を着れるだけ着てもらいますから!」
「なっ?! なぜ俺まで!」
「んもぉ~、そんな立派な白髪と青眼を持っていて、何を仰いますやら! オマケに、お顔もかなり整ってるし、背もそこそこ高い! これはコスプレ映え、間違いなしですよ!」
「いや、俺はコスプレに興味はないのだが!」
「さぁ、行こうぜ! 二次元の向こう側へ!」
蒼劔は必死に抵抗したが、神服部の異常な執着には勝てなかった。蒼劔が本気を出せないのをいいことに、力づくで衣装部屋に引きづりこむ。
「行ってらっしゃい、蒼劔君!」
「どんなコスプレになるか、楽しみにしてますよ!」
「僕が彼らを見ているから、安心して着替えてきてね」
撮影部屋に残された陽斗と成田は、一緒にいるクリムゾンアーチェが鬼で、殺し屋だとは思っておらず、呑気に手を振る。
たまらず、蒼劔は陽斗に忠告した。
「安心できるか! 陽斗、そいつは矢雨だ!」
「矢雨さん? 矢雨さんって誰だったっけ?」
「矢雨丹波弓弦だ! 夏休みに黒縄共々、お前を狙っていた鬼の刺客!」
「んー? そんな人いたような、いなかったような……」
陽斗は首を傾げる。どうやら矢雨と直接会ったことがないために、すっかり矢雨の存在を忘れてしまったらしい。
これにはクリムゾンアーチェも「忘れちゃったかぁ」と殺意を含んだ笑みを浮かべた。
「まぁ、そのほうが都合がいいけどね」
「それなら良かったです!」
「良くない!」
その後、蒼劔は時間いっぱいまでコスプレさせられ、大いに神服部を喜ばせた。
彼のコスプレ写真は神服部とクリムゾンアーチェを通じてネットで拡散され、コスプレ好き達を賑わせたという。
なお、拡散に協力した五代は蒼劔から報復を受け、「クリムゾンアーチェの正体は矢雨である」という情報と引き換えに、許してもらった。
・
『ただいまを持ちまして、節木高校文化祭を閉幕致します。生徒は持ち回りの教室の後片付けに取り掛かり、午後六時までに下校して下さい』
文化祭終了を知らせるアナウンスが校内に響き渡り、誰からともなく拍手が起こった。
表向きには何事もなく閉幕を迎え、教師達は安堵しているようだった。
陽斗と蒼劔も他のオカルト研究部のメンバー共々「節木高校七不思議体験」の入口に集められ、岡本の演説を聞かされていた。結局、不知火は閉幕までに戻ってこなかった。
「諸君! この二日間、よく頑張ってくれた! オカルト研究部史上、最大級に盛り上がったと思う! 私も大いに感動した! ありがとう! 来年の文化祭も楽しみだ!」
「おぉー!」
「それじゃ、片付けよう! そして打ち上げしよう! 今日はカラオケ店で読経祭りじゃーい!」
「イエーイ!」
陽斗、成田、神服部は岡本に乗せられるままに、拳を突き上げる。
「……読経ってカラオケにあるのか?」
「ないに決まってるじゃないですか。適当なこと言ってるだけですよ」
蒼劔と遠井だけは互いに怪訝な顔を見せ、深くため息をついていた。
・
陽斗と蒼劔は自分達の持ち場を片付けに、「節木高校七不思議体験」の出口から教室へ入った。壁のスイッチを押し、電灯を点ける。
すると、先程まではいたはずの雲外鏡が消えていた。
「あれ? どこ行っちゃったんだろ?」
陽斗はマネキンとマネキンの隙間やカーテンの裏などをくまなく探した。しかし、どこにもいなかった。
「文化祭が終わったんで、いなくなったのだろう。奴は元々、飯沼のしもべだ。恨みこそすれ、俺達に与することはない」
「そっか……お別れだけでも言いたかったな」
陽斗は残念そうに言った。
彼は同じように飯沼を慕っている(と思われる)雲外鏡に、一方的に親近感を抱いていた。もしも彼(彼女)と話せたら、彼(彼女)から見た飯沼について聞いてみたいと思っていた。
「まだ学校に留まっているのなら、会うこともあるだろう。その時に言えばいい」
(……もし、その時が来たら、陽斗に害を成す前に始末するがな)
蒼劔としては、危険な妖怪である雲外鏡を取り逃がしたことを悔いていたが、陽斗の気持ちを察し、黙っておくことにした。
「……うん、そうする」
陽斗は寂しげに笑い、片付けを始めた。
・
矢雨は学校を後にするとスマホを取り出し、どこかへ連絡した。
彼の脇には、包帯のような呪符でぐるぐる巻きにされた、雲外鏡が抱えられていた。雲外鏡は意識を失っているのか、普通の姿見のように全く微動だにしなかった。
「やぁ、久しぶり。ちょっと面白いものが見つかったんで連絡したんだけど、いくらで買う?」
『しょうもねェもんだったら承知しねェぞ、矢雨』
電話の相手はドスの効いた声で、矢雨を脅す。電話口からでもハッキリと分かるほど、何かにイラだっているようだった。
矢雨は相手の心情を察しながらも、「きっと気に入ると思うよ」と冷笑した。
「一つはさっき、手に入れた。もう一つは頃合いをみて、拐ってくるよ。今はまだ、蒼劔や黒縄に警戒されてしまうからね」
『フン、分かった。買ってやる。アイツらをぶっ殺せるなら、なんだっていい。蒼劔も、黒縄も、朱羅も、五代も……全員、皆殺しにしてやる』
「おぉ、怖い。向こうにつかなくて、本当に良かった」
矢雨は微塵も怖いと思っていない様子で肩をすくめ、言った。
「それじゃ、もう一つの方を手に入れたら、また連絡するから。五代童子にバレないよう、常に結界を張っておけよ? 爪痕」
『ククッ、案ずるな。抜かりはない』
電話の相手、爪痕は不気味な笑い声をもらし、電話を切った。
矢雨は爪痕との通話を終えると、さっそくスマホでスケジュールを確認した。
「えーっと、今月は依頼が十件、来月は二十件、再来月の十二月とその次の月の一月はコスプレのイベントで埋まってるし、二月は繁忙期だから稼げるだけ稼いでおきたい。実行するとしたら、三月だなぁ。アイツらの警戒も薄くなってるだろうから、時期的にもちょうどいいし。その間、こいつを調教しておこう」
矢雨は脇に抱えている雲外鏡を見下ろし、冷たく微笑んだ。
「大丈夫、君にとってはいいことづくめさ。主人を殺した宿敵に復讐し、主人を生き返らせることが出来るんだからね」
「……」
雲外鏡は何の反応も示さない。
まだ呪符が効いていて目覚めないのか、目覚めているが反応しないのか、判別がつかなかった。
矢雨は彼(彼女)を脇に抱えたまま、路地裏の暗がりへと姿を消した。
(第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」終わり)
「最後は蒼劔さんね! 午後の部が始まるギリギリまで、衣装を着れるだけ着てもらいますから!」
「なっ?! なぜ俺まで!」
「んもぉ~、そんな立派な白髪と青眼を持っていて、何を仰いますやら! オマケに、お顔もかなり整ってるし、背もそこそこ高い! これはコスプレ映え、間違いなしですよ!」
「いや、俺はコスプレに興味はないのだが!」
「さぁ、行こうぜ! 二次元の向こう側へ!」
蒼劔は必死に抵抗したが、神服部の異常な執着には勝てなかった。蒼劔が本気を出せないのをいいことに、力づくで衣装部屋に引きづりこむ。
「行ってらっしゃい、蒼劔君!」
「どんなコスプレになるか、楽しみにしてますよ!」
「僕が彼らを見ているから、安心して着替えてきてね」
撮影部屋に残された陽斗と成田は、一緒にいるクリムゾンアーチェが鬼で、殺し屋だとは思っておらず、呑気に手を振る。
たまらず、蒼劔は陽斗に忠告した。
「安心できるか! 陽斗、そいつは矢雨だ!」
「矢雨さん? 矢雨さんって誰だったっけ?」
「矢雨丹波弓弦だ! 夏休みに黒縄共々、お前を狙っていた鬼の刺客!」
「んー? そんな人いたような、いなかったような……」
陽斗は首を傾げる。どうやら矢雨と直接会ったことがないために、すっかり矢雨の存在を忘れてしまったらしい。
これにはクリムゾンアーチェも「忘れちゃったかぁ」と殺意を含んだ笑みを浮かべた。
「まぁ、そのほうが都合がいいけどね」
「それなら良かったです!」
「良くない!」
その後、蒼劔は時間いっぱいまでコスプレさせられ、大いに神服部を喜ばせた。
彼のコスプレ写真は神服部とクリムゾンアーチェを通じてネットで拡散され、コスプレ好き達を賑わせたという。
なお、拡散に協力した五代は蒼劔から報復を受け、「クリムゾンアーチェの正体は矢雨である」という情報と引き換えに、許してもらった。
・
『ただいまを持ちまして、節木高校文化祭を閉幕致します。生徒は持ち回りの教室の後片付けに取り掛かり、午後六時までに下校して下さい』
文化祭終了を知らせるアナウンスが校内に響き渡り、誰からともなく拍手が起こった。
表向きには何事もなく閉幕を迎え、教師達は安堵しているようだった。
陽斗と蒼劔も他のオカルト研究部のメンバー共々「節木高校七不思議体験」の入口に集められ、岡本の演説を聞かされていた。結局、不知火は閉幕までに戻ってこなかった。
「諸君! この二日間、よく頑張ってくれた! オカルト研究部史上、最大級に盛り上がったと思う! 私も大いに感動した! ありがとう! 来年の文化祭も楽しみだ!」
「おぉー!」
「それじゃ、片付けよう! そして打ち上げしよう! 今日はカラオケ店で読経祭りじゃーい!」
「イエーイ!」
陽斗、成田、神服部は岡本に乗せられるままに、拳を突き上げる。
「……読経ってカラオケにあるのか?」
「ないに決まってるじゃないですか。適当なこと言ってるだけですよ」
蒼劔と遠井だけは互いに怪訝な顔を見せ、深くため息をついていた。
・
陽斗と蒼劔は自分達の持ち場を片付けに、「節木高校七不思議体験」の出口から教室へ入った。壁のスイッチを押し、電灯を点ける。
すると、先程まではいたはずの雲外鏡が消えていた。
「あれ? どこ行っちゃったんだろ?」
陽斗はマネキンとマネキンの隙間やカーテンの裏などをくまなく探した。しかし、どこにもいなかった。
「文化祭が終わったんで、いなくなったのだろう。奴は元々、飯沼のしもべだ。恨みこそすれ、俺達に与することはない」
「そっか……お別れだけでも言いたかったな」
陽斗は残念そうに言った。
彼は同じように飯沼を慕っている(と思われる)雲外鏡に、一方的に親近感を抱いていた。もしも彼(彼女)と話せたら、彼(彼女)から見た飯沼について聞いてみたいと思っていた。
「まだ学校に留まっているのなら、会うこともあるだろう。その時に言えばいい」
(……もし、その時が来たら、陽斗に害を成す前に始末するがな)
蒼劔としては、危険な妖怪である雲外鏡を取り逃がしたことを悔いていたが、陽斗の気持ちを察し、黙っておくことにした。
「……うん、そうする」
陽斗は寂しげに笑い、片付けを始めた。
・
矢雨は学校を後にするとスマホを取り出し、どこかへ連絡した。
彼の脇には、包帯のような呪符でぐるぐる巻きにされた、雲外鏡が抱えられていた。雲外鏡は意識を失っているのか、普通の姿見のように全く微動だにしなかった。
「やぁ、久しぶり。ちょっと面白いものが見つかったんで連絡したんだけど、いくらで買う?」
『しょうもねェもんだったら承知しねェぞ、矢雨』
電話の相手はドスの効いた声で、矢雨を脅す。電話口からでもハッキリと分かるほど、何かにイラだっているようだった。
矢雨は相手の心情を察しながらも、「きっと気に入ると思うよ」と冷笑した。
「一つはさっき、手に入れた。もう一つは頃合いをみて、拐ってくるよ。今はまだ、蒼劔や黒縄に警戒されてしまうからね」
『フン、分かった。買ってやる。アイツらをぶっ殺せるなら、なんだっていい。蒼劔も、黒縄も、朱羅も、五代も……全員、皆殺しにしてやる』
「おぉ、怖い。向こうにつかなくて、本当に良かった」
矢雨は微塵も怖いと思っていない様子で肩をすくめ、言った。
「それじゃ、もう一つの方を手に入れたら、また連絡するから。五代童子にバレないよう、常に結界を張っておけよ? 爪痕」
『ククッ、案ずるな。抜かりはない』
電話の相手、爪痕は不気味な笑い声をもらし、電話を切った。
矢雨は爪痕との通話を終えると、さっそくスマホでスケジュールを確認した。
「えーっと、今月は依頼が十件、来月は二十件、再来月の十二月とその次の月の一月はコスプレのイベントで埋まってるし、二月は繁忙期だから稼げるだけ稼いでおきたい。実行するとしたら、三月だなぁ。アイツらの警戒も薄くなってるだろうから、時期的にもちょうどいいし。その間、こいつを調教しておこう」
矢雨は脇に抱えている雲外鏡を見下ろし、冷たく微笑んだ。
「大丈夫、君にとってはいいことづくめさ。主人を殺した宿敵に復讐し、主人を生き返らせることが出来るんだからね」
「……」
雲外鏡は何の反応も示さない。
まだ呪符が効いていて目覚めないのか、目覚めているが反応しないのか、判別がつかなかった。
矢雨は彼(彼女)を脇に抱えたまま、路地裏の暗がりへと姿を消した。
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