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第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」
伍:魔法少女☆陽斗
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「写、写、写、写……」
その頃、カメレオン小僧は一足早く、撮影部屋に忍び込んでいた。隣の衣装部屋に結界が張られているのは分かっていたが、神服部のコスプレ写真を撮るまでは逃げるわけにはいかなかった。
衣装部屋の出口へスマホのカメラを向け、カメレオンと同じ大きな目玉をギョロギョロと回す。同時に、長い舌をシュルシュルと巻いては伸ばし、神服部が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。
カメレオン小僧はその名の通り、成人男性ほどの大きさのカメレオンだった。人間のように二本足で立ち、毛玉だらけの野暮ったいスーツを着ている。陽斗達同様、この店にいる誰もが、異形の存在に気づいていなかった。
「陽斗、すっげー似合ってんじゃん! これなら絶対、上手く行くって!」
しばらくして、衣装部屋の結界が解除された。
カメラマン役の成田を筆頭に、陽斗、神服部と衣装部屋から撮影部屋へ移動してくる。
「写、写……(訳:男はいらないんだよなぁ……)」
最初に現れた成田を見て、カメレオン小僧はげんなりする。
彼は相手に姿が見えないがゆえに、他のカメラマンが写真に写り込んでしまうアクシデントにたびたび見舞われていた。最悪、カメラマンでお目当てのコスプレイヤーが隠れてしまうこともあった。
「写、写、写?(いっそ、取り憑くか?)」
カメレオン小僧は成田に狙いを定め、近づく。
しかし、成田に続いて部屋から出て来た陽斗を見て、固まった。
「本当? 変じゃない? メイクもスカートも初めてなんだけど」
陽斗はスカートのすそを握り、顔を赤らめる。
衣装部屋から出てきた陽斗は、女児が好みそうな魔法少女のコスプレをしていた。
頭にピンクの髪のカツラを被り、袖やすそに白いフリルがあしらわれたミニ丈のピンクのワンピース、足の細さを際立たせる白いニーハイソックス、ピンクのショートブーツというピンク尽くしのアイテムを身にまとい、手にはピンクの魔法の杖を握っている。男だとバレないよう、薄くメイクもしてある。
どう見ても立派な魔法少女にしか見えなかった。
「写写写写?!(訳:ハ……ハルティン?!)」
あまりのクオリティに、カメレオン小僧は動揺を隠せなかった。後から陽斗と同じ色違いの衣装を着た神服部も出てきたが、カメレオン小僧の視線は陽斗に釘づけになっていた。
「大丈夫、すっごく似合ってるよ! さすがハルティンのそっくりさん!」
「そんなことないよー。神服部さんのメイクが上手いんだよ。僕だけじゃ、絶対にこんなに可愛くならなかったって」
「写……写写! 写写?!(訳:か……可愛すぎる! あんな可愛い子がいたなんて、気づかなかったぞ?! しかも僕っ子?! 最高かよ!)」
カメレオン小僧は興奮した様子で、陽斗に駆け寄る。異形が見えない成田と神服部はもちろん、異形が見えるはずの陽斗すらも、猛スピードで近づいてくるカメレオン面の男に、全く気づかなかった。
『今だ、蒼劔氏!』
その直後、カメレオン小僧のスマホを、青く輝く刀が貫いた。スマホは貫かれた箇所から粉々に砕け、破壊される。
「写ーッ!(訳:俺のスマホがぁーッ!)」
カメレオン小僧は命にも等しいスマホを砕かれ、絶叫した。
「写写ーッ?!(訳:誰だ、俺のカメラを砕いたヤツは?!)」
怒りに震え、刀が投げ込まれた先を睨む。
そこには元の姿に戻った蒼劔が立っていた。スマホ越しの五代の合図に合わせて、衣装部屋の出口から刀を投げたのだが、わずかにズレてしまったらしい。
「チッ、外したか」
「写……写ー?!(訳:そ……蒼劔んんー?!)」
カメレオン小僧は蒼劔を見て、青ざめる。妖怪のわりに知性が高いせいか、蒼劔のことを知っていたらしい。
先程まで怒りを向けていたのが嘘のように、その場でスマホを捨て、逃走した。教室の壁をすり抜け、廊下へ出る。
スマホの残骸は、空中で青い光の粒子となって消えた。
「五代、奴は?!」
『今、教室を出てった! 早く捕まえないと、逃げられる!』
「ったく、無駄にすばしっこい妖怪だなぁ」
蒼劔とクリムゾンアーチェも壁をすり抜け、衣装部屋から廊下へ出ていった。
・
昼食時の廊下は人でごった返していた。踏み入る隙もないほど密集していたが、カメレオン小僧は一瞬空いた人と人との隙間を的確に見極め、すり抜けていった。
『右、左、右、左、右、上、下、真ん中……』
五代は視力の高さを駆使し、的確にカメレオン小僧の位置を教える。
しかし蒼劔は標的が縦横無尽に動いているせいで、狙いを定めずにいた。わずかでもズレれば、人間に刀が刺さってしまう。
「くッ、このままでは逃げられる!」
「人間に乗り移って、近づけばいいじゃないか」
「それで近づけたとしても、周囲の人間を傷つけずに斬れる隙間などない!」
「別にいいじゃないか、人間の一人や二人」
クリムゾンアーチェは呆れた様子で、肩をすくめる。
当然、蒼劔は彼を睨んだ。
「その一人が神服部だったとしても、貴様は殺すのか? 貴様にとってはどうでもいい人間でも、誰かにとってはかけがえのない人間かもしれん。貴様に、人の命を選ぶ資格などない」
『ひぇぇ、怖っ』
五代は言われた本人以上に、電話の向こうで怯える。
一方、クリムゾンアーチェは顔色一つ変えず「仕方ないなぁ」と自分の耳を指差し、言った。
「そのスマホ、僕の耳に当ててくれる? 僕があいつを仕留めてあげるから」
「……お前、武器なんて持っていたか?」
「あるよ? ここに」
言うが否や、クリムゾンアーチェはマントの裏から身の丈ほどの大きな弓を取り出した。どこか見覚えのある弓だった。
それは五代も同じだったようで、弓を確認した途端に『ひっ?!』と悲鳴を上げた。
『マジっすか?! クリムゾンアーチェ氏、モゴモゴだったんすか?! ヤッベェよ! とんでもねぇトクダネ、つかんじまったよォッ! オイラ、殺されちゃうってばよ蒼劔氏ぃッ!』
手で口をふさぎ、必死にクリムゾンアーチェの本名を誤魔化す。
クリムゾンアーチェも五代がどういう存在か知っているようで、「頼むよ、五代童子君?」と冷たく微笑んだ。
「殺されたくなかったら、言いふらさないでね? 君はカメレオン小僧の居場所を教えてくれればいいんだから」
『うっす! 了解っす、モゴモゴ氏!』
「……とりあえず、貴様がまともな輩でないことは分かった」
蒼劔はクリムゾンアーチェを不審がりながらも、渋々彼の耳へスマホのスピーカーを当てる。
知り合ったばかりの相手に討伐を頼むのは癪だったが、彼の素性を知るためにも、どう行動するのか見届けておきたかった。
「しくったら、許さん」
「何も出来なかったくせに、よく言うなぁ」
クリムゾンアーチェは蒼劔を背にして立ち、弓を構えた。
その頃、カメレオン小僧は一足早く、撮影部屋に忍び込んでいた。隣の衣装部屋に結界が張られているのは分かっていたが、神服部のコスプレ写真を撮るまでは逃げるわけにはいかなかった。
衣装部屋の出口へスマホのカメラを向け、カメレオンと同じ大きな目玉をギョロギョロと回す。同時に、長い舌をシュルシュルと巻いては伸ばし、神服部が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。
カメレオン小僧はその名の通り、成人男性ほどの大きさのカメレオンだった。人間のように二本足で立ち、毛玉だらけの野暮ったいスーツを着ている。陽斗達同様、この店にいる誰もが、異形の存在に気づいていなかった。
「陽斗、すっげー似合ってんじゃん! これなら絶対、上手く行くって!」
しばらくして、衣装部屋の結界が解除された。
カメラマン役の成田を筆頭に、陽斗、神服部と衣装部屋から撮影部屋へ移動してくる。
「写、写……(訳:男はいらないんだよなぁ……)」
最初に現れた成田を見て、カメレオン小僧はげんなりする。
彼は相手に姿が見えないがゆえに、他のカメラマンが写真に写り込んでしまうアクシデントにたびたび見舞われていた。最悪、カメラマンでお目当てのコスプレイヤーが隠れてしまうこともあった。
「写、写、写?(いっそ、取り憑くか?)」
カメレオン小僧は成田に狙いを定め、近づく。
しかし、成田に続いて部屋から出て来た陽斗を見て、固まった。
「本当? 変じゃない? メイクもスカートも初めてなんだけど」
陽斗はスカートのすそを握り、顔を赤らめる。
衣装部屋から出てきた陽斗は、女児が好みそうな魔法少女のコスプレをしていた。
頭にピンクの髪のカツラを被り、袖やすそに白いフリルがあしらわれたミニ丈のピンクのワンピース、足の細さを際立たせる白いニーハイソックス、ピンクのショートブーツというピンク尽くしのアイテムを身にまとい、手にはピンクの魔法の杖を握っている。男だとバレないよう、薄くメイクもしてある。
どう見ても立派な魔法少女にしか見えなかった。
「写写写写?!(訳:ハ……ハルティン?!)」
あまりのクオリティに、カメレオン小僧は動揺を隠せなかった。後から陽斗と同じ色違いの衣装を着た神服部も出てきたが、カメレオン小僧の視線は陽斗に釘づけになっていた。
「大丈夫、すっごく似合ってるよ! さすがハルティンのそっくりさん!」
「そんなことないよー。神服部さんのメイクが上手いんだよ。僕だけじゃ、絶対にこんなに可愛くならなかったって」
「写……写写! 写写?!(訳:か……可愛すぎる! あんな可愛い子がいたなんて、気づかなかったぞ?! しかも僕っ子?! 最高かよ!)」
カメレオン小僧は興奮した様子で、陽斗に駆け寄る。異形が見えない成田と神服部はもちろん、異形が見えるはずの陽斗すらも、猛スピードで近づいてくるカメレオン面の男に、全く気づかなかった。
『今だ、蒼劔氏!』
その直後、カメレオン小僧のスマホを、青く輝く刀が貫いた。スマホは貫かれた箇所から粉々に砕け、破壊される。
「写ーッ!(訳:俺のスマホがぁーッ!)」
カメレオン小僧は命にも等しいスマホを砕かれ、絶叫した。
「写写ーッ?!(訳:誰だ、俺のカメラを砕いたヤツは?!)」
怒りに震え、刀が投げ込まれた先を睨む。
そこには元の姿に戻った蒼劔が立っていた。スマホ越しの五代の合図に合わせて、衣装部屋の出口から刀を投げたのだが、わずかにズレてしまったらしい。
「チッ、外したか」
「写……写ー?!(訳:そ……蒼劔んんー?!)」
カメレオン小僧は蒼劔を見て、青ざめる。妖怪のわりに知性が高いせいか、蒼劔のことを知っていたらしい。
先程まで怒りを向けていたのが嘘のように、その場でスマホを捨て、逃走した。教室の壁をすり抜け、廊下へ出る。
スマホの残骸は、空中で青い光の粒子となって消えた。
「五代、奴は?!」
『今、教室を出てった! 早く捕まえないと、逃げられる!』
「ったく、無駄にすばしっこい妖怪だなぁ」
蒼劔とクリムゾンアーチェも壁をすり抜け、衣装部屋から廊下へ出ていった。
・
昼食時の廊下は人でごった返していた。踏み入る隙もないほど密集していたが、カメレオン小僧は一瞬空いた人と人との隙間を的確に見極め、すり抜けていった。
『右、左、右、左、右、上、下、真ん中……』
五代は視力の高さを駆使し、的確にカメレオン小僧の位置を教える。
しかし蒼劔は標的が縦横無尽に動いているせいで、狙いを定めずにいた。わずかでもズレれば、人間に刀が刺さってしまう。
「くッ、このままでは逃げられる!」
「人間に乗り移って、近づけばいいじゃないか」
「それで近づけたとしても、周囲の人間を傷つけずに斬れる隙間などない!」
「別にいいじゃないか、人間の一人や二人」
クリムゾンアーチェは呆れた様子で、肩をすくめる。
当然、蒼劔は彼を睨んだ。
「その一人が神服部だったとしても、貴様は殺すのか? 貴様にとってはどうでもいい人間でも、誰かにとってはかけがえのない人間かもしれん。貴様に、人の命を選ぶ資格などない」
『ひぇぇ、怖っ』
五代は言われた本人以上に、電話の向こうで怯える。
一方、クリムゾンアーチェは顔色一つ変えず「仕方ないなぁ」と自分の耳を指差し、言った。
「そのスマホ、僕の耳に当ててくれる? 僕があいつを仕留めてあげるから」
「……お前、武器なんて持っていたか?」
「あるよ? ここに」
言うが否や、クリムゾンアーチェはマントの裏から身の丈ほどの大きな弓を取り出した。どこか見覚えのある弓だった。
それは五代も同じだったようで、弓を確認した途端に『ひっ?!』と悲鳴を上げた。
『マジっすか?! クリムゾンアーチェ氏、モゴモゴだったんすか?! ヤッベェよ! とんでもねぇトクダネ、つかんじまったよォッ! オイラ、殺されちゃうってばよ蒼劔氏ぃッ!』
手で口をふさぎ、必死にクリムゾンアーチェの本名を誤魔化す。
クリムゾンアーチェも五代がどういう存在か知っているようで、「頼むよ、五代童子君?」と冷たく微笑んだ。
「殺されたくなかったら、言いふらさないでね? 君はカメレオン小僧の居場所を教えてくれればいいんだから」
『うっす! 了解っす、モゴモゴ氏!』
「……とりあえず、貴様がまともな輩でないことは分かった」
蒼劔はクリムゾンアーチェを不審がりながらも、渋々彼の耳へスマホのスピーカーを当てる。
知り合ったばかりの相手に討伐を頼むのは癪だったが、彼の素性を知るためにも、どう行動するのか見届けておきたかった。
「しくったら、許さん」
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