贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
165 / 327
第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」

肆:カメレオン小僧

しおりを挟む
 昼食後、陽斗達は誰もいない衣装部屋へ移動し、神服部にスマホである画像を見せられた。
「これって……コスプレ?」
「すごい数の写真だな……」
 それは「カメレオン小僧」という人物がSNSに上げていた大量のコスプレ写真だった。
 いずれも盗撮で、被写体の目線はカメラを向いてはいなかったが、不思議なことに、かなり接近しなければ撮れないような写真が何枚もあった。中にはここ、「ネオ桃源郷」で撮られた写真もあり、つい先程撮ったと思われる、神服部と蒼劔が話している姿を捉えた写真も掲載されていた。
「……全部、盗撮だよ。勝手に写真を撮って、SNSに上げてる迷惑ユーザー。前からコスプレイベントでも問題になってた人なんだけど、まさかうちの高校に来るなんて……。たぶん、小型の隠しカメラを使って撮ってるんだと思うんだけど、店内には仕込まれてなかったし、どのお客さんも怪しい物は持ってなかった。犯人もカメラも見つからないものだから、クラスのみんなは、"うちのクラスの誰かが犯人なんじゃないか"って疑心暗鬼になってる。今はなんとか働いてくれてるけど、いつ衝突してもおかしくない。それに、このことが学校側に知れたら、来年からこういう模擬店が出来なくなっちゃうかもしれない……!」
 神服部は悔しそうに唇をかみしめた。
 コスプレを愛する彼女にとって、今回の模擬店がどれほど大事なものなのか、そばで見ていた陽斗と成田にも痛いほどよく分かっていた。神服部はオカ研の模擬店の準備を手伝いながらも、自分のクラスの模擬店の準備も怠らず、毎日遅くまで家でコスプレの衣装を作っていた。
「大丈夫だって、神服部ちゃん! 俺達で絶対、犯人をとっ捕まえようぜ!」
「そうそう! きっと、蒼劔君と仮面の人がなんとかしてくれるよ!」
「二人とも……ありがとう」
 陽斗と成田に元気づけられ、神服部は微笑む。
 一方、頼りにされている蒼劔と仮面の男は、カメレオン小僧の気配に全く気づけなかったことに危機感を感じていた。
「気配遮断能力か? それとも、千里眼か? 少なくとも、人間の仕業ではないな」
「だろうね。僕は護衛として朝からずっとこの店にいたけど、全く気づけなかった。一応、結界を張っておいて正解だったよ」
「……あれか」
 蒼劔は衣装部屋の四隅に貼られた札に視線をやった。この部屋へ入った際に仮面の男が放った札で、和紙で出来ていながら常に炎が灯っている。
 成田や神服部には見えていないが、この部屋は札の効力によって結界に囲われ、守られていた。もしも異形が部屋に侵入しようとしたとしても、結界によって焼き殺されるだろう。
「鬼火の札か……ますます怪しい奴だな。あんな代物を使えるのは、よほどの術者か、鬼くらいだぞ」
「そんなに褒めてくれるなんて、嬉しいなぁ。念のため作っておいて正解だったよ」
「褒めてない。いい加減、正体を明かしたらどうだ?」
 蒼劔は忌々しそうに仮面の男を睨みつける。
 仮面の男は「おや、知らないのかい?」とクスクス笑った。
「一応、人間界では伝説のコスプレイヤー『仮面の貴公子、クリムゾンアーチェ』として名を馳せているんだけど?」
「ずいぶん、長ったらしい名だな」
「何言ってるんですか! すっごいカッコいいお名前じゃないですか!」
 そこへ、話を聞いていた神服部が仮面の男、クリムゾンアーチェの加勢に入った。
「アーチェさんはすごい人なんですよ! 年齢不詳、性別不詳、本名不詳、素顔不詳……ありとあらゆるプロフィールが謎に包まれたまま、純粋にコスプレの完成度を評価され、数々のコスプレコンテストの栄冠を総ナメにしてきたレジェンドですよ?! 一説にはコスプレ開拓期を支えたとも、大正時代に撮影された写真に写っていたとも言われている、ミステリアスビューティーなんですから!」
「へー、この人そんなすごいコスプレイヤーだったんだな」
「サインもらっておいた方がいいかな?」
 神服部の熱弁に、陽斗と成田は感心する。紹介された本人も、
「よく知ってるねぇ」
と神服部を褒めた。
「ファンとして、当然です! 今日のブルーソード様コスも最高です! あ、後で写真を撮らせてもらえませんか……?」
「いいよ。そのために着てきたんだからね」
「ふはぁッ! ありがとうございますッッ!」
 神服部は興奮した様子で腰を九十度に折り曲げ、クリムゾンアーチェに礼を言う。
 陽斗はいつもの穏やかな印象とは異なる彼女を見て、「なんか五代君に似てるなぁ」と思った。

       ・

 状況を把握したところで、クリムゾンアーチェが皆に作戦を提案した。
「まずはカメレオン小僧をおびき寄せよう。SNSに上げている写真を見る限り、彼は若い女性にご執心のようだ。そこで、聖衣工房さんにコスプレをしてもらって、撮影スペースに立ってもらう。撮影スペースは教室の突き当たりにあるから、人目につきにくい。僕と蒼劔は隠れて待機、贄原君達は聖衣工房さんのカメラマンのフリをしてくれ」
「了解っす!」
 成田は嬉しそうに、親指を立てる。作戦とはいえ、神服部の写真を撮れるのが嬉しいらしい。
 一方、陽斗はずっと気になっていたことをクリムゾンアーチェに尋ねた。
「あの、聖衣工房って神服部さんのニックネームですか?」
「ひゃふっ?!」
 途端に神服部が顔を赤らめる。
 しかしクリムゾンアーチェは彼女に構わず、答えた。
「ニックネームというか、源氏名だね。彼女はコスプレで着るコスチュームを作っている作り手さんなんだよ。僕もよくお世話になっているんだ」
「へぇー! 神服部さん、服作れるの? すごいね! 僕も聖衣工房さんって呼んでいい?」
「絶対ダメ。コスプレ作ってることも、他の人には言っちゃダメ。恥ずかしいから」
「もったいないなぁ。あんなすごい衣装を作れるのに」
 クリムゾンアーチェは肩をすくめ、話を戻した。
「カメレオン小僧が来たら、僕と蒼劔が仕留める。問題は奴の姿をどうやって捉えるか、だね」
「それならば、心配ない。陽斗、五代に連絡してくれ」
「はーい」
 陽斗は神服部のスマホを借り、五代に電話をかけた。
 密かに話を聞いていたのか、五代はワンコール終わらぬうちに、電話に出た。
『処刑の時間じゃあっ! カメコの片隅にも置けねぇカメレオン小僧をぶっ倒すぜヒャッハー!』
 五代は怒りを剥き出しに、電話の向こうでなんらかの金物をカキンカキンと鳴らしていた。おそらく、カッターナイフとハサミだろう。
「奴を知っているのか?」
『当ッ然! ヲタクの間じゃ常識よーん』
 五代は電話の向こうで胸を張り、断言した。
『そろそろこの業界から締め出そうと思ってたから、ちょうど良かったZE! そいつはカメレオンのごとく背景に溶け込む妖怪、避役ひやく! 中でも気配まで消せる、上位種! しかーし! オイラに見つけられない異形など、この世にもあの世にもいないのだ! クリムゾンアーチェ氏と陽斗氏のコスプレ生写真十枚で手を打とう!』
「さらっと対価をつけるな」
 蒼劔は五代の対価に難色を示したが、クリムゾンアーチェは「別に構わないよ」と、あっさり快諾した。
「仕事に対価は付き物だ。むしろ、ここで対価を払わなければ、後から何を請求されるか恐ろしいよ」
『おっ、さっすがナンバーワンコスプレイヤー! わかってるぅ~! 心が読めないのが恐ろしいけど、きっといい人だよね! 間違っても、術者や鬼なんかじゃないですよね?!』
「それはノーコメントで」
 クリムゾンアーチェはやんわりと五代を誤魔化し、「君もそれでいいかい?」と陽斗に確認した。
「どうしても嫌なら、蒼劔にさせるけど」
「何故、俺がやらねばならんのだ」
『いえ、蒼劔氏のはいらないです』
「おい」
「いいよ、蒼劔君。僕、コスプレやるよ! 神服部さんの話を聞いて、興味も湧いてきたし」
 それを聞いた神服部は「本当?!」と、目を輝かせた。
「だったら、一緒に撮りましょう! ちょうど贄原君に着てもらいたい衣装があるの!」
「で、でも、カメレオン小僧は若い女の子を狙ってるんだよね? 僕がいたら、来ないんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫!」
 神服部はクローゼットから一着の服を取り出し、陽斗に突き出した。
「今から着てもらうのは、の衣装だから!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...