贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」

弐:白石の子孫

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 黒縄が練り切りを十回おかわりした頃、五代がパチっと目を見開き、解析を終えた。
「……結論から言うと、白石はとっくに死んでるね」
 椅子ごとちゃぶ台に近づき、朱羅が彼のために用意しておいた練り切りを手づかみで食べる。すかさず朱羅が湯呑みに茶を注ぎ、五代の前へ出した。
 五代は何度もフーフーと息を吹きかけてから茶をすすり、結果を伝えた。
「常人の寿命と変わらない、八十歳くらいで死んだみたい。白石聖美きよみっていう、子孫の女が一人いるね。術者の端くれらしく、記憶が読み取れないよう防御してる。魔石を持ってるとしたら、彼女かな。異形が見える可能性がある以上、盗むのは無理そうだ。白石が魔石について子孫にどう説明しているか、目白のことを話しているか、そもそも魔石の存在自体を知っているかも分からない。迂闊うかつに近づくのは危ないね。だから黒縄氏……魔石は諦めて、ショタ化しようぜ!」
「今さらビビってンじゃねェぞ、五代。その女のことを調べた時点で、テメェも俺達と同じ穴のムジナなんだからよ」
「ドヒャーッ! やっぱ断れば良かったー!」
 五代は両手で頬を挟み、白目を剥く。
 しかし黒縄は五代の変顔に微動だにせず、子孫の女について尋ねた。
「で? その女から魔石を奪い取る算段はついてンだろうな?」
「何の策もないのでは、手詰まりですよ?」
 朱羅も不安そうに五代を見つめる。
 今にも泣き出しそうな彼の顔を見て「そんな顔をするんじゃあないよ、朱羅氏ぃ」と五代はねっとりと返した。
「オイラだってバカじゃないさぁ~。ちゃぁんと策は考えてあるよん♪」
 五代はマウスを操作し、一枚の資料を印刷した。プリンターから取り出し、黒縄達の眼前に掲げてみせる。
 資料を見た黒縄と朱羅は、書かれている文章を読んで眉をひそめた。
「……これと魔石がどう関係あンだ?」
「大ありっすよぉ! 聖美っちに近づく、またとないチャンスっす! まぁ、それには?」
 新たな標的の登場に、五代はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

       ・

 「節木高校七不思議体験」は、前日にSNSで拡散されていたのもあって、初日以上の盛り上がりを見せていた。
 初日に途中でリタイアした参加者もリベンジに訪れ、陽斗がいる最終エリアにも人が来て忙しかった。
「お疲れ様でした。よろしければ、こちらのアンケートをご記入下さい」
「あ、ありがとうございます」
「良ければ、一緒に写真撮ってくれませんか?」
 意外だったのは、出口の受付をしている蒼劔が、若い女性客を中心に人気を博していたことだった。
 彼目当てに「節木高校七不思議体験」を訪れる客が多く、初日にはさほど見られなかった若い女子のグループが列に並んでいた。
 今も、見事に出口までたどり着いた他校の女子高生達が、アンケートもそこそこに蒼劔に写真をせがんでいる。もう何組の女子達が同じことをせがんだか分からなくなった。
 最初は戸惑っていた蒼劔も、すっかり慣れたらしく、彼女達を一瞥して淡々と返した。
「申し訳ないが、そのようなサービスはしていない。他を当たってくれ」
「えー、ケチー」
「いいじゃん、写真くらいー」
 女子高生達は諦めきれないのか、ぶーぶーと文句を言う。このままでは盗撮されかねない。
 それを察した蒼劔は、「だって、ほら」とコピー機で印刷された写真を女子高生達に見せた。
「ここで写真を撮ったら、霊も写るかもしれないだろう?」
「え?」
 写真を見た途端、女子高生達は「ギャーッ!」と悲鳴を上げ、走り去っていった。
 写真に写っていた彼女の達の背後には、満面の笑みで手を振る陽斗が一緒に写っていた。
「蒼劔君、また逃げられちゃったね」
 女子高生達が去ったのを確認し、陽斗が暗幕の裏からこっそり顔を出す。蒼劔が壁になっているため、入り口で並んでいる客達にば陽斗の姿は見えていなかった。
「あぁ。受け取ってもらわねば、俺が困るのだが」
 蒼劔も残念そうに肩を落とす。
 渡しそびれた写真は、教室の壁に画鋲で貼る。既に壁の半分が渡しそびれたり、受け取り拒否されたりした写真達で埋まっていた。
「すごい量! これ、もう展示じゃない?」
「心霊写真の展示か……自分で言っておいてなんだが、なかなか悪趣味だな」
「せっかく撮ったのに、もったいないよね。僕なら、専用の写真立てを買って、机の上に置いて毎日眺めるのになぁ。写真なんてほとんど持ってないし」
「頼むから、まともな写真を飾ってくれ」
 蒼劔は陽斗の感覚の鈍さに、ため息をついた。

       ・

「贄原君、女装に興味ある?」
 昼休み、陽斗が教室で着替えて出てくると、出口で待っていた神服部が開口一番、尋ねてきた。彼女と成田とは今日の昼食を共に食べる約束をしていた。
 「今日のお昼、何食べる?」と同じノリで尋ねられ、その場にいた陽斗も蒼劔も成田も一瞬で固まった。
「えっ?」
「は?」
「神服部ちゃん、わなげ投げ過ぎておかしくなっちゃった?」
 一同が困惑するのを見て、神服部も自分が何と言ったのか自覚したらしく、「えっ、あっ!」と、ハッとした様子で顔を赤らめた。
「ご、ごめんなさい! つい、間違えちゃった!」
「そっかぁ、間違いかぁ」
「ハァ……驚かせるなよ」
「で? 本当は何て聞こうとしたんだ?」
 三人も間違いだったと分かり、ホッとする。
(そうだよね、神服部さんがそんなトンチキなこと、急に言うはずがないもんね)
(この女はオカルト研究部の中では、比較的マシな人格の持ち主だからな。これ以上おかしな連中が増えては、陽斗が心配だ)
(神服部ちゃんの口から"女装"なんて言葉が出てくるなんて、びっくりだなぁ。もしかして、そういう趣味があるとか? いやいや、ないない。まさかそんなことある訳が……)
 彼らが心の中で安堵と疑惑を抱く中、神服部は「えっとね、」と改めて陽斗に尋ねた。
「贄原君、コスプレに興味ある?」
「コスプレ? 僕が?」
 耳馴染みのない単語に、陽斗は目を丸くする。
「陽斗、"こすぷれ"とは何だ?」
 一方、蒼劔は単語の意味そのものを知らなかったらしく、陽斗に尋ねた。
 するとそれを聞いていた神服部が「な、なんですって?!」と声を上擦らせた。
「コスプレをご存じない……?! これは一大事だわ! ぜひ、蒼劔さんにはうちのクラスの企画に来てもらわないと!」
「そういえば、神服部さんのクラスって何の出し物だったっけ?」
「あ、言ってなかったっけ?」
 神服部はにっこりと微笑み、答えた。
「コスプレ喫茶よ。店員に好きなコスプレを着させられるの。お客様がコスプレをして写真を撮れるスペースもあるの。コーヒーやケーキだけじゃなく、フードメニューも充実してるから、お昼ご飯にはピッタリだと思うわ!」
「へぇー! 面白そう! 二人共、お昼は神服部さんのとこでいいかな?」
 好奇心から陽斗は目を輝かせ、蒼劔と成田に確認する。
「俺はどこでもいいが、結局こすぷれとは何なのだ?」
「お、俺もそこでいいぜ。混まないうちに、早く行こう」
 蒼劔はコスプレの意味をよく知らないまま頷き、成田もぎこちなく同意した。成田の視線の先には、神服部が有無を言わせない目つきで、彼をジッと見つめていた。
「やった! じゃあコスプレ喫茶にレッツゴー!」
 こうして、一行はコスプレ喫茶に行くこととなってしまった。

       ・

「神服部ちゃん、陽斗に女子キャラのコスプレさせようとしてるよね?」
 コスプレ喫茶へ向かう道中、成田はこっそり神服部に尋ねた。
 後ろからついて来ている陽斗と蒼劔は、一日目には見られなかった屋台に意識が向き、成田の問いには気づいていなかった。
「えっ、何でバレてるの?」
 神服部は心底驚いた様子で、成田に聞き返す。
 成田は言いにくそうに、小声で答えた。
「いや、さっき陽斗に聞いてたじゃん。"女装に興味ある?"って。陽斗も蒼劔さんも気づいてないみたいだけどさ」
「……成田君、」
 神服部はニッコリと笑い、告げた。
「その事はうちのクラスに着くまで、二人には内緒にしててね?」
「は、はいぃ……!」
 あまりの気迫に、成田はガクガクと頷いた。
(こ、怖っ! 神服部ちゃんの目が笑ってないんだけど……?!)
 成田は知らず知らずのうちに、神服部の知られざる一面を連続して目撃し、怯えた。
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