贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」

壱:助っ人、蒼劔

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「陽斗、おはよー! 一番乗りかよ! 早ぇなー」
 黒縄達と別れた後、陽斗は「節木高校七不思議体験」で衣装の準備をしていた。
 既に校内には他の生徒の姿も見え、衣装の準備を済ませた頃には成田と遠井が教室にやって来た。
「あっ、成田君おはよう! 今日は遠井君も一緒?」
「まぁな。来る途中でたまたま会ったんだよ」
「おかげで、興味のないオカルト話に付き合わされていい迷惑だ」
「だったら、一人でさっさと先に行きゃ良かったじゃねぇか。お前はチャリで来てたんだし」
 いつも通り、成田は遠井といがみ合う。
 しかしふと、陽斗の隣りに立っている蒼劔に目を止めた。
「なぁ、陽斗。そいつ、誰? 陽斗の知り合い?」
 蒼劔は不知火の代わりに出口の係員をするため、成田達にも見えるよう、人間に化けていた。
 髪と目の色は元の色のままで、ツノを消し、現代風の服を身に纏っている。立襟の白いシャツ、細身のジーパン、素足に紺色のスリッパという洋装で、和装の蒼劔しか見たことがない陽斗にとっては、新鮮だった。
「そうだよー。不知火先生の知り合いで、僕の友達の蒼劔君。先生の代わりに、出口の係をやってもらうことになったんだ」
「マジか! すっげー個性的な兄ちゃんだなー。バンドか、ファッション関係の人?」
「う、うん。まぁ、そんなとこかな?」
「そっかー! あとでサインもらっとこうっと!」
 成田は蒼劔に興味津々な様子で目をキラキラさせ、自己紹介をした。
「どうも、初めまして! 俺、成田友郎って言います! 陽斗の友達で、この『節木高校七不思議体験』を主催してるオカルト研究部の部員っす! 今日はよろしくお願いします!」
「あ、あぁ……よろしく」
(……本当は"初めまして"ではないのだがな)
 蒼劔は複雑に思いながらも、成田に不審に思われないよう誤魔化す。
 実際は二ヶ月近く彼の姿を観察しており、その人となりは陽斗以上に理解していた。
「ってことは、飯沼ちゃんは今日も休みかー。ほんとに何もないといいけどなぁ」
「あ……うん」
 成田の口から飯沼の名前が出、陽斗は言葉に詰まる。
 成田達は飯沼が既にこの世にいないことを知らない。今は体調不良で欠席ということにしてあるが、いずれ真実を話さなければならない時が来るのだろう。
(成田君……飯沼さんがもういないって知ったら、ショックだろうな。僕も信じたくないよ。飯沼さんともう会えないなんて……)
 陽斗は飯沼のことを思い出し、顔を曇らせる。
 彼の表情を見て成田も察したのか、飯沼についてそれ以上は追求してこなかった。
「やっぱ、霊障のせいかね? うちの出し物に惹かれて、霊が集まってきてんだよ、きっと。ほら、お化け屋敷って霊が集まってきやすいって聞くじゃん?」
「ただの体調不良だろ。俺も含め、文化祭の準備で部長にこき使われていたからな。何でもオカルトのせいにするな」
 成田のオカルト話に、すかさず遠井が突っ込む。
 それでも成田は「いやいや、絶対おかしいって!」と食い下がった。
「飯沼ちゃんは、今まで風邪ひとつひいたことないって言ってたんだぞ?! なのに文化祭が始まって、急に体調が悪くなるなんて、タイミングが良過ぎる! これはなんかあるって!」
「おやおや、何やら盛り上がっているようだね?」
 そこへタイミング悪く、岡本と神服部がやって来た。
「その話……我々にも聞かせてもらおうか?」
「二人だけでオカルト話をするなんて、ずるい! 私も混ぜて!」
 岡本は眼鏡を光らせ、神服部も成田と遠井に期待の眼差しを向ける。
「部長! 神服部ちゃん!」
「チッ」
 強力な援軍に成田は歓喜する。
 一方で、遠井はうっとうしそうに舌打ち、二人を睨みつけた。しかし撤退する様子はなく、一人で三人のオカルトマニア達を迎え撃つつもりらしかった。
「我が部の『節木高校七不思議体験』の異変は、受付にも話は来ているよ。黒髪の美少年が猛烈な勢いでドアを叩いていたとか、赤髪の大男が泣き喚いていたとか、誰にも気づかれずに一周した者がいるとか!」
「ペアごとに入るのに、誰がそれを見ていたんです? あと、たぶん黒髪の美少年と赤髪の大男はただの客ですよ」
 白熱するやり取りを、陽斗と蒼劔は遠巻きに眺める。この分だと、教室に客が来るまで続くだろう。
「みんな忙しいみたいだし、僕達だけで先に準備してよっか! コピー機の使い方教えてあげるから、よく見ててね」
「あぁ、頼む」
 陽斗は成田達を放置し、蒼劔の死事をレクチャーした。
 飯沼がすぐそばでやっていた仕事だったので、何をするのか全て覚えていた。

       ・

 その頃、黒縄と朱羅は不知火を連れて、節木荘へと戻ってきていた。彼の記憶を五代に読み取らせ、黒縄の妖力を封じた石、魔石の行方を探らせるためだった。
「邪魔するぜー」
「ぎゃぁぁぁ! オイラの部屋のドアが粉々にぃぃぃっ!」
 黒縄は五代の部屋の前まで来るなり、袖から出した無数の鎖で玄関のドアを破壊し、部屋の中へと乗り込んだ。
 中でお気に入りのアニメを観ていた五代は悲鳴を上げ、震え上がる。
「五代殿、申し訳ありません。ドアは後で直しておきますので」
「お邪魔します」
「ホントそうしてくれるかな、朱羅氏……って不知火やんけオイィィィ!」
 さらに、黒縄に続いて部屋に入ってきた不知火を見て絶叫し、硬直する。五代は術者でもある不知火、もとい目白を恐れていた。
「何で連れてきたの?! ねぇ、何で連れて来たの?! オイラがROM専だってことは知ってるでしょ?!」
「そのろむせんってのが何なのかは知らねェが、かくかくしかじかでコイツから俺の魔石を受け取ったっつー、白石ってヤツの居所を調べてくれ。本人がとっくにおっ死んでンなら、その子孫な。とにかく、魔石の居場所さえ分かりャいい。さっさと調べろ」
「かくかくしかじかって、俺っちでもそんな簡単に事情が分かるわけ……あー、はいはい白石の居場所ね! オイラの部屋を掃除しながら、数分待ってちょ! あと目白! ちょっちお手を拝借」
 五代は黒縄と朱羅の記憶を読み取って事情を察したのか、先程とは打って変わり、自ら不知火の手を握りに行った。不知火も五代の能力を分かっているらしく、黙って記憶を読まれる。
 やがて五代は必要な情報を手に入れたのか、
「ご協力、ダンケシェーン!」
と不知火の手を離すと、椅子の上で座禅を組み「むむむ……」と神妙な顔で唸り出した。
 掃除こそしないものの、黒縄達は五代の解析が済むまで部屋で待機することにした。
「黒縄様、目白殿、どうぞこちらへ」
「ん」
「どうも」
 朱羅は床に転がっていた膨大なアニメグッズを退け、黒縄と不知火を座布団へ座らせる。その座布団にも、コミカルなポーズを取ったミニサイズのアニメのキャラクターが無数にプリントされていた。
 朱羅は一旦黒縄の部屋へ降り、湯呑みと急須に入ったあったかいお茶、文化祭で購入した丸まった三毛猫の形をした練り切りをお盆に乗せ、戻ってきた。湯呑みにお茶を注ぎ、練り切りと一緒に黒縄と不知火の前に出した。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ん」
「どうも」
 黒縄は当然のように湯呑みに口をつけ、黒文字で練り切りを串刺しにし、一口で平らげる。朱羅は黒縄の行動を予見していたらしく、彼の皿へ新たに黒猫の練り切りを乗せた。
 不知火も茶を一口すすり、黒文字で丁寧に猫の頭を切り、口へ運ぶ。自然な甘さと滑らかな口溶けに、思わず溜め息が出た。
「……美味いな」
「こちらの練り切りはお宅の文化祭の和菓子サークルで購入したものです。茶も、保護者の方が持ち寄られたフリーマーケットで購入したんですよ。賞味期限が近いとはいえ、定価に比べると破格のお値段でした」
「淹れ方が上手いな。素人ではこうはならない」
「お褒め頂き、光栄で御座います」
 朱羅は嬉しそうに顔をほころばせ、自分の分の茶をすすった。
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