162 / 327
第8.5話「コスプレ喫茶に潜む影(文化祭2日目)」
壱:助っ人、蒼劔
しおりを挟む「サミュエル殿下、これ、受け取ってください」
「サミュエル殿下、今日ご予定はございますか?一緒にお茶でもいかがですか?」
あの日以降、令嬢たちはサミュエル殿下によく話しかけている。そんな姿を見ると、相変わらず胸が張り裂けそうになるが、私にはどうする事も出来ない。
そっとサミュエル殿下たちの傍を離れた。
「キャリーヌ、最近令嬢たちのサミュエル殿下へのアプローチがすごいわね。ねえ、本当にこのままでいいの?あなた、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?」
私に話しかけてきたのは、ミリアム様だ。
「私はサミュエル殿下の事は、何とも…」
「嘘おっしゃい!あなたが切なそうにサミュエル殿下を見つめているのを、私は知っているのよ。どうしてサミュエル殿下を避けるの?あなただって、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?それなら、どうして?」
「私はサミュエル殿下の事を、傷つけ裏切ったのです。だから私には…」
「私には、サミュエル殿下と幸せになる権利はないとでも言いたいの?その件に関しては、サミュエル殿下は気にしていないのよ」
「それでも私が気になるのです!どうかもう、サミュエル殿下と私の事は放っておいてください」
「待って…キャリーヌ…」
後ろでミリアム様の声が聞こえるが、今はミリアム様の傍にいる勇気がない。そもそもミリアム様は、私がサミュエル殿下にした仕打ちをよく知らないから、あんなことが言えるのよ!
カイロ様と仲睦まじいミリアム様に、私の気持ちなんてわからないわ!必死に涙を堪え、馬車に乗り込み家路についた。そして、すぐに自室に向かう。部屋についた瞬間、涙が溢れ出る。
苦しい…悲しい…辛い…そんな感情が溢れ出る。私だってサミュエル殿下の傍にいれたら、どんなにいいだろう。でも私は、彼を裏切ったという罪悪感が、それを許さないのだ。
「お嬢様…奥様がお呼びですが…お嬢様は体調が悪いという事にして、お断りしましょうか?」
どれくらい泣いていただろう。申し訳なさそうに、クラミーが話しかけてきたのだ。クラミーにも随分心配をかけている事は分かっている。
でも、自分でもどうする事が出来ないのだ。
「私は大丈夫よ、お姉様が呼んでいるのね。すぐに行くわ。ただ、こんな顔ではいけないから、目を冷やしてくれるかしら」
「かしこまりました。お嬢様、どうかご無理をなさらずに」
そう言いながら、私の目を冷やしてくれるクラミー。落ち着いたところで、お姉様の元へと向かおうとした時だった。待ちくたびれたのか、お姉様が部屋までやって来たのだ。
「キャリーヌ?遅いから来たわよ。今から王宮に行く事になったら、すぐに準備をして」
「えっ?王宮にですか?分かりました、すぐに準備をします」
一体何の用で王宮に向かうのだろう。心当たりと言えば…サミュエル殿下の事かしら?サミュエル殿下がカリアン王国に留学して来てから、早1ヶ月半、ずっと冷たくしていたから、さすがに注意を受けるとか?
いや…そんな事はないだろう。だとすると、一体なんだろう。不思議に思いつつ準備を整えると、お姉様とお義兄様と一緒に、王宮へと向かった。
王宮に着くと、王太子殿下と王太子妃殿下、ミリアム様とカイロ様、さらにサミュエル殿下が待っていた。
「クレスティル公爵、夫人、キャリーヌ嬢、急に呼び出してすまなかったね。実はサミュエル殿下が、急遽帰国する事になって。それで最後に君たちに挨拶をしたいとの事で、来てもらったんだよ」
急遽国に帰るですって…
そんな…
「確か留学期間は3ヶ月でしたよね?急に帰国されるとは、一体どういうことですか?それではキャリーヌも一緒に、帰国するという事ですか?」
お姉様も何も聞いていなかったようで、混乱している。もちろん、私も一体何が起きているのかさっぱりわからない。
「キャリーヌは連れて帰るつもりはないよ…キャリーヌ、僕のせいで辛い思いをさせてしまって、本当にすまなかったね。僕が来てからのキャリーヌは、本当に辛そうで…僕はこれ以上、君に悲しい顔をして欲しくないんだ。だから僕は、国に帰る事にした。キャリーヌ、どうかこの国で幸せになってくれ。君は兄上のせいで、随分傷ついた。だからこそ、幸せになる権利がある。それを邪魔する事なんて、誰にも出来ない。もちろん、僕にもね」
そう言うと、悲しそうに笑ったサミュエル殿下。
サミュエル殿下は、私の為に帰国するの?
でも…
それならそれでいいのかもしれない。サミュエル殿下にとっては、この国に長くいるメリットなんてない。自国でやらなければいけないことが、沢山あるはずだ。それに、私の事は忘れて、早く素敵な令嬢を見つけて欲しい。
「そうですか…サミュエル殿下、あなた様ならきっと、立派な国王陛下になられますわ。どうか…どうか素敵な令嬢を見つけて、幸せになってください。それでは私は、失礼いたします」
ダメだ、これ以上サミュエル殿下を見ていたら、涙が込みあげてきた。王族の方たちがいるまで、泣く訳にはいかない。
サミュエル殿下や王族の方たちに一礼をして、その場を後にしたのだった。
「サミュエル殿下、今日ご予定はございますか?一緒にお茶でもいかがですか?」
あの日以降、令嬢たちはサミュエル殿下によく話しかけている。そんな姿を見ると、相変わらず胸が張り裂けそうになるが、私にはどうする事も出来ない。
そっとサミュエル殿下たちの傍を離れた。
「キャリーヌ、最近令嬢たちのサミュエル殿下へのアプローチがすごいわね。ねえ、本当にこのままでいいの?あなた、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?」
私に話しかけてきたのは、ミリアム様だ。
「私はサミュエル殿下の事は、何とも…」
「嘘おっしゃい!あなたが切なそうにサミュエル殿下を見つめているのを、私は知っているのよ。どうしてサミュエル殿下を避けるの?あなただって、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?それなら、どうして?」
「私はサミュエル殿下の事を、傷つけ裏切ったのです。だから私には…」
「私には、サミュエル殿下と幸せになる権利はないとでも言いたいの?その件に関しては、サミュエル殿下は気にしていないのよ」
「それでも私が気になるのです!どうかもう、サミュエル殿下と私の事は放っておいてください」
「待って…キャリーヌ…」
後ろでミリアム様の声が聞こえるが、今はミリアム様の傍にいる勇気がない。そもそもミリアム様は、私がサミュエル殿下にした仕打ちをよく知らないから、あんなことが言えるのよ!
カイロ様と仲睦まじいミリアム様に、私の気持ちなんてわからないわ!必死に涙を堪え、馬車に乗り込み家路についた。そして、すぐに自室に向かう。部屋についた瞬間、涙が溢れ出る。
苦しい…悲しい…辛い…そんな感情が溢れ出る。私だってサミュエル殿下の傍にいれたら、どんなにいいだろう。でも私は、彼を裏切ったという罪悪感が、それを許さないのだ。
「お嬢様…奥様がお呼びですが…お嬢様は体調が悪いという事にして、お断りしましょうか?」
どれくらい泣いていただろう。申し訳なさそうに、クラミーが話しかけてきたのだ。クラミーにも随分心配をかけている事は分かっている。
でも、自分でもどうする事が出来ないのだ。
「私は大丈夫よ、お姉様が呼んでいるのね。すぐに行くわ。ただ、こんな顔ではいけないから、目を冷やしてくれるかしら」
「かしこまりました。お嬢様、どうかご無理をなさらずに」
そう言いながら、私の目を冷やしてくれるクラミー。落ち着いたところで、お姉様の元へと向かおうとした時だった。待ちくたびれたのか、お姉様が部屋までやって来たのだ。
「キャリーヌ?遅いから来たわよ。今から王宮に行く事になったら、すぐに準備をして」
「えっ?王宮にですか?分かりました、すぐに準備をします」
一体何の用で王宮に向かうのだろう。心当たりと言えば…サミュエル殿下の事かしら?サミュエル殿下がカリアン王国に留学して来てから、早1ヶ月半、ずっと冷たくしていたから、さすがに注意を受けるとか?
いや…そんな事はないだろう。だとすると、一体なんだろう。不思議に思いつつ準備を整えると、お姉様とお義兄様と一緒に、王宮へと向かった。
王宮に着くと、王太子殿下と王太子妃殿下、ミリアム様とカイロ様、さらにサミュエル殿下が待っていた。
「クレスティル公爵、夫人、キャリーヌ嬢、急に呼び出してすまなかったね。実はサミュエル殿下が、急遽帰国する事になって。それで最後に君たちに挨拶をしたいとの事で、来てもらったんだよ」
急遽国に帰るですって…
そんな…
「確か留学期間は3ヶ月でしたよね?急に帰国されるとは、一体どういうことですか?それではキャリーヌも一緒に、帰国するという事ですか?」
お姉様も何も聞いていなかったようで、混乱している。もちろん、私も一体何が起きているのかさっぱりわからない。
「キャリーヌは連れて帰るつもりはないよ…キャリーヌ、僕のせいで辛い思いをさせてしまって、本当にすまなかったね。僕が来てからのキャリーヌは、本当に辛そうで…僕はこれ以上、君に悲しい顔をして欲しくないんだ。だから僕は、国に帰る事にした。キャリーヌ、どうかこの国で幸せになってくれ。君は兄上のせいで、随分傷ついた。だからこそ、幸せになる権利がある。それを邪魔する事なんて、誰にも出来ない。もちろん、僕にもね」
そう言うと、悲しそうに笑ったサミュエル殿下。
サミュエル殿下は、私の為に帰国するの?
でも…
それならそれでいいのかもしれない。サミュエル殿下にとっては、この国に長くいるメリットなんてない。自国でやらなければいけないことが、沢山あるはずだ。それに、私の事は忘れて、早く素敵な令嬢を見つけて欲しい。
「そうですか…サミュエル殿下、あなた様ならきっと、立派な国王陛下になられますわ。どうか…どうか素敵な令嬢を見つけて、幸せになってください。それでは私は、失礼いたします」
ダメだ、これ以上サミュエル殿下を見ていたら、涙が込みあげてきた。王族の方たちがいるまで、泣く訳にはいかない。
サミュエル殿下や王族の方たちに一礼をして、その場を後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる