贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8話「文化祭(2日目朝)」

捌:魔石の行方

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 不知火は当時のことを思い出し、眉をひそめる。「彼」に対し何か、わだかまりを抱いている様子だった。
「彼は白石しらいしという若い術者で、私の弟子になりたいと言ってきた。当然私は他人に何かを教えられる状況ではなかったから断ったが、彼は"雑用でも何でもする"と言って聞かなくてね。そのうち勝手に掃除や食事や洗濯をやり出して、何年も居ついていた。そこまでさせて何も返さないのは申し訳なくてね、なし崩し的に弟子にしたんだ。彼は才能こそ平凡だったが、努力家で、何度失敗しても諦めなかった。ただ、私から術を学びたいというよりは、別の何かのために努力しているようだった」
「別の何か?」
 蒼劔に問われ、不知火は頷く。
「彼は私からあらかた術を学び、免許皆伝となると、その証に"ある物"が欲しいと頼んできた。それが、黒縄君の妖力を吸収した石……魔石だった」
「な……ッ?!」
「黒縄様の魔石を?!」
 ここで魔石が登場するとは思っておらず、一同は驚く。
「なるほど……その白石という男が目白の弟子になったのは、黒縄の魔石を手に入れるためだったのか」
 蒼劔の分析に、不知火も「そうだ」と頷く。
「彼は最初から魔石を目当てに、私に近づいてきた。当初の予定では修行などするつもりはなく、ただ魔石を盗みに来ただけだったのかもしれない」
「ひどい……! 不知火先生はちゃんと術を教えてくれてたのに!」
 陽斗は不知火に同情し、白石を非難する。
 不知火も「本当にひどい弟子だったよ」とため息をついた。
「弟子から"免許皆伝の証に"なんて頼まれたら、断り切れないじゃないか。訳を尋ねたら、"我が一族は地獄八鬼という悪鬼の集団によって滅ぼされた。私はその首魁である黒縄に、復讐しなければならない"と、すごい剣幕で言われてね。断ったら、死んでも居つかれそうだったし、さっさと渡したんだよ。あの石でどうやって黒縄君に復讐するのか、ちょっと興味もあったしね」
「興味本位で、他人の大事なもんを渡すな!」
 黒縄はまたも飴を噛み砕き、不知火に抗議する。これには朱羅も「そうですよ!」と不知火を非難した。
「あの石のせいで、黒縄様はいくら妖力を集めても、元の姿に戻れなくなってしまったのですよ?! それどころか、年々幼くなられてしまって……こんなに愛らしいお姿になってしまわれたんです! 今では、子供服を購入するのが楽しくてしょうがありません! 昨日の文化祭のバザーでも爆買いしてしまったんですよ! どうしてくれるんですか?!」
「おい朱羅、本音がダダ漏れてンぞ」
 黒縄は冷めた目で朱羅を睨む。
 熱を込めて語っていた朱羅は黒縄の冷めた目つきに気がつき、ハッと理性が戻った。
「も、申し訳ありません! ちゃんと代金は支払っておりますので!」
「そういうことじゃねェ」
「あぅっ!」
 黒縄は後頭部で朱羅の鼻を思い切り小突く。
 朱羅はうめき、涙目になりながら、赤く腫れた鼻を押さえる。それでも、羽交い締めにしている黒縄を離さなかった。
「で? その白石っつー野郎は何処にいんだよ」
「さぁ?」
 不知火は肩をすくめた。
「彼が洞窟を出て行ったのは百年くらい前だからね。特別霊力が高いわけでもなかったし、とっくに死んでるんじゃないかな。家族がいるかは知らないけど、あんなに欲しがってた石だし、信頼できる誰かに預けた可能性が高いだろうね」
「チッ、まぁいい。五代に探させりゃ、一発で分かンだろ」
 黒縄は忌々しそうに舌打ちすると、自身を羽交い締めにしている朱羅に命じた。
「ヘイ、朱羅。五代に電話」
「承知致しました」
 朱羅は黒縄を逃がさないよう、片腕で彼を抱きかかえ、胸ポケットに入れていたスマホを取り出した。
「もしもし、五代殿。状況はお分かりかと思いますが、目白の弟子だという白石という術者の居場所について、お調べ願えますか?」
白石スィライスィ?』
 五代は電話の向こうで首を傾げる。どうやら状況を理解していないらしい。
 朱羅も怪訝に思い「こちらの状況をお知りになっていないのですか?」と確認した。
『うん。校舎の周りに結界が張ってあるせいで、なーんも分かんない。とりま調べてみるけど、本格的な調査はチミ達がこっちに戻ってきてからやるわ。よろし?』
「了解しました。では、後ほど」
 朱羅は電話を切り「だそうです」と、一緒になって話を盗み聞きしていた黒縄に言う。
 黒縄は「めんどくせェな」と苛立ちを露わにしながらも、不知火に言った。
「おい! テメェにも魔石探しに協力してもらうからな! 元はと言えば、テメェがあっさり俺の妖力を渡したせいなんだからよ!」
「いいけど、最低限の協力で頼むよ。私はもう異形達から呪いをかけられるのは嫌なんだ。なるべく異形達には見つかりたくない……呪いを解く作業が面倒だからね」
「面倒だからなのか」

       ・

 話が終わると、不知火は黒縄と朱羅と共に節木荘へ向かった。校舎から出る前に、水晶のブレスレットの効果が切れた陽斗のため、異形避けの術を施す。
 その際、不知火は「そういえば、」と思い出したように蒼劔に頼みごとをした。
「私がいない間、オカ研の出口受付を代わりにやってもらえないだろうか? 私の知人だと言えば、誤魔化せるから」
「心得た。飯沼がやっていた仕事だな? 近くで見ていたから、段取りは分かっている。任せろ」
 蒼劔は力強く頷き、承諾した。
「えっ?! 蒼劔君、受付やってくれるの?!」
「当然だ。他ならぬ、目白の頼みだからな。出口ならば、お前に何かあってもすぐに駆けつけられるし」
「わーい! 蒼劔君と一緒に働けるー!」
 陽斗は嬉しそうに両手を上げ、喜んだ。目白の術が効いているおかげで、蒼劔がそばにいないことへの不安はなかった。
「蒼劔君が人間に化けたらどんな感じかなぁ? 服はそのまま?」
「いや、洋服に変えておく。さすがに和装では目立つからな」
「髪と目の色も変えた方がいいんじゃない? 生徒指導の先生に怒られちゃうかも」
「……俺は高校生じゃないんだが」
 蒼劔は複雑そうな顔で、自身の髪をつまむ。彼の白く透き通った髪は、朝日を反射してキラキラと輝いていた。
「クスッ」
 節木荘へ向かう道中、不知火は二人のやり取りを思い出し、笑った。
 共に屋根伝いに節木荘へ向かっていた黒縄は「何がおかしい?」と不知火を睨んだ。
「また何か企んでンじゃねェだろうな?」
「いや」
 不知火は二人がいる節木高校の校舎を振り返り、微笑んだ。
「私はただ嬉しいんだ……蒼劔君に友達が出来て」

(第8話「文化祭(2日目)」終わり)
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