贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8話「文化祭(2日目朝)」

陸:集合

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 発射された先端の物体は、屋上に浮遊していた落武者の顔に轟音と共に直撃した。
「ウォォォン……!」
 落武者はうめき声を轟かせ、散り散りになって爆ぜる。
 屋上で落武者と戦っていた黒縄は、落武者を倒したのが教室棟にいる蒼劔だと気づき、憤怒の形相を浮かべた。
「ふっざけんじゃねェぞ、蒼劔! コイツは俺の獲物だッ!」
「黒縄様……ここにいては危険なのでは?」
 朱羅は爆散した落武者を見上げ、青ざめる。
 落武者の欠片は蒼劔の妖力である青い光を帯びたまま、屋上へ降り注ごうとしていた。黒縄もそのことに気づき、目を見開く。
「ヤッベ!」
 即座に朱羅と共に横へ飛び、校舎から離れる。
 取り残された他の異形達は落武者の欠片をもろに浴び、次々に青い光の粒子となって消滅していった。
「うっへェ……むごいことしやがる」
「間一髪でしたね……」
 黒縄と朱羅は学校の敷地近くに建つ民家の屋根から屋上の様子を眺め、青ざめる。
 欲を言えば、あれらの異形の妖力を全て吸収しておきたかったが、今は自身の無事に安堵するばかりだった。
「つーか、全然る気じゃねェか。誰だよ、戦意失ったとか抜かしやがった朱羅は」
 黒縄は朱羅の脇腹を握り、八つ当たりする。
 朱羅は脇腹の痛みにもがきながら、手を上げた。
「あいたたっ! わ、私です!」
「そうか、お前だったか。罰として、俺を背負ったままウサギ跳びで蒼劔のとこまで行け」
「は、はいぃ……」
 言われた通り、朱羅は黒縄を背負い、ウサギ跳びで学校へと戻る。背中から感じる黒縄の妖力は弱く、屋上での戦闘でかなり消耗していた。
(……いつもなら、眠ってしまわれるほどの妖力だ。それでも起きていらっしゃるのは、目白に例の石の在り処を聞き出されるためなのでしょうね)
 朱羅は主人を思い、黙って蒼劔のもとへ急いだ。

       ・

 一方、陽斗は屋上の惨状を目の当たりにし、パニックになっていた。
「あ、あわわわ……! 妖怪さん達が一瞬で消えちゃった! 黒縄君と朱羅さんは大丈夫だよね?! ね?!」
 蒼劔はRPGを左手へ戻し、陽斗をなだめた。
「落ち着け、陽斗。二人とも被害を被る前に逃げた。いずれ、文句を言いにこちらへ来るだろう」
「そ、そっか……良かったぁ……」
 そこへ眼鏡をかけた不知火が戻ってきた。眼鏡は元通りに直り、目の色も正常に戻っている。
 不知火は蒼劔に呆れた様子で、言った。
「全く、何処でそんな物騒なものを覚えたんだい? ただでさえ術者連中から危険視されているというのに、これ以上危険になってどうするの」
「め、目白!」
 蒼劔は不知火に気づくなり、その場で平伏した。
「今まで、すまなかった! お前だと気づくことすら出来ず、無礼な態度を取り続けてしまった! どうか、許して欲しい」
 あまりの素早さと美しさに、陽斗も止めることなく見惚れる。しかし先程蒼劔と交わした約束を思い出し、陽斗も一緒に土下座して謝った。
「不知火先生! 蒼劔君は本当に先生のことが大好きなんです! だから、嫌わないであげて下さい!」
「……」
 不知火は自分の目の前で平伏する生徒と鬼を見下ろし、目をパチクリさせた。
 そして、蒼劔の前でしゃがむと、「顔を上げたまえ」と彼に命じた。
「はい……」
 蒼劔は打たれる覚悟を決め、顔を上げる。
 不知火は蒼劔の頬へ両手を伸ばし……彼の両頬を人差し指でむにゅっと突いた。そのまま上へ上げたり、下へ下げたりして、遊び出す。
「お、おい、目白。何を……」
 陽斗も蒼劔の異変を察して顔を上げ、不知火の行動をポカンと見つめていた。
 不知火はひとしきり蒼劔で遊び終えると頬から指を離し、二人の腕を取って立ち上がらせた。
「いくら綺麗にしてあるとはいえ、学校の廊下で土下座するのはオススメしないな。ほら、二人とも服が汚れてる」
「ホントだー」
「す、すまない」
 二人は慌てて、己の服についたホコリを払う。
 不知火は二人がホコリを払い切るのを待って、口を開いた。
「どうやら誤解させてしまったようだね。私が"君達と関わりたくない"と言ったのは、君達を嫌いになったからじゃないんだ。色々な事情でね。話せば長くなるし、ぜひ黒縄君にも聞いてもらいたいんだが……」
「おい、目白ォ!」
 その時、屋上から朱羅と、朱羅に背負われた黒縄が、窓の外で逆さになって現れた。怒りを剥き出しにし、外から窓を拳でドンドン叩く。
「あ、黒縄君! 朱羅さん! ニ人とも生きてたんだね! 良かったぁ」
「いいからさっさと、ここ開けろ! この校舎、結界が張られてるせいで中に入れねェんだよ!」
「結界?」
 すると不知火が廊下の隅にある消火栓を開き、収納されたホースの裏に張られていた札を剥がした。
「一瞬だけ解く。その間にここへ来なさい」
「言われなくとも!」
 結界が解かれた瞬間、黒縄と朱羅は窓をすり抜けて校内へ侵入し、床へ着地した。と同時に、黒縄は朱羅の背中を踏み台にして跳躍し、蒼劔の首筋目掛けてキックする。
「よくも俺を殺そうとしたな、蒼劔!」
「黒縄様?!」
 しかしすぐに蒼劔に足首をつかまれ、宙吊りになった。
 黒縄はジタバタともがくが、蒼劔は彼の足首を離そうとはしなかった。
「このっ、離せっ!」
「あの程度の攻撃、お前なら余裕で避けられるだろう? 殺すなど、とんでもない」
「あんな物騒なもんぶっ放しといて、よくそんなことが言えるな?! せめて、ぶっ放す前に合図しろ!」
 蒼劔と黒縄が歪み合う中、不知火は再度結界を張り直すと、四人へ向き直った。
「さて……何処から話したものかな」
「あン? 何の話だ?」
 経緯を知らない黒縄は怪訝な顔で聞き返す。
 不知火は悪びれもなく答えた。
「君の妖力を入れた石を、他人にあげちゃった話」
「さっさと話せ!」
「石?」
 陽斗は聞き覚えのない情報に、首を傾げる。蒼劔も知らなかったらしく、眉をひそめて黒縄に尋ねた。
「黒縄、石とは何のことだ?」
「目白の野郎が俺の妖力を封じ込めた、魔石ませきだ。触れるだけで妖力を吸い取る、強力な魔具さ。俺に使われたのは、黒くて丸っこくて、目白がつけてた面と同じ模様が彫られていた」
「蒼劔殿がご存知ないのも無理はありません。黒縄様は目白を特定するため、敢えて石のことを伏せていらっしゃいましたから」
「懐かしいね……お面ならまだ持ってるけど、見るかい?」
「誰が見るか、あんな縁起の悪いもん」
 不知火の提案に黒縄は顔をしかめ、即座に断る。一方、蒼劔は子供のように目をキラキラとさせていた。
「あの面があるのか?! 後で見せてくれ!」
「蒼劔君は本当に目白さんが大好きなんだねぇ」
「マジかよ……ありえねェ」
 黒縄は蒼劔にドン引きしつつ、宙吊りのまま不知火に魔石について尋ねた。
「で? 魔石は何処のどいつに渡したんだ?」
「順を追って話そう。あれは私が術者として日本中を渡り歩いていた頃……」
 不知火は自らの過去も交えながら、魔石を渡した経緯を語り出した。
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