贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8話「文化祭(2日目朝)」

伍:RPG

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 成田は一人で登校していた。いつもなら遅刻ギリギリに登校するが、岡本から「来なかったら、ひとりかくれんぼやってもらうから!」と脅されたため、仕方なく早起きしたのだ。
 慣れない生活リズムに、成田は人通りが少ないのをいいことに、大きくあくびをした。
「ふぁぁ……ねっむ」
「相変わらず、締まりのない顔だな」
「げっ、遠井!」
 背後から聞こえてきた声に、一気に眠気が覚める。振り返ると、自転車に乗った遠井が、冷めた目で成田を見ていた。
「何でお前がここに……って、そういえば通学路同じだったな。朝っぱらからお前の顔見るなんて、最悪」
「だったら、遅刻すればいい。そして、ひとりかくれんぼとやらをやれ」
「絶対、嫌だね! あんな恐ろしい呪術、誰がやってたまるか!」
 ふと、成田は遠目に見える学校の校舎を見て、首を傾げた。
「なぁ、なんか今日の学校、変じゃね?」
 遠井も成田に言われて校舎に目をやる。特に変わった様子はなかった。
「変って、どう変なんだ?」
「なんとなくだけど、空気が重いというか、暗いというか……何か密集してる感じ? ハッキリとは分かんねぇけどさ」
「気のせいだろ。オカルト番組の見過ぎだ」
「いや、マジだって! なんかおかしいって!」
 成田は必死に、遠井に訴える。
 遠井も校舎を見つめ、成田が感じている違和感の正体をつかもうとしたが、やはり何なのか分からなかった。

       ・

 その頃、実習棟の屋上では黒縄が苦戦していた。不知火の式神を倒し、不知火本人とも戦ったことで、既にかなりの妖力を消耗しており、思うように異形達を始末し切れなかった。
 倒した妖怪から妖力を摂取しているものの、回復が全く追いつかない。
「この雑魚共がッ! 集団で仕掛ければ、鬼を討てるとでも思ったか!」
 黒縄は八重歯を剥き出しにして異形達を脅し、威嚇する。
 しかし異形達は黒縄がギリギリで戦っていると感づいているらしく、我先にと攻撃し続けた。
「黒縄様!」
 そこへ朱羅は妖怪を金棒でなぎ倒しながら、黒縄のもとへ駆け寄ってきた。
「遅いぞ、朱羅ァ!」
「申し訳ありません! 蒼劔殿と目白が戦闘を始めて、退くに退かれず……」
「は? 蒼劔と目白が?」
 黒縄は襲いかかてきた妖怪に斧を突き立て、怪訝な顔をする。妖怪は弱ったところを黒縄によって瞬時に妖力を吸収され、消滅した。
「それでどうなった? まさか、どっちかくたばっちまった訳じゃねェだろうな?」
「それはご心配なく。双方共に無事です。ただ……目白が蒼劔殿に面と向かって"異形とは関わり合いたくない"とおっしゃいまして……そのせいで蒼劔殿はショックを受け、戦意を失われてしまいました」
「うっわ、目白の野郎……言っていい相手と、悪い相手がいるだろうが……。よりにもよって、蒼劔に言うかァ? 最低過ぎンだろ」
 黒縄は不知火の行動にドン引きした。なんだかんだ付き合いが長い黒縄は、蒼劔がどれだけ目白を信頼し、敬愛しているのか、よく知っていた。
「じゃあ、さっさとコイツらを吸収して、蒼劔の野郎を笑いに行ってやるか!」
「……励ましに行く、の間違いでは?」
 朱羅は主人の歪んだ情に、ドン引きした。

       ・

「ねぇ、蒼劔君ってばー! 本当にマズいんだってー!」
 その頃、陽斗は階段を駆け上がりながら、蒼劔に呼びかけていた。
 時刻は現在、午前7時……既に教師や文化祭の実行委員の生徒がチラホラと登校し、校舎へと入ってきていた。幸い、異形達は黒縄と朱羅がいる屋上に密集していたが、登校する生徒が増えれば、そちらに興味を移すかもしれない。
 しかし蒼劔は陽斗の呼びかけに応じず、呆然と階段の手すりの上で立ち尽くしていた。先程不知火から言われた言葉が頭を埋め尽くし、何度も繰り返される。
『私はもう、君達異形とは関わり合いたくないんだよ』
『私はもう、君達異形とは関わり合いたくないんだよ』
『私はもう、君達異形とは関わり合いたくないんだよ』
「……もう、無理だ」
 そう呟いた次の瞬間、蒼劔はふらりと体勢を崩し、3階へ繋がる階段へと倒れて行った。
「蒼劔君!」
 陽斗は走るスピードを上げ、階段を駆け上がる。
 当然間に合うはずもなく、陽斗が2階と3階を繋ぐ踊り場にたどり着いたと同時に、蒼劔はうつ伏せで段差へ倒れ、陽斗がいる踊り場へと転がってきた。
「蒼劔くーん!」
 陽斗は蒼劔が踊り場の壁へ激突する前に止め、無理矢理起き上がらせた。階段を転がり下りたことで全身についたホコリを手で払ってやる。
 蒼劔は自力で起き上がる気力も、ホコリに構う余裕もないらしく、陽斗にされるがままだった。
「んもー、階段を転がっちゃダメでしょ。蒼劔君、白い服着てるから、ちょっとの汚れでも目立っちゃうのに。髪の毛にも絡まってるしー」
「……もう、どうでもいい。目白に嫌われたら、お終いだ。こんな俺に価値などない……捨て置いてくれ」
「そんなこと出来ないよ! きっと不知火先生は、蒼劔君がキツく当たってたから怒ってるだけなんだよ! 謝れば許してくれるって! 僕も一緒に謝りに行ってあげるからさ!」
「陽斗……」
 蒼劔は雨の日に捨てられた子犬のような目で陽斗を見つめると、今にも泣き出しそうな顔で彼に抱きついた。
 突然のことに、陽斗は驚いて「うわっぷ?!」と思わず変な声を発した。
「ありがとう……! 俺1人では、目白のもとへ赴くことすら、困難だった! 共に全身全霊をかけて、目白に謝ろう!」
「う、うん。とりあえず先に、屋上に集まってる妖怪さん達を倒してくれる? そろそろみんな、学校に来ちゃう時間だし」
「チッ、仕方ないな」
 蒼劔は陽斗から離れ、立ち上がった。
 今し方までショックで人格が崩壊しかけていたとは思えないほど、元の蒼劔に戻っていた。
 陽斗が払い切れなかった細かいホコリを払いながら、階段を上って3階へと向かう。陽斗も慌てて蒼劔の後に続いて、階段を上った。
 てっきり渡り廊下を使って実習棟まで行くのかと思いきや、蒼劔は3階の窓辺で立ち止まり、右手を左手にかざした。
「蒼劔君、屋上に行かなくていいの?」
「あぁ。ここから十分狙える」
 そう言って蒼劔が左手から出したのは、陽斗の肩より少し低いほどの、長い円柱状の物だった。先には細長く、尖った何かが取り付けられている。朝日を反射して、輝いていた。
 蒼劔は窓を開くと、円柱部分を肩に乗せ、屋上に照準を合わせた。ちょうど屋上には気球ほどの巨大な落武者の生首が現れ、黒縄に向かって青白い炎を吐いており、蒼劔はそれに狙いを定めた。
「離れていろ。耳も塞げ」
「う、うん」
 陽斗は言われた通り、蒼劔から距離を取って、手で耳を塞ぐ。
「蒼劔君、それ何?」
RPGアールピージー
 直後、爆音と共に先端の物体が発射された。
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