贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第8話「文化祭(2日目朝)」

肆:合流

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「は……ッ!」
 不知火の目を見た瞬間、朱羅は戦慄した。
 200年前に黒縄が力を奪われた時の光景が脳裏をよぎる。彼の目は紛れもなく、目白のものだった。
「朱羅ァ! ボサッとしてンじゃねェぞ!」
「うわっ?!」
 直後、黒縄が不知火に向かって鎖を放った。
 不知火は迫り来る鎖を一瞥し、その場から飛び退いたが、朱羅は逃げそびれ、全身を鎖でぐるぐる巻きにされてしまった。そのまま床へ転倒し、身動きが取れなくなる。
「何やってンだ、朱羅!」
「も、申し訳ございません! どうか私には構わず、目白を!」
「言われなくてもそうする!」
 黒縄は朱羅を放置し、不知火の後を追う。
 不知火は常人離れした身体能力で階段を飛び降り、一気に1階へと着地した。
「あっ! 不知火先生、降りてきたよ!」
 降りた先には、ちょうど廊下を走ってきた陽斗と蒼劔がいた。
 不知火も2人の存在に気づき「君達か」と眉をひそめる。彼の目の色を見た途端、蒼劔はハッと息を飲んだ。
「不知火先生、大丈夫ですか?! 黒縄君にボコボコにされてないですか?! なんか目の色も変だし!」
 陽斗も不知火の目の色の変化に気づいたが、目白のことをすっかり忘れ、怪我だと心配した。
「心配ない。コレは元からだ。黒縄君のせいじゃない」
「そっかぁー、良かったぁ」
「良くねェェェッ!!!」
 直後、黒縄が階段をすり抜け、不知火の頭上へと落下してきた。
 鎖の先に形成した斧を手にし、不知火に向かって振り下ろす。不知火は静かに黒縄を見上げ、彼を視界に捉えていたが、その場から動こうとはしなかった。
「やめろ、黒縄!」
 代わりに、蒼劔が不知火のもとへ駆け寄り、刀で斧を防ぐ。
 黒縄は蒼劔を睨み「退け、蒼劔!」と八重歯を剥き出しにした。
「テメェ、よくも黙ってやがったな! そんなに目白ソイツが大事かよ?!」
「当たり前だ! 恩人を蔑ろにする奴が、何処にいる?!」
 蒼劔は刀で斧を弾き、鎖をつかむ。そのまま間髪入れずに近くの窓を開け、あらん限りの力を振り絞って黒縄を校舎の外へ放り投げた。
「なッ、ちょッ?!」
 黒縄は鎖を切り離す間もなく、空高く飛んでいく。
 何処までも飛んでいきそうな勢いだったが、途中で校舎上空を飛び回っていた人面鳥に当たり、実習棟の屋上へ落下していった。
「こ、黒縄様ぁっ!」
「あ、朱羅さん」
 鎖から脱し、遅れて階段を下りてきた朱羅も、黒縄が吹っ飛ばされていった様子を目撃し、悲鳴を上げる。
 そして黒縄を飛ばした犯人である蒼劔をキッと睨みつけると、憤怒の形相で彼へ詰め寄った。
「蒼劔殿! 黒縄様に何てことを!」
「それはこちらの台詞せりふだ。よくも目白を殺そうとしたな」
 蒼劔も冷たく朱羅を睨み返し、責め立てる。
 緊迫した雰囲気の中、陽斗は黒縄が落下していった方を見て「ねぇねぇ」と2人に呼びかけた。
「黒縄君が落ちてったあたりに妖怪さんがいっぱい集まっていってるけど、大丈夫かな?」
「妖怪?」
 2人も喧嘩を中断し、屋上を見上げる。
 陽斗の言う通り、実習棟の周囲には様々な異形が大量に集合していた。陽斗に引き寄せられて、学校までついて来たのだろう。しかし不思議と、陽斗がいる教室棟には近づいて来なかった。
 あまりの量に、朱羅はあんぐりと口を開け、青ざめた。
「な……何ですか、あれはッ?! 我々が来た時にはいなかったのに!」
「陽斗に引き寄せられてきたんだ。全部倒すのが面倒だったから、お前らにも手伝わせようと思って連れて来た。あれだけいれば、黒縄も喜ぶだろ?」
「多過ぎです! むしろ、怒られます!」
 朱羅の予想通り、屋上から「ふざけんじゃねェぞ、蒼劔ッ!」と黒縄の怒りの声が聞こえた。
 屋上へ集まった異形達は黒縄が放った無数の鎖に射抜かれ、妖力を奪われた後に消滅する。しかし黒縄1人では埒が明かず、異形は一向に減らなかった。
「私も加勢します! 蒼劔殿も、応援を!」
「……いや、先に行ってくれ」
 蒼劔は朱羅の頼みを断り、不知火へ目を向ける。彼は異形達が集まる屋上を、陽斗と並んで見上げていた。
「ふむ、ずいぶん集めたね」
「そうなんですよー。なんか夜中のうちに集まってきちゃったらしくって! 五代君のおかげで平気だったんですけど、夜通し窓をバンバン叩いてたって蒼劔君が言ってました!」
「それは大変だったね。無事で何よりだ」
 不知火は正体がバレたことで、異形が見えることを大っぴらにしていた。
 そのあまりに自然な態度に、陽斗は不知火の変化に全く気づかず、世間話でもするかのように異形について話していた。
「不知火……いや、目白」
「ん?」
 蒼劔が不知火を目白と呼びかけた次の瞬間、彼は不知火に向かって刀を振り下ろしていた。
 不知火は唐突な蒼劔の行動に眉一つ動かすことなく、予測していたかのように彼の刀を避けた。
「蒼劔君?!」
「蒼劔殿、一体何を……?!」
 陽斗と朱羅は状況が読めず、困惑する。
 しかし蒼劔は攻撃の手を緩めることなく、尚も追撃した。
「何故、今まで俺に素性を黙っていた?! 俺が黒縄に言うとでも思ったのか?!」
「いいや」
 不知火はその攻撃をも避け、階段へと跳躍する。
 蒼劔も後に続いて飛び上がり、持っていた刀を空中にいる不知火に向かって投じる。不知火は飛んできた刀を指示棒で壁へと弾き、防ぐ。
「私は相手が誰であろうと、正体を明かすつもりはなかった。君が黒縄君とつるんでいなかったとしても、教えはしなかっただろう」
「なッ?! 何故だ!」
 蒼劔は動揺が隠しきれず、足を止める。階段の手すりの上に着地し、頭上の不知火に尋ねた。
 不知火は3階の廊下へと降り立った後、蒼劔を見下ろし、答えた。
「私はもう、君達異形とは関わり合いたくないんだよ」
「ッ……!」
 拒絶とも取れる彼の言葉に、蒼劔は愕然とした。去っていく不知火を追おうともせず、手すりの上で立ち尽くす。
「蒼劔殿……」
 1階から成り行きを見守っていた朱羅は、かける言葉が思い当たらず、踵を返す。
 蒼劔が目白に対して並々ならぬ信頼を抱いていたのは、朱羅もよく知っていた。それだけに、何と慰めてやればいいのか分からなかった。
 そのままその場から立ち去り、黒縄のもとへと向かった。
「蒼劔君!」
 反対に、陽斗は階段を駆け上がり、蒼劔のもとへ急いだ。彼もまた、蒼劔が不知火を大切な恩人だと理解していた。
 それでも、陽斗には蒼劔に声をかけねばならない理由があった。
「そろそろみんな学校に来ちゃうよー! 早くあの妖怪さん達、倒して来てー!」
 時刻はまもなく午前7時……登校の時間が近づきつつあった。
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