贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第7.5話「M,Iの記録」

漆:M.Iの記録(高校生時代②)

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 場面は変わり、飯沼は陽斗と成田と共に、帰路についていた。
「じゃあなー」
「また明日ね」
「うん。バイバーイ」
 3人は途中で別れ、それぞれの家路につく。
 ……かと思いきや、飯沼だけ元来た道を戻っていった。
「あれ?! 飯沼さんの家って、もしかして逆方向だったの?!」
 やがて飯沼は校門をくぐり、校舎に入っていった。放課後の校内は部活に勤しむ生徒で賑わっていた。
 飯沼は人目を避け、誰もいない女子トイレにたどり着くと、洗面台の前に立った。手を洗うわけでもなく、洗面台に設置された鏡をジッと見つめる。
 やがて鏡面が波打ち、紫色に変色した。陽斗はその鏡の変化に見覚えがあった。
「これって、飯沼が持ってきた鏡と同じやつ?!」
「えぇ。雲外鏡……七不思議的に言えば、"呪われた姿見"ですね。どうやら、妖力で大きさを変えているようです。奴は霊護院の巫女がかつて使っていた手鏡でした。それが長い時を経て、妖怪化したのです」
 飯沼は迷わず鏡に手を入れ、鏡の中へと入っていった。陽斗達の視界も歪み、場面が変わる。
 次にたどり着いたのは、夜の学校だった。誰一人として人はおらず、静まり返っている。
 そんな中、洗面台の鏡に貼りついていた雲外鏡が本物の鏡から剥がれた。空中で棒のように細い紫色の手足を生やし、床へと着地する。
 雲外鏡は軽やかな足取りで廊下を走っていく。やがて家庭科室にたどり着くと、ドアをすり抜け、中へと侵入した。
「そういえば、夜な夜な家庭科室に不審者が侵入してるって不知火先生が言ってたっけ」
「まさに犯行の一部始終、ですね」
 雲外鏡が中へ入ると、鏡の中から飯沼が出てきた。
「ご苦労様。さて、今日も作りますか」
 飯沼は袖をまくり、鏡の中から大量の食材を取り出した。いずれも近所のスーパーで購入したもので、食材を入れたビニール袋には見覚えのあるロゴが描かれていた。
「あのスーパー、僕もよく行ってるよ! いつもモヤシを1袋おまけしてくれるんだー。モヤシ以外の食材はおまけしてくれないけど」
「現金なスーパーですねぇ」
 飯沼は翌日の陽斗の弁当を作っているらしく、慣れた手つきで調理していった。
 そのいずれの料理にも同じ葉っぱが使われていた。普通は野菜を使わないデザートにも必ず入れている。
「もしかして、あれが霊鍛草?」
「そうでございます。クセがないので、どんな料理にも混ぜやすいのです。異形や術者ならば混入にすぐに気づきますが、そもそも霊鍛草を知らない一般人は絶対に気づきません。陽斗様のように違和感なく食べてしまいます。むしろ霊力が上がるので、"食べると元気になる"と錯覚するようですよ」
「……確かに、飯沼さんの料理を食べると元気になってた気がする」
 陽斗は今まで食べた飯沼の弁当や菓子を思い出し、何か違和感がなかったか検証してみた。しかしただただ美味しかっただけで、何のとっかかりもなかった。
 霊鍛草も他の食材同様、スーパーのビニール袋に大量に詰まっていた。弁当が完成する頃には袋はすっからかんになり、それに気づいた飯沼は深く溜め息を吐いた。
「そろそろ採りに行かないとマズイわね。夏休みにでもまとめて採りに行こうかしら。贄原君には"実家に帰る"とでも言っておけば、誤魔化せるでしょ」
「えっ?! 嘘だったの?!」
 陽斗は今さら嘘に気づき、驚く。
 ゴディは「そりゃそうですよ」と呆れた。
「家族なんてとっくの昔に死んでるんですから。父親に至っては、霊護院の巫女自ら手を下しているわけですし」
「そっかぁ……夏休みずっと、霊鍛草を採りに行ってたんだ」
「まぁ、霊鍛草採取だけやってたわけじゃないですけどね」
 飯沼は自分と陽斗の弁当箱に料理を詰め、弁当箱を完成させると、満足げに笑った。
「フッ……我ながらドンドン上手くなっている気がするわ。これなら贄原君も喜んで……」
 そこまで言って飯沼はハッとした。途中で自分が何を言っているのか気づいたらしい。
 自らの頬をペチペチと叩き、「違う、違う!」と首を振った。
「私はあの子の霊力を育てて奪い取るために、弁当や菓子を作っているの! 別にあの子を喜ばせたいとか、美味しそうに食べる顔が見たいとか、断じてそんなんじゃないから!」
『……本当は嬉しいけど』
「嬉しいんだ」
「パーフェクトツンデレニストですね」
 口で言っていることとは真逆の本心に、陽斗とゴディは微笑ましくなる。まさか飯沼も、死後に己の心の内を暴かれるとは思ってもいなかっただろう。
「餌づけしたお陰で、贄原君はすっかり私を信頼し切っている……このままドンドン食べさせ続けて、霊力を増やしてやりましょう」
 その時、廊下から誰かが歩いてくる音が聞こえた。カツーンカツーンと靴音を響かせ、ゆっくり近づいてくる。
「……誰?」
 飯沼は弁当を持って雲外鏡の中へと身を隠した。雲外鏡も異変を察し、棚の引き出しの中へ体を潜ませる。
 やがて懐中電灯を持った不知火が家庭科室に入ってきた。不知火は部屋の匂いを嗅いだり、コンロへ手をかざしたりと、誰かがいた痕跡を探していた。
『あの男……確か、2年生だか3年生だかを担当してる不知火とかいう理科教師だったわね。いつの間に校内に忍び込んでいたの?』
 飯沼も不知火がいつからいたのか分からず、困惑する。
 不知火は家庭科室を一通り調べ終えると、何かを思案しながら去っていった。
『……気配を誤魔化してるわね。ただの人間にしか見えないけど、みるからに嘘くさい。私を探ってるのかしら? 術者だとマズいわね。邪魔されないよう、警戒しないと』
 飯沼は雲外鏡から顔を出し、不知火が去っていった方向を忌々しそうに睨みつけると、再度鏡の中へ潜った。
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